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2026 06/19

「は…ははは…あはははは…!」
一人きりになった王は笑った。思い人に自室を貸した王は寝るためだけにこの部屋を使う。部屋の中には彼しかおらず、彼の姿は愚か、声すら誰にも聞こえない。
「こんな…こんな簡単な事で良かったのか…!あいつを手に入れるのは…こんな簡単な事で良かったのか…!!」
狂ったように王は叫ぶ。その顔は歓喜に満ちている。頭の中は先程唇に触れるのを許可してくれた思い人の事で一杯だ。
「あぁ、リツカ…リツカ…!お前は、なんて優しいんだ…!!なんて慈悲深いんだ…!ただ馬鹿みたいに頼み込むだけで触れるのを許してくれるなんて…!!」
笑いが込み上げてきて止まらない。頬が緩むのを止められない。あんなにも気高く美しく頭がいい癖に、愚かで慈悲深く優しい彼に笑いがとまらない。
「あぁ、あぁ…!お前が願うなら、何度だって言ってやる!!お前が望むまま、俺は愚かになってやる!お前の体に縋り付き、お前に何度だって懇願してやる!!お前が欲しい、お前だけが欲しいと言ってやる!お前が望むまま、ただひたすら愚かにお前に縋り付き、お前が欲しいと叫んでやろう!!」
自分の唇を撫で、先程まで触れていた彼の唇の感触を思い出す。触れるだけで甘く痺れる程魅力的な彼の唇の感触。口内を弄らなくても、触れるだけで自分の体はその唇の甘さを知った。
あの口内を舌で弄り、堪能したら、どれだけ美味いのだろう。彼を捕らえた翌日しかしなかったから、もう記憶は薄れてきていたが、今日のように懇願し続けていれば、彼は許すかもしれない。また触れるのを許してくれるかもしれない。
だって、彼は酷く愚かで優しいと分かったのだから。少なくとも、王はそう思ってしまったのだ。
「あぁ、でも悩ましいな…もうすぐあいつを愛してやれる方法が完璧に分かる…男同士の愛し合い方が分かる…嫌がるあいつを無理やり組み伏せ、愛を注いで、あいつの恋人から奪うのだって悪くない…でも、何度でもあいつに縋り付いて懇願して、あいつから許可を貰ってから愛してやるのも悪くない…どうしようか…?」
贅沢な悩みに王はうっとりと浸る。今までは知識を早く貰いたいと思いながらも、思い人との優しくて穏やかな時間がなくなってしまったらどうしようかと怖くなるくらい悩んでいたが、今日分かった。あの思い人は自分が頼み込めば、落ちる程に優しい。恋人を思いながらも、自分にも慈悲をくれる。ならば、両思いになって愛し合いたい。互いに貪るように求め合い、お互いに愛を感じ合いたい。
どうせ、彼を恋人から奪うのだ。できるなら、彼から許可を貰ってから、恋人から奪いたい。
「あぁ、そうだ…あいつに愛を囁きながら、懇願し、あいつから許可を貰おう…うんと優しく愛でながら、愚かに縋り付くように頼み込んで、あいつから許可を貰えばいい…もし、断られたら、強引に奪えばいいだけだ…」
我ながら、最高の考えに悦に浸る。そうだ、どっちもすればいい。最初は哀れにも懇願して許しを乞い、駄目だったら強引にものにして、自分に堕ちるくらい愛を注げばいい。
だって、彼は自分にだって優しくしてくれる。愛でれば愛でるほど可愛くなるし、あいつの為にと料理を持っていけば、自分にだって料理を摘んで自ら差し出して、笑いながら一緒に食べようと言ってくれた。
体を堕としてから、必死に縋って懇願すれば、優しい彼の事だ。許して、自分を愛してくれるかもしれない。恋人を振り解き、自ら飛び込んでくれるかもしれない。
ならば、優しくしよう。ならば、愛し尽くそう。愚かにも何度も何度も彼に縋り付いて懇願しよう。優しい彼の事だ。もし無理矢理強引に奪っても、最初は怒るかもしれないが、何度も何度も謝って許しを乞い、お前が欲しいと願いを出し、愚かにも縋り付けば、いつか許してくれる。いつか愛してくれる。ならば、自分は彼の望むままに愚かにも彼に縋り、許しを乞おう。彼が手に入るなら、それだって悪くない。
彼が手に入るなら、王の矜持も誇りも何もかもいらない。そんなつまらないもので、彼を失う方がよっぽど愚かだ。そんなものをかなぐり捨てる事で彼の愛が手に入るなら、自分はいくらでも何度でも何でも捨てて、愚かにも彼に乞おう。お前が欲しい、お前の全てが欲しい。俺の全てをあげるから、お前の全てをくれと。それで彼が手に入るなら。
滅茶苦茶な考えだが、王の中では確かに成立するくらいしっかりした考えだった。それくらい、王は思い人を愛していた。愛し過ぎて狂っていたのだ。
「だから、その為にも…」
王の顔から笑みが消える。唇を歪める。灰色の瞳は酷く獰猛に光を放つ。忌々しい、憎々しい、殺してやりたい…!全ての悪い感情を込めて叫ぶ。
「お前を俺から奪おうとする奴等は全部殺してやる…!全部消してやる…!!何もかも跡形もなくなる程に…!」
忌々しい思い人の恋人の存在や彼の仲間…いや、自分以外の彼を愛する全ての存在を王は呪う程に憎み、宣戦布告するように叫んだ。
まだ情報は集まらない。だが、全く手がないわけではない。時間だってないわけではない。なんなら、彼を抱いて全てを彼を奪った後に殺せばいい。消してやればいい。存在を無くしてやればいい。
その為には彼を守り切らなければならない。自分の手から逃さないように。考え付く全ての策を出し切り、あいつを守りきってやる!
「お前だけは決して誰にも渡さない…!お前だけは決して誰にも譲らない…!!お前だけは決して逃さない…!お前は俺のもの…!!お前の全ては俺だけのものだ…!」
王は衝動のまま吠えた。獣が吠えるように決意を込めて叫ぶと笑う。うっそりと唇を歪めて、酷く残酷に笑う。
「愛するとも…!うんとうんと愛するとも…!! 愛し尽くしてやるとも…!お前が求めるままに…!!お前の望むままに…!お前が欲しいままに…!!俺を愛してくれるなら…!」
そう叫ぶと、荒い呼吸を落ち着けるように深呼吸した。一通り落ち着くと近くにあるテーブルに手を伸ばす。そこには思い人が教えてくれた料理がある。
器から一つ取り出すと、王はそれを食べた。初めて思い人にこれを出した時の事を思い出しながら噛み締める。
『美味しいですよ?一緒に食べましょう』
嬉しそうに笑いながら、そう言ってこれを差し出した彼を思い出し、王は味わうように咀嚼した。冷めたからか、あの時ほど美味くなかったが、確かにそれはあの時のように幸せな味がした。
きっと彼が自分を愛してくれたら、あの時のように自分は幸せになれるだろう。あの幸せをずっと感じていたい。
そう思いながら、王はその幸せを体の中に飲み込んだ。その目は狂いながら叫んでいた先程までとは違い、酷く穏やかに優しく目元が緩んでいた。
その次の日から、王の仕事が忙しいからか三度の食事の度に部屋に来ていたのが、夜だけになった。
「リツカ、リツカ…ごめんな、リツカ…なかなか会えなくて…俺が来ないから、お前は寂しいだろう?だから、俺に許可をおくれ…お前に触れる許可をおくれ…愛しいお前に触れて愛する許可をおくれ…お前の寂しさを少しでも和らげてやりたいんだ…」
懇願しながら頬に口付けて王は求める。触れる許可が欲しいと言いながら、手を重ねて指を絡める。手袋をしていない手に口付け、愛を囁く。
マスターが手袋を外すのを嫌がるようになったから、そちらにする事にした。当然、王はそれを疑問に思ったが、反対の手にするのは構わないようなので、そうするようになったのである。
側から見れば滅茶苦茶に見える言動だが、マスターは王の狙いを分かっていた。王が触れたいのは顔や手なんかじゃない。それ以外の体の部分だ。それも、服で隠している部分なのだ。
その一方で、
「ん…!ん…!!」
「はっ…!はっ…!!」
マスターは王の前で約束通り、毎日自身を慰めた。寝具の上の中心で足を広げ、できるだけ卑猥に見えるように見せる。初めての時とは違い、夜だからか幾分見えにくい筈だが、それども王は思い人の痴態を一時でも逃したくないとでもばかりに凝視した。服の中から取り出した自身を慰め、食い入るように見つめる。
「あぁ、リツカ、リツカ…!なんていやらしくて美しいんだ…!!そんなに淫らでいやらしくて卑猥なのに、可愛くて愛らしくて綺麗で美しいなんて、卑怯じゃないか…!」
思い人の痴態に興奮しながら、王は賞賛するように叫ぶ。自身を慰める手は止まらないが、思い人から目を逸らすこともない。
「あぁ、欲しい、欲しい…!全部、全部、欲しい…!!お前の全部が欲しい…!お前の美しい体に貪りつき、衝動のまま手で触れて唇で触れたら、どんなに触り心地が良いんだろう…?!お前の美しい体を彩るお前の体液を全部口に入れたら、どれだけ美味いんだろう…?!その味を堪能して飲み込んで、俺の体の糧にしたら、どんなに幸せだろう…?!早く、早く、食べたい…!!お前の体を貪り尽くしたい…!!愛し尽くし、お前に溢れんばかりの愛を注いで、俺の愛で染めてやりたい…!」
飢えた獣のような衝動を隠そうともせず、王は舌で唇を舐めながら、その味を想像する。体液がマスターの体からとろりと溢れる毎に堪えるように唇を舌で舐め、溢れんばかりの涎を抑える。その極上の体を堪能する時を思い、ほう、と熱い吐息を漏らす。
そんな王から逃げるようにマスターは目を瞑り、必死に自分を慰め、やがて果てた。上り詰めた体を鎮めるように激しい呼吸を繰り返す。自身のものだからか、思い人の体を汚す白濁とした体液を見て、王は興奮の衝動のまま、欲を吐き出した。しばらく二人の荒い呼吸音が部屋に響く。
「…拭く物を」
「あぁ…」
マスターの言葉に王は傍らに用意しておいた布で汚れた手を綺麗にすると、別の布を手に取ってマスターに手渡した。初日とは違い、暖かな湯に浸かったそれは暖かい。受け取ったマスターはそれで体を拭き、身を清める。王も別の布を手に取り、自身を清めると服の中に隠した。マスターが服を着るのまで見ると、王は近づく。
「今日も素晴らしかった。お前は、やはり最高だな」
「どうも…」
ベッドに上り、マスターに近づきながら、王は賛辞を贈る。それにマスターは軽く礼を返す。そんなマスターに近寄って逃げられないように手を握ると、王は囁いた。
「リツカ。目を瞑っておくれ」
その言葉にリツカは静かに目を瞑った。その途端、唇に熱いものが触れる。何度も触れては離れ、触れては離れ、また触れる。堪能するように何度も角度を変えて、触れてくる。
「…ありがとうな、リツカ」
最後に触れると、その言葉と共に熱は離れていった。手を握っていた熱も離れる。マスターが目を開くと王は部屋を出ていく所だった。そんな王をマスターは静かに見送る。
自分が寝る部屋に戻ると、王はテーブルに用意されている料理に手を伸ばした。口の中に入れると、いつものように最初の時を思い出しながら、咀嚼する。
だが、最初の頃より、幸せは感じなくなっていた。日に日に幸せは遠くなり、それに比例するように不味く感じるようになっていく。飲み込んでも、前ほどに満たされない。
「…何故?」
ぽつりと王は呟いた。その頬を一筋の雫が流れていった。

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