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2026 06/19

[chapter:攻撃]





その時、音が鳴り響いた。警戒音だからか、けたたましく喧しく、それでも耳が痛くない不思議な音だった。それを聞いたマスターはぽつりと呟いた。
「これ、俺の仲間が侵入したから、鳴った音ですか?」
「あぁ。お前達の略奪が始まったら、城中に鳴らすようにした。今頃、お前の仲間と俺が使える全ての戦力が戦っているだろう」
「そうですか…」
マスターの言葉に王はそう答える。マスターはその言葉にそれだけ呟いた。
『そうとも、立花君!我々から王への略奪戦が、ついに開始だ!!』
「うわっ!ダ・ヴィンチちゃん?!」
「な、何だ、これは?!何だ、こいつは?!」
声が響くと同時にダ・ヴィンチの映像が流れてきた。それにマスターは驚き、王もギョッとしたように目を見開く。慌ててマスターに向き直ると問いただす。
「おい、リツカ!これは、何だ?!説明しろ!」
「あ、えーと…カルデアからの通信です。あ、カルデアは諸々の事情から、人類最後のマスターである俺の旅を支援する組織です。これは魔術の一種で、カルデアからの音声と映像が流れてきます。で、彼女はダ・ヴィンチちゃんという仲間の一人。カルデアのサーヴァントです。俺を様々な点から支援して助けてくれます」
「お前は本当に何なんだ?本気で何なんだ?そして、お前の仲間は何なんだ?俺はこんな魔術、見たことも聞いたこともないぞ。タタールにはこんな魔術はないし、旅先でも無かったぞ?」
「説明すると長くなるんですよねぇ…」
王にマスターが説明すると、王はガンドの効果が弱くなって動けるようになったからか、額に手を当て、頭を抱えながら呟いた。そんな王にマスターは何て言っていいか分からず、誤魔化すように笑った。マスターの様子を見た王は額に手を当てたまま、呟く。
「そもそも、お前が名乗った人類最後のマスターとは、何だ?まさか、人類最後と断言できる世界をお前は旅しているとでも言うのか?そして、そんなお前を支援しているカルデアとやらは、何なんだ?」
「うーん…何から話せばいいのか…」
頭を抱えながら呟く王の言葉にマスターも頭を捻る。そう言えば、その辺りは全然話していなかったなと。何から話せばいいだろうかと。
『お互い、諸々言いたいことはあるとは思うが、とりあえず挨拶していいかな?マンドリカルド王。貴方には、どうしても言いたい事があるのでね。改めて結界を壊した結果、こうして通信できるようになったし』
「少し待ったら、許そう…流石の俺も様々な理由から、頭が痛いんだ…」
ダ・ヴィンチの言葉に王は額に手を当てて気持ちを抑えようとしているのか、考え込んだ。そんな王にダ・ヴィンチは興奮したように叫ぶ。
『なるべく早くして貰えると助かるよ。こっちは早く気持ちを言いたくて仕方ないんだ!』
「分かった…分かったから、待ってくれ…あと、黙ってくれ…頼むから…」
興奮しているダ・ヴィンチの声がきついのか、王は眉を顰めながらそう言った。そして、しばらく頭を抱えたのだった。しばらく精神を安定させる為か黙り込み、考え込む。
「とりあえず、名乗れ。そして、言いたい事は手短に伝えろ。俺はリツカとの二人きりの時間を一分一秒でも逃したくないんだ」
『おっと、ある意味で傲慢な暴君らしい発言。貴方は本当に生前の「マンドリカルド」みたいだね。じゃ、名乗らせて貰おうか』
ようやく気持ちが落ち着いたらしい王は顔を上げて通信映像のダ・ヴィンチを見ると、傲慢にもそう言い放った。それにダ・ヴィンチは揶揄うように言い放ち、恭しく頭を下げる。
『お初にお目にかかる、マンドリカルド王。私の名前はレオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアで立花君の旅を補佐する一人で天才さ。長いから、ダヴィンチちゃんとでも呼んでくれたまえ』
「そうか。では、ダ・ヴィンチとやら。特別に許可してやるから、手早く伝えたい事を伝えろ。できるだけ手短に」
自分を王として敬うダ・ヴィンチに気が紛れたのか、微かに笑いさえしながら、王は傲慢にも言った。そんな王を見て、ダ・ヴィンチは頭を下げながらも笑う。
『おや、発言を許可するのかい?貴方の事だから、拒否することも考えていたのだが?』
「よく分からんが、とりあえずリツカを助けていたのだろう?なら、それには感謝している。お陰でリツカに会えたようだしな。これは、その褒美だ。だから、手短に手早く伝えるなら許す」
『それはどうも。なら、有り難く伝えさせて貰おう』
笑いながら言うダ・ヴィンチに王は笑い、傲慢な態度のまま、許可を出した。そんな王の言葉を聞くと、ダ・ヴィンチは笑みを消す。
『我らは貴様を許さんぞ、マンドリカルド王』
常にない程に殺気立ち、王に冷ややかな視線を向けながら、ダ,ヴィンチは言い放った。王を指差して見下し、侮蔑し、軽蔑し、殺意を含ませながら言葉を発する。
『言っておくが、カルデアにいる全員だ。あらゆる立花君の仲間の全員だ。よくも立花君を傷つけたな、マンドリカルド王?』
「一応、理由を聞いてやろう。話せ」
『全てさ。全てだとも。貴様が立花君にした、あらゆる愚行だとも』
自分に無礼を働くダ・ヴィンチに傲慢にも笑いながら、王は言った。そんな王にダ・ヴィンチは冷ややかな瞳に殺意を込めて答える。ついには王に貴様とさえ言い出しながら、ダ,ヴィンチは言い放つ。
『口説くくらいなら、まだいい。体に軽く触れるのも、まだ許せる。立花君はそれくらい魅力的だからな。だが、それ以上は許さん。立花君を辱め、強姦しようとし、更には手を上げようとしたのは、絶対に許さん』
「貴様らがどう思おうと、どうでもいい。俺はタタールとリツカさえいれば、いいからな」
自らに恐れる事なく敵意を剥き出しにするダ・ヴィンチを王は嘲笑う。高らかに傲慢に笑い、嘲笑う。そんな王にダ・ヴィンチは更に不機嫌そうに眉を寄せた。
『それは我々に対する戦線布告かな、マンドリカルド王?今すぐにでも、介入してやってもいいんだぞ?』
「やれるものなら、やってみろ。王として、全力で叩き潰してやる」
『この…っ!』
王が傲慢に嘲笑いながら煽ると、ついにダ・ヴィンチの怒りは限界点を突破した。苛立ちを隠そうともせずに、何かを叫ぼうとする。そんなダ・ヴィンチを見たマスターは即座に言った。
「ダ・ヴィンチちゃん、マンドリカルド王は手を上げようとした事は謝ったよ。それ以外は謝らなかったけどね。そして、俺はその謝罪を受け入れた。これに関してだけは許したよ」
『おや、そうかい?それだけは失礼したね。なら、それだけは許してやろうじゃないか、マンドリカルド王。許してくれた立花君に感謝するんだな』
「そりゃ、どうも」
マスターの言葉が聞いたのか、ダ・ヴィンチは一気に悪意を引っ込ませた。だが、見下すことはやめず、笑いながら王に言う。そんかダ・ヴィンチが面白くなかったのか、つまらなそうに王は素っ気なく答えた。そんな王を無視し、マスターのお陰で機嫌を直したダ・ヴィンチは王に嫌がらせをしてやるとばかりに話し出す。
『いやー、君がマンドリカルド王に強姦されかけたと知った時のカルデアは凄かったよ、立花君!マシュはブチギレながら不仲な筈の父親の所に行って「あいつをぶち犯してメス堕ちさせて下さい!」って綺麗な土下座をしながら言ったら「マスターを強姦しようとしたクソ野郎を相手にするのは嫌だ」って即座に断られたし、元敵で現捕虜の筈のカドックもブチギレながら「あのクソ野郎を魔物共の餌にしてやってもいいか?!」って聞いてきたから「あんなクソ野郎を食べさせられる魔物共の方が可哀想だから、やめとけ」って止められていたよ。ゴルドルフ所長は「私の部下になんて事しやがるんだ、愚王が」とか言いながらゴッフパンチの素振りしていたし、ムニエル君を含むカルデア職員は「あのクソ野郎を完全消滅させる方法はないのか?」とか言いながら、なんか機器を操っていたね!勿論、サーヴァント達も全員ブチギレていたよ!!口々に「あいつを絶対に殺す!」とか「引き摺りながら、殺す!」とか「いたぶり尽くして苦しませながら、殺す!」とか「拷問し尽くしながら、殺す!」とか叫んでいたね!』
「皆のキャラ変、凄すぎじゃない?いや、ある意味、キャラ変していないのもいるけど…カルデア、大丈夫?」
「俺、嫌われ過ぎていないか?いや、それだけの事をしたのは分かっているが…」
一気にそこまで言ったダ,ヴィンチにマスターは即座に突っ込んだ。そして、通信先のカルデアに気を使っているのか首を傾げる。そんな様子を見た王はぽつりと呟いた。
だが、ダ・ヴィンチの勢いは止まらない。もっと王に嫌がらせをしてやるとばかりに怒涛の勢いで話し出す。
『変わりに君の恋人のマンドリカルドが君を助けた場面は凄かったね!皆、感動のあまり、スタンディングオベーションさ!!直前だけど、なんとかそちらの映像を捉えられて良かったよ!口々に「良くやった、マンドリカルド!」とか「お前こそ、マスターの恋人だ!」とか「お前、格好良過ぎるよ!」とか「お前こそ、騎士の中の騎士!」とか「私もあんな風に格好良く助けられたい!」とか「あんなイケメン過ぎる騎士に攫われたい!」とか「自分の危機を救ってくれる騎士なんて格好良過ぎる!」とか「尊過ぎる!萌え過ぎる!」とか、もう皆、馬鹿みたいに叫んでいたね!!そして、君を助ける為にマンドリカルドがブリリアドーロに乗って部屋に突入する場面とか、君が感動のあまりマンドリカルドに抱き付く場面とか、マンドリカルドが裸同然の君を気遣ってシーツで包む場面とか、マンドリカルドが君を抱き締めて馬に乗って颯爽とマンドリカルド王から奪っていく場面とかさ!もう皆が皆「写真が欲しい!」とか「動画をくれ!」とか求めてくるから、機器をフル回転して欲しがる皆にあげたとも!!あと、今、カルデアでは各場面のファンアートが流行っているね!「こんなん、萌え過ぎて沸る!」とか叫んで萌えのあまりブチギレながら、同人系のサーヴァントが馬鹿みたいに作成しているよ!!そして、カルデア職員は各場面の写真を周りに貼って「あの子が何か危険な目にあっても、またマンドリカルドが守ってくれますように」って言いながら、手を合わせて祈っているよ!もはや、宗教だね!!』
「皆、情緒が乱れ過ぎていない?本当に大丈夫?皆、本当に大丈夫?カルデア、本当の本当に大丈夫?」
『それだけ、君は愛されているという事さ、立花君!そして君の恋人は君の危機を救ってくれたから、好感度が爆上がりしたのさ、立花君!!良かったね!』
ダ・ヴィンチの言葉がようやく一区切りすると、またしてもマスターは即座に突っ込んだ。余程心配なのか、何度も無事を尋ねてくる。そんなマスターが嬉しいのか、上機嫌になりながらダ・ヴィンチは叫んだのだった。
そんな二人のやりとりを見た王は何故か額に手を当て、頭を抱え込む。考えているのか、できるだけ言葉を選んで、口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…頼むから、待ってくれ…本気で待ってくれ…」
『何だい、愚王?今、いい所なんだ。手短に話したまえ』
額に手を当てて考え込む王にすっかり機嫌が良くなったダ・ヴィンチはさらりと言い放った。そんなダ・ヴィンチを見たからか、王は更に考え込む。
「ぐ、愚王って…俺の扱いが段々、雑になっていないか…?さっき、俺が手早く手短に言えと言ったのに、色々とリツカに話しまくるし…いや、それよりも確認したい事があるから、話してもいいか…?」
『できるだけ端的に手短にね、愚王!』
「俺の扱いが、どんどん酷くなっていくな…王なのに…」
緩く首を振りながら考え込んで呟く王に、またしてもダ・ヴィンチはさらりと言い放った。どんどん扱いが悪くなっていく自分に王は更にぶつぶつ呟く。そんな王を絶望させてやるとばかりにダ・ヴィンチは言い放った。
『うちには馬鹿みたいに王様がいるからね!しかも、歴史に名を残す大国の偉大な王様ばかりだ!!今更、タタールなんてみみっちい小さな国の王様なんて、誰も尊敬しないよ!しかも、貴様は立花君に愚行しまくっているから、皆、ブチギレまくって嫌いまくってるよ!!』
「タタールをみみっちい小さな国っていうのは、やめろ…俺をあらゆる意味で仕留めにくるのは、やめろ…頼むから、やめてくれ…」
ダ・ヴィンチの言葉が聞いたのか、王は首を横に振りながら、呟いた。王は王なりに自分の国を愛しているのか、それとも自分の治める国を馬鹿にされたからかは分からないが、多少は衝撃を受けたらしい。頭を抱え込み、何とか精神を安定させようとする。
しばらく頭を抱えて考え込んでいた王だったのか、考えがまとまったのか、また顔を上げた。彼なりに思う事があるのか、また考え込みながら言葉を選ぶように言う。
「あー…お前ら、それをリツカに伝えた事はあるか…?」
『できるだけ、伝えているよ?あんまり立花君に効いてないみたいだけど』
「リツカが自分の事をどう思っているか、知っているか?お前ら全員、知っているか?」
『…聞こうじゃないか、マンドリカルド王』
王の言葉にしれっと答えるダ・ヴィンチ。そんなダ・ヴィンチに王は眉を顰めながら言った。王の唯ならぬ雰囲気に何かを感じたのか、ダ・ヴィンチは姿勢を正し、真剣な眼差しを向ける。そんなダ・ヴィンチに王は言った。
「『俺は俺自身をそんな魅力的だと思っていない』と『必死に生き抜く為に必死になって立ち続け、必死に挑み続けているだけのクソ汚い人間』だ」
『…は?』
「しかも、本気で自分をそう思っていると言った。そして、俺が見る限りだが、本心からだ」
『は?』
「更に、後者に至っては俺がこれを聞くのは二回目だ。一回目は何かの間違いか、それとも動揺のあまり訳が分からないまま言ったのかと思って聞き流したが、冷静な筈のついさっきも言った。さすがの俺も頭が真っ白になったし、初めてこいつに怒りを抱いた」
『は?!』
怒涛の王の言葉にダ・ヴィンチは唖然とするしかなかった。最初は驚く余りか勢いが無かった返事はどんどん勢いを増し、ついには叫んでしまう。
ダ・ヴィンチがちらりとマスターを見ると、マスターは逃げるように顔を背けた。そんなマスターにダ・ヴィンチは尋ねる。
『…立花君、本当かい?』
「き、聞かないで欲しいなぁ…なんて…」
『それ、私の質問を肯定しているようなものだよ』
ダ・ヴィンチの言葉に恐る恐るマスターは答える。言いにくそうに言ったマスターにダ・ヴィンチは即座に返した。そして、自分の周りの様子を確認すると、神妙な面持ちで重たい口を開く。
『…立花君。残念な情報だが、伝えておこう。今、カルデアはあらゆる意味でヤバくなっている』
「ど、どんな感じ…?」
『一言で言うと地獄だよ…あらゆる意味で地獄だよ…本気でヤバい…冗談抜きでカルデア存亡の危機だ…ある意味で南極のカルデアを襲撃された時より酷い…』
緊張しながらマスターが尋ねると、ダ・ヴィンチは神妙な顔をしながら答えた。そのまま辛さを吐き出すように一気に状況を伝える。
『マシュは「何でですか、先輩!」って泣き叫んでいるし、カドックは「僕が元敵なせいか?!」ってキレ散らかしているし、ゴルドルフ所長は「私のせいで…!」って落ち込んでいるし、カルデア職員達は「ごめん!本当にごめん!」ってひたすら謝ったり「自分達が無能なせいで…!」って落ち込んだり「頑張るから!自分達、頑張るから!」って決意表明したり「何で今、ドクターはいないんだ?!」って発狂したり…あと、サーヴァント達も皆、情緒がヤバいよ…「なんで、我々の愛がマスターに全く届いていないんだ?!」って…』
「う、うわぁ…うわぁ…」
『勿論、私もヤバいよ…情緒がヤバいよ…この天才の情緒をここまでにするなんて…ある意味で凄いよ、立花君…』
ダ・ヴィンチからカルデアの様子を聞いたマスターは絶句した。彼なりに衝撃を受けたからか、意味のない言葉を呟き、繰り返す。そんなマスターにダ・ヴィンチも辛いのか首を緩く振りながら言ったのだった。そのまま、悲痛な表情をしながら尋ねる。
『立花君…我々はそんなに分かりにくいかい…?我々の愛情は分かりにくいかい…?我々としては、あらゆる面で君を支えてきたつもりだったんだが…』
「い、いや…その…あの…」
常になく悲痛なダ・ヴィンチに気まずさをかんじているのか、マスターはうろうろと視線を右に左に送りながら、口を開いた。だが、何て言っていいのか分からないのか、なかなか言葉にならない。そんなマスターにダ・ヴィンチは最悪の状態を考えついてしまい、それをマスターに尋ねる。
『まさか…恋人のマンドリカルドに愛されても、そう思っているのかい…?君の好きな恋人に愛されても、君は駄目かい…?』
「あ、大丈夫!それは大丈夫!!マンドリカルドに愛されると、大丈夫だから!愛される度に自己肯定感、爆上がりしているから!!」
ダ・ヴィンチの言葉を聞いたマスターは、やっと心配するダ・ヴィンチを安心できる突破口を見つけたと分かったのか、元気一杯にダ・ヴィンチに答えを叫ぶ。
「マンドリカルドに愛されると『俺みたいな生きるのに貪欲過ぎて醜い人間でも、頑張ればこんな優しい恋人に愛される事があるんだなぁ』って、マンドリカルドの愛を実感できて、幸せだから!」
『……』
「確実に仕留めるな、リツカ…さすがの俺も、こいつらを哀れに思うぞ…」
マスターの答えを聞いたダ・ヴィンチは、ついに沈黙した。何とか元気付けられると思ったマスターの言葉はダ・ヴィンチに多大なる衝撃を与えたらしい。しかも悪い意味で。可哀想過ぎるくらい悲痛な顔をして項垂れてしまう。
そんなダ・ヴィンチが余程可哀想だったのか、傲慢な暴君で略奪者の王ですら憐み、首を緩く振りながら、マスターに言い聞かせたのだった。
しばらく沈黙が場を支配した。マスターはダ・ヴィンチを始めとした面々をどうフォローすればいいんだろうかと言わんばかりに考え込み、王も何て良いのか分からないのか、こちらも黙り込む。ダ・ヴィンチすら、口を開かない。
黙り込む面々だったが、だが一番初めに口を開いたのはダ・ヴィンチだった。やはり、カルデアの特別顧問で歴史に残る大天才。微かに体を震わせながらも、何とか口を開く。
『も、諸々…山程、言いたい事はあるが…それは君の恋人に託すよ…とりあえず、今は君の意思を尊重するとだけ言っておこう、立花君…君の気がすむまで、マンドリカルド王と戦争してくるといい…』
「ご、ごめん…ダ・ヴィンチちゃん、本当にごめんね…」
『い、いや…我々こそ、本当にごめん…ごめんな、立花君…帰ってきたら、必ず休暇をあげるから、存分に休んでくれたまえ…それくらい、なんとかするから…君の気が済むまで、君の恋人に癒してもらってくれたまえ…』
あらゆる意味で傷ついたらしいダ・ヴィンチの言葉にマスターは申し訳なさそうに謝った。心底反省しているらしく、ひたすら謝る。そんなマスターに申し訳なさを感じながら、ダ・ヴィンチは答えた。絶対にマスターを休ませなければと決意しながら、何とかそれだけ言う。
そんなやりとりを見た王は少し考えると唇を歪めて笑った。不敵に笑いながら言い放つ。
「お前が良いなら、俺の愛で癒してやるぞ、リツカ。俺はそれだけお前を愛しているからな。心の傷なんざ癒して、俺に愛される度に幸せを感じさせてやるとも。二度と離さんがな」
「俺をあらゆる意味で癒せるのは俺の恋人のマンドリカルドだけなので、お断りさせていただきます。マンドリカルド王」
『そうだぞ、愚王。貴様なんぞに立花君はやらん。立花君はうちのマンドリカルドと幸せになるんだ。立花君の恋人であるうちのマンドリカルドを甘く見るな』
王の言葉にマスターは即座に反応を返した。速攻で王を拒絶するマスターを見て精神的に回復したのか、ダ・ヴィンチも追撃するように言い放つ。自分達の仲間でマスターの恋人のマンドリカルドがいかに彼の恋人として有能か垣間見せながら。そんな二人の反応が面白くなかったのか、王は不機嫌そうに呟いた。
「ちょっとは見逃せ。貴重な情報を提供してやっただろうが」
『ふざけるなよ、愚王。今のカルデア、本当に凄いんだぞ。貴様のふざけた言葉で皆が皆、貴様を絶対に確実に殺してやろうと殺気立っているんだ。冗談抜きであらゆる拷問を仕掛け、いたぶり尽くして殺してやろうか?」
「諦めろ。俺を殺せるのはリツカだけだからな。リツカの愛だけだからな」
王の言葉を聞いたダ・ヴィンチは怒り狂いながら言い放った。そんなダ・ヴィンチを見て、王は嘲笑いながら傲慢に言い放つ。そんな王を睨むように見たダ・ヴィンチだが、これは王なりに自分達を配慮しての言動だというのにも気付いたので、怒りを引っ込めた。彼はわざと悪役になり、ダ・ヴィンチを怒らせる事で精神的に立ち直らせようとしたのだ。



なるほど。確かに、それなりに頭が回るようだ。



王の意図に気付いたダ・ヴィンチは笑いながら言い放つ。
『ま、今は引き下がってやろうじゃないか、マンドリカルド王。貴重な情報を提供して貰ったし。だがな、マンドリカルド王。我々はずっと監視している。立花君の邪魔をしないようにこちらの映像は送らないけど、監視自体はしているからな。ちょっとでも立花君が貴様との戦争を嫌がったら、冗談抜きに即座に立花君の恋人のマンドリカルドを乱入させて立花君を奪い取り、立花君と共にうちに帰ってきてもらうからな』
「それは本気でやめてくれ。結構、深い心の傷になっているんだ」
ダ・ヴィンチの言葉を聞いた王は眉を寄せながら、そう答えた。余程嫌な出来事だったのか、腕を組んで苦々しく返す。そんな王を見たダ・ヴィンチは笑いながら言った。
『これはいい事を聞いたよ、マンドリカルド王。貴様を確実に苦しめられる情報を聞いた。嫌なら、大人しく立花君と戦争だけしたまえ』
「なら、とっとと失せろ。リツカと二人きりで戦争させてくれ」
またわざと貴様と言い、ダ・ヴィンチは馬鹿にするように王に言い放つ。それなりに頭が回り、彼なりに気遣ったのは感謝するが、残念だが、我々はお前を許さないと言わんばかりに。それだけ、ダ・ヴィンチ達は怒り狂っているのだ。
そんなダ・ヴィンチがわずわらしいのか、王はしっしっと邪魔者を追い払うように手を振った。さっさと去れとばかりに不機嫌そうに手を振る王を見ると、ダ・ヴィンチは今度はマスターの方を向く。
『じゃ、我々は見守る事にしよう。立花君、情け容赦なくマンドリカルド王を叩き潰して、再起不能にして確実に殺すといいよ。君の気が済むまでね』
「ありがとうね、ダ・ヴィンチちゃん。皆も。帰ったら、お礼するね」
ダ・ヴィンチの言葉を聞いたマスターは何とかダ・ヴィンチ達が回復したようだと分かったようで安心したらしく、笑いながら答えた。少なくとも、ダ・ヴィンチは精神的に回復したらしい。
そんなマスターの気遣いが嬉しいのかダ・ヴィンチはにこりと笑いながら言った。
『そんなものはいいから、とっととその愚王を殺して帰ってきてくれ、立花君。死ぬ程、甘やかして休ませて愛するから。あ、あと、君の恋人を始めとしたタタール攻略組がカルデアに帰ってきたら、諸々の記録を見せるから。帰ったら、あらゆる意味でヤバくなるであろう君の恋人と骨の髄まで愛し合ってお互いに精神を癒したまえ』
「え?」
『じゃ、頑張りたまえ、立花君。健闘を祈る!』
ダ・ヴィンチから言われた言葉にマスターは衝撃のあまり固まってしまった。そんなマスターを軽く激励すると、ダ・ヴィンチはさっさと映像を切ってしまった。
最初は固まっていたマスターだったが、時間が経過していくと段々体を震わせるようになっていった。帰ったら、恋人含むタタール攻略組の精神がヤバくなってしまう事に気付いたからだ。どうしようどうしようと怯えながら体を震わせる。
「じ、地獄が…地獄が更に進化した…!か、カルデアに帰ったら…お、恐ろしい地獄が待っている…!!」
ガタガタ震えるマスターを見た王は彼の考えが分かったのか、また唇を歪めて笑った。またも不敵に笑いながら、マスターに言い放つ。
「んじゃ、タタールに残るか、リツカ?お前なら、大歓迎だ。安心して、俺の嫁になれ」
「嫌です、マンドリカルド王。貴方の嫁になるくらいなら、俺はカルデアに戻って地獄を受けた方がいいです。そっちの方が断然マシです。甘やかされるなら、俺は恋人のマンドリカルドの方がいいです」
「つれない奴だな。まぁ、そこも堪らなく魅力的で、だからこそ全て奪いたくなるんだが」
王の言葉にマスターはまた即座に返した。そんなマスターを見て、王は笑いながら答える。どうやら、マスターの精神は大分良くなったようだ。まぁ、マスターの精神自体が元々強いようだし、王もその辺りも分かってはいるが。無駄な配慮だったのかもしれない。
諸々と立て直せたマスターは一つ咳払いをすると、改めて自分達の戦争を再開しようと口を開く。
「では、戦争を再開しましょう、マンドリカルド王。貴方の番です」
「…じゃあ、次はその人類最後のマスターの辺りの話をしてくれ」
「長くなりますが、宜しいですか?これ、凄く長いんです。俺の仲間の略奪が終わるかもしれません」
色々と考えた王は次の一手をこれに決めた。それにマスターは悩むように口に手を当てて言う。その言葉に王も考えながら尋ねた。
「略奪が終わったら、お前の仲間はこの戦争に介入するか?」
「いえ、ありません。略奪したら報告の為に来ますが、基本的には見守るだけです。ただ、マンドリカルド王が望み、こちらの仲間も応じるなら、対応しますよ?」
王は一番心配している事を尋ねた。やはり王としては思い人であるマスターが一番重要だ。マスターの願いを叶えたいし、何より一緒にいれる時間が欲しい。マスターはそんな王の気持ちが分かったのか、そう答えた。
悪いが、これに関してはマスターが言った以上の条件は与えられない。この辺りは散々仲間達と話し合って決めた事でもあるから。さすがに、ずっと二人きりで戦争する事はできないと分かって王は少し落胆したが、仕方がない。自分達はあくまでも敵同士。戦争をしている間柄なのだ。
だが、戦争をしている間は邪魔が入らないと分かった。見守りはするが、邪魔する事はない。それ所か、王が望めばマスターの仲間と話す事も可能。これ以上はいい条件は望めないだろう。
そこまで考えた王はマスターに言った。
「そうか。なら、お前自身の事を話してくれ。人類最後のマスターのお前の話を」
「分かりました。お話します」
王の言葉にマスターは笑いながら答えた。王はこちらの意図を分かってくれたとマスターは判断したからだ。ちゃんと自分達の事も知ろうとしてくれるのも単純に嬉しい。
マスターは王にこれまでの自分達の旅を語り出した。

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