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2026 06/19
[chapter:略奪戦]
「次はお前の番だぞ、リツカ。俺の最愛の人にして、人類最後のマスターよ。どんな一手にする?」
「そうですね…」
不敵に笑いながら、尋ねる王。その言葉にマスターは俯き、考え込む。しばらく悩んだようだが、考えが纏まったのか、また王に向き合った。
「では、この一手にします。マンドリカルド王、貴方は俺の戦争の要求を受け入れた後、何かデュランダルに願いましたか?」
「…ついに来たか」
マスターの言葉を聞いた王は唇の端を歪めて笑いながら呟いた。あからさまにその質問を待っていたとばかりの言葉。そんな王にマスターも顔の表情を引き締め、彼を見つめる。
「貴方は先程、誤魔化しましたからね。確かに他はどうでもいい筈でしょうが、これだけは何が何でも成立させたと思っています。だから、尋ねます」
そう話すとじっと王を見つめた。強い意思を青い瞳に宿し、尋ねる。
「貴方は俺の愛で死ぬ為に何をデュランダルに願いましたか?」
「たった一つ。たった一つだけだ。お前の愛が俺を満たした瞬間、俺の全てをお前に奪われ尽くされたい。それだけだ」
美しく気高い思い人の問いに王は不敵に笑いながら、答えた。灰色の瞳がマスターを捕える。そして、口を開く。不敵に傲慢に笑いながら。
「しかし、この願いも力が足りなかった。足りなかったから、足した。対価を払って、足した。そして、願いを叶わせた」
そこまで言うと王は笑いながら、マスターを見つめた。あらゆる欲を込め、僅かに狂気のようなものを宿しさえし、灰色の瞳はマスターを捕えるように見つめる。
しかし、マスターは視線を逸らさない。むしろ、更に青い瞳に強い意思を宿し、見つめ返す。そんなマスターに王は不敵に傲慢に笑いながら、問いかけた。
「何を対価にしたと思う?」
「…まさか」
王の問いにマスターは微かに目を見開いた。信じられないと言わんばかりの表情をしながら、呟く。
「タタール…タタール国を…?タタール国を対価に…?」
「ご名答!」
「なっ…!」
マスターの言葉に王は嬉しそうに叫んだ。瞳に狂気を宿し、満足そうに答える。そんな王の言葉に驚いたのは見守っていたマンドリカルドだ。王の言葉に絶句し、目を見開きながら彼を見る。他のサーヴァント達でさえ、驚きのあまり、マンドリカルドと同じような反応を示す。
そんな王を見て、誰かが呟いた。
「…とんでもねぇ王様だな」
マンドリカルドが声の主を見ると、ヘクトールであった。吐き捨てるように呟く彼の表情は一見すると普段と全く変わらないかもしれないが、王を見つめる深い緑の目はいい感情を感じさせない。むしろ、侮蔑さえもしてもいるからか、冷たさすら感じさせる。
「自分の国を…タタールを…『誇り高きタタールの王』を賭けやがった…!冗談抜きで自分の持っているものを賭けて、マスターに略奪を仕掛けやがった…!!本気でマスターの全部を奪い尽くし、自分の全てを奪われ尽くされようとしている…!本気でマスターへの愛で狂ってやがる…!!」
吐き捨てるようにヘクトールは呟いた。生前は国を愛し、王族として命をかけて守った彼の事だ。冗談なく容赦なく国を捨てるように賭け、本気でマスターを奪いに来た王に対し、怒っているのかもしれない。
そんなヘクトールの言葉を王は全て無視し、口を開いた。
「先に言っておくぞ、リツカ。これはお前の愛が俺を満たし、俺を殺した瞬間に成立する。お前が俺を殺したら、タタールは対価として支払われる。タタールは俺と共に死ぬんだ」
マスターに王は笑いながら言った。嘲笑いすらしながら、言葉を続ける。
「当然、お前も死ぬ。タタールが死ぬんだ、タタールにいるお前も死ぬだろう。お前の恋人の馬に乗っても即座にタタールからは出られない。そして、あらゆる情報から考えに考えた結果、お前達の中で一番に機動力があるのは瞬時に場所移動できないお前の恋人の馬だと俺は判断した。なら、お前達はタタールから瞬時に出ることは出来ない。場所を移動する魔術はあるだろうが、こちらも準備に時間がかかると旅の時に知った。ならば、いくら魔術師といえど、俺を殺した瞬間にお前がタタールを出るのは無理だ。複数なら、尚更だ。なら、まずお前は…お前達は逃れられない…!逃れられまい…!!」
王の言葉を聞いたマスターは静かに王を見た。しかし、その青い瞳には怒りが宿っている。静かだが、確かに怒りを宿し、マスターは口を開く。
「貴方は本当にとんでもない事を考えますね、マンドリカルド王…貴方が死んだ瞬間、俺も殺そうと…俺の命を奪おうとするなんて…しかも、俺のサーヴァントも全員、俺から奪おうとするなんて…」
「その通りだ、藤丸立花!俺の最愛の人にして、人類最後のマスターよ!!」
吐き捨てるように呟いたマスターの言葉を聞いた王は叫んだ。灰色の瞳に狂気を宿し、狂ったように笑いながら叫ぶ。やはり、自分の思い人は自分の気持ちも何もかも分かってくれる位に有能で優秀だと実感し、あまりの嬉しさから狂喜する。
「お前は俺と共に死ぬんだよ、リツカ!お前の使い魔のサーヴァント達と共に!!俺に全部、奪われ尽くされてな!」
高らかに笑いながら、王は言い放った。そんな王に微かに眉を寄せるマスターに王は畳み掛ける。
「さぁ、どうする、藤丸立花?!俺の最愛の人にして、人類最後のマスターよ!俺は本気でお前の全てを奪い尽くしにきた!!『傲慢な暴君の略奪者』として、『誇り高きタタールの王』を賭けてまでもな!!お前は『誇り高きタタールの王』で『傲慢な暴君の略奪者』の俺から、どう略奪を防ぐ?!」
傲慢に笑いながら、王は高らかに尋ねた。狂ったように叫ぶ王をマスターは静かに睨むように見つめる。青い瞳に強い意志を宿しながら。そして、静かに言い放った。
「王手」
たった一言。だが、場の空気は明らかに変わった。先程までは穏やかな時さえあった部屋の中の空気は、まるで戦場のように高い緊張感に包まれる。そんな中、マスターは冷静に王に宣言する。
「この攻撃で『傲慢な暴君の略奪者』の貴方を仕留めさせて貰いますよ、マンドリカルド王。貴方から『傲慢な暴君の略奪者』を奪わせていただきます。貴方が俺に捧げるのも譲るのも一切させません。他ならぬ俺が貴方から『傲慢な暴君の略奪者』を奪います」
「やってみろ、藤丸立花!俺の最愛の人にして、人類最後のマスターよ!!この『誇り高きタタールの王』にして『傲慢な暴君の略奪者』のマンドリカルドから、略奪を防いでみろ!そして、俺から『傲慢な暴君の略奪者』を奪ってみせろ!!この俺を完膚なきまでに叩き潰してな!」
マスターの宣言を聞いた王は狂喜しながら叫んだ。傲慢に嘲笑いすらし、高らかにマスターを挑発するように言い放つ。
そんな二人を見守っていたサーヴァント達は黙ったまま、彼らを見つめた。誰も何も言いはしないが、しかし視線は鋭くなる。
彼らも察したのだ。こここそが、この戦争の山場だと。こここそが勝利を逃してはならない場面だと。彼らの間に一気に緊張が走る。
しかし、そんな中、たった一人だけ様子の違うものがいた。ヘクトールである。彼は視線自体は逃してはならないとばかりに鋭くしていたが、しかし、その表情は普段と変わらない。むしろ、唇を歪め、笑ってさえいる。
仕留めろ、マスター。完膚なきまで徹底的に叩きのめして潰せ。そして、奪うんだ。大丈夫、お前ならできるさ。愛しい俺の今生のトロイア。
そう思いながら、マスターを見つめた。自分のサーヴァント達の様子が変わったのに気づきながらも、マスターは何も言わない。青い瞳に強い意思を宿しながらも、静かに言い放つ。
「答えから言いましょう、マンドリカルド王。俺達には『レイシフト』があります」
マスターは王を静かに見つめながら、そう言った。王を睨むように見る青い瞳は静かだが、何よりも強い意思が含まれている。
「『レイシフト』は条件を満たせば瞬時に場所移動できる、カルデア独自の技術。実際、俺達は俺達の世界から、このタタールへと来ました。貴方達の世界とは違う世界からです。『レイシフト』は条件を満たせば即座に発動できる。瞬時に俺達はカルデアに移動できるんです。貴方を殺した後でも俺達はタタールが死ぬ前にタタールを脱出し、俺達はカルデアへと帰れるんですよ」
そこまで答えると、マスターは王を真っ直ぐに見た。青い瞳にこれ以上ない程に強い意思を宿し、王を拒絶するように腕を振り、そして高らかに宣言する。
「王手です、マンドリカルド王!貴方は俺の命を奪えない!!俺の仲間を奪えない!俺の全てを奪い尽くせない!!『誇り高きタタールの王』にして『傲慢な暴君の略奪者』の最後の略奪の完全成立は絶対にできません!」
「見事だ、藤丸立花!素晴らしい略奪防衛と俺への攻撃完了の宣言だ!!よくぞ、この『誇り高きタタールの王』の俺から略奪を防いだ!そして、『傲慢な暴君の略奪者』の俺を完膚なきまでに叩きのめした!!褒美として、お前の望み通りに俺から『傲慢な暴君の略奪者』を奪わせてやろうじゃないか、藤丸立花!!俺の最愛の人にして、人類最後のマスターよ!」
気高く高らかに言い放つマスターに王は叫んだ。全身にあらゆる感情が駆け巡り、狂喜し、激しく興奮している。
あまりにも気高く美しいマスターの宣言は文句がつけられない程に的確に徹底的に王を叩きのめした。普通なら落ち込むかもしれないが、しかし王はそうはならなかった。むしろ、改めて自分の思い人の有能さと優秀さを実感し、その見事な手腕に惚れ込み、尚更マスターに心を掴まれた。歓喜と興奮から身を震わせながら、惜しみない賞賛をマスターに贈る。
あまりにも見事なマスターの攻撃の手腕に見守っていたサーヴァント達は体を震わせた。歓喜に身を震わせ、喜びのあまり叫びたい衝動を必死に抑える。王の部屋で二人の戦争を見守っていたサーヴァント達だけでなく、専用機器越しに二人の戦争を見守っていたカルデアのサーヴァント達もだ。
流石だ、マスター!貴方こそ、我らが心の底から従うに相応しいマスターだ!!貴方こそが、人類最後のマスターだ!
マスターのサーヴァント達は全員が全員、全力でマスターに惜しみない賛辞を贈った。歓喜に身を震わせながらも口からは音を出さなかったが、しかし心の中では自分達の主人を絶賛する。それくらい、マスターが王を完膚なきまでに叩きのめした攻撃は素晴らしいものだったからだ。
しかし、王の言葉を聞いたマスターは息を吐いた。安堵とかではなく、むしれ呆れとかを含んだ深いため息を。
「あのですね、マンドリカルド王…貴方なら、分かっていたでしょう…?確かに、俺自ら奪いに行くとは言いましたが…いや、これを考え付いた時の貴方では、これは有効な策だったんでしょうが…」
「仕方ないだろう?流石の俺も、これを願った時点では『レイシフト』所か、お前が別の世界から来ているなんて、分からなかったんだから。分かったのは、お前と戦争してからなんだから。願った時点ではこれが一番だと思ったから、これにしたんだ」
マスターの言動に対し、王はあっさりと答えた。先程までの狂喜は完全になくなり、一気に正気に戻る。王も自分自身に呆れ返っているからか、腕を組み、ため息をつく。
そんな王の様子を見たマスターは思った。やっぱり、この人は全部を分かっていながら、自分に仕掛けたんだな、と。だって、これくらいは分かるくらいに王は頭が良いのだから。自分もその辺りまで分かるくらい王としっかりと話もしたし。
そう思ったマスターはまた深くため息をついた。緩く首を左右に振りながら尋ねる。
「でも、貴方なら、全く考え付かなかった訳ではないでしょう?俺と戦争する前でも、可能性を考えた事くらいはある筈だ」
「まぁ、そうだが…だが、その可能性を考えた瞬間、俺は即座にその可能性を潰して消したぞ。それくらい、馬鹿馬鹿しい考えなんだ。このタタールなら、尚更無理だな。俺ですら、そこまで魔術には詳しくないし」
マスターの言葉を聞いた王も、またため息をつきながら答えた。自分の馬鹿さ加減を実感し、自分自身に呆れ返るしかなかった。そう考えるしか出来ない状況だと分かっていても、やはり自分は間違った考えをしてしまったと改めて実感したからだ。
王の答えを聞いたマスターはそこまで分かっておきながら、それでも仕掛けたのか、仕掛けるしかなかったのかと分かり、また深いため息をついた。額に手を当てながら、王に尋ねる。
「一応、聞いておきましょうか。その可能性が浮かんだのは、何が原因ですか?」
「『フライドポテト』だな。あれは、それくらい危険な料理なんだ。少なくても、このタタールではな。お前の故郷が遠過ぎたから、俺はそのせいかもと、思ったんだが…」
マスターの問いに王はまたあっさりと答えた。またため息をつき、吐き捨てるように答えると、気持ちを切り替えるように息を吐く。すると、気持ちが上手く切り替わったのか、王は笑いながらマスターに言った。
「ま、そう言うって事は、今のお前も『フライドポテト』という料理がいかに危険な料理か分かっているようだしな。今後は出さない事を勧める、とだけ言っておこう」
「カルデアに帰ったら、ちゃんと勉強しておきますよ…特に『フライドポテト』についてね…」
困ったように笑いながら言われた王の言葉にマスターはそう呟くしかなかった。頭が痛いからか、中々額から手が離す事も出来ない。過去の自分がいかに迂闊な言動をしたか、再度実感したからだ。分かってはいたが、やはり突き付けられると辛いものはあった。
自分自身の過去の言動に呆れ返りながらも、マスターはようやく額から手を話した。また王にしっかりと向き合うと彼に尋ねる。
「それで、分かったのは何処なんです?」
「お前が過去にした旅の話でな。ちなみに確信したのは『セプテム』と『バビロニア』だ。いや、あまりにも行き先が多いし、大体の場所がおかしいから、何でそんなに旅をしている?移動手段は最高でも馬しかないだろう?なんなら、本当にこの世界の奴か?とは思っていたが…」
そこまで話した王はまたため息をついた。マスターの言動から、薄々思い人も分かっているのは分かってはいたが、ちゃんと説明する。
「この二つは特にな。古代ローマと古代メソポタミアは駄目だろう。古代とわざわざ言うくらいだ。明らかに時代がおかしい。場所どころか、時代すら越えている。時代を越えているくらいだ。瞬時に場所移動だって出来てもおかしくない。そう考えるのは普通だろうが」
「まぁ、そうですよね…貴方なら、そう考えますよね…やっぱり、貴方は全部を分かっていて、仕掛けたんじゃないですか…」
そう答えると、また王はため息をついた。そんな王の言動を見たマスターはやはりか、と思いながら、そう呟くしかなかった。やっぱり全部分かっていて、それでも仕掛けるしかないから、仕掛けたんだな、と改めて思ったのだった。
またため息交じりに呟くマスターから視線を逸らすと、王は首を傾げながら呟く。
「あと、ギルガメッシュは何かで聞いた事があるような…いや、他にも聞いたことがあるような名前はあったんだが、この名前が特に引っかかって…ヘクトール以外は、よく分からんのだが…」
「恐らく、ヘクトール関係だからかと。ギルガメッシュ王は古代ウルクの国の王。彼は世界中の宝を集めた宝物庫を持っていて、その中にはデュランダルもあったんです。もしかしたら、それかもしれないでしね」
王の疑問にマスターは彼を見つめながら、答えた。うまく気持ちを切り替えられたからか、王を見つめる青い瞳は先程までの王を拒絶するような強い意思とかは一切なくなり、優しさすら感じる。そんなマスターの言葉に納得したのか、王は軽く首を縦に振った。
「なるほど。ヘクトール以前にデュランダルを所持していたらしい古代の時代の王。なら、何かで聞いた事がある可能性はあるな。ヘクトール自身ではないから、しっかりとは覚えてなかったのかもしれん」
マスターの言葉を聞いた王はそう呟いた。確かにヘクトールに関係しているが、しかしヘクトール自身にはあまり関係はない。ヘクトール以前のデュランダルの所持者なだけ。なら、自分の記憶にあまりしっかりと残らないな、と思いながら。
そんな王の様子を見たマスターは穏やかに笑いながら、言った。
「ちなみに、カルデアにはギルガメッシュもいますよ。暴君であった頃のギルガメッシュである英雄王様と民に愛される程に穏やかな王政をする時のギルガメッシュである賢王様の二人。彼らは俺を雑種と呼びますね。特に賢王様の方は俺を可愛がって下さっているからか、俺の育成もしてもらってます。『バビロニア』の時も、カルデアでもですね」
「お前を雑種呼びとは…いや、それも当たり前か…そんなに凄い王なら…あと、お前がそこまで有能なのにも納得した…ヘクトールだけでなく、そこまで凄い王から育成を受けているとは…他の面々の事を考えるのが、心底恐ろしい…」
マスターの言葉を聞いた王はまたため息交じりに呟いた。色んな意味で自分の思い人が凄過ぎるし、何なら環境だって凄過ぎる。ここまでくると驚きとかも越してしまい、呆然とそう呟くしか出来ない。
「ダ・ヴィンチとやらが、俺を愚王と呼んだり、タタールをみみっちい国とか言う訳だ…いや、愚王の方は俺はそれだけの事をしたんだが…本気で恐ろしいな、お前とカルデアとやらは…」
うんざりとしたように呟く王にマスターは笑うしなかった。これも王の言う通りだし、王の態度とかも分かり過ぎるくらい分かるものだ。王の心情が痛い程に分かったマスターはひたすら笑うしかなかった。
「一応、聞いておこうか。何故、そこまで分かっていながら、俺から『傲慢な暴君の略奪者』を奪うと宣言した?」
「奪うしかなかったからですよ、マンドリカルド王。貴方は全力で思考を巡らした結果、この策を思い付き、俺に仕掛けてきた。俺に『傲慢な暴君の略奪者』を奪わせる為に。なら、俺の全力を尽くして奪うのが礼儀だ。全部の思考を巡らせ、あらゆる策を使い、全身全霊を持って、貴方を徹底的に叩きのめす。それをしなければ、貴方に失礼だからです」
「やはりか…やはり、お前はそこまで分かり、考えて…流石だよ、リツカ。流石は俺の最愛の人。やはり、お前こそが俺の全てを奪い尽くし、俺が本気で全てを奪い尽くすに相応しい思い人だ」
王の問いに真剣な表情をしながら、マスターは答えた。青い瞳に再び強い意志を宿し、王に向き合いながら答える。どこまでも誠実に真剣に自分に向き合ってくれる思い人に王は満足そうに笑うのだった。
「ちなみに、王手とやらは何だ?お前の事だ。どうせ、お前の故郷が関係しているのだろう?」
「そうですよ、マンドリカルド王。『王手』という言葉は俺の故郷にある『将棋』という遊戯で使う言葉です。将棋は専用の駒と盤と台を使い、戦略を駆使して戦争を繰り広げる遊戯です。駒は独自の能力を使える兵と王がいるのですが、相手の王の駒を取れば勝ちという遊戯です。将棋は遊ぶ人を『棋士』と呼びますが、棋士が次の番で対戦相手の王を仕留める時に『王手』と宣言します」
「なるほど。お前は次の一手で『誇り高きタタールの王』を奪う気か。正に王を仕留めようとするに相応しい宣言の言葉ではないか」
王の問いに説明するマスター。その説明を聞いた王は不敵に笑いながら頷く。そんな王にマスターも不敵に笑い、宣言する。
「ついでに言っておきましょう、マンドリカルド王。貴方は既に『詰み』になっています。王を逃す為の方法が一切無い状態の時を詰みと言います。これは、俺の故郷ではどうしようもない時にも言いますね」
「ほう?お前はそこまで考えて宣言したのか。王を仕留める事で戦争を終わらせる前に宣言するのに相応しい言葉だな」
「えぇ、そうです。貴方はもう俺から逃げられないんですよ、マンドリカルド王。何をしてもね。逃げられないし、俺も逃す気はありません」
容赦なく宣言してくるマスターに王はまた不敵に笑いながら答えた。そんな王にまた不敵に笑いながら、マスターは言い放つ。
「次の一手で『誇り高きタタールの王』を奪いに行きますよ、マンドリカルド王。『傲慢な暴君の略奪者』としてね」
「そうか」
にっこりと笑いながら言うマスターに王はそれだけ返した。どこか嬉しそうに、そして満足そうに笑いながら。