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2026 06/19
[chapter:情炎]
「んじゃ、医務室に戻りましょうか」
「え?」
自分がいかにマスターを愛しているかを伝え、またマスターもそれを分かってくれたと判断したマンドリカルドはそう言った。そんなマンドリカルドの言葉にマスターは声を漏らす。首を傾げながら、自分を見るマスターにマンドリカルドは笑いながら言う。
「いや、だって、全員の所に行ったじゃないっすか。んで、全員の気持ちを聞いて、マスターも皆の気持ちが分かったっしょ?なら、その機器はいらねぇじゃねぇっすか」
「あ、そうか。それもそうだね」
「医務室に行ったら、その後にマスターの部屋に送るっすよ。んで、そのまま休んで下さい」
「ん?」
マンドリカルドの言葉に一旦は頷いたマスターだったが、続けられた言葉には首を傾げた。そして、じっとマンドリカルドを見る。
「えっと…一緒に…だよね…?俺の部屋で…二人で休む…んだよね…?」
「いや、マスター一人で、っすね。俺は自分の部屋に帰って休むんで」
「え?」
マスターが確認するように尋ねると、マンドリカルドはそう答える。その言葉にマスターはまた声を漏らした。そんなマスターに笑いながら、マンドリカルドは言う。
「色々あって、疲れたじゃないすか、マスター。だから、今日はゆっくり休んで下さい。俺も、そうするんで」
「そ、そうきたか…」
マンドリカルドの言葉にマスターはぽつりと呟いた。少しだけ考え込むと、口を開く。
「あ、あのさ…マンドリカルド王の城に潜入する前にさ…約束した、でしょ…?カルデアに戻って、二人っきりになったら…エロい服を着て…エロい事をしよって、さ…」
「それは、後日にしましょう。踊り子の服も無くなっちまいましたし」
マスターの言葉にマンドリカルドは困ったように笑いながら、言った。それにマスターはまた考え込む。
確かに踊り子の服は強姦されかけた日に城で風呂に入る前に脱いで、そのまま王の部屋に置いてきてしまった。だから、もうあの服はない。だから、マンドリカルドの言う通りではあるのだが…
そこで、マスターは攻め方を変える事にした。
「い、医神様が、さ…マンドリカルドに言ったじゃん…『マスターを色んな意味で慰めてやれ』ってさ…そ、それは…?」
「それは、明日にしましょうよ。今日は、その為にも休んだ方がいいでしょうし」
マスターの言葉に、やっぱり困ったように笑いながら、マンドリカルドは言った。そんなマンドリカルドにマスターは黙り込む。
これは分かっている。分かっていながら、マンドリカルドは休もうと言っているのだ。マスターが、さり気なくそういう事をしようと言っているのに、マンドリカルドは休もうと言って断っている。
それが分かったマスターはマンドリカルドに突撃するように抱き付いた。勢い良く抱き付いてくるマスターをマンドリカルドは驚いたように見つめる。縋るように抱きつくマスターをマンドリカルドは不思議そうに見る。
「…マスター?」
「…くれない、の?」
「え?」
戸惑いながら、マンドリカルドが声をかけると、マスターはぼそりと呟いた。よく聞こえなかったからか、マンドリカルドが声を漏らすと、マスターは顔を上げた。潤んだ青い瞳がマンドリカルドを捕らえた。
「ご褒美…くれないの…?」
「それは…」
泣きそうな顔で自分を見つめるマスターにマンドリカルドは思わず顔を背けた。そんなマンドリカルドにマスターは詰め寄る。
「俺…頑張ったよ…?凄く凄く…頑張った…すっごく…頑張った…色々あって…怖かったりもしたけど…頑張った…」
「そ、そうっすね…」
マスターの言葉にマンドリカルドは戸惑いながらも頷く。やはり、王にされかけた強姦未遂はマスターの心の傷になっていたらしい。マンドリカルドによる、一時的な癒しだけでは足りなかったようだ。
戸惑うマンドリカルドにマスターは更に畳み掛けてくる。
「君の為に頑張った…君に愛されたいから、頑張った…君も見たよね…?俺が頑張るの…見たよね…?」
「そ、そうっすね…あの王の俺との戦争…凄かったっすもんね…お見事っした…」
「だよね…?君も、あの場にいたから…あの場で…君も見守ったんだから…」
マスターの言葉に戸惑いながらも、マンドリカルドはマスターと王の自分の戦争を思い出し、呟く。それにマスターは即座に返し、そして逃さないと言わんばかりにマンドリカルドを見つめる。
「だから、ちょうだい…?君の愛というご褒美をちょうだい…?ちょうだいよ、俺のマンドリカルド…」
「そ、それは…その…明日、に…」
「嫌だ。今がいい。今すぐがいい。今すぐがいいんだ。俺のマンドリカルド」
マスターの言葉に顔を逸らしたまま、マンドリカルドは答える。そんなマンドリカルドにマスターは、また即座に言った。マンドリカルドに抱きついたまま、彼の首の後ろに手を回し、耳元で囁く。
「好き…好き、俺のマンドリカルド…愛してる…愛してるよ、俺のマンドリカルド…君が好きで、君を愛している…俺は君が好きで、君を愛しているんだ、俺のマンドリカルド…」
マスター言葉を聞いたマンドリカルドは天を仰いだ。滅多に聞けないマスターからの熱烈な愛の口説き文句に感動し、その喜びを噛み締めているのだ。感動のあまり、泣きそうになる目元を手で抑える。
え?何すか、これ?ご褒美?ご褒美っすか?頑張った俺へのご褒美っすか?一杯、耐えたり我慢した俺へのご褒美なんすかね?
マスターじゃなくて?頑張りまくったマスターじゃなくて?なのに、何で俺にご褒美なんすか?俺も頑張ったからっすか?俺も諸々、頑張ったっからっすか?いや、マジで何でなんっすか?訳が分かんねぇんすけど?
マンドリカルドは割と本気でそう思った。それくらい、マスターがこういう事をマンドリカルドに伝えるのは珍しいのだ。いや、二人きりの時なら、それなりにはあるが、こんな熱烈なものは滅多にされない。
しかも、ここはカルデアの廊下。他にも人はいる場だ。こんな場所で熱烈に口説かれるなんて、初めてなのである。なのに、喜ぶなと?それは無理な話である。
そんなマンドリカルドにマスターは言葉を続ける。
「好きだよ、俺のマンドリカルド。愛しているよ、俺のマンドリカルド。俺の大好きな人で、俺が愛している人で、俺の恋人。だから、ちょうだい。君の愛をちょうだい。君の全部をちょうだい。俺に君の全部をちょうだい。浅ましくも醜く、そして欲深い俺に君の全部をちょうだい!」
「…マスター?」
それを聞いたマンドリカルドは正気に返った。おかしい。何かがおかしい。その前はそこまでおかしくなかったのに、最後の一言は明らかにおかしい。マスターにしてはおかし過ぎる。
頭の中で警告が鳴る。聞いてはならないと警告が鳴る。でも、止められない。止めてやれない。
聞きたい。その先を聞きたい。初めて知るであろう、マスター…立花の言葉を聞きたい。
立花の本当の気持ちが知りたい。立花の願いを知りたい。
その欲求のまま、マンドリカルドは立花の方に振り向いた。すると、熱を孕んだ青い瞳が自分を見つめていた。
それを見たマンドリカルドは驚きの余り、目を見開いた。そのまま、マンドリカルドは思わず、後ずさる。逃げようとしたのか、一歩後ろに動くが、立花はそれを許さない。離れようとするマンドリカルドに自分も離れた分だけ彼に近づき、縋るように彼の服を掴む。そして、逃げようとするマンドリカルドを熱を孕んだ青い瞳で捕らえる。
そんな立花にマンドリカルドはまた驚き、更に灰色の目を見開いた。そんなマンドリカルドに立花は叫んだ。
「俺は君の全部が欲しいんだ!君が何よりも憎み、何よりも嫌悪する過去の君だって欲しいんだ!!俺は君の全部が欲しいんだよ、俺のマンドリカルド!それくらい、君を愛しているんだ!!」
その言葉を聞いたマンドリカルドは思わず両手で口を塞いだ。叫びたくなる衝動を抑えるように首を横に振る。首を横に振りながら、必死に叫ぶ。心の中で叫ぶ。叫びたくなる思いを否定するように心の中で叫ぶ。
駄目だ、立花!それは駄目だ!!それ以上は駄目だ!それ以上は駄目なんだ!!俺はあんたが好きだから、駄目なんだ!あんたを愛しているから、駄目なんだ!!
誰よりもあんたを尊び、誰よりもあんたを愛し、あんたを慈しんでるから、駄目なんだ!誰よりも気高く美しく、誇り高いあんたを傷つけたくないんだ!!誰よりも愛しているからこそ、誰よりもあんたを大切にしたいんだ!俺なりにあんたを愛し、愛し尽くしたいから、駄目なんだよ、立花!!
「証明しただろう?!俺は証明しただろう?!君が忌み嫌う君も俺が愛しているのを証明しただろう?!過去の君が望む通りに俺の愛で過去の君を殺しただろう?!過去の君が望む通りに君の全てを奪い尽くしただろう?!君だって、見届けたじゃないか!最後まで、見届けたじゃないか!!」
その言葉にマンドリカルドは必死で首を振る。否定するように首を振る。そして、心の中で叫ぶ。
言うな!言うんじゃない!!それを言うんじゃない!それを言ってはいけないんだ、立花!!その事実を言ってはいけない!言ってはいけない事実なんだ!!
だから、やめろ!やめるんだ、立花!!欲しくなる!あんたが欲しくなる!!あんたの全部が欲しくなる!あんたの全部を奪い尽くしたくなる!!
「だから、俺にちょうだい!君の全部をちょうだい!!俺に奪わせて!俺に君の全てを奪わせて!!他ならぬ、俺に奪わせて!君を愛しているから!!君だけを愛しているから!誰よりも君を愛している俺に奪わせてよ、俺のマンドリカルド!!」
否定するように首を横に振り続けるマンドリカルドに立花は叫んだ。服を掴み続け、逃がさないとばかりに叫ぶ。マンドリカルドが欲しいと叫ぶ。そんな立花に抵抗するようにマンドリカルドは首を横に振り続け、見つめた。そして、心の中で叫び続けた。
やめろ、立花!そんなに俺を欲しがるな!!俺はあんたを愛しているんだ!あんたを愛し、尊び、慈しみ、愛し尽くしたいんだ!!あんたを愛してるからこそ、あんたを大切にしたいんだ!
獣の俺を呼び覚ますな!略奪者の俺を呼び覚ますな!!一度でも目覚めれば、俺はとまれない!とまれないんだ!!あんたの全てが奪いたくなる!あんたの全てを奪い尽くしたくなる!!
あんたの尊厳を奪いたくなる!あんたの誇りを奪いたくなる!!あんたの気高さを奪いたくなる!あんたの美しさを奪いたくなる!!あんたの愛を奪いたくなる!あんたの愛を奪い尽くしたくなる!!あんたの全部を奪いたくなる!あんたの全部を奪い尽くしたくなる!!
だから、奪うな!俺から、これ以上奪うな!!俺の愛を奪おうとするな!俺を愛そうとするな!!
あんたの全てを奪いたくなるから!俺を愛してくれる、あんたの全てを奪いたくなるから!!やめろ!やめるんだ、立花!!
「だから、愛して!俺を愛してよ、マンドリカルド!!こんなに醜く、汚く、浅ましく、誰よりも生きる事に貪欲で生き汚い俺を愛して!そして、許して!!傲慢過ぎる俺を!欲深過ぎる俺を!!誰よりも貪欲な俺を!君が愛する事で許してよ!!頼むから!頼むから、愛して許してよ、俺のマンドリカルド!!それで、俺は生きれるから!君の愛で俺は生きられるんだから!!だから、愛して!俺を愛し尽くしてよ、俺のマンドリカルド!!」
立花は叫んだ。叫び続けた。思いを叫び続けた。愛を叫び続けた。マンドリカルドへの愛を叫び続けた。
だけど、マンドリカルドは頷かない。必死に首を横に振る。必死に首を振って抵抗し、心の中で叫び続ける。
やめろ!やめるんだ、立花!!それ以上、俺を求めるな!俺の愛を求めるな!!俺を欲しがるな!俺の愛を欲しがるな!!本当に全部を奪いたくなるから!あんたの全部を奪いたくなるから!!
俺に乞うな!俺に許しを乞うな!!俺の愛で許しを乞おうとするな!愛し尽くしたくなってしまうじゃないか!!
俺の愛で生きられると言うな!俺の愛があるから、生きられると言うな!!俺に愛してくれと言うな!俺に愛し尽くしてくれと言うな!!
あんたに愛し尽くしたくなってしまう!あんたの全てを愛し尽くしたくなる!!愛するが故に、あんたの全てを奪い尽くしたくなってしまう!
「君じゃなきゃ、嫌だ!君以外は嫌だ!!君が望むなら、俺は全部を捨ててやる!君以外の全てを捨ててやる!!俺を愛する全てを捨てるから!どんなに俺を愛していても、君以外の全てを俺は全部捨てるから!!皆のマスターだって、捨ててやる!人類最後のマスターだって、捨ててやる!!だから、愛して!他ならぬ君が俺を愛してよ、俺のマンドリカルド!!そして、君の全てをちょうだいよ、俺のマンドリカルド!」
悲しそうな顔をして、立花は叫んだ。泣きそうな顔をして、立花は叫んだ。それでも、マンドリカルドは首を横に振る。必死に首を振って抵抗し、心の中で叫び続ける。
やめろ!やめるんだ、立花!!それ以上、俺を求めるな!俺を望むな!!俺を欲しがるな!俺の愛を欲しがるな!!
捨てると言うな!全部捨てると言うな!!俺以外の全てを捨てると言うな!全てを捨ててでも俺が欲しいと言うな!!
本当に捨てさせたくなるから!本当に俺以外を捨てさせたくなるから!!
皆のマスターのあんたも!人類最後のマスターのあんたも!!全部捨てさせ、あんたの全てを奪い尽くしたくなるから!
「だから、ちょうだいよぉ…君の愛をちょうだいよぉ…君の全部をちょうだいよぉ、俺のマンドリカルドぉ…俺は君の全部が欲しいんだ…君のなら、なんだって欲しいんだ…君が忌み嫌う君だって欲しいんだ…そして、愛して…俺を愛して…他ならぬ、君が愛して…俺を愛し尽くしてよぉ…俺のマンドリカルドぉ…」
ついには泣き出しながらそう言い出す立花にマンドリカルドは最後の抵抗をするように緩く首を横に振った。最後の最後まで足掻き、抵抗し、心の中で叫び続ける。
やめろ、立花…泣くな、泣くんじゃない…泣いてまで、欲しがるな…泣いてまで、求めるな…泣いてまで、願うな…泣いてまで、俺の愛を欲しがるな…泣いてまで、俺の全部を欲しがるな…泣いてまで、俺の忌み嫌うものまで欲しがるな…
俺に愛してと言うな…俺に愛して欲しいと言うな…俺に愛し尽くしてと言うな…!
あぁ、どうしよう…どうすれば、いいんだ…?俺は、どうしたら、いいんだ…?涙を止めたいのに、体が動かない…体を動かせない…泣くなと言って涙を拭いたいのに、動かせない…!
動いてはいけない…絶対に動いてはいけない…どんなに悲しもうが動いてはいけない…どんなに愛しい人が泣いて悲しんでも動いてはいけない…動いてしまったら、奪ってしまう…!奪い尽くしてしまう…!!
獣の俺が目覚めてしまう…!略奪者の俺が目覚めてしまう…!!何よりも大切な愛しい人が欲しいと願ってしまう…!何よりも大切な愛しい人の全てが欲しいと願ってしまう…!!何よりも大切な人な愛しい人の全てを奪いたくなる…!何よりも大切な人な愛しい人の全てを奪い尽くしたくなる…!!
「俺に慈悲を…俺なんかに慈悲を…君の愛という慈悲を…ちょうだい、俺のマンドリカルド…頑張った俺にちょうだい…頑張り続けた俺にちょうだい…君の愛という特大のご褒美を俺にちょうだいよぉ、俺のマンドリカルドぉ…」
泣きながら、そう乞う立花を見て、ついにマンドリカルドは陥落した。泣き続ける立花にそっと手を伸ばす。
無理だ…もう無理だ…!だって、愛しい…!!愛し過ぎる…!この可愛くて愛しい人が愛し過ぎる…!!俺はこの人を愛しているから…!
あぁ、欲しい…!欲しい、欲しい…!!全部、欲しい…!泣いてまで、俺を乞うこの子が欲しい…!!泣いてまで、俺に慈悲を乞うこの子が欲しい…!泣いてまで、俺に愛してと乞うこの子が欲しい…!!泣いてまで、俺が欲しい、俺を愛してと乞う、この子が欲しい…!
こんなにも哀れで可愛くて愛しい人が欲しい…!こんなにも可愛過ぎる愛過ぎる人が欲しい…!!こんなにも哀れな愛しい人の全部が欲しい…!
こんなにも俺を乞うなら、いいだろ…?こんなにも、俺の愛を乞うなら、いいだろ…?愛してもいいだろ…?愛し尽くしてもいいだろ…?奪い尽くしてもいいだろ…?
その代わり、あげるから…!俺の全部をあげるから…!!俺が愛するから…!俺が愛し尽くすから…!!俺の愛はあんたにあげるから、あんたの愛を全部俺にくれ…!
あんたに全部やるから、あんたの全部を俺にくれ!俺の全てを奪わせてあげるから、俺にあんたの全てを奪わせてくれ!
「君から俺に、愛というご褒美を…」
全てを言い切る前にマンドリカルドは立花の両頬を掴み、強引に唇を奪った。何度も貪り、奪う。何度も何度も奪い尽くす。それに立花はそっと目を閉じた。そして、幸せそうに微笑んだ。そんな立花にマンドリカルドは何度も口付けた。
俺が愛する事であんたが手に入るなら、いくらでもやる!いくらでも、あんたにご褒美で俺の愛をやるよ、立花!!だから、俺に全て奪われてくれよ、立花!俺の唯一にして最愛の人!!
心の中でそう叫びながら、愛を込めて、マンドリカルドは立花の唇を奪い続けたのだった。
「ん…俺の…マンドリカルド…?」
ようやく離れたマンドリカルドをマスターは不思議そうに見つめた。その青い瞳は潤み、情欲を湛えている。
そんなマスターに何も言う事なく、マンドリカルドはころんとマスターの体を転がすと、あっさりと横抱きする。あまりにもあっさりと横抱きされたマスターは驚きのあまり目を見開き、自分を抱える恋人を見上げた。
「ま、マンドリカルド…?」
「…マスターの部屋、行くっす」
それだけ言うと、マンドリカルドはマスターを抱えて走り出した。最初は何が何だか分からずに自分のマンドリカルドを見上げていたマスターだったが、意図を察すると恋人の体に腕を回し、抱き着く。そんなマスターを大切に抱えながら、マンドリカルドはマスターの部屋に向かってひたすら走って行った。
道中、様々な声がマンドリカルドにかけられる。
「マンドリカルド、頑張れよー」
「頑張るっす!」
励ましの声には元気よく返し
「熱烈だなぁ、マンドリカルド」
「冷やかしは要らないっす!」
揶揄う声には容赦なく怒鳴り、
「格好良いぞ、マンドリカルド!」
「あざっす!」
賞賛する声には感謝を叫び、
「廊下は走らない!」
「すんません!後で土下座でも何でもするんで、今は見逃して下さい!!」
叱る声には謝罪に叫び、
「藤丸を頼むな、マンドリカルド」
「任せて下さいっす!」
頼み込んでくる声には元気一杯に了承の言葉を叫ぶ。マスターの部屋に着くと、抱き抱えるマスターの体をキーロック解除のキーボードに近付ける。
「ロック解除、頼むっす」
「あ、うん…」
マンドリカルドの言葉にマスターはロックを解除した。その途端、マンドリカルドは部屋に飛び込む。そのまま部屋を横切るマンドリカルドにマスターは不思議そうな顔をした。
「あれ?ベッドじゃないの?」
「シャワールーム。あんた、体を洗わないと自分の体が汚いって嫌がるじゃないっすか」
それだけ言うと、マンドリカルドは部屋のシャワールームに飛び込んだ。抱えていたマスターを床に下ろすと、問答無用で付けていた機器やら礼装やらインナーやらを脱がそうとする。そんなマンドリカルドにマスターは慌てて叫ぶ。
「そ、そこまでしなくていいよ、マンドリカルド!俺、自分で脱げるから!!」
「俺が脱がしたいんすよ、マスター」
マスターにぴしゃりとい言い放ちとマンドリカルドは礼装を脱がしていく。マスターを裸にすると、マンドリカルドも礼装を消す。
「立花」
床に転がるマスターにのしかかりながら、マンドリカルドは言った。
「今から、あんたの全部を奪うから」
そう言ってマスター…いや、立花を見下ろした灰色の瞳はあらゆる欲を含んでいた。そこにいたマンドリカルドは『マスターの一番のサーヴァント』ではなく、『マスターの恋人』でもなく、『傲慢な暴君の略奪者』だった。