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2026 06/19

[chapter:一手]





「では、そろそろこちらの次の手に移るか。そうだな…お前の恋人の話をして貰おうか」
「え?」
王の言葉にマスターは思わず目を見開いた。慌てて王を見ると、彼は拗ねたような不貞腐れたような顔をしながら、マスターから視線を逸らしている。
「使者に褒美に何が欲しいか聞いたら、お前と話すのなら、ぜひお前の恋人の話を聞いて欲しいと言ってきたんでな。奴からお前の恋人の話を少し聞いて、聞く気にもなったし。俺もあいつが何者か気になっていたし。それに…」
マスターの方に視線を向けると、にやりと笑う。
「お前という馬鹿みたいに有能な奴の恋人だからな。お前自身から、ちゃんと話を聞きたい」
王はそう言って笑った。そんな王を驚きながら見つめていたマスターだったが、王の意図を察したマスターは話し出した。
「では、俺の恋人の話を貴方にしましょう。少し長くなりますが、宜しいですか?」
「許す。だから、しろ」
「では、させていただきます」
マスターの言葉に王が笑いながら頷くと、マスターも笑いながら話し出した。
恋人の名前は『マンドリカルド』。自分の一番のサーヴァント。クラスはライダー。武器は木刀で愛馬のブリリアドーロを現界できる。宝具は『不帯剣の誓い(セルマン・デ・デュランダル)』。自分のカルデアで最強のサーヴァント。
王とは違い、ロジェロと戦って敗れた『マンドリカルド』。死んだ事で生前の自分の性格や行いを悔み、憎み、嫌悪し、死ぬ程後悔して反省した事で性格が傲慢な暴君の略奪者から、陰キャ卑屈な性格の元ヤンとなる。そして、三流サーヴァントを自称するようになる。
彼と初めて会ったのは、とある旅の途中。彼は自分を友として自分を守り切った。彼が憧れる大英雄ヘクトールから武器を受け継ぎ、命をかけて自分を守り切ってくれた。
そして、今度は自分が活動拠点にしているカルデアで再会。しかし、彼は旅先の彼とは違う『マンドリカルド』だった。でも、自分は彼と再び友達となろうとした。そんな自分と友になった別の『マンドリカルド』を思い、彼は悩んだという。散々悩んだ彼は言った。俺はあんたの友にはなれない。あんたを信じて、あんたと共に戦うサーヴァントだ。そう言ってくれた。
以来、彼は力を尽くした。あらゆる場面で力を尽くし続けた。些細な雑用から戦いの場での戦士として、自分とカルデア、そして仲間のサーヴァント達に力を尽くしてくれた。サーヴァントとしてでありながら、同時に自分と友になった別の彼のように対等に、かつ誰よりも自分の近くで。
自分は、そんな彼が好きだ。常に自分に配慮し、自分に対等に接し、誰よりも近くで自分の力になろうとする彼が好きだ。誰よりも力を尽くす彼が好きだ。誰よりも自分に配慮し、尊重しながらも誰よりも間違った時は指摘してくれる彼が好きだ。そんな彼だから、自分は好きになった。
「そうか…俺とは違う『マンドリカルド』なんだな…」
マスターの言葉を聞いた王はそう呟いた。マスターはそんな王に恋人の事を更に語る。
彼は恋人になってからも力を尽くしてくれた。誰よりも一番近くで自分を守り、自分を愛し、そして誰よりも自分を尊重してくれた。しかし、それと同時に対等に接し続けてくれた。間違いを正し、言葉を尽くしてくれた。自分の思いを聞き、同時に自分に思いを伝えてくれた。そんな彼が自分はますます好きになった。
「まぁ、彼みたいな素敵な人が、どうして俺なんかを好きになってくれたかは、まだ良く分かりきっていませんがね。彼は何度も俺がいかに魅力的な恋人か、いかに素晴らしい恋人かという事を俺に伝えてきますが、俺はそう思えないんです」
「何故だ?お前は俺が狂う程に愛し、俺の全てをかけてお前の全てを奪いたいと本気で思わせる程に魅力的だ。見た目も良いし、能力も高い。何より、中身が気高く誇り高く美しい」
「でも、俺は俺自身をそんな魅力的だと思っていないんですよ」
「は?」
マスターの言葉に王は思わず真顔になった。驚きのあまり硬直する。そんな王にマスターは淡々と語る。
「俺はカルデアに来る前は普通の一般人でした。たまたま、カルデアのスカウトの目について、攫われるようにカルデアに来ただけ。たまたま、仕掛けられた罠から逃れて生き残り、多少力と適性があったから、人類最後のマスターになっただけ。そして、数々の苦難を乗り越えられてこれたのは、必死に生き残ろうと抗い続けていただけですから」
そう言ったマスターは、なんで皆、俺をそんなに魅力的に思うんだろう?と言わんばかりの顔をしていた。マスターはまだ本気でそう思っていたのだ。ここに来る前に散々恋人と仲間に言われたというのに。各々の言葉に諭され、自らも自分をヤバい奴だと実感し、俺ってヤバい奴だったんだねと呟いたくらいなのに。
マスターの言葉が本心だと分かった王は不愉快そうに眉を寄せる。明らかに不機嫌になる王に気付いているのかいないのか、マスターは笑いながら、言った。
「貴方に強姦されそうになった時に言ったでしょう?俺は『必死に生き抜く為に必死になって立ち続け、必死に挑み続けているだけのクソ汚い人間』だと。俺は本気で自分をそう思っています」
それを聞いた王はついに激怒した。鋭い目を更に鋭くさせ、マスターを睨むように見る。
「ふざけるな…!ふざけるなよ…!!いくらお前といえども、それは許さん…!お前自身の本心といえど、それだけは許さんぞ…!!」
「ま、マンドリカルド王…?」
吠えるように叫ぶ王をマスターは驚きながら見つめた。そんなマスターに王は激怒しながら叫ぶ。
「俺の最愛の人を侮辱するな!俺が唯一、全てを奪われてもいいと思った、お前を侮辱するな!!他ならぬお前でも、俺の最愛であるお前を侮辱するのは許さん!この俺が…傲慢で暴君な略奪者の誇り高きタタールの王が愛も命も全てをかけてまで全てを奪いたいお前を侮辱する事は絶対に許さん!!」
怒り狂いながら、王は叫んだ。怒っている筈なのに、どこか悲しそうに叫んだ。



何故だ?何故、分からないんだ?何故、お前はそこまで自分の良い所を認めない?何故、自分を侮辱する?何故、お前はそこまで自分を愛さない?他ならぬこの俺が、お前という存在にこんなにも魅了されているというのに!



悔しさ、歯痒さ、悲しさ…そんな沢山の感情を込め、王は最愛の人に向かって叫ぶ。
「許容も容認も決してしない!してたまるか!!愛も命も含む俺の全てをお前にやる事は構わないし、お前の全てを奪えるなら何でもやるが、これだけは譲らんぞ、リツカ!」
王は暴れたくなる衝動を必死に抑え、マスターにそう怒鳴った。



分かってくれ、俺の最愛の人!お前はそれだけ魅力的なんだ!!だから、己を愛してやってくれ!他ならぬお前がお前自身を愛してくれ!!



切に切にそう願いながら、王は叫んだ。そんな王をマスターは目を見開きながら見つめるが、やがて笑う。ふっと目を緩めて笑う。嬉しそうに、でもどこか悲しそうに。



そんなにも、自分を思い、そんなにも自分を愛してくれているのかと。
こんなにも醜い人間を、そこまで愛してくれるのか、と。



「じゃあ、こちらの次の攻撃はそれにしましょう。マンドリカルド王、貴方は何故、それほどまで俺が欲しいのですか?俺の何が貴方をそこまでにする程、魅了するのです?俺は貴方に恋人の事を教える事で俺が恋人に求める情報を伝えました。そして、理解してもらったと思っています。だから、今度は貴方の番です。貴方も何故、俺をそこまで欲しがるか教えて下さい。そして、俺に貴方の思いを理解させて下さい」
「全てだ!お前の全てが魅力的だ!!お前の全てを奪えるなら、俺は本気で自分の全部がいらない!王としての誇りも、王としての矜持も、タタールという国も、傲慢な性格も、暴君であることも、略奪者であることも、そして自らの命さえも!!お前を奪い尽くせるなら、俺は何でもやってやる!本気で何でもやってやるとも!!」
マスターの言葉に王は即座に返す。絶対に分からせてやると思い、言葉を吐き出す。
「分からないというなら、全部話してやる!一から十まで全部を語ってやる!!俺の愛を徹底的に分からせてやる!そんなくだらない事でお前の愛が手に入るなら!!それで、お前の全てが奪い尽くせるなら!」
そう言うと王は話し出した。自らの愛を最愛の人に理解させるべく、語り出した。
王が語ったマスターの魅力は概ね彼が反省会で挙げた所だった。そんな王にマスターはそんな所が?と首を傾げる。
だが、王は自分がお前に惹かれた理由はもっとあるとばかりに語った。
「お前は、ずっと見ていたくなるくらい寝顔が可愛いって知っていたか?お前の寝顔は見ているだけで可愛過ぎて幸せな癖に、それと同時に見るだけで酷く落ち着き、癒される。早く目を覚まし、お前の綺麗な青い瞳を見たいと思いながらも、もっと眺めていたいと思ってしまう不思議な感覚を俺に感じさせる魅力的な寝顔。それくらい、俺はお前の寝顔を見ていたい」
「遠い故郷の習慣を未だにするくらい、故郷を思うお前の気持ちが好きだ。理由は変なものの筈なのに酷く納得し、俺も真似したくなったから、俺もできる限りはあの習慣をしている。お前と少しでも一緒の事をしているだけで愛しいと思うくらい、魅力的な行動だからかもな」
「たかが、腹が鳴ったくらいで馬鹿みたいに笑った時があっただろう?あの時は分からなかったが、お前だから笑ってしまったんだろうな。こんなに可愛い奴なんだなって。馬鹿みたいに面白く思えるくらい、こんなに可愛い事する奴なんだなって。そんなに愛しく思っている」
「お前が教えてくれた、『フライドポテト』。あれはいい。美味い上に食べるだけで幸せになれる。一人になってからも可能な限り、口にする。お前と初めて食べた時の事を思いながら食べるだけで美味いし、咀嚼して飲みこむだけで口から腹の中まで幸せで満たされる」
「あぁ、でも、何故だろうな?そこまで素晴らしい食べ物なのに、毎日毎日食べているのに日々幸せは遠のいていった。腹の中まで幸せで満たした筈なのに、それがどんどん満たされなくなっていった。それに酷く飢えたせいか、思わず目から熱いものが流れた。何故なんだろうな?きっと、最初の時のようにお前と笑いながら食べれられなくなったからだろうか?お前の淫らな姿を見始め、一緒に食べられなくなってから、足りなくなっていったんだ。一緒に食べられなくなってしまったせいだろうか?お前を辱めたせいだろうか?お前を穢したせいだろうか?俺は、そんなお前にも興奮している癖にな」
「お前を強姦しようとした時、お前は俺に平手打ちし、怒鳴っただろう?俺は男だ、俺は戦士だ、俺は魔術師だと。実はあの美しい姿にも素晴らしい声にも感動し、酷く興奮した。そして、後悔した。もっとしっかり見ていれば良かったって。もっとしっかり聞いておけば良かったって。あんなにも美しい獣の姿と咆哮を俺はお前以外に知らない。あまりの衝撃で体が固まったなんてくだらない理由で少ししか見なかったあの時の俺は心底馬鹿だな」
「お前が恋人に攫われていった後、感情が滅茶苦茶になった。冗談抜きで発狂しかけた。嫌だ、行くな、離れるな、俺と一緒にいてくれ、俺もお前自ら手を伸ばして抱き締めて抱きついてくれ、俺以外の誰にもお前に触らせないでくれ、俺を求めてくれ、俺を愛してくれ…様々な気持ちが溢れた。悔しくて、悲しくて、切なくて、少しばかりだけ向けられたお前の愛に酷く満たされながらも酷く飢えていたと気付き、目から馬鹿みたいに熱いものが流れた。でも、そんな感情ですら、俺は誰にも欠片も見せたくない。誰にも伝えたくない程、大切で愛しくて独り占めしたい。だから、狂いきれなかった。辛く苦しい癖に一切手放さず、そんな感情すら、抱えて飲み込んで味わいたい程、愛している」
一つ一つ噛み締めるように語る。一つ一つ愛しいとばかりに語る。楽しい思い出も、嬉しい思い出も、苦い思い出も、悲しい思い出も、幸せな思い出も、苦しい思い出も。全部全部堪らなく嬉しくて幸せにしてくれ、また独り占めしたいと王は語る。それくらい、お前は魅力的だ、愛する価値があると語る。お前は俺にとって、それくらい愛しい人なんだと語る。
「そうですか…」
王の気持ちを聞いたマスターは、それだけ言って天を仰いだ。天井を見上げるその青い瞳は何かを宿していながら、でも何を宿しているのか、王には分からなかった。それが酷く悲しくて悔しいのに、でも酷く愛しくも感じさせるから、最愛の人は狡い。なんて残酷な奴だと思わせながらも、だからこそ欲しくなる。奪い尽くしたくなる。
そんなマスターに王は何と言っていいか分からず、黙り込んだ。しばらく、沈黙が二人の間を満たした。

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