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2026 06/19

[chapter:傲慢な王]





「次はお前の番だぞ、リツカ。次の一手はどうする?」
「そうですね…貴方達の頭を冷やす為にも、ちょっと割とどうでもいい質問をしますか…」
王の言葉にマスターはそう答えた。王と向き合い、尋ねる。
「マンドリカルド王、貴方は本当に『傲慢な暴君の略奪者』ですか?」
「え?」
マスターの言葉に驚いたのは王ではなく、マンドリカルドの方だった。目を見開き、信じられないものを見るようにマスターを見る。
「戦争中にすんません、マスター。ですが、進言してもいいっすか?」
「やっぱり来たか、マンドリカルド。マンドリカルド王、先に彼の対応をしていいですか?」
「許す。心底、嫌だがな」
マンドリカルドの言葉を聞いたマスターは王に尋ねた。王は王なりにマスターの気持ちを察したのか、不機嫌そうにしながらもそれだけ答える。そんな王に軽く頭を下げて感謝を伝えると、マスターはマンドリカルドの方を見る。
「だって。良かったね、マンドリカルド。王の君から許可が出て。あぁ、勿論、俺も許可するよ。君は何を進言したいんだい、俺のマンドリカルド?」
「残念ながら、マスター。貴方の考えの間違いを指摘させて頂きます。こいつは『傲慢な暴君の略奪者』です。こいつは良くも悪くも生前の俺っす。だから、誰よりも断言できますよ、マスター。マンドリカルド王は『傲慢な暴君の略奪者』です」
「うーん、やっぱり君はそう思っていたんだね…気づかなかったか…いや、ある意味、君だから気づかなかったのかな?」
マスターの言葉にマンドリカルドは自分の考えを言った。はっきりと言い切りさえするマンドリカルドを見て、マスターは苦笑する。
「確かにね、マンドリカルド。マンドリカルド王は生前の君だ。だけど、それは途中までだって分かってる?」
マスターの言葉を聞いたマンドリカルドはその言葉で気付いた。ハッとしたように目を軽く開き、王の自分を見る。そんなマンドリカルドを見たマスターは彼も分かってくれたと思い、説明した。
「そう。彼はロジェロに勝って、君より更に生きた。そして、聖杯で願いを叶えた。『ヘクトール並みに頭が良くなりたい』と願った。ヘクトール並みに頭がいい筈なら、自分が『傲慢な暴君の略奪者』である事に気付いているだろうね。場合によっては直す事もあるだろう。あまり良くないものだからね」
そこまで説明すると、マスターは一旦言葉を切った。王をちらりと見るが、彼は何も言う気がないのか、黙ったままである。そんな王を見たマスターだったが、彼は王には何も言わずに、またマンドリカルドの方を見て説明した。
「でも、マンドリカルド王はずっと傲慢だった。『傲慢な王』だった。だけど、民には慕われた。性格が傲慢な以外は良い王だと。それはきっと、自分が傲慢な時代が長くあったのを知っていて、それを武器に彼なりに周りと戦っていたからだと思う」
そこまで説明すると、マスターは緩く首を振った。今度はヘクトールを見る。自分を見るマスターにヘクトールは軽く笑い、促すように彼を見返した。そんなヘクトールにマスターはまた何も言わず、視線をマンドリカルドに向ける。
「ある意味、オジサンと同じなんだよ。本当の自分を隠すオジサンと同じ手口。自分は疲れると腰痛の出る情けない中年のおじさんの戦士。オジサンは周りにそう思わせるように振る舞っている。オジサンは元は政治家で王族でもあったから、そこが実に上手い」
そこまで言うとマスターはまた言葉を切った。軽くため息すら吐く。が、またすぐに自分の考えを伝える為に口を開いた。自分のマンドリカルドに分かって貰うために説明を続ける。
「なら、マンドリカルド王も『傲慢な王』を演じていても、不思議じゃない。彼は『ヘクトール』に憧れて尊敬しているから、その辺りも知っている筈だ。処世術にしていてもおかしくない。これを武器に周りと戦っていても、おかしくないんだよ、マンドリカルド。彼は良くも悪くも『誇り高きタタールの王』だからね」
「なるほどね…」
マスターの言葉にマンドリカルドはそれだけ呟くと王の自分を見た。視線で問うようにじっと王を見つめる。しかし、王はマンドリカルドと話す気はないのか、黙ったままだ。なんなら、軽く顔を背けてマンドリカルドと視線すら合わせようとしない。そんな王にマスターは確認のためにも向き合った。
「何か言いたい事はありますか、マンドリカルド王?」
「やっと終わったか。待ちくたびれたぞ、リツカ。俺の最愛の人。俺を放置するな。お前の戦争相手だろうが」
マスターが尋ねると王は不機嫌そうな顔をしながら、それだけ言った。吐き捨てるようにすら言いながらも、自分もマスターを見るように彼に向き合う。
「で?何故、そう思ったんだ、リツカ?」
「初日に俺を襲っておきながら、貴方があっさり引いたからですよ、マンドリカルド王」
軽く笑いながら言われた王の言葉にマスターはさらりと言い放った。自分に向き合うように見る王に自らも笑いかけながら、自分が何故そう考えたか理由を話す。
「あれ、凄く上手い引き方でした。『傲慢な暴君の略奪者』なら、あのまま襲っていた筈。確かに、あの時点の貴方には男同士のあまり知識はなかったでしょうが、あの時点では貴方は男同士は性器を擦り合うと言っていた。なら、それ自体はする筈だ。『傲慢な暴君の略奪者』ならね」
そこでマスターは一旦言葉を切った。だが、すぐにまた口を開く。王に説明をする為に。
「でも、貴方はしなかった。ある程度情報を集めて満足したからか、あっさりと俺を解放しました。やり方が知らないのを上手く言い訳に使って、あっさりと手を引いた。あれだけなら、程よく『傲慢な王』という印象を与えたまま、終われますから」
「初日から、そう思っていたのか?」
マスターの説明を聞いた王はそれだけ尋ねた。王の問いにマスターは首を縦に振って肯定を示す。
「そうですよ、マンドリカルド王。まぁ、最初は違和感程度でしたがね。でも、貴方と接していくうちに違和感はどんどん膨らみましたよ。翌日からは俺が好きだったとはいえ、貴方の対応は実に優しいものでしたから。ま、俺に自慰を要求した辺りからは、あまり対応が良くなかったですがね。あと、強姦未遂も。俺が貴方が愛した相手だったからかもしれませんが…」
そこまで言うとマスターはまた言葉を切った。にっこりと笑い、王に対して言う。
「あぁ、これに対してはちゃんと答えなくてもいいですよ、マンドリカルド王。本当に軽く疑問に思った程度なので。貴方達の頭をちょっと冷やす為でもありますし」
「じゃ、答えさせて貰う」
マスターの言葉を聞いた王は口を開いた。じっとマスターを見つめ、彼の問いに答える。
「俺は『誇り高きタタールの王』で『傲慢な暴君の略奪者』のマンドリカルドだ。それ以外の何者でもない」
「そうですか。分かりました、マンドリカルド王。ちゃんと返答して下さり、ありがとうございます」
王の言葉を聞いたマスターはそう答えた。回答してもらった事自体には感謝はしたが、それ以上は尋ねなかった。それどころか、この話題は終わりだと言わんばかりに王に尋ねる。
「次は貴方の番です、マンドリカルド王。次の一手は何にしますか?」
「なら、これを要求しよう。お前の本当の名前を教えてくれ」
王の要求を聞いたマスターは王を見た。余程驚いたのか、軽く目を見開いている。そんなマスターに対し、王は笑いかけた。
「お前、これだけは中々答えなかっただろう?俺が交渉を出すまで答えなかった。何故だろうと思っていたが、魔術師だと分かった時に気付いた。魔術師は名前を隠す場合があると旅した時に知っていたからな。だから、お前も隠そうとしたんだろう?俺に答えるのを迷ったんだろう?」
「流石ですね、マンドリカルド王…伊達に旅していませんね…」
「一時期、冒険者だったからな。良くも悪くも。だから、気付けただけだ」
王の説明を聞いたマスターは心底感心しながら頷いた。そんなマスターに笑いながら、王は言葉を続ける。
「この辺りから、お前の語る名は本当ではないかもしれないと思った。いや、お前の事だから、一部は名乗っているかもしれないが、全部じゃないんじゃないか?なら、全部教えてくれ。お前の正しい名前を教えてくれ。全ての名前を教えてくれ。冗談抜きに俺はお前の全部を知りたいんだ。奪い尽くしたいんだ」
「分かりました、マンドリカルド王。貴方に俺の全ての名前を教えましょう」
王の言葉を聞いたマスターは頷くと答えた。笑いながら、要求された自分の名前の全てを答える。
「藤丸立花。それが俺の名前の全てです。藤丸が苗字、立花が名前。貴方達とは違って、苗字が先で名前が後なんです。だから、俺は旅先ではリツカを名乗るようにしています。ちなみに、俺の故郷は苗字で呼ぶのが基本ですね。名前は親しくないと呼ばないです」
「藤丸立花…そうか…それがお前の名前の全てか…本当に名前すら美しいな、お前は…」
マスターの答えを聞いた王は噛み締めるように呟いた。向き合うマスターに満足そうに笑いかけながら、口を開く。
「感謝する、藤丸立花。人類最後のマスター。場合によっては使い分けさせてもらう。どれもお前の名前のようだからな」
「ご自由にどうぞ。リツカでも立花でも藤丸でも藤丸立花でもお好きに呼んで下さい。全部、俺の名前なんで」
「贅沢だな、お前の故郷は…そんなにも沢山呼べる名前があるとは…ますますお前の故郷に興味を持ってしまったよ…一度、お前と共にお前の故郷に行ってみたかった…」
礼を言う王にマスターは嬉しそうに笑いながら言った。そんなマスターを見ると、王は笑いながら視線を逸らして呟いた。マスターの故郷に思いを馳せて。もう無理だと分かっていても、願わずにはいられなかった。

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