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2026 06/19

[chapter:反省会]





「俺の恋人が生前の俺を確実に仕留めにきているっす…!」
「マスターのサーヴァント誑しは生前でも発揮されるのか…」
「なんでそこまで敵の王様の心をがっつり掴みにいったんだよ、マスター…」
「マスター…貴方、凄過ぎるわよ…私なんて、足元にも及ばないわ…」
「さすがの僕も…何も言えない…」
「あ、あははは…」
マンドリカルドにマスターが救出された翌日。反省会をすべくマスターが皆に自分と王の話をすると、本人以外の全員が頭を抱えて項垂れた。話を聞いた仲間の言葉にマスターは誤魔化すように笑う事しか出来ない。特に最初に口火を切った恋人は酷くて、俯いて泣いているのか両手で顔を覆っていた。
ちなみに、昨日一日かけてマスターのメンタルは立て直せた。マスターもマンドリカルドの負っていたダメージを回復できたくらいだ。十分過ぎるくらいに元気である。
着ている服もカルデアから支給された礼装の一種であるカルデア戦闘服だ。マンドリカルドはマスターがこれを着る度に複雑な顔をする。使えるスキルの有能さは分かるが、見た目が嫌なのだ。
「…やっぱり、やり過ぎた?」
「やり過ぎだよ、マスター」
「むしろ、何でやってねぇと思うんだよ、マスター」
「私でも、そこまでしないのよ、マスター」
「僕でも仕留めにいってると思うよ、マスター」
「狙ってやったと言った方が納得するんすよ、マスター」
マスターの呟きに各々が速攻で返す。特に最後の恋人に至っては俯かせていた顔を上げ、両手を離して真顔で言っている。それにマスターはまた笑うしかなかった。
「んじゃ、まずはそこいらから、反省しよう。さっき言ったマスターの言葉から考えると、マスターは自分のやらかしを自覚しているみたいだし?」
「やった時は無かったけど…後々…」
「んじゃ、答え合わせをしようか、マスター。お前さんの今後の為にも。あ、発言はなるべく端的に。山程あるからな」
「う、うん…」
ヘクトールの言葉にマスターは姿勢を正した。一つ指摘する毎に指を立てる。
「まず、王が武具を求める程、尊敬するヘクトールの知識を王に披露した。しかも、話すシーンは全部王の好みの所ばかり。これが、まず王にこいつはガチ勢の自分の好みを捉えられるくらいに有能だと印象付けた」
「初っ端から、有能すぎるんすよ。ガチ勢ってのは、それだけでもヤバいんすから」
マスターの言葉にマンドリカルドはため息交じりに呟いた。死後とはいえ、本人の言葉なので説得力があり過ぎる。マスターはそんなマンドリカルドを無視し、次へと移った。
「次。その知識が知人からという、ある意味細やかな情報源なのに覚えていた」
「マンドリカルドから聞いた話を、ほとんどそのまましたんだろう?そりゃ、馬鹿みたいに記憶力のいい奴だと思われる。これだけでも、頭が良過ぎるよ」
マスターの言葉に燕青が返す。そんな燕青には何も言わずにマスターは次へと移った。
「で、話題がなくなったら、さりげなくヘクトールという共通点しかない男に話題を変えた。ヘクトールという共通点しかないのに、王が聞くのを許すくらい興味を持たせたまま」
「まぁ、ある意味、同じヘクトールなんすけどね…」
マスターの言葉にマンドリカルドは呟く。その通りだが、王は知らない。マスターはそれを無視し、次へと移った。
「次。酒を飲み過ぎだと指摘した。卑しい踊り子風情が人を殺すのにも躊躇わない王に進言し、かつ身を案じた」
「根性がありすぎる。しかも、それが自分を気遣ってだ。そりゃ嬉しいよ」
マスターの言葉に燕青が呟く。それも無視し、マスターは次へと移った。
「次。押し倒すと抵抗した。しかも、抵抗理由は恋人の為という一途な理由から。これが、王の貞淑という好みに突き刺さった」
「踊り子というエロい格好してエロい経験もしている癖に恋人の為に身を守るんすよ?そんなの、大抵の男には堪らないっすよ」
マスターの言葉にマンドリカルドがため息交じりに言う。そんなマンドリカルドをまた無視して、マスターは次へと移った。
「次。恋人の為に先程述べたような王に平手打ちし、説教。それも、恋人の名誉の為」
「そこまで恋人の為に尽くすなら、そりゃ誰だってそいつの恋人になりたいよ」
マスターの言葉に燕青が返す。マスターはそれをまた無視して、次へと移った。
「次。自分の用意した食事を何の警戒もなく食べた。しかも、ちゃんとした理由があった上で。そして、その理由は王が納得できるものだった」
「前日に襲ってんすからね。普通なら警戒して食べないっす。でも、ちゃんとした理由から警戒せずに食っちまった。頭もいい上、失態した自分でもそれなりに信用してくれるんすよ?そりゃ、諸々から嬉しくなるっす」
マスターの言葉にまたマンドリカルドはまたため息交じりに呟く。それをまた無視してマスターは次へと移った。
「次。それなりにあちこち旅している王すら知らない国の知識を披露した。王すら知らない習慣と王すら知らない国の情報を持っていた」
「そんな凄い知識ある奴、絶対手離したくないねぇよ。むしろ逃したら、自分は王として無能って披露する様なものだ。あらゆる理由から、絶対に逃せない」
マスターの言葉に燕青はそう返した。それも無視すると、マスターは次へと移る。
「次。踊り子はそんな遠い故郷を懐かしんで儚く笑った。しかも、庇護欲をそそる様に悲しそうに。そんな相手に対し、王は好きになってしまう」
「そんな可哀想な子、大抵の奴は守りたくなるよ。好きになっても、全然不思議じゃない。そんで好きになったら、全力で守りたくなるよ」
マスターの言葉に燕青は当たり前だろうがと言わんばかりに返す。それも無視するとマスターは次へと移った。
「次。好きになった子は、よくよく見たら可愛い上に綺麗だった。しかも、体はエロい。俺はそう思わないけど、王にはそう見えた」
「マスター、あんたはマジで自分の魅力を自覚して欲しいっす。いや、無自覚だから、今まで何とかなったんすかね?」
「頑張れ、後輩。超頑張れ」
「応援が雑なんすよ、ヘクトール様」
マスターの言葉にマンドリカルドが呆れ返りながら呟く。そんなマンドリカルドをヘクトールが適当に励ますが、あらゆるダメージがデカ過ぎるからか、彼はそれだけしか返せなかった。そんな二人をまた無視してマスターは次へと移る。
「次。思わずキスしたら、一旦拒まれても、次第に自分のキスを受け入れ、更には離れる際には強請る様に声を漏らした。それが、王には全部突き刺さった」
「雌落ちの才能があり過ぎじゃねぇか、マスター。好きな奴のそんな姿を見たら、心が駄目でも体からでも堕とせると判断されても可笑しくねぇよ。マンドリカルド、マジで気をつけろよ?」
「俺以外にマスターを雌落ちさせる予定は今までもこれからも無いっすよ、燕青」
マスターの言葉に燕青が思わずそう言った。燕青に念を押されるように言われるとマンドリカルドは速攻で返す。そんなマンドリカルドに燕青は思わず額を抑えた。
「そう言い切る辺り、お前もある意味凄い奴だよ、マンドリカルド」
「マスターの恋人だから、せめて強い意思表示くらいはしねぇと。いや、陰キャ卑屈元ヤン三流サーヴァントだから、能力諸々低くて周りに全然勝てないだろうけど。だから、常に能力全開で考えうる限りの策を巡らせて、できるだけ対処出来るようにはしてるんすけどね」
「そっか〜」
燕青の言葉にマンドリカルドは強い決意を込めて、そう宣言した。そんな後輩に、うちのカルデアで最強のサーヴァントはお前さんだろうがとか、マスターというある意味難攻不落の城を落とした奴がふざけた事を言うんじゃねぇよ等、山程言いたい気持ちを無理やり押し込め、ヘクトールは軽くそれだけ言う。そんな三人を無視してマスターはまた次へと移った。
「次。食べたい料理を教えてくれと言ったら、『フライドポテト』という知らない料理、かつ『揚げる』という新しい調理法、そして材料は割と手軽に入り、簡単というとんでもない料理の知識を教えてくれた」
「一応言っておくけどね、マスター。『フライドポテト』って、それほど凄い料理なのよ。この時代なら、これの情報だけでも戦争が起きても可笑しく無いの。今後は出さない様に」
マスターの言葉にマタ・ハリが警告するように返す。そんなマタ・ハリにやはりかと思いながら、マスターはため息をついた。
「あの時は、それしか条件に当てはまらない料理が思い浮かばなくて…本当に浅慮でした、マタ・ハリさん。以後、気をつけます」
「あちらから出さない限りは絶対に出さないでね、マスター。聞いた時は本当に心臓が止まるかと思ったんだから。サーヴァントだけど」
謝るマスターに更に念を押すようにマタ・ハリが言ってくる。やはり、自分の選択が間違っていたことを思い知ったマスターはそれを苦々しく思いながら、次へと移った。
「次。食べたい料理の話をするだけで凄く幸せそうな顔をして笑い、更には出したら物凄く喜んだ。しかも、その料理を自分にも分け、一緒に食べようと誘ってきた。そして、自分も美味しいと答えると喜んだ」
「そりゃ、餌付けしたくなるっすよ。そこまで喜んでくれるんすよ?しかも、好きな子が。更には可愛い笑顔で。そんで、そんな美味しい物を一緒に食べようと自分にも食べさせ、喜べばもっと笑顔になる。そんなん、絶対に好きな物を食べさせ続けたくなるっす」
マスターの言葉に何を当たり前な事を言っているんだとばかりにマンドリカルドは呟いた。そんなマンドリカルドを無視し、また次へと移る。
「次。そこそこ平和な故郷を出た理由は攫われたせいと判明。しかも、右手には変な紋様をつけられている。俺は何が何だか分からなかったけど、それを見た王は凄く哀れんでたから、何か良く無い物だと思われたんだと思うんだけど…」
「恐らく、令呪を奴隷紋と勘違いしたんじゃないかしら?人攫いをする目的は大体が奴隷として売る為。人攫いをした奴は商品が逃げても分かる様に奴隷紋をつけるの。これだけでも自分は奴隷だと周りに教えるから、逃走防止も含めて人攫いは体のどこかしらにつけさせるのよ」
マスターの言葉にマタ・ハリが説明すると、彼は納得した。自分がいた世界は基本的に人権が守られている。少なくとも、故郷は人身売買の類を許してはいない。だから、人攫いや奴隷の知識に関わることはあまりない。故郷の創作物からなら分かるかもしれないが、自分はそういうのをあまり見なかったので、これは知らなかった。
「なる程。俺は人攫いから逃げた奴隷だと思われたから、傲慢な王ですら哀れんだのか。勉強になりましたよ、マタ・ハリさん」
「こちらこそ。いざという時は、令呪をそれで誤魔化すのもありね。まぁ、奴隷という印は危険でもあるから、あんまりお勧めできないけど」
マスターはマタ・ハリに素直に礼を言うと彼女はそう返した。あまり有効な手ではないが、どうしても令呪の事を隠さねばならず、これしか手が無かったら、使うことも考えた方がいいかもしれない。まぁ、危険な手でもあるので使いにくいが。使える手は多ければ多ければいいのだ。
「次。自分より仲間の安否を心配した。それも、王が納得する理由から。更には警戒している筈の王にも、それなりに信頼する様になっていた。しかも、こっちもちゃんと納得できる理由から」
「そんな仲間想いの優しい奴、ますます好きになっちまうよ。んで、自分もそこそこ信頼し始めてくれてる。しかも、相手は最初は自分に平手打ちして説教した奴で好きな奴がだよ?そりゃ、好きな奴に好かれてきたって勘違いされてもおかしくない」
マスターの言葉に燕青がそう返した。マスターはそれをまた無視すると、次へと移る。
「次。少し情報を出しただけで、王の意図を察した。それも、ちゃんとした理論から。そこで、こいつは有能な奴だと再確認する」
「ここまで能力を出しておきながら、無能だと判断するなら、そっちがおかしいんすよ、マスター。そんな判断する馬鹿が国を治めるなんて事ができる筈ねぇっす」
マスターの言葉を聞いたマンドリカルドは呆れ返りながら呟いた。確かにその通りだが、今はそれに拘っている場合ではない。まだまだあるのだから。マスターはそれも無視すると、次へと移った。
「次。出してきた要求をすげなく断っても粘り強く交渉し、諦めさせる為にとんでもない要求を出したら、受け入れた上に更には条件を確認する慎重さを出してきた。相手が王でも一歩でも引かず、要求を押し通した。ここから、こいつは交渉の場でもチャンスをものにできる程には有能と判断する」
「これだけでもオジサン、その人材が欲しいよ。喉から手が出るほどね。絶対に何が何でも手に入れたい」
マスターの言葉についにヘクトールが言ってきた。あのオジサンすら、思わず口出ししてしまう程なのかとマスターは思いながらも、言葉は何も返さず、次へと移った。
「次。交渉の条件を満たすためとはいえ、裸の体を見せ、更には自慰すらした。しかもその後、毎日。仲間と接触する為だけに」
「根性があり過ぎるんすよ、マスター。時には目的の為なら、あらゆる手段に訴える。しかも、初日に恋人の為に身を守った奴が体を張ったんすよ?更には、自分に好意を持っていると分かった上でエロい姿を見せてきたんす。こんなん、あらゆる面で惚れ直すっすよ。そりゃ、傲慢な王だって自慰なんて無様な姿を見せながら、お前の全部が欲しいって叫ぶっすよ」
マスターの言葉にマンドリカルドはついに頭を抱えるように呟いた。何でそんな事すら分かってくれないんだと言わんばかりの恋人にマスターは苦笑いだけ返し、次へと移る。
「次。王の妨害を覚悟しながらも、仲間と接触しようとした。接触する手段は分からなかっただろうけどね」
「だから、根性があり過ぎるんだよ、マスター。敵の前で仲間と逃げる為に接触するなんて、よっぽどの馬鹿以外は普通はしない。しかも、いざという時は容赦なく自分を殺せるだろう王の前で。だから、ここまで旅して来れたんだろうけどさ」
マスターの言葉に燕青すら頭を抱え、呟いた。生前の経験から、その辺りが詳しいだろう燕青の言葉だからこそ、ある意味耳が痛い。それにも苦笑だけ返すとマスターは次へと移った。
「次。頼み込んだら、条件付きだけど、触れるキスを王に許した」
「恋人の為なら王にも平手打ちし、説教した貞淑な踊り子が条件付きとはいえ、キスを許してくれたんすよ?そんなん、更に自分に好意を持ってくれたって勘違いもするっす。そんで、ますますメロメロになるっすよ」
マスターの言葉にマンドリカルドは本気で分かってくれと言わんばかりに呟いた。そんな恋人にまた苦笑するとマスターは次へと移っていく。
「次。また無理やりものにしようとしたら、俺だって男だと諸々説教して、また平手打ち。更には傲慢な王にも絶対に屈服しない」
「これだけでも傲慢な王で略奪者なら、絶対にこいつを手に入れたいと思うんすよ。で、そいつは今まで自分に自身の高過ぎる能力と高過ぎる魅力を馬鹿みたいに伝えて来たんすよ?絶対に手に入れたいし、愛し過ぎて狂ったって全然おかしくねぇんすよ、マスター」
マスターの言葉にマンドリカルドはついに顔を俯かせ、両手で顔を覆いながら、そう言った。ある意味、王を一番知る彼だからこそ、断言できる言葉だ。何でそんなことが分からないんだ、俺の恋人はあらゆる意味でヤバ過ぎると言わんばかりの言葉にマスターは俺は彼にどうフォローすべきかな?と考えてしまった。
「で、ここまでの感想は?マスター」
「え?」
やっと自分なりの考えを出し終えたマスターはヘクトールから言われた一言に固まった。恐る恐るヘクトールを見る。
「オジサン…もしかして、俺の言った事…当たってる…?」
「合ってるんだよな〜、これが。まぁ、他にも王に惚れられた理由はあるけど」
「えと…俺的には、自分で考え付く限りの考えを適当に言っただけ…なんだけど…」
「残念だが、合ってるっつってんじゃん、マスター」
マスターが恐る恐る言うとヘクトールは呆れ返りながら、返した。それにぼそぼそとマスターが返すと、ヘクトールは容赦なく言い放つ。そして、大袈裟過ぎる程大袈裟なため息をつくと、説明した。
「だから、常々言っているだろう?お前さんは全然普通じゃない。少しでいいから、その能力の高さを自覚してくれって」
「えと…他にも、これくらい出来るのは…」
「んじゃ、聞くけど、カルデアのサーヴァント全員から多少の差はあれど好意を持たれ、そいつら全員の能力を完全に把握し、そいつら全員を適切に使ってんのは、誰?」
ヘクトールの言葉にマスターが逃げるように言うと、ヘクトールは尋ねてくる。そんなヘクトールから逃げるようにマスターは必死に視線を避けようとする。
「す、好かれているのは…マスターだからで…編成は、ダヴィンチちゃんとかカルデア職員組で…」
「少なくとも、現場はお前さん中心だよね?お前さんが現地人に接触して交流。んで、サーヴァントに戦闘指示するのは、お前さん。適切なマスタースキルで補佐すんのも、お前さん」
必死に言い訳して逃げようとするマスターに逃さないとばかりにヘクトールは指摘してくる。それにうろうろ視線を彷徨わせながら、マスターは呟く。
「えと…それは、現場慣れして…ぐ、軍師系サーヴァントが戦略を教えてくれて…」
「てことは、少なくても軍師系サーヴァントからは戦略教えて貰えるくらいには、お前さんは好感を持たれているって分かっているって言っているようなもんだよね?マスター」
マスターの言葉にヘクトールは今日こそ分からせてやるとばかりに反論する。さすが、元は王族で政治家でトロイアを約十年守った知将。指摘がずばずば突き刺さる。だが、マスターはそれに抗うように呟く。
「いや…だから、人理の危機で…俺が人類最後のマスターだからで…だから皆、仕方なく…」
「そんな訳ないだろう?少なくとも、オジサンはそんな小さい理由だけでは動かない。オジサンなりにマスターが好きだし、好きだからマスターの力になりたい。好きだから、こんな面倒なこともする」
「ち、小さい…?!いや、全然小さくなんか…」
マスターの言葉にヘクトールはまた呆れ返りながら、ため息交じりにそう言った。そんなヘクトールにマスターはそう言いかけたが、
「少なくとも、俺はあんたが好きだから、あんたの役に立ちたくて、俺なりに頑張ってるんすよ、マスター。それはあんたも分かってるっすよね?」
マンドリカルドからも一言。それを言われると何にも言えないくらい的確な言葉だ。再び現れた強敵にマスターは困惑しながらも、なんとか突破しようと足掻くように呟く。
「い、いや、それは…マンドリカルドが良い奴で…俺の恋人だから…」
「んじゃ、言いますけどね、マスター。あんたの恋人の俺が生前憧れまくって尊敬しまくった結果、旅に出て武具を集める程に好きな大英雄が無駄過ぎる嘘をあんたにつくって言うんすか?そんな不誠実な奴を俺が馬鹿みたいに尊敬し、憧れるなんて言うんすか?」
「ええと…ええと…」
マンドリカルドの言葉についにマスターは詰まった。うろうろと視線を彷徨わせ、なんとか反論しようとするだが、上手い言い訳が見つからない。そんなマスターを見た仲間達は、ある意味で優秀過ぎるマスターを仕留めてやるとばかりに次々に口を開く。
「最初からあった、古今東西のあらゆる意味で癖が強い英霊と誰でも仲良くなる上に激重な愛情を向けられ、受け止め、更にはそれに自分なりに出来る範囲で返して心を掴み過ぎる、半端ないコミュニケーション能力と半端ない人心掌握能力の高さ」
「カルデアという支援付きでありながら、常に戦場に立ち続け、負けても最終的には必ず勝って生き続けてきた、采配能力の高さ」
「災害と言われる数々の人類悪のビースト達にすら、常に立ち向かって戦ってきた、とんでもない精神の持ち主」
「この三つの事実だけでも、全然普通の奴じゃないって分かるよな、マスター?サーヴァントなら、誰でもこんな有能なマスターに命を捧げるのなんて、全然苦じゃない。令呪で自害を命じられたって、これで何かの役に立つのかな?とか思ったりして笑顔で座に還る。後悔とか抱くなら、せいぜいもっとあんな有能なマスターといたかったと惜しむくらいだ」
「んで、見た目も可愛くって綺麗で美人。性格も能力も最高。少なくとも、俺はあんたをそれだけ魅力的に思ってるっすよ、マスター」
「こんな諸々激ヤバな最強の奴が普通な訳ないだろう?マスター」
「……」
仲間から、しかも恋人も含めた怒涛の攻め立てについにマスターは沈黙した。黙り込んで頭を抱えるマスターを見て、ようやく少しは分かってくれたと分かった仲間達は、ある意味一番苦労したであろう彼の恋人のマンドリカルドに近づき、彼を労う。
「マンドリカルド…お前、凄いな…こんな魅力的なマスターの恋人でい続けていたなんて…」
「なのに、この人、ずっと無自覚だったんすよ?こんなに魅力に溢れた人なのに、全部無自覚だったんすよ?そのせいで、俺がどれだけ苦労してきたか…」
燕青の言葉にしくしくと泣きながら、マンドリカルドは言った。そんなマンドリカルドにアマデウスとマタ・ハリも声をかける。
「さすがの僕も同情するよ、マンドリカルド…」
「貴方、こんな凄い人の恋人でい続け、守り続けていたのね…しかも本人は無自覚…凄過ぎるわ…」
「分かってくれたっすか?俺の苦労、分かってくれたっすか?」
怒涛の慰めが染み入るのか、マンドリカルドはさめざめ泣きながら呟いた。そんな彼に心底同情しながら、仲間達は彼を慰め続ける。そんな恋人の姿にマスターの心も痛む。そこまで自分は恋人に迷惑をかけていたのかと。
「オジサンも悪かったよ、マンドリカルド…確かにお前さんも反対するよ…こんなに魅力が溢れているのに無自覚な上、お前さんが一番嫌いな奴の前に出すなんて策を出して…しかも、エロい格好させて…いや、自分の能力やら魅力やらの高さの自覚が全くないな、この子はとは思ってたけど…まさかマスターがここまで無自覚な上、敵にもほぼ全部曝け出してしまうなんて…」
あのヘクトールすら、マンドリカルドに謝罪し、彼を褒めた。自分の策は愚策だったと認めて、口にし、お前はすごい奴だと言わんばかりに。そして、同時に何でマスターは諸々に対し、あんなに無自覚だったんだとマスターに自覚の無さを無慈悲に突きつける。その指摘がマスターの心を突き刺した。
「あざっす…あざっす、ヘクトール様…俺、ヘクトール様からのその言葉だけでも、すげぇ嬉しいっす…」
ヘクトールの言葉にマンドリカルドは感涙しながら、何度も頭を下げて感謝を述べる。生前、武具を求める程に尊敬し、憧れた人に認められ、褒められたマンドリカルドは本気で嬉しそうだった。
そんな恋人の姿にようやくマスターは認めた。認めるしかなかった。そこまで、徹底的に打ちのめされたからだ。認めざるを得なかった。
「俺、ヤバい奴だったんだね…少なくても能力的には…」
「分かってくれて何よりだよ、マスター」
顔を俯かせ、両手で覆いながら呟くマスターにヘクトールは安堵のため息をついた。しかし、マスターはまだ諦めていないようだった。最後の最後まで、細やかな希望を持って抗う。
「…見た目は普通…だよね?」
「だからね、マスター。他の奴等は分かんないすけど、少なくとも俺はあんたは見た目も最高に可愛くて綺麗で美人だと思ってるって何度も言ってるんすよ。いや、あんたは性格も能力も全部最高な魅力的な人っすけど…」
あくまでも抗おうとしているせいか、そんなとんでもない事を言い出す恋人をマンドリカルドは絶対に逃さない、絶対に確実にトドメを指してやるとばかりに言ってきた。それにマスターは泣きたくなった。ついに、マスターは完璧に負けたのだ。完璧に論破されたのだ。己はあらゆる意味でヤバい奴だと思い知らされた。
「俺、ヤバい奴だったんだ…そんなにヤバい奴だったんだ…少なくても、マンドリカルドがそう本気で思って言ってしまうくらい、ヤバい奴だったんだ…」
『ようやく自覚してくれて、何よりだよ、立花君!』
「うわっ?!だ、ダヴィンチちゃん?!」
マスターの呟きに即座に反応があった。カルデアで様子を見ていたであろう、ダヴィンチからだった。どうやら、タイミングを見計らっていたらしい。まぁ、結界の妨害のせいか出来なかった城の中でもないので、そのうち来るとは思ってはいたが。突然通信が入ってきて、マスターは思わずびくりと体を震わせた。そんなマスターにダヴィンチは情け容赦なく言う。
『君の言葉を聞く限り、まだまだ君は自分に対する認識が甘過ぎる。正直もっと自覚させたい位だが、とりあえず今はそこまでにしておこう。そちらの問題が解決してカルデアに帰ってきて休んだ後、時間が許す限り、徹底的に教え込むつもりだから、覚悟しておきたまえ!』
「地獄が待っている…!変な地獄より、恐ろしい地獄が待っている…!!」
『絶対に逃さないから、本気で覚悟したまえ、立花君!何、本物の冥界すら数多く乗り越え、数々の恐ろしい試練を乗り越えてきた君だ!!必ず、なんとかなるとも!』
ダヴィンチの言葉にマスターはガタガタと体を震わせながら呟いた。そんなマスターに絶対に逃さないぞ、そして頑張って乗り越えろとばかりにダヴィンチは宣言する。そんなダヴィンチの言葉にあらゆる意味でマスターは泣きたくなった。
そんなマスターを見て、ヘクトールはやっと分かって貰えたかと判断し、ため息交じりに呟いた。
「今回、一番助かったのは王に男同士のやり方の知識がほぼ無かった事だな。お陰でマスターを何とか守れた。ぎりぎりだけど」
「生前、女ばかり抱いていて心底良かったなんて思う日が来るとは思ってもみなかったっす…いや、マスターとの初夜で恥ずかしながらもそれを言った時にマスターが喜んでくれた時も良かったと思ったっすけどね…」
額に手を当て、深くため息をつくヘクトールにマンドリカルドも複雑そうな顔をして呟く。そんな二人に燕青もため息をつきながら呟いた。
「貢物に選んだ酒の時点で間違えちまったな…良くも悪くも潜入メンバーの中に一人は有能な人材がいるって王に伝えちまった…」
「これに関してはお前さんだけが悪い訳じゃないよ、燕青。オジサンも諸々考えてお前さんと酒を選んだからな。まぁ、これがなくても、マスターは自らの良さを王に伝え、がっつり王の心を掴んでいるし。王にこいつは酒の知識なんか無くってもいいと簡単に放り出せるくらいだし」
その言葉にヘクトールがフォローするように返した。それを聞いたマスターは首を傾げる。マスターは成人してないから、酒に関してはほとんど何も分からず、その為、これに関しては考えられなかったのだ。
「どういう事、オジサン?説明してもらってもいい?」
「まぁ、マスターは未成年で酒の知識はないからな。これに関しては解説しておこう。オジサンなりの解説だけどな」
「オジサンなら、そこまで間違った考えはしないって分かっているから、教えて貰えると助かるよ」
「そういう所だぞ、マスター」
マスターの言葉にヘクトールは頷きながら、注意を促すように言う。それにマスターがそう言うとヘクトールは即座にそう返した。相変わらず、自分のマスターは人の心を掴むのがうま過ぎる。
「今回、オジサン達が用意した酒は『旅芸人の一座が王族に差し入れする酒として適正な酒』を選んだ。旅芸人の一座だから手に入れられる珍しいもの、かつ手に入れられる範囲で高い酒。そして、王族の口に入ってもギリギリ許容されるものを選んだ」
「口に入らない事も考えてな。外からの物を王族の手に渡るなんて、そうはない。この時代は旅芸人の一座なんて、良くも悪くも一杯いるしな。暗殺でも割と使う手なんだよ、今回のヘクトールの策は。いや、別に単独でも別の方法で侵入して仕留める奴は仕留めるし、俺もできるけど」
「だが、今回は聖杯の情報を仕入れる為の潜入だ。だから、多少はあちらの好感を高めておこうと貢物は良いものを選んだ。旅芸人の一座が選べる、ぎりぎりの物をな。だから、酒に関してはさっき言った三点から、今回の酒を選んだ。王族には入らなくても、周りの好感度も上げられる奴をな」
ヘクトールの言葉に燕青が補足する。彼の言葉はアサシンの視点から考えれば妥当な物だ。それにヘクトールは頷きながら、解説していった。
「ところが、王はそれを自らの口に入れた。きっと安全の為に毒味とかさせた上でな。恐らく、王は初めから、優秀な人材が欲しかったんじゃないかな?それも、頭関係の能力がいい奴だ。それを考えると、燕青を拒否したのも頷ける。燕青は見た目から考えれば、発揮できるのは身体能力の方だからな」
「なるほど。だから、王は自ら酒を飲む事で俺達の中にいい人材がいないか探したのか。そして、飲んだ酒が旅芸人の一座にしては合格だったから、俺達に興味を示した。だから、酒を飲む前はあんまり興味なかったのに、酒を飲んだら、俺達について色々質問してきたんだね」
「そうだ。んで、マタ・ハリは立ち居振る舞いからそこそこ隙がない、そこそこ優秀な奴と判断した。こいつなら、この酒を選んでもおかしくはないとは判断したかもな。んで、アマデウスは芸だけ素晴らしいと判断した。だから、王は交渉のほとんどをマタ・ハリとしたんだ。それくらいには、マタ・ハリを評価していた。多分、お前さんが行かなかったら、王はマタ・ハリを指名していた可能性もあったかもな」
ヘクトールの言葉に頷きつつ、マスターも自分の考えも伝える。それに頷いたヘクトールは解説を続けた。
「だが、お前さんがヘクトールの話をしようと言い出した。王が最も関心が強いヘクトールの話題を出した。なら、こいつも能力を探ってやろうと、お前さんの提案に乗った。そして、お前さんはここで優秀さをアピールした。だから、王はお前さんを自室に連れて行ったのさ。どれだけの能力があるか、見極める為にな」
そこまで説明すると、ヘクトールは一つため息をついた。
「ただ、酒に関しては間違った判断をした事にすぐに気がついたとオジサンは思っている」
「何で?」
「んじゃ、この質問をしよう。王が自室で飲んでいた酒はどんな酒だったんだ?」
「…あ」
ヘクトールの言葉にマスターが短く尋ねると、ヘクトールは逆に尋ねてきた。それにマスターは王が自室で飲んでいた酒の特徴を思い出し、声を漏らす。
「もしかして…あれ、水だった?」
「やっぱりか。お前さん、故郷の酒が酒だから、王が飲んでいたのを酒だと勘違いしちまったんだよ」
「あー…水だったのか、あれ…」
マスターの答えにヘクトールはそう返す。それを聞いたマスターは思わず呟いた。
王が自室で飲んでいた酒は無色透明だった。そして、この時代のタタールに無色透明な酒はない。この時代のタタールにあるのはエールにミード、ワイン辺りだとヘクトールは説明する。いずれも色のついている酒ばかりだそうだ。割と無色透明に近い白ワインですら、僅かに色がついているとの事。
だが、マスターの故郷は無色透明な酒が多くある。だから、マスターは王が酒を飲んでいると思い込んで、身を案じて大丈夫か尋ねたのだが…
確かに、何も知らなければ酒の知識はないと思うだろう。水を酒と勘違いしたのだから。
「そもそも、お前さんを抱くつもりなら、あんまり酒を飲もうとするはずがない。酔い過ぎると性器が反応しなくなるんだ。また、酔い過ぎて頭が働かなくなって、能力を見極められないという観点でも、酒は回避したいだろう?なら、選ぶのは安心安全な水だ」
「あー…そういう観点からも考えられたか…」
ヘクトールの指摘にマスターは呻くように呟いた。確かに酒に関しては知らな過ぎだし、考えが甘かった。思考を鈍るくらいは分かるから、そこから考えれば水の可能性を考えられただろう。
ちょっと考える力が足りなかったな、とマスターは反省した。
「ま、今の王がお前さんについてデメリットを感じるなら、お前さんが子供を産めない事と酒の知識がない事くらいだろう。ただ、酒に関しては故郷の事を考えたら、認識を変えるかもな。こいつの故郷は自分も知らなかった遠い島国だ。だから、水を酒と勘違いするような酒があるかもなと」
「まぁ、そうなんだけどね…オジサン、解説してくれて、ありがとう…」
「どうも。さすがに未成年のお前さんに酒は無理だからな。オジサン的にはマスターが酒が飲めるようになったら、一緒に飲んで教えたいね」
ヘクトールはそう言って解説を終えた。そんなヘクトールにマスターは笑いながら、礼を言う。
これに関してはヘクトールから聞かなければ分からなかったので、勉強になった。そんなマスターにヘクトールはにこりと笑った。
「そこまで旅が続いたら、一緒に飲もうね、オジサン。オジサンなら、酒癖も悪くなさそうだし」
「酒癖が悪かったり、酒を飲み過ぎて酔い潰れたりしたら、元王族としても元政治家としても失格だからな。その辺はそのまま安心していてくれや、マスター」
マスターの提案に乗るようにヘクトールは返事し、さり気なく自分の有能さをアピールして約束を取り付けた。そんなヘクトールにマスターは笑った。自分が酒を飲めるようになったら、ぜひ教えてもらいたい。
『まぁ、反省点はここまでにしておこう。それで、これからどうするんだい?聖杯を取りに行くかい?』
「それに関しても意見を交換しようと思ってる。とりあえず、アマデウス。城の結界はどうなっている?」
ダヴィンチの言葉にヘクトールはそう答えた。ようやく話題が変わるようだ。それを知ったマスターはこっそりと安堵のため息をついた。そんなマスターの姿に本人以外、色々言いたくなったが、今は聖杯だ。わざと逃がしてやるようにアマデウスは口を開く。
「もう一回貼り直したからか、また結界自体はあるね。もう一度、破る必要がある。だが、何故か以前程強固ではないから、前よりは簡単に弱体化できるよ」
「どれくらいかかりそうですか、アマデウスさん?」
「それが、驚いた事に今日中にできそうなんだ。対応によっては今日中に聖杯を取りにいける。うまくいけば、今日中に特異点はなくなるね」
アマデウスの言葉にマスターが尋ねると彼は首を傾げながら、そう答えた。それを聞いたマスターも首を傾げる。それは、いくらなんでもおかしいぞ?と。
あんなに苦戦した結界を何故、再び貼れないんだ?一度できたのだから、もう一度貼ればいい。そうした方があらゆる面からもいい事なのは、分かるはず。もしかして、何かの罠か?
良くも悪くも、マスターはマンドリカルド王の頭の良さを認めていた。自分は割と素直だから簡単かもしれないが、煽ったり何だりして情報を引き出している。そして、交渉で口が上手いマタ・ハリにも勝っている事がある。更には、マンドリカルドが自分を助けに来るまで自分を捕らえ続けた。
少なくとも、そこまで頭が回るのだ。そんな頭のいい奴がこんな簡単な事を見逃すとは思えない。
「もしや、王の魔術は回数をこなすと効果が減っていくのかな…?」
「まぁ、一番考えられるのは、それだが…王は技術しかなく、魔力察知とかできないらしいし…しかし、それにしては弱体化し過ぎていないか?いくら何でも、張られた結界が弱過ぎるぞ?」
マスターの呟きにヘクトールも呟いて考え込む。他の仲間も考え込んだ。
「考えられるのは、聖杯…っすかね?」
「その根拠は何だい、後輩?」
ぽつりと呟いたマンドリカルドの言葉にヘクトールは尋ねた。自分なりに考えてマンドリカルドは説明する。
「生前の俺は魔術の類を使えなかったっす。なら、聖杯を使って魔術で物に機能をつける力を得たと考えています。で、これは使えば使う程、弱体化するデメリットがあった。そこまで考えれば、弱体化する理由は成立するっす」
「そこまでは割と簡単に考えられるな。だが、お前さんだ。それだけで終わらないだろう?」
「ここに、この聖杯は複数望みを叶えられるタイプだったと仮定をつけたら、どうっすかね?」
マンドリカルドの言葉にヘクトールは指摘する。そんなヘクトールにマンドリカルドは一つ提案する。それを聞いたヘクトールは意図を察知した。マスターも頷く。
「なるほど、聖杯自体が複数望みを叶えられるタイプだった。そして、願いを叶えれば叶える程、減るタイプだった。更に、聖杯が弱体化すれば、叶えて得た能力も弱体化してしまうタイプだった。恐らく、王は結界を張る前にまた一つあるいは複数の願いを聖杯を使って叶えたんだろう。で、その望みを叶えるには、ここまで弱体化する程、聖杯が力を失わなければならなかった。だから、王の魔術の能力も下がった。そう考えれば、辻褄は合うな」
「願いは、きっと俺関係なんだろうな…昨日、俺がマンドリカルドと共に逃げたから…あの王様の事だ。絶対に俺を諦めるとは思えないし、聖杯があって使えるなら、絶対に使うよね…」
ヘクトールが考えを口に出して言う。彼の言葉を聞いたマスターは同意するように頷きながら、うんざりと呟いた。そんなマスターの様子に他の仲間達も苦笑したりする。マンドリカルドはあらゆる理由から嫌という程に王の気持ちが分かるから顔を顰めているし、マタ・ハリとアマデウスは本人から気持ちを聞いているので、苦笑している。一番分からないのは燕青とヘクトールだろうが、今まで得られた情報からでも、それは十分考えられるし、そこを察せないほど馬鹿でもなかった。
「諸々、考える事はあるけど…とりあえず、聖杯を取りに行こう。結界さえ何とかなれば、城と王自体はどうとでもなるであろう事はマンドリカルドが俺を助けられた事実からでも明確だ。更に、こちらは五人とはいえ、全員サーヴァント。城のあらゆる情報も仕入れている。勝算はあると思う」
「負ける要因があるとするなら、王の手元に聖杯があり、願いが叶えられる状態で適宜適切に使われた時っすね。複数回願いを叶えられるタイプなら、厄介っす。さすがに聖杯を使われるとしんどいっすね」
マスターの言葉にマンドリカルドが指摘してくるように言ってくる。それに燕青が考えを言う。
「でも、結界の弱体化を見れば、そこまで脅威でもないんじゃないか?あんまりにも結界が弱体化し過ぎている」
『悪いが、それは甘い考えだと言っておくよ、燕青。良くも悪くも聖杯だ。それに、マンドリカルド王はそこそこ頭がいい。場合によっては苦戦、もしくは敗北の可能性も考慮しておいた方がいいよ』
「そうだな、俺が甘かった。悪かったよ」
燕青の言葉に返したのはダヴィンチだ。その指摘は確かにその通りなので、燕青は素直に謝った。

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