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2026 06/19

[newpage]
部屋の魔術が解除された。今だと判断したマスターはとっておきの奥の手…右手の令呪を発動させた。
「令呪を以って命ずる!俺のサーヴァントのアマデウスは、今すぐ俺の元に来てくれ!!」
マスターの命令と共に令呪の一画が消えた。マスターの令呪は基本魔力を高める本来より簡易的な物。だが、魔力を送る事でパスを強め、それを使えば場所だけでも教える事ができる。これで、アマデウスは自分の元に来てくれるだろう。
彼は生前は世界的に知られる天才作曲家で演奏家。生前は散々な周りの対応に苦しんだからか弁は立たないが、彼は生前ですら異常と言われる音感を持っていた。だから、サーヴァントになった今は音だけで兵士達の位置が分かるので、できるだけ上手く兵士達を回避してやって来れる。また、彼はサーヴァント。人間より強い。絶対にいるであろう位置に兵士達がいても、いざとなれば力づくで突破すればいい。だから、こちらの位置さえ分かれば絶対に来れる。
「やぁ、マスター。久し振り」
「お疲れ様です、アマデウスさん」
すぐにアマデウスは部屋にやってきた。部屋に入ってきたアマデウスを見ると、マスターはぺこりと頭を下げる。そんなマスターにアマデウスは笑いながら近づいた。アマデウスにマスターは告げる。
「時間が最高でも十分しかないので、手短にお願いします」
「了解だよ、マスター。十分どころか五分で済ませよう」
マスターの言葉にアマデウスは頷いた。それを見たマスターは早速必要な情報を交換することにした。何せ、時間は最高で十分しかないのだ。手早く済ませなければならない。
「聖杯のある場所は分かりましたか?」
「バッチリさ。王はこの部屋と聖杯があるであろう部屋は特別に力を入れているからね。だから、すぐに二つまで絞れた。ただ、どちらも力を入れていたから、どちらがどちらかまでは分からなかった。こちらは認識阻害のせいで完璧には分からなかったしね。でも、今、マスターが認識阻害を解除させて自分がいる位置を教えてくれたから、断言できるよ。あちらが聖杯のある場所だ」
「なら、聖杯の方は大丈夫ですね。次に行きましょう」
アマデウスの言葉にマスターは安心した。少なくても、これだけでも侵入の目的は果たせられた。なら、次は城に関する情報だ。
「城に関する情報は、どうですか?」
「あらゆる情報を得たよ。外にも流しているから、あちらからの指摘から兵力や配置、設備などの配置も完璧に把握した。マスターさえ望めば、僕等はこの城を落とせるね」
「そこまでは、ちょっと…せめて城攻めは聖杯を回収する時にしましょう…」
マスターが尋ねるとアマデウスは戯けたように言った。その言葉にマスターは困ったように笑うしかない。城を攻めても勝てると断言できるくらい、城の情報は集めたと言っているのだから、こちらも大丈夫だ。
こちらには軍略に強いヘクトールがいる。彼が最も得意とするのは籠城線などの守りだが、攻めて来た敵軍を逆に追い詰めるくらい攻撃の仕方にも長けている。彼にある程度の城の情報を渡せば、彼はそこから兵力や配置、城の設備の位置や脱出ルートの情報などを推測し、こちらに伝えてくれる。その推測を元に中が確認したら、ビンゴ。これで、城の情報は全て揃えられた。なら、問題は城を守る結界だけだ。だが、こちらも今まで集めた情報から攻略の目処は立っている。
「恐らく、この城に魔術に詳しいものはいません。アマデウスさんが城を歩きながら楽器を鳴らしておきながら誰も何も言わない事から、そう推測します。魔術を使っているのはマンドリカルド王です。でも、魔術に関して全部は分かっていない。彼の物語にも彼が魔術の類を使う事は書かれていませんし。彼が使えるのは特定の魔術技術だけで、知識とか魔力感知とかはない。俺を魔術師だと分からなかったし、貴方達をサーヴァントとも分かっていない。貴方が楽器を鳴らしている意図も完璧には分かっていなかった。令呪にも気付かず、何かの勘違いから手袋で隠すなんて対応までしている。この事実から、そこまでは分かりました」
「じゃあ、マスターはマンドリカルド王はどんな魔術的な技術を持っていると考えているんだい?」
「恐らく、物に指定した条件の力を付与する魔術的な技術。それを使って、城門より上には『あらゆるものを拒絶させる』効果の結界を張り、城門の中には『王が許可を出したもの以外は一切拒絶する』効果をつけた。これなら、王が許可を出さなければ城の中に入れない。城の上は全てを拒絶するから、宝具の攻撃も拒絶して結界を壊せなかった」
「正解だよ、マスター。だから、僕は楽器の音に魔力を込めて、結界の効果を変えようとしている。少なくても、ランサー辺りの宝具を使えば完璧に壊せるくらいには拒絶を弱体化させよう。まぁ、『あらゆるものを拒絶する』効果の結界だから、もうちょっと時間がかかるね」
「あー…やっぱりそうかぁ…」
マスターの説明にアマデウスが尋ねると、マスターは自分の考えを伝えた。アマデウスがそれに頷きながら言うと、マスターは自分の推測が間違っていなかったと分かって項垂れた。
だって、結界がどうにか出来ていたら、今までの情報から、城に突入なりして自分を助けに来ている。マスターの位置は分からなかっただろうが、だが城に突入すれば騒ぎはするだろうから、マスターにだってその情報は伝わる。それなら、マスターが今アマデウスに使った手で位置を教えればいいだけ。認識阻害が阻みはするだろうが、大体の位置が分かるなら、後は壁とかを全部壊すなりして力づくな手段で探せばいい。彼等はサーヴァントだ。中の二人は苦戦するだろうが、外の三人は攻撃系のサーヴァントなのである。それくらい楽に出来るのだ。
「時間は、あとどれくらいかかりそう?」
「残念ながら、マタ・ハリが王に最後に知識を教える日だね。王の事だ。知識を全て得たら、即効でマスターを抱いて自分のものにしようとするだろう。そういうのも含めた諸々を考えると君を助けるタイミングは王が君を襲っている時になるだろうね」
「俺の恋人は一番最悪なタイミングで助けに来るしかないんだね…嫌だなぁ…彼に王が俺を襲っている所なんて見せたくないのに…そんな所を彼に見られるなんて、嫌だよ…」
マスターの問いにアマデウスはそう返事する。それを聞いたマスターは項垂れながら頭を抱えたくなった。一番マスターが恋人に来て欲しくないタイミングでの突入。ある意味、最悪だ。そんなマスターを慰めるべくアマデウスは口を開く。
「ま、こちらは城の兵力や配置とか設備とかは把握しているんだ。それに当日、君がいるであろうこの部屋のことも分かったしね。施されている魔術も場所自体もね。それに君を助けに来るのは彼だ。何があっても蹴散らせるよ。きっと君に分かるように合図を出してくるから、君はその時に自分はここにいるって信号を彼に送ればいい。彼なら迷わず即座にここに来るさ」
「いえ、アマデウスさん。俺は彼が絶対に助けてくれるのは分かっていますし、絶対に助けてくれるとも信じてもいるので、そこは心配していません。王に襲われている所を彼に見られるのが嫌なんです」
アマデウスの言葉にマスターは首を横に振りながら答えた。アマデウスの言葉は本人的にはフォローしているだろうが、マスター的には全然フォローになっていない。この辺りも生前周りに散々な対応に苦しんだ理由なのかもしれない。
苦笑しながら、アマデウスは諭すように言う。
「その時しかないから、仕方ないよ。王はきっとその日に一番守りを固める。王の事だ。今までとは兵の配置を変えてくるはずだ。だが、一番に力を入れるからこそ、できる隙があるそうだ。アサシンの探索能力で情報を得て、ランサーがその情報から隙を的確に見破り、単騎突入する彼に最適解を伝え、彼はその情報を元に城に突入して最短経路で君のところへ助けに行く。カルデアでも一番強いサーヴァントの彼だ。多少妨害があっても楽に蹴散らせるさ。うん、完璧だ」
「タイミングが最悪なんですよ、アマデウスさん…事前に分かっていても、王に襲われたら、俺だって多少はダメージを負うんですよ?そんな状態で上手く彼のダメージを回復できるかな…?」
「だから、仕方ないんだって。それに助けに来るのは、彼だ。彼なら、君の為に全力で君のダメージをケアするだろう?回復したら、君が逆に彼のダメージを回復してやればいいんじゃない?」
アマデウスの言葉にマスターは呟いた。そんな彼にアマデウスはやっぱりフォローになっていないフォローを言う。そんなアマデウスの言葉にマスターはますます項垂れた。
「嫌だなぁ…彼に俺が王に襲われている所、見られたくないなぁ…今、彼が城に侵入する前に俺のエロい姿を王に見せたくないって気持ちが嫌という程、分かりましたよ…本当に嫌だ…」
「そんな彼を説得したのは、マスター自身じゃないか。諦めなよ」
「はぁ…」
項垂れ続けるマスターにトドメの一言。そんなアマデウスの言葉にマスターはひたすら項垂れるしかなかった。
そんなマスターの気分を変えようとしたのか、アマデウスは話題を変える。
「ところで、マスター。この部屋の認識阻害はどうやって解除したの?」
「アマデウスさんなら、分かるでしょう?」
「間違っていたら大変なことになるから、教えてくれないかな?」
「分かってるでしょうに…」
はぐらかせるように言うが、アマデウスは許さない。そんなアマデウスにマスターは渋々白状した。
「こちらの要求を飲み込ませる権利自体はあったんですよ。でも、王はそれだけじゃ足りないって言って…散々交渉して、結果これから毎日裸で王に俺が自慰する姿を見せる条件で、なんとか解除させました…」
「あぁ、やっぱり…通りで部屋の中がいか臭いと思ったよ。あと、精液らしいものも部屋に溢れているし。掃除して換気しておいた方がいいよ、マスター。君一人だけならまだしも、二人分はちょっとね…目の前で君のストリップショーを見たんだ。王だって、興奮するあまり自慰をしたんじゃない?」
アマデウスの言葉にマスターはやっぱり分かっていて聞いてきたんだな…と項垂れながら、遠い目をした。しかし、アマデウスの指摘は止まらない。マスターが見たくない事実を突きつけてくる。マスターはもうどうにでもなれと半ば自棄になりながら、答えた。
「正解です…全然下手くそなのに、凄く興奮していました…」
「あの王様は本当に君が好きなんだねぇ…」
マスターの言葉にアマデウスはしみじみと呟いた。自分達にあっさりとマスターへの愛の深さを伝えてきた時から思っていたが、やはりあの王様はマスターを異常な位に愛している。やっぱり生前とはいえ、マスターの恋人でもある『マンドリカルド』。マスターの恋人の彼の指摘通り、いついかなる時でも『マンドリカルド』はマスターを好きになるらしい。この事が分かっていたから、マスターの恋人は彼を侵入メンバーにしたくなかったのだろう。しかもエロい格好で。
だが、そんな恋人を説得したのは他ならぬマスターだ。この事に関してマスターの恋人が文句を言ったら、他ならぬマスターに対処して貰おう。
「じゃ、マスター。そろそろ時間だから、僕は去るよ。頑張ってね」
「アマデウスさん達も気をつけて」
「これでもサーヴァントだから、大丈夫だよ。城から脱出する時は適当に隠れながら燕青やヘクトールと合流してするから、安心してくれ」
アマデウスは軽く挨拶すると、去って行った。そんなアマデウスにマスターは頭を下げながら声をかける。すると、彼は答えるようにひらひら手を振りながら部屋を出て行った。彼が出ていくのを見送ると、マスターは首を緩く振って、感情を切り替える。気分を整え、王と会っても大丈夫な状態にしておく。
そろそろ、王が部屋に戻ってくる筈だ。なら、精神状態は彼と会っても大丈夫な状態にしておかねば。
部屋の扉が乱暴に開かれる。それと同時に王がずかずかと入ってきた。余程不機嫌なのか、苛立ちを隠そうともしない。
もしかしたら、部屋の外からアマデウスが部屋に入ってくるのを見たのかもしれない。だが、それを見ても阻まなかった。王の事だから、『中には入らない』と言ったから外で阻む可能性も考えていたが、それをした様子はない。なら、阻めない理由…例えば、部屋に施す魔術はそれにずっと構わなければならないものだったとか、様々な要因が考えられるが、答えを知っているのは王だけだ。それを聞いたら王は更に怒り狂い、最悪自分にさえ危険が及ぶかもしれない。
そこまで考えたマスターは王にぺこりと頭を下げるだけにした。
「約束を守って下さってありがとうございました」
「ふん…俺は王だからな。交わした約束は守る」
礼を言うマスターにそう言うと、王は不機嫌そうに呟いた。マスターの言動を見たからか、部屋を入った直後からは少しだけ状態が良くなっている。そんな王を見て、マスターは少しだけ安心した。どうやら、自分はできるだけ正しい対応をしたようだ。
王はそのままマスターに近付くと彼をベッドに押し倒した。上から抑えるように体を近づけると、マスターの顔に手を伸ばす。
「なぁ、リツカ…唇にも口付けていいか?」
にやりと不敵に笑いながら、王は言った。マスターの唇を撫で、囁く。
「俺はお前が逃げるリスクを負ってまでも、お前の願いを聞いたんだ。それくらい、強請ってもいいだろう?」
「…毎日、貴方の前で裸で自慰する姿を見せるという条件で満足して下さい」
王から逃げるように顔を背けるとマスターは言った。しかし、王は許さない。顎に手を添え、強引にマスターの顔を自分に向かせる。
「嫌だ。唇に口付けくらい、したい。この可愛くていやらしく誘ってくる扇状的な唇を俺の唇で堪能したい。あんな姿を見せて散々煽っておきながら、口付けを許さないなんて酷いじゃないか。それ以上はしないから、お前の唇に口付けるのは許してくれ」
「断ります。それは契約違反です。貴方は王だから、交わした約束は守るのではないのですか?」
「だから、こうして懇願しているじゃないか。頼むよ、リツカ。お前の唇に口付ける許可を俺にくれ」
王の言葉にマスターは視線だけ向け、睨むように見ながら、ぴしゃりと言い放つ。そんなマスターに王は頼み込んできた。顎から手を離すと頬に手を添え、優しく頬を撫でる。
「なぁ、頼むよ、リツカ。お前の唇に口付ける許可をくれ。もし、お前を逃してしまっても、お前の美しい姿と可愛い声とお前の唇の感触くらいは記憶に残しておきたいんだ」
「…明日から、俺は毎日の貴方の目の前で自分を慰める姿を見せます。それに、貴方は初日と翌日の朝に俺の唇に口付けたでしょう?」
「嫌だ。したい。お前が好きだと、はっきり自覚してからは唇には一度しかしていない。だから、それ程しっかり覚えていないんだ。だから、またしたい」
懇願してくる王を拒絶するようにマスターは言うが、王は一切応じない。嫌だ嫌だと子供のように駄々をこね、何度もマスターに懇願してくる。
「なぁ、頼む、頼むよ、リツカ。俺の誰よりも愛しい人。俺にその唇に口付ける許可をおくれ。触れるだけでもいいんだ。お前に関するものは何だって欲しいんだ」
「……」
「なぁ…頼む…頼むよ、リツカ…お前の唇に…口付ける許可を…俺にくれ…」
マスターが黙って王を見つめていると、終いには泣き出しそうな顔で王は懇願してきた。鋭い灰色の瞳を情けなく歪ませ、何度も願いを伝えてくる。
そこにいたのはいつかの彼の様に傲慢で不遜な王などではなく、ただの男だった。愛しい人の唇に口付けたいと何度も懇願する哀れな男だった。愛しい人に縋り、触れる許可が欲しいと願いを言い、その許しを乞うだけの男。そんな男をマスターはその青い瞳でじっと見つめる。
別に唇に口付けたいだけなら、勝手にすればいい。二人との契約に違反するかもしれないが。自分は王だからと普段のように傲慢不遜に言い放ち、強引に唇に口付ければいい。
だが、王はしなかった。何度も何度も卑しい踊り子に縋りつき、懇願してくる。お前の許可が欲しいと何度も何度も頼み込んでくる。お前の唇に口で触れるだけでいいからと、願いを口にする。
それはきっと…彼なりの誠意なのかもしれない。傲慢で不遜な彼なりに自分を思い、譲歩した精一杯の愛情表現なのかもしれない。
マスターは目を瞑ると深く息を吐き出した。
「…許可は出せません。それは俺の恋人に対する裏切りですから」
マスターの言葉に王はびくりと体を震わせた。その感触に目を開きそうになるが、何とか耐える。
「でも…貴方が勝手にするのは…目を瞑りましょう…」
マスターがそう言った途端、唇に熱いものが押し当てられた。何度も触れては離れ、また触れては離れを繰り返す。唇の隙間から舌が入る事はなく、ただただ優しく何度も触れてくる。
マスターの顔に濡れた何かの感触がした気がした。だが、マスターは目を開く事はなく、唇に触れる感触がなくなるまで、目を閉じ続ける。
「…ありがとうな、リツカ」
何かを拭うように優しく顔を撫でられた後、酷く優しく穏やかな声が聞こえてきた。その声にマスターがそっと目を開くと、王は嬉しそうに幸せそうに笑っていた。そんな王をマスターはただただじっと静かに見つめていた。

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