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2026 06/19

[chapter:略奪防衛戦]





王はマンドリカルドに近付く。わざと足音を立てて。彼の前に立つと向き合うように立ち止まる。
それが分かったマンドリカルドも顔を上げて王を見た。迎え撃つようにしっかりと向き合い、相手を睨むように見る。
これは二人の『マンドリカルド』の戦争だ。片方は略奪をする為の戦争を仕掛け、片方はマスターにして恋人を守る為の防衛戦。略奪戦と防衛戦の戦争なのだ。
『誇り高きタタールの王』にして『傲慢な暴君の略奪者』のマンドリカルドは不敵にすら笑い、相手を見る。少しでも、マスターを奪おうと見る。
『カルデア』で『マスターの一番のサーヴァント』で『マスターの恋人』のマンドリカルドは不機嫌そうに睨み返す。怒りも苛立ちも殺気すら隠そうともせず、睨みつける。自分のマスターで自分の恋人を守りきる為に。
二つの灰色の瞳の視線が交差した。二人の『マンドリカルド』の対戦が始まった。
「よぉ、死後の俺。ロジェロなんぞに負けて、くたばった情けない俺。元の性格から根暗な性格になり、無様な生き様を晒して恥ずかしくないか?」
「てめぇなんぞよりは遥かにマシだよ、王の俺。傲慢で奪う事しか出来ない暴君な略奪者より、隠キャ卑屈で元ヤン三流サーヴァントの俺の方が遥かに立派な生き方してんだわ」
仕掛けたのは王からだった。馬鹿にし、嘲笑いながら言ってくる。そんな王を睨みつけながら、マンドリカルドは即座に返した。元なんて吹っ飛ばし、ヤンキー全開で王の自分を睨みつける。マンドリカルドの様子を見た王は嘲笑った。
「躾のなってない犬だな、王の俺に吠えるなんて。さすがのリツカも駄犬の調教は出来ないと見た」
「その駄犬に思い人をあらゆる意味で奪われたのは誰だろうなぁ、無能過ぎる王の俺?床に這いつくばるてめぇは無様過ぎて滑稽だったわ」
「その無能な王に恋人を一時的にでも奪われ、奪い返しても再び会わせ、あらゆる意味で情けない恋人は誰だろうな、死後の俺?」
「残念ながら、マスターの恋人である俺はマスターの願いを叶える為なら、狭量な心さえ吹っ飛ばせる寛大過ぎる心を持つ立派過ぎる彼氏様でもあるんだよ、王の俺。ひたすら誰にも会わそうとせず、一人占めし続ける心が狭過ぎるお前とは違ってな」
ひたすら相手を馬鹿にし、嘲笑い、煽り合い、罵り合う二人のマンドリカルド。しかし、最後の言葉は効いたようで王は微かにだが、眉を寄せる。そんな王にマンドリカルドは畳み掛ける。
「マスターはそんな俺の方が恋人に相応しいと思ったから、俺を選んだんだよ、王の俺。『フライドポテト』如きでマスターの願いを叶えるのを満足しちまった、てめぇなんぞとは違うんだわ。あらゆる意味で違うんだよ」
「じゃあ、貴様はリツカの為に何をしてやれると言うんだ、使い魔というサーヴァントでしかない死後の俺?王という絶対的立場の俺とは違い、何ができるというんだ?たかが、使い魔如きが」
「サーヴァントという使い魔だから、出来る全部だよ」
嘲笑いながら言ってくるマンドリカルドに王も煽りながら尋ねた。それにマンドリカルドは即答した。いきなり真剣な表情になり、王を睨みながら答える。
「俺はマスターの為なら、いくらでも力を尽くす。マスターが強さを望めば共に強くなるし、マスターが頭の良さを求めれば共に勉強して一緒に頭を鍛える。マスターが間違えちまったら、間違いを指摘し、マスターの間違いを正し、俺なりに間違いを減らすように力を尽くし、少しでもダメージを減らす。戦場では出来るだけマスターが望むままに攻撃し、マスターの身を守る。戦略を練る時は欠点を指摘し、一番近い立場で共に戦う。一番のサーヴァントとして、戦う」
「くだらん。そもそも、戦場なんぞにリツカを連れていくな。安全な場所で指示を出させろ。貴様らだけで処理すればいいだろうが。なんなら、貴様だけで処理すればいい」
自らの立場を明らかにするマンドリカルド。それはマスター自らが語った内容だ。王は既に聞いている。だが、あえて王はそんなマンドリカルドを一笑した。そんな王の言葉を聞いたマンドリカルドは真顔になる。
「出来ない。それだけは出来ねぇんだよ。流石のマスターも、それだけは出来ないんだ。マスターは魔力だけは少ないから、俺達への魔力供給は離れた場所からでは出来ない。マスターが戦場に来てくれないと俺達は戦えない」
マンドリカルドはそう言い切るとマスターをちらりと見た。だが、すぐに王に視線を戻す。
そんなマンドリカルドを見た王は唇の端を歪めて笑った。突破口を見つけたと言わんばかりに攻めてくる。
「情けないな、死後の俺。リツカがいないと戦う事すら出来ないとは。代わりに俺が戦ってやろうか?王だが、冒険者でもあった俺が。ヘクトールの武具を全て揃え、デュランダルも振るえる俺が。ヘクトールの武具を全て集めた後に死んだのに、何故かデュランダルではなく、木刀を振り回すお前の代わりに戦ってやろうか?」
「お前が?人間でしかない、お前が?サーヴァントより戦闘能力が遥かに弱い上、戦略でも俺達に勝てずに略奪を許した、お前が?ご自慢のデュランダルも俺達に奪われた、お前が?」
「ちっ…!」
マンドリカルドの言葉に王は思わず舌打ちした。その通り過ぎて何も言えない。
しまった。出す手を間違えた。話題を変えなければ。
そう判断した王は攻撃の一手を変えた。
「なら、そのデュランダルはお前らにくれてやるよ。お前らが欲しいのは、デュランダルなんだろう?代わりにリツカを置いていくなら、見逃してやる。そして、そのデュランダルを使って、敵を倒す事を特別に許してやろう。王である俺の慈悲に歓喜に咽び泣きながら、使うがいい」
「いらねぇよ。てめぇなんざのデュランダルなんか、心底使いたくねぇ。俺がデュランダルに固執していたのはマスターの力になる為にだし、それも自力で掴んでだ。その為に座に認められようと強くなろうとしている。てめぇなんざのデュランダルじゃ、意味がないんだ。てめぇなんざのデュランダルを使うくらいなら、宝具を放つ度に壊れちまう木刀の方が遥かにいいんだよ」
攻撃を仕掛けてきた王の言葉にマンドリカルドは即座に返した。そのまま、防御から攻撃へと転じる。
「俺達がこれを欲しがったのは、これが聖杯だからだ。デュランダルだからじゃない。そして、手に入れた。略奪を完了した。俺達がタタールに留まる理由もない。マスターだって、てめぇなんかと戦争してやる義理はねぇ。今すぐ、カルデアに帰還してもいい位なんだよ。俺達がそれをしないのは、単にマスターがそれを希望しているからだ。マスター自身が望んでいるから、俺達はマスターとてめぇの戦争を許してんだよ。マスターが望んでるから、俺達は見守る程度にしてんだ」
そこまで言うとマンドリカルドは王を睨んだ。先程よりも凶悪な目つきで睨んだ。殺気を放ち、視線だけでも射殺さんとしてくる。
「正直に言ってやるよ、王の俺。俺はてめぇをぶっ殺してぇ。自分の手でぼっこぼこに叩きのめしてぇ。宝具だって、馬鹿みたいに打ち込みてぇ。タタールが跡形もなく消え去ってもてめぇに放って叩き込んでやりてぇよ。てめぇはきったねぇ体でマスターに触れやがった。マスターを辱めやがった。マスターに強姦しようとしやがった。てめぇがマスターにしたあらゆる愚行を俺は許さねぇし、俺達マスターのサーヴァントは全員てめぇを許さねぇ」
そこまで一息に言うとマンドリカルドは王を指差した。そして、呪いの言葉を吐く。
「セイバーの剣で斬り殺されろ。ランサーの槍で突き殺されろ。アーチャーの放つ矢で射殺されろ。アサシンに暗殺されろ。キャスターの術で殺されろ。バーサーカーの狂気に殺されろ。アベンジャーに復讐されろ。ルーラーに裁かれろ。ムーンキャスターの癌に犯されろ。アルターエゴの別人格に支配されろ。プリテンダーに欺かれろ。フォーリナーの狂気に殺されろ。ビーストの人類悪に殺されろ。そして、俺達ライダーに轢き殺されろ!」
「哀れだな、サーヴァントという奴は!マスターであるリツカという主人が許さなければ、どんなに相手を憎んでいても殺せないとは!!許可が出なければ、行動できないとは!呪いの言葉しか吐けないとは!!つくづく使い魔という存在である貴様は不自由だなぁ、死後の俺!」
マンドリカルドの呪いの言葉を聞いた王は高らかに嘲笑った。心底馬鹿にし、傲慢に笑う。そんな王をマンドリカルドは見下し、吐き捨てる。嘲笑いすらする。
「無知ってのはある意味救いだなぁ、王の俺。残念ながら、俺達サーヴァントはマスターの許可が無くても行動できる。特殊な使い魔だからな。魔力があればいいから、魔力を補充さえ出来れば存在は可能。単独行動というスキルがあれば、更にしばらくは自立できる。マスターを殺そうと思えば、殺せる。その気になれば、マスター殺しも出来るんだよ」
「なっ…?!」
マンドリカルドの言葉を聞いた王は絶句した。確かに自分は魔術に疎いが、まさか主人と契約していても許可なしに行動できる使い魔がいるとは。主人がいなくても使い魔が存在できるとは。更には主人を殺せるとは!
しかも、マスターの言葉を信じるなら、このサーヴァントという使い魔は一騎当千の戦力。その気になれぼ国を滅ぼせる、特殊な知能と性格を持つ兵器。そんな奴等が主人無しで存在でき、行動でき、更には主人自身も殺せるなんて!
「俺達サーヴァントがマスター殺しをせず、更にはマスターの意思を優先するのは、そこまで俺達がマスターが好きだからだ!そして、俺がマスターの一番のサーヴァントであり、恋人でもあるのは、そこまで力を尽くしているからだ!!マスターの為に力を尽くしてでもその地位を奪ったのは、俺はそれだけマスターを本気で愛しているからなんだよ!」
マンドリカルドの叫びを聞いた王は体に怖気が走ると同時に興奮した。興奮で震える体を抑えようと、こっそりと一度だけ唇を舌で舐める。



そんな奴等を従えているのか、俺の思い人で最愛の人は!ここまで思われる程にサーヴァントという奴等の心を捕えるとは!!しかも、カルデアという支援があるとはいえ、複数も!まさか、そこまで自分の思い人で最愛の人が有能な魔術師なんて!!あぁ、ますます欲しい!ますます奪いたい!!ますます奪い尽くしたい!



一瞬だけ王はマスターを見た。隠そうともしないあらゆる欲を込め、マスターを見る。しかし、マスターは平然と王を見返した。そんなマスターに王は更に興奮しながらも、名残惜しそうに視線を逸らす。無理やり興奮を抑え、対戦相手を見た。
「で?そんな有能過ぎるリツカにお前は何をしてやれるんだ?改めて問おうじゃないか。あぁ、勿論サーヴァントという使い魔としてではなく、恋人としてだぞ、死後の俺。お前はリツカに何をしている?」
「語ってやるよ、王の俺。俺がマスターの為にしている事を。マスターを愛しているからこそ、俺がしている事を!」
王の言葉にマンドリカルドはそう言った。指を引っ込めると同時に強い意思を示すように軽く右から左へと手を振る。
「俺は誰よりもマスターを対等に扱う。誰よりもマスターの間違いを正す。誰よりもマスターが失敗した時に力になる。誰よりもマスターの意思を尊重する。誰よりもマスターの戦力として戦う。誰よりもマスターを守る為に力を振るう。誰よりもマスターと共に成長している。誰よりもマスターの為にあらゆる能力を伸ばす。誰よりもマスターの為に力を尽くす。誰よりもマスターの傍にいる為に!」
マンドリカルドはそう語った。そして、王の自分に向かって叫ぶ。
「全てはマスターの為!マスターの力になる為!!マスターを守りきる為!マスターの願いを叶える為!!マスターの本当の願いを叶える為!!その為に俺はマスターに一番近い存在になった!俺はマスターの一番のサーヴァントになった!!俺はマスターの恋人になった!!マスターの願いを叶える為なら、俺は何だってやってやる!!マスターが幸せになるなら、俺は何だってやってやる!マスターが望むなら、俺は心臓代わりの霊核を砕いてもいい!!死んで座に還っても惜しくない!それで、マスターの願いが叶うなら!!それで、マスターが幸せになるならな!冗談抜きで全部尽くし、全部捧げる!!そこまでするくらい、俺はマスターを愛しているんだ!」
マンドリカルドは王の自分にそう叫んだ。マスターの為に愛を叫んだ。俺は俺なりにマスターを愛しているんだと叫んだ。自らの愛を、他ならぬマスター自身にも証明する為に。
「それが俺の愛し方だ!俺がマスターに愛を示し、またマスターを愛する方法だ!!本気で思っているから、そこまでする!本気で愛しているから、そこまでする!!誰よりも愛しているからこそ、俺は誰よりもマスターの事を考えて思いやり、誰よりもマスターの意思を尊重するんだ!誰よりもマスターを愛しているから、俺はそうするんだ!!」
「笑止!実に下らん考えだな、死後の俺!!正直、がっかりだ!あぁ、がっかりだ!!リツカが…俺が全てを奪い尽くし、俺が全てを奪われ尽くされてもいいと本気で思う程に愛している最愛の人であるリツカが愛した恋人だからこそ、俺は失望しているぞ、死後の俺!」
一方的に愛を押し付けるお前とは違うんだとばかりに叫ぶマンドリカルド。そんなマンドリカルドに王は叫んだ。傲慢に嘲笑いながら、高らかに叫ぶ。
「下らん!実にくだらん!!愛しているなら、尚更欲せ!愛しているなら、尚更奪え!!愛しているなら、尚更奪い尽くせ!全て奪い尽くせ!!対等?間違いを正す?意思を尊重する?小さい愛だな、死後の俺!ちっぽけ過ぎる愛だな、死後の俺!!そんな愛で、よくリツカの恋人を名乗れたな、死後の俺!」
王は傲慢に吐き捨てる。嘲笑い、否定する。否定し続ける。
「対等になんか扱うな!間違いなんてさせないくらい、自由を奪え!!尊厳なんか踏み躙れ!そんな下らないものに配慮しているくらいなら、全部奪え!!奪い尽くせ!そして、全てを奪った代わりに愛せ!!全てを満たす程に愛せ!愛し尽くし、満たしてやれよ、死後の俺!」
誇り高き王は高らかに叫ぶ。傲慢な暴君の略奪者は叫ぶ。全て奪え。全て奪い尽くせ。そして、己の愛で満たせ。己の愛で満たし尽くせと。
そんな王にマンドリカルドは全力で叫んだ。否定する為に誰よりも強く叫んだ。何よりも間違っていると叫ぶ。
「そんなん、愛じゃねぇ!そんなん、ただの略奪だ!!そんなん、ただの蹂躙だ!少なくとも、俺の愛じゃねぇ!!愛しているから、俺はマスターを思うんだ!マスターの為にと思うんだ!!俺はそれこそが愛だと思うからこそ、マスターの事を考え、マスターに配慮し、マスターを思うんだ!誰よりも愛しているからこそ、マスターを誰よりも俺は思うんだよ、王の俺!!」
「実に愚かだな、死後の俺!愚か過ぎて、いっそ哀れにすら思うぞ、死後の俺!!愛しているから、略奪するんだ!愛しているから、蹂躙するんだ!!愛しているから、全てを奪い尽くすんだ!そして、空っぽになった最愛の人を愛で満たし尽くすんだ!!」
怒鳴るマンドリカルドに王は嘲笑い続ける。下らない、愚かだと嘲笑い、高らかに傲慢に吐き捨てる。そんな王にマンドリカルドは指を刺し、叫んだ。
「そんな愛し方だから、マスターはお前の愛を受け入れなかったんだよ、王の俺!マスターはそんな愛を望んでいない!!そんな愛し方を望んでいない!俺の愛し方がいいから、マスターはお前ではなく、俺を選んだんだよ、王の俺!!」
情け容赦なくマンドリカルドは叫び、王に変えようもない事実を突き付けた。流石の王もこれには黙り込む。マンドリカルドを射殺さんばかりに睨みながらも何も言わない。何も言えない。
そんな王にマンドリカルドは怒鳴った。怒鳴り続けた。間違っている王に間違っている事を徹底的に教える為に。
「相手を思えないなら、愛するな!相手に配慮できないなら、愛するな!!そんな奴が愛される筈がない!信頼にすら値しない!!そんな奴なんか、認識してやる価値すらないんだよ、王の俺!」
マンドリカルドのその言葉を聞いた王は頭の中で何かが切れる音がしたのを感じた。ただでさえ怒り狂う頭の中が更に怒りで満ちる。激情のまま、怒鳴る。
「黙れ、死後の俺!たかが、サーヴァントでしかない癖に!!たかが、使い魔でしかない癖に!リツカはお前のマスターでしかない癖に!!誇り高きタタールの王であり傲慢な暴君の略奪者の俺の愛を侮辱するな!」
「黙ってたまるか!黙ってなんか、やるもんか!!てめぇなんぞに臆してたまるか!てめぇなんぞに負けてなんかやるものか!!てめぇなんぞに配慮なんてしてやんねぇ!てめぇには、そこまでしてやる価値はねぇ!!だから、叫んでやる!だから、何度でも叫んでやんよ、王の俺!!マスターは俺が好きで、俺の愛し方が好きで、俺の考え方が好きだから、俺を好きになった!俺を愛してくれた!!俺の恋人になってくれた!マスターは全力で俺なんかを思い、俺なんかを愛してくれているんだ!!」
怒り狂う王にマンドリカルドは怒鳴り返す。容赦なく事実を突き付け、間違いを指摘する。そんなんだから、お前は選ばれなかったと主張する。
「何故、それが分からない?!何故、そこまで思わない?!何故、そこまで考えが至れない?!こんな至極簡単な事なのに!何よりも簡単な事なのに!!何故、そこを見ないんだ、王の俺?!ヘクトール並みの頭をしているんだろう?!なのに、何でこんな簡単な事実から目を背けるんだよ、王の俺!」
「下らないからだ!そんな考え、考える余地も無い程、下らない考え方だからだ!!そんなのは愛じゃない!愛なんかじゃない!!何度も言うが、俺は愛しているから、略奪するんだ!愛しているから、蹂躙するんだ!!愛しているから、全てを奪い尽くすんだ!そして、空っぽになった最愛の人を愛で満たし尽くすんだと言ってんだよ、死後の俺!!それが俺の愛し方だと言っている!」
マンドリカルドの言葉に王は怒鳴る。お前の考え方こそが間違っていると叫ぶ。それこそが間違っていると主張すると叫ぶ。
「だから、その愛し方が間違っているんだろうが、王の俺!俺も馬鹿みたいに繰り返し言ってんだろうが!!それはマスターが望んでいる愛し方じゃない!それはマスターが求めている愛し方じゃない!!だから、マスターはてめぇを愛さないって、何度も言ってんだろうが、王の俺!」
しかし、マンドリカルドは王の考え方こそが間違っていると怒鳴る。間違った考え方だから、お前は受け入れられなかったと主張する。容赦なく事実を突き付け、王の間違いを指摘する。
「お前は、マスターを愛しているんじゃないのか?!お前なりにマスターを愛しているんじゃないのか?!マスターの全てを奪い尽くし、お前の全てを奪い尽くされてもいいんだろう?!それくらい、マスターを愛しているんだろうが!!」
マンドリカルドは怒鳴り続ける。誰よりも愛しいマスターを思うからこそ、叫ぶ。誰よりもマスターを思っているからこそ、王の自分のマスターへの愛を否定する。
「当たり前だろうが、死後の俺!俺の愛を舐めるな!!本気でそう思っているから、俺はそう言っているんだよ、死後の俺!」
王はマンドリカルドの言葉に更に激怒し、怒鳴り返す。そんな王に更にマンドリカルドは怒りを感じ、自らも怒鳴り込んだ。
「それくらいにマスターを愛しているなら、それくらいはマスターの為にしろよ、王の俺!本当にそこまで愛しているなら、本当に言った通りにマスターの為に全て奪われろ!!王としての誇りも、王としての矜持も、タタールという国も、傲慢な性格も、暴君であることも、略奪者であることも、そして自らの命さえもマスターの為に全て奪い尽くされろ!本気でてめぇの全部をマスターの為に奪われ尽くされろよ、王の俺!!」
「そんなの当たり前だろうが!俺の愛を馬鹿にするなよ、死後の俺!!その為の手は尽くしてんだ!」
ついにマンドリカルドは怒りの沸点を超えて怒鳴り始めた。そんなマンドリカルドに王も負けじと自らも怒りを加速させて怒鳴る。
そんな王にマンドリカルドは怒鳴った。
「どこがだよ?!お前は何一つしていない!自分の全てをマスターに奪い尽くされていいと言いながら、何一つ奪わせていない!!マスターの全てを奪い尽くしたいと叫び、求めるばかりで、何一つマスターに奪わせていない!マスターを愛している癖に何一つ、約束を守っていない!!マスターを愛しているなら、本当に全部を奪われろ!『誇り高いタタールの王』も『傲慢な暴君の略奪者』も奪われろ!!それに基づく考えの愛なんて、奪われちまえ!マスターの為に考えを変えやがれ!!マスターから愛される為にマスターが求める愛し方に変えやがれ!そして、マスターに奪い尽くされやがれ!!そんなくだんねぇもん、とっとと全部マスターに奪われろ!他ならぬ、てめぇ自身が言った事じゃねぇか、王の俺!!約束が守れないなら、口にすんじゃねぇよ!そんな事すら出来ないふざけたてめぇがマスターに愛を向けるなんてふざけた事をしてんじゃねぇよ、王の俺!!」
マンドリカルドは怒鳴りながら、情け容赦なく主張する。マスターの為に本気で怒り、マスターの為に怒鳴り続ける。そして、何度も王の自分に現実を突き付ける。
そんなマンドリカルドに王はまた怒鳴り返す。
「だから、手を尽くしていると言っているだろうが、死後の俺!その為の策は巡らせているんだよ!!貴様こそ、何故そんな事が分からないんだ?!何故、こんな簡単な事が分からないんだ?!貴様は、そこまで馬鹿なのか?!貴様は、そこまで愚かなのか?!そこまで考えが至らないのか?!本当に貴様は『マンドリカルド』なのか、死後の俺!」
怒り狂いながら、王は叫ぶ。己の愛を否定されてたまるかと叫ぶ。絶対に譲れないと叫ぶ。それくらいはしているんだと叫ぶ。己はそこまで思い人の為にしていると、思い人への愛を叫ぶ。
しかし、マンドリカルドは王の愛をまた否定するように叫んだ。
「じゃあ、その策を今すぐに言って俺に証明しろや、王の俺!言っておくが、俺はそこまで馬鹿じゃねぇんだよ!!現実として本気でお前が出してないから、俺は言ってんだよ!何一つ、お前がマスターに奪われてないから、俺は言ってんだよ!!否定するなら、否定できる程の事実を出せ!俺を納得させろや、王の俺!!」
マンドリカルドは戦う。マスターを守る為に。徹底的に王に事実を突きつける。お前は何もしていない、お前はただ馬鹿みたいに繰り返し『リツカが欲しい』と言っているだけだと叫ぶ。だから、お前なんかの愛が分かる訳がない、分かるように証明しろと叫ぶ。自分と、そして何よりも王が愛しているであろうマスターの為に示せと叫ぶ。
そんなマンドリカルドに王は怒鳴り返した。
「何で貴様なんぞに出さねばならんのだ、死後の俺?!これは、リツカだけにしか出さん!俺の全てを奪い尽くしていいのは、リツカだけなんだ!!俺の最愛の人である、リツカだけなんだ!こんな所で貴様の下らん考えを否定する為の証明なんぞに出してたまるか!!本気でふざけるなよ、死後の俺!今すぐ殺してやろうか、死後の俺?!本気で殺すぞ、死後の俺!!」
あらゆる怒りを込めて王は怒鳴った。ついに王の怒りは頂点に達した。あらゆる怒りを憎しみを、そして殺意を込めて怒鳴る。
これはお前なんかの為じゃない。自分の思い人のもの。その為に準備したのだと。そんなものをたかが対戦相手でしかないお前には出さない。出してたまるか。お前なんかにそんな価値はないんだと思いを込めて。
自分の要求は一切飲まないくせに、自分の要求ばかり突き付けて繰り返す王にマンドリカルドは怒り狂いながら、叫んだ。
「上等だ、おらぁ!てめぇ自らが仕掛けたんだ!!戦争は終え切ってないようだが、俺がてめぇを殺してもマスターも文句はないだろう!なんせ、てめぇから仕掛けたからな!!容赦なく宝具をぶっ放しまくって、諸々の怒りと共に叩き込んでやらぁ!お前の存在なんざ、タタールと一緒に消し飛ばしてやんよ!!だから問答無用で死ねや、王の俺!」
王の言動にマンドリカルドも怒りが頂点に達した。怒りと憎しみと殺意を込めて叫ぶ。怒り狂うあまりに己の武器である木刀を掴んで威嚇するように構える。まだ微かに理性があるからか場からは動かないが、威嚇するように木刀を振り上げる。怒り狂うあまり、言葉での戦争から体への戦争を仕掛けてやるとばかりに意思表示する。
そんなマンドリカルドに王もあらゆる怒りと憎しみと殺意を込め、怒り狂いながら叫んだ。
「殺す!絶対に殺す!!貴様こそ、跡形もなく消し飛ばして殺す!そして、貴様からリツカの全部を奪ってやる!!貴様に関する記憶も何もかもリツカの中から消し去り、お前からリツカを奪い尽くすぞ、死後の俺!!」
何も武器を持ってないからか、せめてもの意思表示なのか、剣に見立てた中指を上に突き上げながら、王は怒鳴った。殺すとハンドサインしながら、王も殺意を表明する。王も完全に怒り狂っていた。場からは動かないが、完全に怒り狂い、相手を殺してやるとばかりに睨んで怒鳴る。
二人は完璧に怒り狂っていた。今にも論戦をやめ、相手に掴みかからん勢いだ。そんな二人のやり取りを見た、マスターは思った。



あ、駄目だな、これ。二人とも頭に血が上り過ぎている。止めないと死んじゃうな。マンドリカルド王が。



戦争を見守っていたマスターはここまでと判断し、二人に言い放った。
「マンドリカルド、ストップ。そこまでだ。それ以上は許さないよ。マスターとしても、君の恋人としても許さない」
まずは、自分の一番のサーヴァントで恋人のマンドリカルドに言い放つ。とにかく、こちらが止まらないと王が死んでしまうと判断し、自分のマンドリカルドから先に止めたのだ。
「マンドリカルド王、貴方もです。止めて下さい。俺のマンドリカルドとの対戦は、ここまでです」
次にマスターは王に要求した。ここまでだと意思表示し、止まるように要求する。
しかし、二人のマンドリカルドは、それで止まらなかった。怒りのあまり、それを聞く気にすらならないのだ。
「止めないで下さい、マスター!俺にこいつをぶっ殺させて下さい!!あんたにふざけた愛を向ける、こいつをぶっ殺させて下さい!あんたに全部を奪わせ尽くすと言いながら、あんたの全部ばっかり奪い尽くそうなんてふざけた愛を持つこいつをぶっ殺させて下さい!!諸々全部ぶちこんで、あらゆる意味で許せない気持ちをこいつに叩き込ませ、俺に殺させて欲しいっす!」
「貴様こそ、ふざけんな!本気でふざけんな!!俺は本気で言ってんだよ!本気でリツカの全部を奪い尽くしたいし、俺の全部はリツカに奪い尽くされたいんだよ!!俺の愛を舐めんな、死後の俺!本気で舐めんな、死後の俺!!本気で殺すぞ、死後の俺!」
怒り狂いながら叫ぶマンドリカルドの言葉に王も怒り狂いながら、叫んだ。ぎりぎりで止まってはいるが、このままでは本気で殺し合いになってしまう。本気でマスターが止めないと、お互いがお互いを殺し合ってしまう。マスターのマンドリカルドは大丈夫だろうが、王は駄目だ。ここで止めなければ、本当に死んでしまう。マスターと王の戦争はまだ終わってないのだ。それは流石にまずい。
そう思ったマスターはにっこりと笑うと、一番止める効果があるであろう言葉を放った。
「じゃあ、こう言おうか、俺のマンドリカルド。やめないなら、君を俺の一番のサーヴァントにするのをやめるし、君の恋人らしい事もしない。君自体はずっと愛し続けるけど、君の恋人らしい事は一切しない。君に愛情表現なんてしてあげない。俺のサーヴァントとしても、俺の恋人としても。絶対に一切してあげないよ、マンドリカルド」
「え?」
マスターの言葉に怒り狂っていたマンドリカルドは体を固まらせた。言われた言葉が衝撃的過ぎたからか、しばらく呆然とすらしていたが、やがて言われた言葉が理解できたのか、微かに体を震わせる。



何だ、その地獄過ぎる対応は。マスターが好きで好きで堪らなくて、その為に頑張りに頑張って今の地位を手に入れたのに、それを台無しにしてやるとばかりの対応。
マスターの一番のサーヴァントになる為、そして、マスターの恋人になる為に頑張りに頑張ったのに?一番のサーヴァントを外される?恋人として愛情表現してくれない?確かに自分を恋人として愛して思ってくれてはいるのに?なのに、恋人としてどころか、サーヴァントとしてすら、愛情表現してくれない?
そんなの、絶対に嫌だ!



そこまで考えたマンドリカルドは余りにも恐ろしいマスターからの言葉から、実際にされたらと想像してしまった。それを考えるだけで余りの恐ろしさに体の震えが止まらない。即座にそれを振り払うように頭を抱えて左右に振る。



嫌だ!そんなの嫌だ!!とにかく嫌だ!ひたすら嫌だ!!こんなに頑張っているのに!こんなに愛しているのに!!それを全部否定される対応を誰よりも愛しているマスターからされるなんて、絶対に嫌だ!



マスターの言葉は的確にマンドリカルドの弱点を刺激し、彼を絶望の底に叩き込んだ。あまりの絶望にマンドリカルドから王への怒りは吹き飛んでしまう。
マンドリカルドから怒りや殺意が完全に消えたのを確認したマスターはまたにこりと笑い、次に王に言い放った。
「マンドリカルド王には、こう言いましょうか。今すぐに俺のマンドリカルドとの対戦をやめないなら、俺は貴方との戦争をやめます。そして、俺は今すぐにでもタタール国を出ていき、カルデアに帰ります。聖杯が手に入ったので、本当に貴方との戦争は不必要なんですよ、マンドリカルド王。この戦争をするのは単なる俺の我が儘なだけなんですから。俺の気持ちを満足させる為なだけなんですから」
「くそっ…!」
マスターの言葉に王は忌々しそうに悪態をついた。そんな事をされたら、自分は二度と思い人と会えなくなってしまう。何せ、相手は自分の手持ちで一番の戦力を打ち破った相手。そして、守っていたものを略奪されたという事は、恐らく略奪を許してしまうくらいに手持ちの戦力は負傷しているはず。そんな相手から、思い人を奪う方法は王には考えつかなかった。
更に、カルデアにまで逃げられてしまったら、尚更不可能だ。自分の対戦相手よりは多少は弱いかもしれないが、ほぼ同レベルの仲間達がいる。それも恐らく莫大な数が。そんな奴等から思い人を奪うなんて、絶対に無理だ。
そこまで考えた王は引くしかなかった。ただ、怒り自体は収まらない。その為、マスター自身に対して要求を行う事にした。
「じゃあ、あと一つだけいいか、リツカ?!このふざけた奴に、あと一つだけしていいか?!あと、お前にすぐにでも聞きたい事があるんだが、質問してもいいか、リツカ?!」
「さりげなくマスターに二つも要求すんなや、王の俺!マジで速攻でぶっ殺すぞ!!マスター、王の俺の二つの要求を受け入れるなら、俺もさせて下さい!王の俺に質問一つと王の俺に行動一つを許して欲しいっす、マスター!!」
マスターに対して要求をする王を見て、またマンドリカルドは怒り狂った。しかも、要求は二つ。幾ら相手が王といえど、許せる訳がない。更には相手の王は、つい先程まで本気で殺してやると殺意を抱いた相手だ。マンドリカルドとしては今すぐにでも王を殺したかったが、そんな事をしたらマスターが先程言い放った自分への対応をしてしまうと分かりきっていたので、自らもマスターに要求する事にした。
とにかく、先程言われた対応だけは絶対に避けたいからだ。あんな対応を誰よりも愛しているマスターにされたら、冗談抜きでマンドリカルドは死んでしまう。精神的に病んでしまい、最悪霊核が砕けてしまう。
二人の様子を見たマスターは悩みながら、口を開いた。
「うーん…とりあえず、要求を聞こうか…許可はそれからだな…じゃ、マンドリカルド王から…」
マスターは悩みながら答えた。恐らく、要求を飲まないと二人は絶対に止まらないと分かっていたが、お互いがお互いを殺し合う要求だったら、止めた意味がない。そこで、二人の要求を確認する事にしたのだ。
まず王を指名したのは、あくまでも自分の対戦相手が王だから。また、こちらを優先する事で自分は貴方の方を尊重していると意思を示す為でもある。自分のマンドリカルドはいざとなれば令呪を使えば止められるし。
そんなマスターの意図を察した王は即座に要求を言い放った。
「こいつを殴らせてくれ!一発でいいから!!許可をくれ、リツカ!」
「マスター!俺もこいつを殴らせて欲しいっす!!一発でいいんで!死なない程度にしますんで!許可を下さい!!」
「ちなみに、どこ?」
「体!腹の辺り!!」
「ボディーっす!腹の辺り!!」
「同じ事を言ってるな…君達、実は仲良しなんじゃない…?しかも、体か…ある意味、本気だな…」
二人のマンドリカルドの要求を聞いたマスターは軽くため息をつきながら呟いた。何というか、お互いがお互いに本気で相手に一発ぶちかましてやるとばかりに要求してきたので。しかもお互いに要求は同じ。これはマスターでも、ため息をつきたくなってしまう。
ちなみに喧嘩とかを知っている人間は相手に攻撃する時、まずは体から狙うらしい。的がそれなりに広い上、大体は攻撃が入るからだそうだ。体から弱らせ、頭を狙うらしい。
マスターの言葉を聞いた二人のマンドリカルドは余りにもおぞましい言葉に寒気やら何やらから震え上がりながら怒鳴った。
「やめろ、リツカ!こんな奴と一緒、しかも仲良しなんて言うな!!怖気と気持ち悪さで本気で吐く!」
「それは俺もだよ、クソが!マスター、本気でそんな事を言わないで欲しいっす!!俺も気持ち悪くなるんで!こんなクソ野郎と一緒とか仲良しとか言うのはおろか、思いもしないで欲しいっす!!」
「君達二人、やっぱりどっちも『マンドリカルド』なんだよなぁ…」
やっぱり、同じような要求を自分に対してしてくる二人のマンドリカルドにマスターはまたため息をつき、呟くしかなかった。
さすが、ある意味で同一人物。いくら別々の『マンドリカルド』とはいえ、基本は同じようだ。
そう思いながらも口に出すとまた二人が過剰反応してしまうのが分かったマスターは、ため息交じりに二人に尋ねた。
「ちなみに、質問はどんなのか言える?」
「俺はリツカにしか言いたくない!」
「俺は結構どうでもいい質問なんで、大丈夫っす!」
「じゃあ、俺のマンドリカルドのだけ、聞こうか。教えてくれる?」
二人のマンドリカルドの答えを聞いたマスターは自分のマンドリカルドにだけ尋ねた。王の方は今すぐ対応すべきではないと判断したからだ。どうせ、後で自分だけにするだろうと分かったので、自分のマンドリカルドの方だけ尋ねる。
マスターの意図を察し、また自分のマンドリカルドを優先するような対応をしたからか、彼は少しだけ怒りが収まったようだ。割と冷静に王に向き合う。
「お前、何で城の防御に人間しか置いてなかったんだよ?元々、城にいたのも人間だけだったし」
「そう言えば…」
マンドリカルドの言葉にマスターも気付いた。マスターは部屋に監禁されていたから分からなかったが、自由になってから聞いた。何でも、城には人間しかいなかったらしい。使い魔はおろか、魔物もいないとか。
聖杯という不可能を可能にする道具があったのに、確かに不自然である。まぁ、今は使えないらしいが。だが、使える時に召喚なり何なりしておけば、対応はできた筈だ。
「俺達は結界を破ったんだぞ?俺達すら、そのままでは破れなかった結界を弱体させてからとはいえ、俺達は破ったんだぞ?なのに、結界以外は何で人間しか略奪からの守備に置かなかった?聖杯を使えば、山程使い魔や魔物が出せるだろうが?いや、使えなかったのかもしれないが…使える時にしておけば、良かったじゃねぇか?」
マンドリカルドは王にそう尋ねた。マンドリカルドの指摘は確かである。前もって聖杯が使える時に使っておけば、可能ではあるのだから。
そんなマンドリカルドの言葉に王は嘲笑うように吐き捨てた。
「そんなのはタタールの国民じゃないからだ。俺という王のものじゃないからだ。そんな簡単な事すら分からないのか、貴様は?」
「ぁあ?!略奪戦で俺達に負けたてめぇに馬鹿呼ばわりされたくねぇんだよ!ろくに国を守れない無能が馬鹿にするな、愚王が!!」
傲慢に吐き捨てる王に再び怒りが湧き上がったのか、マンドリカルドは怒鳴った。また怒り狂われては堪らないとばかりにマスターは即座に制止をかける。
「はい、俺のマンドリカルド、ストップ。そこまでね。それ以上怒るなら、俺はさっき言った君への対応をするからね?」
「…了解っす、マスター」
マスターの言葉にマンドリカルドは不服そうにしながらも、あっさりと引いた。やっぱり先程言われた対応をマスターからされるのは嫌らしい。
そんなマンドリカルドを確認したマスターは確認するように王に尋ねる事にする。一応、マスターなりに考えついたので、確認も含めて尋ねる事にしたのである。
「まぁ、今は聖杯は使えないみたいですもんね。あと、貴方が使い魔とかを貴方の国の民じゃないというのも、それなりに分かりますよ、マンドリカルド王。貴方が言う使い魔は魔物とか知性とかないものとかでしょう?そんなの、国民とかとして認めたくないのも心情としては全く分からない訳じゃない」
「流石だな、リツカ。やはり、お前は賢い。貴様もリツカの頭の良さを見習ったら、どうだ?死後の俺」
「はい、マンドリカルド王。そこまでです。俺のマンドリカルドを煽るのはやめて下さい。それ以上するなら、俺はさっき貴方に言った行動をしますよ?」
「ちっ…!」
マスターの言葉に頷きつつ、同時にマンドリカルドを煽る王。マスターのマンドリカルドに嫌がらせをしてやるという意図を察したマスターは王に即座に制止をかける。こちらも先程マスターから言われた対応だけは避けたいようで舌打ちはされたが、それだけであっさりと引いた。そんな王に感謝を示す為に、マスターは自分と自分のマンドリカルドの考えを教える事にする。
「ただ、情け容赦なく言うなら、貴方の考え方は甘いと言いますよ、マンドリカルド王。俺は良くも悪くも対サーヴァントとの戦場をそれなりに経験していますので。国の防衛は王の果たすべき責務の筈。まして、今回の略奪に関しては王である貴方が誰よりも司令塔として指示を出す筈だ。なら、使い魔とかは有効です。サーヴァント相手なら、尚更です。俺の仲間には負けるでしょうが、いた方が時間がかかったと思います。貴方は自分の気持ちを優先し、防衛の備えを怠ったんですよ、マンドリカルド王。俺のマンドリカルドはそこを指摘しています」
「そうか。それはその通りだな。流石だな、リツカ。お前は数多くの対サーヴァントの戦場を経験しているから、説得力が違う」
「納得していただいたようで何よりですよ、マンドリカルド王」
言われた内容が納得できるものだったからか、王はマスターの考えをあっさりと受け入れた。さすがは一国を治める王。ヘクトール並みの頭の良さもあったからか、マスターの考えに頷く。そんな王にマスターは敬意を表し、すぐに自分の考えを受け入れた王に感謝を伝えたのだが…
「で、こいつを殴っていいのか、リツカ?本気で殴りたいんだが?腹に一発だけだから、許してくれ」
さり気なく再び要求してくる王にマスターはまたため息をつきたくなった。上手く二人の殴り合いを回避出来ればいいと質問の方から取り掛かったのだが、やはり王にはマスターの考えは見抜かれていたようだ。やっぱり王は良くも悪くも頭が良かった。
そんな王の様子を見たからか、マンドリカルドの方もマスターに声をかけてくる。
「俺もっすね、マスター。腹に一発、殴らせて下さい。死なない程度にしますんで。さり気なく話題を変え、させないようにしないで欲しいっす」
「やっぱり、駄目か。流石だね、マンドリカルド。やっぱり君は俺の恋人だよ」
「俺、あんたの一番のサーヴァントであんたの恋人なんで…」
自分のマンドリカルドの言葉にマスターはこっちも誤魔化せなかったと分かってしまい、またため息をつきたくなった。そんなマスターにマンドリカルドは王に先程の嫌がらせの仕返しをしてやるとばかりに絶対に覆せず、また一番効果があるであろう言葉を言い放つ。
どうだ、俺はこんな凄いマスターの一番のサーヴァントで恋人なんだぞという意味合いを含ませ、わざとマスターの恋人としての余裕を感じさせるように微かに笑いすらしながら言ったのだが、
「心底気持ち悪いな、死後の俺。一発、殴らせろ」
「俺にもてめぇを殴らせろや、王の俺!死なないぎりぎりで一発だけな!!マスターの一番のサーヴァントで恋人の俺がな!」
容赦なく一刀両断する王。その言葉を聞いたからか、自分の仕掛けた嫌がらせが上手くいかなかったからかは分からないが、マンドリカルドは怒り狂いながら、即座に自分も王に叫んだ。そんな二人を見たマスターは、これは二人の要求を受け入れるしかないと判断する。
「あぁ、もう…分かった、分かったよ…お互いにお腹の辺りを一回だけ殴っていいから…その代わり、お互いにお互いを殺さないようにね…特に俺のマンドリカルドはマンドリカルド王を殺さないようにね…」
ため息交じりにマスターは二人のマンドリカルドに要求を飲む意思を伝えた。改めて自分のマンドリカルドに王を殺さないように釘を刺す。とにかく、それだけは回避しないといけないので。
ようやく要求を受け入れて貰えたからか、王は嘲笑いながら、マンドリカルドに言い放った。
「良かったなぁ、死後の俺?俺の最愛の人で貴様のマスターであるリツカに感謝しろ。リツカの慈悲深さに頭を垂れ、咽び泣くがいい」
「てめぇもな、王の俺。冗談抜きで俺は腹に一発叩き込むだけで、てめぇを殺せるんだからな、王の俺?」
軽く煽ってくる王に親指を下に向けて怒りを表現しながら言い放つマンドリカルド。お互いに譲れないものの為に戦う二人だから仕方ない事ではあるが、流石にこれ以上されたら、溜まったものではない。お互いに敵意をむき出しにする二人に流石のマスターも少し腹が立ってきた。
「それ以上するなら、俺はお互いに対して行動するよ?二人のマンドリカルド。容赦なく、俺はそれぞれが本当に嫌であろう、さっき言った行動をするよ?いいの、二人のマンドリカルド?」
「うっ…」
「ちっ…!」
マスターの言葉に二人は即座に引いた。マンドリカルドは軽く呻き、王はあからさまに舌打ちする。しかし、これ以上のやり取りは無意味であるし、なんならマスターを怒らせてしまうと分かっていたので、お互いに向き合う事にする。お互いに心底嫌ではあるが。しなければ、どうにもならない。
「とりあえず、てめぇからさせてやるよ、王の俺。冗談抜きで俺の方が強いし、俺は本当にてめぇが死なないぎりぎりを狙って殴るから」
「そりゃ、どうも。有り難く思いながら、俺から仕掛けてやるよ、死後の俺」
マンドリカルドの言葉に王は軽く返すと少しだけ近寄った。宣言通りにマンドリカルドの腹を殴る為である。
「おらぁっ!」
「ぐっ…!」
とても王とは思えない言葉を発しながら、王はマンドリカルドの腹の辺りを殴った。サーヴァントではあるが痛みを感じない訳ではないし、なんなら王の一撃は想像以上でもあったので、マンドリカルドは軽く声を漏らす。しかし、やはりマンドリカルドはサーヴァント。すぐに体勢を立て直すと自らも王に仕掛けた。
「くらえっ!」
「がっ…!」
諸々を込めたマンドリカルドの一撃に王の口から胃液が吐き出された。それだけの威力の一撃だったのである。マスターのマンドリカルドは本当に宣言通りに死なないぎりぎりの威力で王の腹を殴ったのだ。
余りにも重い一撃に王は思わず殴られた腹を押さえた。しかし、一時は冒険者であり、また武術も嗜んでいる王。それだけで何とか耐え、膝をつく事は無かった。何とか立ち続けながらも、少しでも回復しようと腹を押さえる。
そんな自分からの攻撃に苦しむ王の様子に何とか怒りが収まったのか、マンドリカルドは軽く鼻を鳴らすと離れた。とりあえず、一撃は入れられたので、大分収まったらしい。ただ、まだ怒り自体は収まらないようで苛立つように腕を組む。これは、マンドリカルドなりにマスターと王の戦争を見守る意思を伝える為でもある。そんなマンドリカルドの様子を見たマスターは軽く安堵のため息を吐いた。
どうやら、二人の戦争はようやく終わったらしい。少なくても、マスターのマンドリカルドはこれ以上はする気はないようだ。
王も何とかマンドリカルドからの一撃から回復するとマスターとの戦争を再開するべく寝具に近付いた。さり気なくマスターの隣に再び座り、軽くマスターのマンドリカルドを挑発。そんな王にマンドリカルドは「しれっとマスターの隣に座るんじゃねぇよ、クソ野郎!マジで殺すぞ?!」と怒鳴りはしたが、やはりこれ以上は戦争はする気はないらしく、それ以上は何もしなかった。そんなマンドリカルドを見た王は挑発が失敗したのを悟り、軽く舌打ちする。しかし、王もこれ以上はマスターのマンドリカルドと戦争をする気はないようで、マスターの方を見た。
「で、質問していいか、リツカ?」
「あ、やっぱり、ここでですか。どうぞ、マンドリカルド王。質問して下さい」
「許可してくれてありがとう、リツカ。俺の最愛の人」
一撃を入れたからか、王の怒りも大分収まったらしく、さらりとマスターに尋ねた。そんな王にやっぱりかと思いつつ、簡単に王の要求の受け入れを表明する。許しを得た王は軽く礼を言うとマスターに尋ねてきた。
「リツカ。お前はどう考える?俺とお前の恋人との対戦を見て、どう思った?」
「うーん、そうですねぇ…」
王の質問にマスターは考え込んだ。しばらく考えるが、確認する為に逆に王に尋ねる。
「貴方はどうしたいんですか、マンドリカルド王?貴方は俺に愛されたいのですか?それとも、貴方の愛し方で俺を愛したいのですか?」
「俺は俺なりにお前を愛している。命を含む全部をかけるくらいに本気でな。だから、俺のやり方でお前を愛いたい。お前を愛し尽くしたいんだ、リツカ。それだけなんだ」
「じゃ、無理に考えを変える必要はないですよ、マンドリカルド王」
王の返事を聞いたマスターはあっさりとそう言った。そんなマスターを王は黙りながら見つめる。何も言わない王にマスターは言葉を続けた。
「俺のマンドリカルドが貴方に特に主張しているのは自分の愛し方と、それに基づいた考えです。恐らくは彼なりに考えた貴方が俺に愛される方法。でも、貴方はそれをいらないと言った。貴方は貴方のやり方で俺を愛したいと言った。なら、そのままでいいと俺は思いますよ」
マスターは王の要求通りに自分の考えを言った。割と王の気持ちは受け入れてはいるが、しかし同時に譲れない事もあるとばかりに言葉を続ける。
「まぁ、俺はそういう愛し方はあまり好きじゃないのは言っておきますがね、マンドリカルド王。それだけは言っておきます」
マスターの言葉に王は黙り込んだ。マスターの意図を聞くべく、王は黙ったまま、自分の思い人を見つめる。そんな王にマスターはまた言った。
「俺は俺のマンドリカルドとは違い、薄情なのでそれしか言いません。俺の言葉を聞いて考えるのは貴方なんです、マンドリカルド王。良くも悪くもね。貴方を一番納得させられるのも貴方自身でしかないのですから。そこは貴方自身で考えて下さいね、マンドリカルド王」
突き放すような言葉。だが、これはマスターなりに王を気遣っての言葉なのだ。それが分かった王は黙りながら、ひたすら思い人を見つめた。マスターはそんな王から視線を外すと天井を見つめながら、呟く。
「そういう意味では、オジサンの言葉が一番良かったのかも…やり方とかが違い、様々な要因が違ったら、貴方は俺の最高の恋人になれたという言葉…これで終わるべきだったかもしれないな…」
「そうだな…さすがは大英雄ヘクトールだ…対戦した甲斐があった…」
マスターの言葉に王も頷いた。それしか言えなかった。ある意味では、マスターとのマンドリカルドとの戦争は無意味だったかもしれない。そう考えさえする王の気持ちを察したのか、マスターは王に再び視線を合わせる。
「それに貴方の事だから、仕掛けてくるでしょう?その辺りを一手に含ませたり賭けたりして、俺に奪わせようとするでしょう?この戦争の何処で」
「何故、そう思った?」
マスターは思っていた事を王に尋ねた。素っ気なく返す王にマスターは笑いかけながら、答える。
「貴方は約束は守る方ですから。特に自分が言った約束は。何だかんだ言って、貴方は自分が言い出した約束は守ってきましたからね。なら、俺の提案を飲んだ時点から考え始めていた筈だ。俺の全てを奪い尽くし、貴方の全てを俺に奪い尽くさせようとする筈。実際、貴方は俺のマンドリカルドに言いましたしね。その為のあらゆる手を尽くしていると」
「流石だな、リツカ。お前は分かってくれてる。流石は俺の最愛の人。俺の最後の略奪の相手で俺の戦争相手。そして、俺が全て奪い尽くし、全てを奪い尽くされたい相手だ」
「分かって貰えたようで何よりです」
マスターの言葉を聞いた王は満足そうに頷いた。そんな王にマスターは笑いながら答えるが、すぐに視線を逸らす。
「あと、貴方を殺すのは俺です。俺の愛です。それだけは言っておきますよ、マンドリカルド王。今はね」
「その時が待ち遠しいよ、リツカ。こうして一緒に話して一緒にいる時間も長くしたいが、それも早く欲しいな。俺は『傲慢な暴君の略奪者』だから」
マスターの言葉を聞いた王は笑いながら返した。マスターの言葉に満足しきったからか、その笑みは穏やかですらある。やはり、自分の思い人は自分の気持ちを分かってくれると再確認できた王は、心のどこかが満ち足りた気がした。
「ちなみに俺のマンドリカルドとの対戦自体はどうでしたか、マンドリカルド王?」
「心底、腹が立った。本気でここまで怒り狂ったのは初めてだ。人生で初めてだぞ。まぁ、あんな奴が初めてというのは、ある意味では嫌過ぎるが…」
マスターが王に視線を向け、尋ねてくる。笑いながら尋ねられた言葉に王は先程までのマスターのマンドリカルドとの戦争を思い出し、不愉快さを隠す事なく、眉を寄せる。が、すぐに何故マスターがわざわざ尋ねてきたかの意図を察し、答えた。
「まぁ、あいつがお前を愛している事自体は認めてやる。それだけは認めてやるよ。それだけの価値はあった」
「そうですか。それなら良かったですよ、マンドリカルド王」
嫌そうにしながらも全くの無意味ではなかったと伝える王。そんな王にマスターはまた笑うのだった。笑みを浮かべるマスターを見た王は、何故マスターがわざわざ尋ねてきたかの意図に気づき、呟く。
「…ありがとうな、リツカ。俺の最愛の人」
マスターから顔を背けながら、王はそれだけ言った。そんな王にマスターは満足そうに笑うのだった。王も少しは自分の恋人の良さを分かってくれたようなので。二人のマンドリカルドの戦争は全く意味がないものでは無かったのだ。
二人のマンドリカルドによる戦争は王の略奪失敗により、マスターを守りきった彼のマンドリカルドの防衛成功で終わったのだった。

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