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2026 06/19

[chapter:戦争開始]





「先制攻撃は貴方に譲りましょう、マンドリカルド王。どうぞ」
「それは、何故?」
「貴方にはお世話になったので。まぁ、貴方は俺を捕え続けたかっただけなのは分かってますがね。でも、俺が貴方にお世話になったのは事実なので、そのお礼です」
指を引っ込めるとマスターは王に言った。それにこちらも指を引っ込めた王が問う。すると、マスターは笑いながらそう言った。そんなマスターに王も不敵に笑う。
「では、有り難く先制攻撃させて貰おう。お前には何があっても、どうしても伝えたかった事があったからな」
「承諾して下さり、感謝します。それで、貴方の先制攻撃は?」
「謝らせてくれ、リツカ。すまなかった」
王の言葉を聞いたマスターはそう返した。そんなマスターを見つめ、王は頭を下げながら言った。そんな王を見て、マスターは眉を顰める。
「それは、何に対して言っているのですか?」
「お前の体を無理矢理奪おうとした時に手を上げようとした事に対してだ」
マスターの言葉に頭を下げたまま、王は答えた。それにマスターは何も言わず、ただじっと王の言葉を待つ。そんなマスターに王は頭を下げ続ける。
「あれだけは無かった。最愛の人に手を上げるなんて。最愛の人を自ら傷つけようなんて」
「……」
「恋人から奪うのはいい。強姦だっていい。俺は傲慢な暴君で略奪者だからな。手に入れる為の手段の一つだ。だが、自ら愛する人を傷つけようとするのは、さすがにない。俺ですら、許容できん。容認できん」
ぽつりぽつりと王は呟く。呟き続ける。頭を下げ、己の最愛の人に謝り続ける。
「だから、謝らせてくれ。これだけは謝らせてくれ。受け入れなくていい。許さなくていい。でも、俺がこれに関して謝っている事だけは知っていてくれ」
「それに対してはこう返しますよ、マンドリカルド王。貴方の謝罪を受け入れましょう」
王の言葉にマスターはそう言う。王が恐る恐る顔を上げると、マスターは優しく笑っていた。そんなマスターを王は泣きそうな顔で見つめる。叱られた子供のように泣きそうな顔をする王にマスターは優しく微笑んだ。
「俺はちゃんと自分の悪さを認め、反省と後悔をし、謝るのを許さない程、酷い人間にはなれませんので。だから許しますよ、マンドリカルド王」
「寛大なる心に感謝しよう、人類最後のマスター。俺の最愛の人」
マスターの言葉に王は再び頭を下げて感謝を述べた。だが、顔を上げると王は再び傲慢な暴君となっていた。そんな王を見たマスターは気持ちを切り替えようと緩く首を振る。
「では、今度はこちらから仕掛けさせていただきます、マンドリカルド王。今の俺の最大の奥の手を貴方にお教えしましょう」
「どうぞ、俺の最愛の人」
マスターの言葉に王が頷く。それを見たマスターは再び王に指を向けた。そして、叫ぶ。
「ガンド!」
「な…っ?!」
マスターの一言に王は驚きの声を上げた。何か体を駆け抜けたかと思うと体が硬直する。体を動かそうとしても動かない。しばらく確認するように体のあちこちを動かそうとするが、指の一本すら動かない。だが、ぱくぱくと口を動かすのはできた。会話は出来るらしい。
「…なるほど、これは強力だな。お前の使う魔術か?」
「えぇ、そうです。俺が唯一使える攻撃の一手です。俺はこれ以外は使い魔への支援スキルしか使えません」
「何?」
王の言葉にマスターはあっさりとそう答える。そんなマスターの言葉に王は眉を顰める。そんな王にマスターは困ったように笑った。
「冗談抜きで、俺は攻撃はこれしか使えないんですよ。最低ランクの魔術師なんで。他の魔術師に対抗できるのは、サーヴァントという使い魔に関してだけなんです。それも、カルデアという組織の支援があって出来ているくらいなんです」
「何故、お前はそれを言った?体感した所、これは体を拘束するだけのもの。攻撃になりきれない。傷をつけられない。サーヴァントとやらの使い魔がいなければ、敵を倒せないだろう?」
「そのサーヴァントが強力なんですよ、マンドリカルド王。一騎当千の戦士達。その気になれば国を簡単に滅ぼせる、独自の性格と知能を持つ兵器達。貴方に略奪を仕掛けるのが、俺の使い魔たるサーヴァント達です。貴方も見たでしょう?」
マスターの言葉に王は問う。そんな王にマスターは告げる。マスターの言葉に王は微かに眉を寄せ、苦々しく呟いた。
「あの女と男はお前の使い魔だったのか…通りでお前を諦めないわけだ…」
「ちなみに、貴方から俺を奪った騎兵も俺のサーヴァントですよ。俺の一番のサーヴァント。そして、俺の恋人でもあります」
「使い魔を恋人にするとはな…お前は本当に面白い奴だ…」
「使い魔と言っていますが、便宜上そう言った方が分かりやすいから言っているだけで、俺自身は彼らを仲間だと思っています。俺なんかに力を貸してくれる優しい人達です。彼等なりに俺を愛してくれるので、俺も俺なりに彼等を愛しています。勿論、俺は恋人も本気で愛していますよ。そして、恋人も本気で俺を愛してくれています」
マスターの言葉に王は鼻で笑うように言う。そんな王を睨みながら、マスターは答える。彼等を侮辱するな、俺の仲間を馬鹿にするなと言わんばかりに。そして、自分が本気で愛し、自分を本気で愛してくれている恋人を侮辱するなと言わんばかりに。
「そうか…あいつは使い魔でありながら、主人と恋仲になったのか…そんな劣勢から、よくもなれたものだな…」
マスターの言動に目を閉じながら、呟いた。まるで噛み締めるように呟く言葉を聞いて、マスターは少しは王が恋人を認めてくれたと判断し、緩く首を振って感情を切り替える。そして、ベッドまで来ると、王の隣に座った。
「これで分かったと思いますが、貴方は俺に手出しできません。俺に手を出したら、また貴方に同じ術を放ちます。これ自体は一回放つとまた放つのに時間がかかる物ですが、人間相手なら、その回復時間の間は体の自由を奪う事ができます。貴方が手を出す度に俺はこの術を放ちますので、手を出す時はよく考えてからする事をお勧めします」
「なら、何故、今まで使わなかった?最初は不意打ちで驚きの余りに混乱して使わなかったかもしれないが、それ以降は嫌なら使えば良かったじゃないか」
マスターの言葉を聞いた王は隣のマスターに尋ねる。その問いは至極真っ当だ。何故ならば、マスターは嫌がる時は本気で抵抗していたのだから、その時に使えば良かった。なんなら、これを使って逃げ出せば良かった。そんな王にマスターはため息交じりに呟く。
「この服じゃないと、この術は使えないんですよ。だから、今までは使えなかったんです」
「ほう…?」
マスターの言葉を聞いた王は唇を歪めて笑う。にやにやと笑いながら、マスターを見る。
「だから、そんな情欲を唆る服を着ていたのか。見た時、俺に抱かれに来たのかと勘違いしそうになったぞ?」
「貴方もですか…その辺りは俺の恋人と同じですね…」
「そんな色気のある服を着ていて、何を言っているんだ?全身隠している癖に体の様子が分かるから、ある意味踊り子の衣装より卑猥だぞ?」
「その辺りは作った人に言って下さいよ…恋人も俺がこれを着る度に複雑な顔をするんです…本人的には着て欲しくないそうですが、この術が使えるから、渋々頷く状況なんです…」
王の言葉にマスターはうんざりしながら呟いた。そんなマスターを見ながら王が呆れたように言うと、マスターは額に手を当てて言う。そんなマスターを見た王はわざと彼から視線を背けた。

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