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2026 06/19
[chapter:鍾愛]
「色々としんどいんだけど?流石の俺もしんどいんだけど?諸々としんどいんだけど?」
「おっと、大分効いてるようっすね。少しは俺達の気持ちを分かって貰えたようで何よりです」
カルデアの廊下を歩きながら、思わずぽろりと溢した言葉を聞いたマンドリカルドは笑いながら言った。そんなマンドリカルドから視線を逸らしながら、マスターは呟く。
「そりゃ、あれだけ言われれば…流石の俺もね…」
「そりゃあ、何よりっす」
マスターの言葉を聞いたマンドリカルドは上機嫌に満足そうににこにこと笑いながら、そう言った。意地悪な恋人にマスターは拗ねたように唇を尖らせ、顔も背ける。
何というか、しんどかった。自分なりに彼らの気持ちを理解し、受け止め、自分なりに愛を返していたつもりだったが、そんな事は無かったんだなと思い知らされた。彼らは自分が思っている以上に自分を愛していたのが分かったのだから。
今なら、少しだけ分かる。何故、自分の言葉を聞いた彼らが衝撃を受けたのか。自分は彼らの気持ちを本当に表面的にしか受け止めておらず、それだけだと思い、自分を嫌い、貶し、侮辱したのはだから。彼らがこんなにも愛してくれる自分を他ならぬ自分が嫌い、貶し、侮辱したのだから。彼らがあらゆる意味で衝撃を受けるのは当たり前である。
そんな恋人にマンドリカルドは怒る事はなかった。にこにこと上機嫌に笑いながら、尋ねる。
「で、誰がキツかったっすか?」
「言葉はカドック…体はオベロン…本当にきついんだけど…特にオベロンのメロン攻撃が…」
「あいつ、ひたすらマスターにメロンを食わせてきましたもんねぇ…」
マンドリカルドの言葉にマスターが思わず顔色を悪くして答えると、マンドリカルドは思わず苦笑してしまった。そんなマンドリカルドに気付いているのかいないのか、マスターはぱんぱんになったお腹に手を当て、思わず擦る。何というか、ひたすら食べさせられたメロンで一杯過ぎてお腹がしんどい。ひたすら、しんどい。
カドックはあらゆる意味で耳が痛かったが、オベロンはひたすらお腹が辛かった。とにかく、自分が大切に取っておいたメロンを食べさせてきたからである。最後の方は「俺の!メロンが!!食えないのか!」等とブチ切れながら怒鳴り、ひたすらマスターの口にメロンを突っ込んできたのだ。変な酔っ払いより酷い。あまりにも酷すぎて、思わず周りがマスターの体を心配して止めてきた程だ。
最後にアルトリア・キャスターが「マスターに吐く程、メロンを食べさせるんじゃないよ、オベロン!」とブチ切れながら怒鳴り、頭を叩いて止めたのだった。そこで、ようやくオベロンは止まったのである。お陰でマスターのお腹の中は無理やり突っ込まれたメロンで一杯だ。こんなのではマスターに自分達の愛を伝え、マスターの心の傷を癒すなんて無理である。
そこまで考えたマンドリカルドはひたすら笑うしかなかった。何というか、あの妖精王様の愛の伝え方はひたすら不器用である。まぁ、彼なりに確かにマスターを愛しているのは分かるが。
「んじゃ、締めは俺っすね。最後に俺から、あんたに俺の愛を伝えさせて貰いますっす」
「別にいいよ。君の気持ちは嫌って程、分かってるんだから」
マスターに体ごと向き合うとマンドリカルドはそう言った。そんなマンドリカルドにマスターも向き合うと分かっているとばかりに拗ねるように呟く。そんなマスターにマンドリカルドは逃がさないとばかりに笑いながら、言った。
「まぁ、そう言わずに。俺の気持ちを聞いて下さいよ、マスター。あと、これは宣言と周りへの牽制も兼ねているんで。周りにばっかり、あんたへの愛を伝えさせておきながら、あんたの一番のサーヴァントであんたの恋人の俺が伝えないわけにはいかないっしょ?」
そう言うと、マンドリカルドはそっとマスターの右手を手に取った。右手にはマスターの証である赤い令呪の紋様。タタールで二回使ったから、あと一画分しか紋様はない。
でも、大丈夫。普通の聖杯戦争の時は使うと消えてしまうが、マスター藤丸立花の令呪は特殊なもの。あえて使用用途に制限をつけ、わざと弱体化させる事で時間が経つと回復する。この赤い紋様も時間が経てば、元の紋様に戻るだろう。
逃げられないように右手を掴みながら、マンドリカルドはマスターを真っ直ぐ見つめて言った。マスターもマンドリカルドを見つめ返す。大好きな恋人の言葉を一つも逃したくないとばかりに。灰色の瞳と青い瞳が交差する。お互いに深い愛を込めて。
「マスター・藤丸立花。俺達のマスター。俺達が愛し、俺達を愛してくれるマスター。俺達はあんたのものです。俺達はあんたのサーヴァントです。あんたの為なら、俺達はいくらでもあんたの力になります。あんたの為なら、俺達はいくらでも力を奮います。あんたの為なら、いくらでもあんたを守り続けます。命を尽くします。あんたの為に全てを尽くします。だから、使って下さい。俺達を使って下さい。俺達を使い続けて下さい。それで、あんたの力になれるなら。それで、あんたが守れるなら。それで、あんたが生き残れるなら。俺達を的確に使って下さい。あんたのその優秀な頭を使って使い続けて下さい。俺達はその為にいるんです。あんたの為にいるんです。あんたの力になる為にいるんです。あんたを守る為にいるんです」
「俺達はあんたを愛しています。俺達はずっとあんたを愛し続けます。あんたが俺達の愛を信じられないなら、俺達はあんたに愛を伝えます。あんたに愛を伝え続けます。ずっとずっとあんたを愛し、あんたに愛を伝え続けます。あんたが好きだから。あんたを愛しているから。俺達はそれくらいあんたが好きで、あんたを愛しているから」
「あんたが望むなら、あんたが願うなら、俺はまた傲慢な暴君の略奪者になりましょう。俺が誰より忌み嫌っている傲慢な暴君の略奪者になりましょう。あんたの為になってやりましょう」
「でも、それは俺の愛じゃない。それは俺の愛し方じゃない。俺はあんたの為に力を尽くしたい。俺はあんたと対等でいたい。俺はあんたと共に成長したい。俺は誰よりもあんたの傍にいたい。あんたが間違った時、あんたを正し、あんたを正しい道へと行けるように力になりたい。誰よりも間違いが怖いあんたの為に俺はあんたを正します。あんたの友にはなれないけど、あんたの一番のサーヴァントとして、それを約束します」
「だから、進んで下さい、マスター。恐れず、怯まずに進んで下さい。あんたが信じる道を進んで下さい。あんたが後悔しないように進んで下さい。時には怖くなるでしょう。時には恐れるあまり、立ち竦むでしょう。でも、大丈夫です。俺達がいます。俺達があんたの力になります。俺達があんたを守ります。俺達があんたを支えます。だから、立ち続けて下さい。そして、立ち向かって下さい。俺達と共に戦い続けて下さい。あんたが諦めない限り、俺達もあんたと戦い続けるから。あんたの為に全てを尽くすから。だから、ずっと戦い続けて下さい。ずっと旅し続けて下さい。世界の為なんかじゃない。人理の為なんかじゃない。他ならぬあんたが、あんたの人生を生ききれるように俺達は戦うんです」
「それが信じられないなら、俺だけでもあんたの為に戦います。俺だけでも、あんたを守ります。俺だけでも、あんたに尽くします。俺はあんたが好きだから。あんたを愛しているから。あんたの恋人だから。少なくとも、それだけは分かって下さい、マスター。俺が誰よりも愛している、マスター。俺が誰よりも愛し、俺が誰よりも尊敬し、俺が誰よりも尽くしたい、マスター。誰よりも愛し尽くしたい、マスター。愛しい愛しいマスター。俺の最愛のマスター、藤丸立花。俺の最愛の人の藤丸立花」
「あんたになら、俺は全てを捧げたっていい。あんたになら、俺は全てを奪われてもいい。あんたが望むなら、何でもする。何だってする。あんたの為に英雄ヘクトールの武具だって集めるし、デュランダルだって手に入れる。あんたの為になるなら、またデュランダルを求めて強くなる。あんたの為に絶対に手に入れてやる。それで、あんたの力になれるなら、絶対に手に入れてやる。他ならぬ、あんたの為だけに」
「だから、許して下さい。他ならぬ、あんたが許して下さい。あんたの傍にいる事を。あんたの隣にいる事を。あんたの一番のサーヴァントである事を。そして、あんたの恋人でいる事を。俺のマスターである、あんたが。そして、俺が誰よりも愛する、マスターのあんたが」
「俺達のマスター。俺達が誰よりも愛し、尊敬し、俺達が誰よりも敬うマスター。人類最後のマスターにして、俺達のマスターである藤丸立花。あんた以外に俺達のマスターになれません。あんた以外に人類最後のマスターになれません。あんたは、それだけ偉大なマスターなんです。俺達が誰よりも誇るマスターなんです」
「そして、俺の最愛の人にして、俺の恋人。俺はあんたが好きです。俺はあんたを愛しています。マスターとしても愛していますし、一人の人間としても愛しています。藤丸立花を愛しています。俺、マンドリカルドは藤丸立花が好きで、藤丸立花を愛しています。だから、あんたの全てを受け入れさせて下さい。あんたの全部を受け止め、あんたの全部を受け入れたい。あんたの全部が好きで愛しくて愛しているから。あんたが嫌いであんたが愛せない部分も俺は受け止め、受け入れたい。あんたの全部が本気で好きで愛しくて愛しているから。俺はあんたの全部を受け入れますよ、マスター。それくらいには俺はあんたが好きで愛しくて愛していますから」
「だけど、同時に俺や俺達の気持ちも言わせて下さい。出来ればでいいから。可能だったらでいいから。せめて、知ってはいて欲しい。自分を嫌わないでくれ、マスター。自分を卑下しないでくれ、マスター。自分を侮辱しないでくれ、マスター。自分を愛してくれ、マスター。俺達の愛するマスターで、俺の最愛の人である、藤丸立花。あんたが、他ならぬあんたがあんたを嫌い、憎む姿を見るのは堪らなく悲しくて、堪らなく辛いから。俺は、俺達は悲しくて辛いんだ。だから、自分を愛してくれ、マスター。俺の最愛の人の藤丸立花。出来る範囲でいいから。俺は、そんなあんたも好きだけど、だけど同時にあんたがあんた自身を嫌ったり憎んだり愛せない事自体は悲しくて辛くもあるから。出来れば、この気持ち自体は分かって欲しい。可能なら、なんとかしてもらえると助かります。それくらい、悲しくて辛くなってしまうんですよ、俺達は。勿論、俺自身も。そう思ってもしまうくらい、俺はあんたが好きで、あんたを愛しています」
「あんたが愛を信じられないなら、何度だって言ってやる。何度だって言い続けてやる。俺はあんたが好きだって。俺はあんたを愛しているって。だから、言ってくれ、立花。あんたが不安になる度に言うから。あんたに愛を伝え続けるから。それくらい俺はあんたが好きで、あんたを愛しているんすよ、立花。他の誰よりも誰よりも好きで愛しているんすよ、立花」
「立花。俺が心から愛し、慈しみ、愛し尽くしたい程に愛しい人。俺はあんたを愛しています、藤丸立花。俺の最愛の人」
そこまで言うと、マンドリカルドはその右手の甲にそっと口付けた。赤い紋様があるそれに恭しく口付けた。恋人の熱烈な言葉と気障ったらしい仕草にマスターは顔を赤らめ、ふいっと顔を逸らす。
「狡いよ、マンドリカルド…俺が君のそういう所に弱いって分かって、やるんだから…」
「あんたには、これくらいしないと分からないみたいっすからね。そりゃ、やりますよ」
拗ねたように呟くマスターにマンドリカルドは笑いながら、そう言う。どうやら、自分の愛はちゃんとマスターに届いたらしい。それが嬉しくて、マンドリカルドは思わず笑みを浮かべる。
穏やかに嬉しそうに笑うマンドリカルドにマスターは拗ねてた。唇を尖らせ、顔を背けてしまう。顔を赤くしたまま。
「狡いなぁ…俺の恋人、狡過ぎるなぁ…俺の弱い所、的確に攻めてくるんだから…」
「そりゃ、そうっすよ。敵の弱点を突くのは、戦いの基本中の基本。なら、そこを突くのは当たり前っす」
ぽつりと呟くマスターにマンドリカルドはしれっと返した。そして、そっと右手を離すと顔を背けるマスターを見つめ、さらっと言う。
「あと、あれっすね。これ、全部が俺の本心なんで。嘘、偽りのない俺の本心なんで。本心を…自分の愛を恋人に全部伝えるのは、当たり前っしょ?」
「…そういう所だよ、マンドリカルド!」
マンドリカルドの言葉にマスターは顔を真っ赤にしたまま、そう叫ぶのだった。耳まで真っ赤にしながら、叫ぶのであった。