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2026 06/19
[chapter:陥落]
「さて…俺達の戦争も終わってしまったな、リツカ…」
「そうですね…」
ぽつりと呟くように王だったマンドリカルドは言った。そんな彼に頷くと、マスターはちらりと視線を外し、目当ての人物の名前を呼ぶ。
「…ダ・ヴィンチちゃん」
『マンドリカルド王との戦争、お疲れ様でした、立花君!しかも、マンドリカルド王に敗北宣言させて、勝利して!!これは徹底的にマンドリカルド王を叩きのめし、戦争に完勝した証拠だよ、立花君!素晴らしい戦争であり、また素晴らしい勝利だったとも!!』
「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん。皆もね」
絶賛するダ・ヴィンチにマスターは嬉しそうに笑った。満足そうにも笑いながら、マスターは尋ねる。
「多分さ、今、レイシフトの準備をしていると思うんだけど、あとどれくらい時間がある?」
『残念な事に、まだ時間があるんだよなぁ。諸々の準備をしなくちゃいけないから、時間があるんだよなぁ』
マスターの問いにダ・ヴィンチは悩みながら、答える。腕を組み、マスターから視線を逸らしながら呟く。
『困ったなぁ…これは困った…「傲慢な暴君の略奪者」と「誇り高きタタールの王」じゃなくなった、マンドリカルド王が立花君を口説いてしまうなぁ…口説けてしまうなぁ…これは本当に困ってしまったなぁ…』
わざとらしく呟くダ・ヴィンチ。そんなダ・ヴィンチを見て、彼女の意図を察した王だったマンドリカルドは即座に言う。
「感謝する、ダ・ヴィンチ殿。そして、カルデアにいる全てのリツカの力になる存在。僅かでも、俺に時間をくれてな」
『君の為じゃないよ、マンドリカルド王。本当に君の為じゃないんだ、マンドリカルド王。ただ、こっちがレイシフトの準備に手間取っているだけさ。だから、お礼なんていらないよ。君のなんて、特にいらないよ』
王だったマンドリカルドの言葉にダ・ヴィンチは即座に返す。不機嫌そうに、しかし何処か楽しそうに笑いながら。
そんなダ・ヴィンチに王だったマンドリカルドは笑いながら言った。
「それでも、俺に時間が与えられたのは事実。だから、感謝させてくれ。そして、謝罪させてくれ。貴方達のマスターに、王の俺が酷い事をして悪かったとな。受け入れも許しもしなくても、知ってはいて欲しい」
そこまで言うと、王だったマンドリカルドは首を緩く左右に振りながら、ぽつりと呟いた。
「馬鹿だよな…好きな相手を傷つけるなんて…状況が状況だったからって…それしか、なかったからとはいえな…」
『それ、君が言うの?他ならぬ、君がした癖に?』
吐き捨てるように呟く王だったマンドリカルドにダ・ヴィンチは即座に突っ込む。睨むように見るも、でも表情は笑いながらだ。
そんなダ・ヴィンチに王だったマンドリカルドも笑う。
「残念ながら、今の俺はただの『マンドリカルド』だ。『傲慢な暴君の略奪者』でも『誇り高きタタールの王』でもない。リツカに奪われたからな。どちらでも無いんだよ、ダ・ヴィンチ殿」
『じゃあ、君は何なんだい?今の君は何なのさ、マンドリカルド王?』
笑いながら言われた王だったマンドリカルドにダ・ヴィンチは即座に尋ねた。真剣な表情の癖に、にやりと笑いながら。
そんなダ・ヴィンチに王だったマンドリカルドは答えた。
「そんなの、決まってる。『リツカを愛するだけ』のマンドリカルドだ」
「え?」
はっきりきっぱり言い切った王だったマンドリカルドの言葉にマスターは目を見開いた。そんなマスターに向き合うと、王だったマンドリカルドは彼に笑いかける。
「冗談なく、今の俺にはそれと命しかないぞ。大英雄ヘクトールへの尊敬も憧れすらない。『傲慢な暴君の略奪者』で『誇り高きタタールの王』のマンドリカルドの時にリツカに奪われたからな。大英雄ヘクトールと対戦して満足して。だから、それすらない」
「それは…『マンドリカルド』としては…致命的では…?」
王だったマンドリカルドの言葉に目を見開いて驚きながら、マスターはそれだけなんとか言った。振り絞るように言われた言葉に王だったマンドリカルドは笑いながら答える。
「そうかもな。なら、いっそ『リツカを愛するだけの男』を名乗ってやろうか?俺はそれでも構わないぞ、リツカ」
「い、いや…せめて『マンドリカルド』の名前は奪われないで下さいよ…俺が奪い尽くすまでは『リツカを愛するだけ』の『マンドリカルド』では、いて下さいよ…」
「そうか。じゃあ、それを名乗ろうか。とりあえず、『マンドリカルド』ではあるしな」
王だったマンドリカルドの言葉にマスターは視線を外しながらも何とかそれだけ言った。気まずそうに視線を外すマスターに対し、王だったマンドリカルドは怒る事なく、笑いながらあっさりと頷いたのだった。
そんな王だったマンドリカルドの言動にマスターは嫌な予感がした。背中に冷たいものが流れる。本能が警告を鳴らす。もう戦争は終わり、命の危機はない筈なのに。
物凄く、嫌な予感がする。物理的なものではなく、精神的な面で。それも心が病むとかではなく、ある意味で厄介なものが危ない気がする。
「あと、俺からはお前には基本的に近づかない。お前が俺を殺すその時までは、そうすると約束しよう。『リツカを愛するだけ』のマンドリカルドでしかないがな」
『話は纏まったようだね。では、私は少しだけ席を外そう。レイシフトの準備をする為にね。終わったら、話しかけるからね、立花君』
王だったマンドリカルドの言葉を聞いたダ・ヴィンチはそう言った。いそいそと去ろうとするダ・ヴィンチを見て、マスターは慌てて声をかけた。縋るように引き止めるように、だ。
「ま、待って、ダ・ヴィンチちゃん!お願いだから、待って!!このマンドリカルドと、二人きりにしないで!お願いだから!!」
『それは君の一番のサーヴァントで恋人でもあるマンドリカルドに頼みたまえ、立花君。じゃ、私は準備に専念するから。頑張ってくれたまえ!』
「待って、ダ・ヴィンチちゃん!本当に待って!!本気で待ってよー!!」
泣き叫ぶように懇願するマスターにダ・ヴィンチはにっこりと笑いながらそれだけ答えると、あっさりと映像を切った。そんなダ・ヴィンチに無駄だと分かりつつも、マスターは何度も呼びかける。しかし、ダ,ヴィンチからの応答は全く無かった。
しばらく呼びかけていたマスターだったが、ダ・ヴィンチが絶対に応じないとようやく悟ると、そろそろと仲間の一人であるサーヴァントに顔を向けた。助けを求める為に恐る恐る口を開く。
「あー…俺のマンドリカルド…」
「俺、さっき言ったじゃないですか、マスター。最後まで見守るって。何があっても、最後まで、全部を見守るって」
おずおずと呼びかけてくるマスターに彼のマンドリカルドはあっさりと言い放った。全てを理解した上で情け容赦なくぴしゃりとマスターに言い放つ。
そんな自分のマンドリカルドの対応に、マスターの口の端が引き攣った。明らかに固まるマスターに彼のマンドリカルドはあっさりと言い放つ。
「つーわけで、俺達は見守るっすよ、マスター。あ、勿論、そいつが手を出そうとしたら、即止めますんで、ご安心を。ま、その『マンドリカルド』はしないでしょうけど。『リツカを愛するだけ』のマンドリカルドなんで」
「君まで、そんな事を言うの、俺のマンドリカルド?!俺を見捨てないでよ、俺のマンドリカルド!本気で俺を見捨てないでよ、俺のマンドリカルドー!!」
恋人で一番のサーヴァントのあんまりな対応にマスターは絶叫した。泣き叫ぶマスターに彼のマンドリカルドはため息をつきながら、答える。
「どうせ、レイシフトの準備が終わるまでのちょこっとの時間じゃないっすか。俺は確かにあんたの一番のサーヴァントであんたの恋人っすけど、何よりもあんたと対等であるが故にあんたを思い、あんたに配慮し、あんたの意思を尊重し、あんたの希望を叶える為なら、狭量な心さえ吹っ飛ばして寛大過ぎる心を持つ立派過ぎる彼氏様でもあるんで、見守るっすよ」
「酷いよ、俺のマンドリカルド!このマンドリカルドと二人にしないでよ!!助けてよ、俺のマンドリカルドー!」
「だから、俺はあんた達の全部を見守るから、この場にはいるっすよ、マスター。んで、危険だと判断したら、すぐに止めますから。他にも、あんたのサーヴァントはいますし。だから、安心して下さいって」
助けを求めるマスターに彼のマンドリカルドはそう言うのだった。情け容赦なく自分を見放す恋人にマスターは項垂れてしまう。そのまま、ちらりと他の仲間を見たら、全員が視線を逸らした。あからさまな裏切りにマスターは軽くため息を吐く。
「リツカ。まずは、これだけは言わせてくれ。俺はお前の全部を受け入れるぞ、リツカ。お前の全部が好きで愛しているからな」
マスターとサーヴァント達のやりとりを見た王だったマンドリカルドはそう言い放った。彼らの対応を見て、無事にマスターを口説けそうだと判断したようだ。情け容赦なくマスターに仕掛けてくる。
「今の俺は『リツカを愛するだけ』のマンドリカルドでしかないからな。お前の希望は全部叶えられるよ。お前が望むなら、お前の好きな愛し方にだってするぞ?」
「貴方のままでいいですよ…貴方のやり方で俺を口説くなり、何なりして下さい…それは、貴方の自由なんで… 『リツカを愛するだけ』のマンドリカルドの自由なんで…」
王だったマンドリカルドの言葉にマスターはため息をつきながら答えた。もうどうにでもなれとばかりに自棄にさえなりながら、吐き捨てるように呟く。マスターの許可を得た王だったマンドリカルドは水を得た魚のようにうきうきとさえしながら、上機嫌に笑いながら言った。
「んじゃ、全力で口説かせてもらうよ、リツカ。俺はお前が好きだ、リツカ。そして、お前を愛してもいるよ、リツカ」
初っ端からとんでもない攻撃を仕掛けてきた。今まで素直に言えなかった言葉をさらりとぶつけてくる。そのままの勢いのまま、王だったマンドリカルドはマスターを口説き始める。
「お前は本当に全部が可愛くて綺麗で美しくて魅力的だからな。それだけの魅力がお前にはある。好きだ、愛してるって、全力で言えるだけの魅力があるからな。何なら、『誇り高きタタールの王』のマンドリカルドみたいに、全部を語ってやろうか?」
「それは、ちょっと…レイシフトの準備も終わってしまうだろうし…」
王だったマンドリカルドの言葉にマスターは微かに顔を赤らめながら、そう言った。あれだって、中々熱烈だったのだ。今の王だったマンドリカルドにそれをやられたら、身が持たない。冗談抜きに仕留められてしまう。
そう思ったマスターはため息交じりに呟いた。
「本当に、だだ漏れ過ぎる…いくら何でも、豹変し過ぎじゃ無いですか…貴方、そんな人でしたっけ…?俺を狂う程に愛し過ぎるあまり、変態的な行動すらしていた貴方は、どこへ行ったんです…?」
「今も狂う程にお前を愛しているよ、リツカ。お前を前にして、興奮だってしている。興奮しているから、ひたすらにお前が好きだ、愛しているという言葉を出しているだけだ」
マスターの呟きに王だったマンドリカルドはまたさらりと言い放った。にこにこと上機嫌に笑い続けながら、マスターに説明する。
「何にもないから、全部が出てしまうんだ。お前への愛しかないから、お前への愛が全部出てしまうんだよ。だから、何度だって言わせてくれ、リツカ。俺はお前が好きで、同時にお前を愛してもいるって」
「ここまで豹変するなら、最初からそうして下さいよ…いや、俺は俺のマンドリカルドしか恋人にしませんけどね…」
また全力で口説いてくる王だったマンドリカルドにマスターはまたため息をついた。呆れ返りながら、呟く。
「少なくても、今の貴方なら強姦未遂やら何やらはしなかった筈だ…今の貴方に対して、俺の好感度も高いのですから…」
「そうか。それは良い事を聞いた。殆ど全部、お前に奪われた甲斐があったよ、リツカ。お陰でお前もお前なりに俺に愛を返してくれるしな」
マスターの言葉を聞いた王だったマンドリカルドは笑いながら、そう言った。が、少しだけ考えるように軽く上を向いて呟く。
「いや、お前を捕らえていた時も優しくて穏やかな時は、お前はお前なりにちゃんと俺に愛を返してくれていたか。お陰で俺はお前に癒されていた。あの時もお前の愛に俺は満たされていた。ただ、あの時の俺は『傲慢な暴君の略奪者』で『誇り高きタタールの王』だったし、何よりお前の恋人を始めとしたお前の仲間がお前を奪いに来るだろうという予測から、恐怖と怒りと憎しみも感じてもいたがな」
思い出したからか、軽く身震いさえしながら、王だったマンドリカルドは呟く。が、すぐにマスターへと向き合うと笑いながら言った。
「だけど、今はその辺も大丈夫だし、俺もお前への愛以外、何もないし。何より、時間もないしな。だから、何度でも言うよ、リツカ。俺はお前が好きだ。俺はお前を愛している。それくらい、俺はお前が好きで愛している。本気でお前の全部が好きで愛しているんだ」
「…貴方は狡いよ」
本気で全力で口説いてくる王だったマンドリカルドにマスターは顔を赤らめた。死ぬ間際だからか、ひたすら必死で強烈で熱烈。攻撃力は最大まで高くなっている。まさに間際の一撃だ。
おかしいな。この人はサーヴァントのマンドリカルドじゃないのに。あくまでも生者な筈。ロジェロに殺されなかったマンドリカルドなのだから。なのに、何で、間際の一撃が使えるの?サーヴァントのスキルは一切使えない筈なのに。
マスターは心の中で呟くと、仕掛ける事にした。王だったマンドリカルドからの怒涛の攻撃に仕返ししてやるとばかりに、マスターは仕掛ける。
「俺の故郷には熱烈な口説き文句が山程あるんですが、その中に俺のお気に入りの口説き文句があるんです」
「何だ?お前がそこまで言うんだから、凄い口説き文句なのは分かるが、ぜひとも聞きたいな。ぜひとも教えてくれ、リツカ。お前の故郷独自の口説き文句でもあるようだしな」
マスターの言葉を聞いた王だったマンドリカルドは上機嫌に笑いながら、尋ねた。マスターの事が知れてうれしいのか、それとも愛するマスターの故郷の文化を知れて嬉しいのか、はたまた愛するマスターの故郷に余程興味があるからか。また、うきうきとしながら尋ねる。
そんな王だったマンドリカルドにマスターは言い放った。
「『月が綺麗ですね』。意味は愛している」
「凄い口説き文句だな。しかも、月を使うなんてお洒落で素敵だ。リツカがお気に入りなのも分かるし、俺も好きだ。いい口説き文句だ。素晴らしい口説き文句だ」
マスターの言葉を聞いた王だったマンドリカルドは心底感心しながら、そう返した。感激もしているからか、微かに体が震えている気がする。そして、その感動を伝えるべく、マスターに言い放つ。
「だから、俺も言わせて貰うよ、リツカ。『月が綺麗ですね』」
「その返しも複数ありますが、その中でも俺のお気に入りがあります。だから、貴方にはそれを言います」
情け容赦なく口説いてくる王だったマンドリカルドの言葉を軽く無視し、マスターは仕掛ける事にした。少しでも、マンドリカルドに仕返ししようと全力で仕掛ける。
「…『死んでもいいわ』」
「俺と死んでくれるじゃないか」
少しだけ溜めて言ったマスターの言葉に、王だったマンドリカルドはまたさらりとそう返した。その一言にマスターの顔が一気に赤く染まる。そんなマスターが嬉しいのか、更に王だったマンドリカルドはにこにこと上機嫌に笑いながら、言った。
「俺の全部を抱えて、俺と共に未来に進むのだろう?なら、ずっと一緒だろう?お前の中の俺は。お前が死ぬ時まで一緒だから、一緒に死ぬじゃないか」
「そういう所ですよ、マンドリカルド… 『リツカを愛するだけ』のマンドリカルド…」
あまりにも熱烈過ぎる口説きに、とうとうマスターは撃沈した。額に手を当てて俯き、頭を抱え込む。
駄目だ。これは勝てない。本気で勝てる気がしない。むしろ、負ける。負けてしまう。
『マンドリカルド』って、皆、こうなの?俺の恋人の『マンドリカルド』みたいな事を言ってるんだけど?この『マンドリカルド』も言ってるんだけど?
そんで、仕留められそうになってるんだけど、俺?恋人のマンドリカルド以外に口説かれてるのに、仕留められそうになってるんだけど?この俺がだよ?誰よりも恋人のマンドリカルドを愛している、この俺がだよ?恋人のマンドリカルド以外に。
大丈夫か、俺?
マスターは項垂れながら、そう思ったのだった。そんなマスターに救いの手が差し伸べられる。
『立花君、レイシフトの準備が出来たよ』
「そう…ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん…」
ダ・ヴィンチだった。ほっと安堵の息すら溢しながら、マスターは返答する。軽く礼を言うと、改めて王だったマンドリカルドに向き合う。
さぁ、お別れの時間だ。これで、本当に全てが終わる。タタールという特異点が、マンドリカルド王との全ての時間が終わってしまうのだ。
「さぁ、リツカ。俺を殺してくれ。そして、俺の全てを奪い尽くしてくれ。俺がお前の全てを奪い尽くせる、その時まで一緒にいる為に」
王だったマンドリカルドは満面の笑みでそう言った。マスターの全てを受け入れると言わんばかりに両手を広げ、マスターの言動を待つ。
「お前の愛で俺を殺してくれ、リツカ」
「分かりました…貴方を殺し、貴方の全てを奪い尽くしましょう、マンドリカルド王…」
マンドリカルド…いや、マンドリカルド王の言葉に頷くと、マスターは彼に手を伸ばした。彼に抱きつき、首の後ろに手を伸ばして自分に引き寄せる。マンドリカルド王も広げていた腕をマスターの背中に回し、抱き締める。最後の抱擁をする為に力一杯抱き締める。
「愛してる。マンドリカルド王」
「俺は好きで愛してるぞ、リツカ」
マスターの言葉にマンドリカルド王はそう返す。それを聞くと、マスターは自らマンドリカルド王の唇に口付けた。そこから、己の愛をマンドリカルド王に注ぐ。
マンドリカルド王を殺す為に。マンドリカルド王を愛で殺す為に。そして、マンドリカルド王の全てを奪い尽くす為に。
マスターから愛を注がれたマンドリカルド王は笑っていた。幸せそうに満足そうに満面の笑みを浮かべる彼の体がきらきらと輝き始める。まるで、サーヴァントが座へと還る時みたいに。
それを確認したマスターは唇を離した。そんなマスターにマンドリカルド王は最後の言葉をかける。最後の最後にマスターに直接、自分の気持ちを言えるこの時の言葉をマンドリカルド王は決めていた。
「ありがとう、リツカ…俺を愛してくれて…心の底から、本気で愛してくれて…俺をお前の愛で殺す程に愛してくれて…ありがとうな…」
それだけ伝えるとマンドリカルド王は消えていった。それと同時にマスターの体の中が何か温かくなった気がした。
どうやら、マスターは無事にマンドリカルド王の全てを奪い尽くせたらしい。殺す事で奪い尽くせたらしい。マンドリカルド王から、無事に『傲慢な暴君の略奪者』へと全てを奪い尽くせたようだ。『人類最後のマスター』にして、『傲慢な暴君の略奪者』は無事にマンドリカルド王の全てを奪い尽くせたようだ。
「言い逃げなんて、狡いなぁ…」
目の前で消えていったマンドリカルド王にマスターはぽつりと言った。ちょっと拗ねたように剥れてすらいる。
そんな中、崩壊が始まる。タタールが崩壊を始める。死ぬ為に崩壊が始まる。
「本当に俺の全部、奪われ尽くされちゃったなぁ…奪われ尽くされちゃったよ…」
笑いながら、マスターは呟いた。拗ねながらもどこか満足そうに、満たされさえしながら。壊れゆくタタールでマスターはマンドリカルド王を思い、呟く。
「さようなら、マンドリカルド王…俺も貴方が好きで愛してますよ…」
そこまで呟くと、レイシフトが発動し、マスターはカルデアへと戻って行った。宣言通り、マンドリカルド王の全てと共に。奪い尽くしたマンドリカルド王の全てを抱えて。
未来へ進む為に。共に未来に進む為に。マスターの全てが終わり、マンドリカルド王に全てを奪い尽くされるまでの、遥か先であって欲しい未来へと進む為に。
「悪かったよ、王の俺…」
宣言通り、全てを見守ったマンドリカルドも呟いた。本当にマスターに全てを奪い尽くされ、死んだ王の自分を思って。
「お前、本当に自分が言った約束は守るんだな…守っちまったな…」
それだけ呟くと、マンドリカルドもレイシフトでカルデアへと戻って行った。他のサーヴァント達もカルデアへと戻って行く。
後には崩壊するタタールだけが残った。そして、死んでいった。先に死んだマンドリカルド王の願いを叶えた対価の代償となったのだった。