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2026 06/19

[chapter:愛している]





その日からマンドリカルドによるマスターへの癒しは始まった。時には甘やかし、慰め、看病してマスターの精神回復に努めている。マスタールームの中でされているので、誰も二人が何をしているか、分からない。ただ、検査に入っているアスクレピオスとナイチンゲールによると確実にマスターの状態は良くなってきているらしい。
そのせいか、たまにマスタールームからマスターの声が聞こえてきた。防音がしっかりしている筈のマスタールームから聞こえてくる声。マスターが大好きだったり、マスターを心配したりした者達はこっそりと近づいて外からマスターの声を聞いた。そして、固まった。
「もう嫌だ」
「帰りたい」
「戦いたくない」
「戦場に行きたくない」
「逃げたい」
「カルデアなんか嫌いだ」
「やめたい」
マスタールームから聞こえて来たのはマスターの切実な願いで悲鳴だった。泣きながら叫んでいるらしく、声は泣き声ばかりだ。
「戻りたい」
マスターのこの一言は特に皆の心を抉った。だが、誰もそれに何も言わずにその場を去る。
「そうだろうなぁ…」
マスターの言葉を聞いた誰かは言う。
「マスターは普通で…平和な世界で生きていたからな…そう思うのは…当たり前か…」
その人物は、そうぽつりと呟いた。
そんなこんなで数日が過ぎた。相変わらずマスターはマイルームに篭っている。そして、マイルームには恋人で看病役のマンドリカルドしか入れない。検査をするアスクレピオスとナイチンゲール以外はマンドリカルドしか入るのを許されなかった。
最初は傷心のマスターの為ならと我慢していたサーヴァント達だったが、段々マスターを独占するマンドリカルドに不満を持ち始めた。自分達だって、マスターを看病し、世話をしたい。自分達の愛で大好きなマスターを癒したい。
大好きなマスターに会いたい。
「と、言うだろうと思って、準備しておいたよ」
そう言って口々に不満を言いに来たサーヴァント達にダヴィンチは一枚の紙を見せた。それに何だこれは?と口々に疑問を出すサーヴァント達にダヴィンチは言う。
「タタールからの帰還後に立花君が君達の所に行き、君達が如何に立花君を愛しているか伝えた時があっただろう?実はあの時に立花君の状態が分かる機器をつけていてね。それはその時のデータを元に君達の言動が如何に立花君を癒したか、分かるように数値化したものさ。それぞれの結果を見たまえ」
そう言われたサーヴァント達は紙に書かれた結果を見た。そして、目を見開く。
癒した数値が一番高かったのはマンドリカルドだった。しかも、断突にだ。慰めの後の数値は特に高い。
慌てて自分の結果を見たサーヴァント達は、また目を見開いた。数値が低い。確かに自分達の言動はマスターを癒しはしたが、低いのだ。人によってはマイナスにすらなっている。結果を見たサーヴァント達は項垂れた。
マンドリカルドに負けた。あんなマイナーな三流サーヴァントに負けた。自分の数値が低い。自分はマイナスですらある。
そんな嘆きの声が聞こえてくる。中には泣いてすらいる。それ程にショックだったのだ。
これはマンドリカルドに任せるしかないな。彼しか、マスターを助けられない。
その事実を再確認させられた。そして、認めて受け入れるしかなかった。だって、マンドリカルドじゃないとマスターは癒されないのだから。
ヘクトールもショックを受けた一人だった。数値が低い。マイナスでは無かったが、低かったのだ。更には後輩の圧倒的に高い数値の結果。マンドリカルドの憧れの対象の自分がこんなにも圧倒的に彼に負けるとは。いや、確かに彼は良い子だが、それとこれとは別だ。
しかも、マスターは自分の策のせいでタタールで危険な目にあった。帰還後に精神的にダメージを受けまくる映像を見せられ、情緒がおかしくなった傷も治りきっていない。更に後輩はマスターと愛する時に軽く十発する程に愛し、マスターもそれを受け入れたとアキレウスから聞いた。色んな意味で泣きたい。
自分は本当に後世で語られる程、偉大な英雄だろうか?愛するトロイアをアカイアから十年程守りきった守護者。国や家族、特に妻を愛した愛妻家。
それは本当だろうか?公式が重いと認め、激重四天王と揶揄われる程に愛が深いらしいが、本当にそうだろうか?本気で己の存在意義を疑ってしまう。
また、あの後輩が憧れ、尊敬するに値する英雄だろうか?どう考えても後輩の方が自分よりも遥かに上な気がする。色んな意味で。
そこまで考えてしまったヘクトールはこれ以上はそこら辺を考えても自分を追い詰めてしまうと分かったのでこの諸々の感情への解決方法を考える事にした。わざと割と短絡的に考える。自分はマスターに頭が良過ぎて考え過ぎると言われたこともあるので、そうする事にした。
酒だな。酒を飲もう。酒を浴びる程飲んで、酒に溺れて諸々の気持ちを発散しよう。でないと正気を保てる自信がない。
そう考えたヘクトールは突きつけられた現実に打ちひしがれながら解散するサーヴァント達と共に帰って行った。自室に戻ったヘクトールは隠し持っていた酒を全部飲み、泥酔してベッドに横になって寝たのだった。
「あんなに酔っ払った兄さんなんて、見た事ありませんよ。よっぽど辛かったんでしょう。色々とね」
たまたまヘクトールの部屋に行って泥酔した彼を見たパリスは泣きそうな顔で、そう呟いたとかしなかったとか。その後、ヘクトールが医務室に呼ばれたのは言うまでもない。
そんな中、マイルームの中でマンドリカルドの献身的な看病と慰めにより、マスターの精神は癒され、着々と回復していった。しかし、この頃からマスターは段々と恥ずかしがるようになってきた。回復する前は気にしなかったが、回復してきたからか、恥ずかしくなってきたのだ。
とにかく自分の愛を伝え、自分を甘やかす恋人がひたすら恥ずかしかったのである。
ある日の夜。マスターとマンドリカルドが愛し合ってる時。
「かぁわいいっすねぇ、立花…あんたは本気でかぁわいいっす…」
「は、はぅ…!ま、マンドリカルド…や、やめてぇ…!!」
「嫌っすよ。今日はあんたを徹底的に甘やかして、愛し尽くしてやるって決めてるんすから。甘やかして、可愛がって、愛しまくるって決めたんすから…」
「だ、助けて…助けて…あらゆる意味で、俺、死んじゃう…冗談抜きで助けて…」
「逃さないっすよ、立花。今日もデッロデロのドッロドロに甘やかすんで…」
その言葉を聞いたマスターは青ざめた。あらゆる意味で青ざめた。甘く愛を囁きながら襲ってくる恋人の下で、思わず叫ぶ。
「い、いやーっ!俺、死んじゃう!!本気で殺される!恋人に殺されてしまう!!」
「人生、諦めが肝心っすよ、立花。という訳で、俺に愛し尽くされましょうねぇ、立花」
「た、助けてー!誰か助けてー!!本当に俺、死んじゃうよー!恋人に殺されるよー!!」
「残念ながら、誰も来ないっすよ、立花。ほらほら、大人しく俺に存分に愛されて下さいっす。俺に愛し尽くされて欲しいっす」
「助けてー!誰か助けてー!!本当に助けてー!」
恋人からの愛の供給過多にマスターは青ざめながら、悲鳴を上げるように叫んだ。そんなマスターを無視し、マンドリカルドは宣言通りに甘やかし、愛し尽くした。当然、誰も助けに来なかった。
その翌日。いつものように、マンドリカルドだけが食堂に来る。
「すんません。朝飯二人分、お願いしやっす」
「おや、マンドリカルド。マスターの様子はどうだい?」
「めっちゃ愛しまくってるんで、安心して欲しいっす。マジでトイレ以外は何もさせてないっす。指の一本も動かさせてないっすよ。デッロデロのドッロドロに甘やかして愛し尽くして、徹底的に愛されている事を自覚させてやるっす」
「よしよし、いいぞ。頑張るんだ、マンドリカルド。あぁ、そうだ。デザートにプリンはいるかい?君とマスターの為に作ったんだ」
「あざっす、エミヤさん。頑張って、マスターを愛して癒してくるっす」
そう言って、二人分の食事を持って去るマンドリカルドを見て、エミヤは思わずほろりと涙を流しそうになった。厨房の手伝いに入った頃の彼は本当に卑屈で隠キャでコミュ障だったが、今は誰よりも逞しく、誰よりも頼り甲斐がある。そんな彼の成長を実感し、思わず呟いた。
「頑張るんだ、マンドリカルド…本当に頑張りたまえ…本気で頑張りたまえ…」
ぽつりと呟いたエミヤの言葉は食堂を去ったマンドリカルドに届く事は無かった。
一方、それを持っていったマスターの部屋では。
「助けて…助けて…誰か、助けて…」
「はい、立花。エミヤさんからのプリンっす。口を開けて欲しいっす。はい、あーん」
「やめて…やめて、マンドリカルド…俺、食べれるから…一人で食べれるから…」
「今日も甘やかしまくるって決めたんで、諦めて欲しいっす。さ、いい子だから、口を開けて欲しいっす」
「死んじゃう…死んじゃう…俺、死んじゃう…恋人の供給過多で、俺、死んじゃう…」
「今日もマジでトイレ以外は指の一本も動かさせないっすよ、立花。そこまで甘やかすって決めたんで。諦めましょうね、立花?」
「し、死んじゃう…!あらゆる意味で死んじゃう…!!こ、恋人に殺されてしまう…!」
徹底的に甘やかしてくる恋人にマスターはそう叫ぶのであった。
そして、諸々としんどくなったマスターは、ついに自分の部屋から脱走した。たまたま部屋の傍にいたヘクトールに助けを求めるように駆け寄る。
「お、オジサン、助けて…!お、俺、恋人に殺される…!!」
「おっと、ついにマスターが部屋から脱走しやがったな。おーい、皆ー!マスターが逃げてきたぞー!!」
「や、やめて、オジサン!い、今、部屋に戻ったら、俺、死んじゃう!!恋人に愛し尽くされて、ドロドロのデロデロに溶かされて、跡形もなく消え去っちゃう!」
助けを求めたのに、問答無用でそう叫ぶヘクトールにマスターは思わず叫んだ。そんなマスターを見て、ヘクトールは満足そうに呟く。
「お、着実に効果が出ているようだな。さすがはオジサンの後輩。実に優秀だ。おーい、マンドリカルドー!マスターに効果が出始めてるぞー!!」
「やめて、オジサン!本気でやめて!!俺、本気でマスターやれなくなっちゃう!人類最後のマスターに戻れなくなっちゃう!!」
「お前さんがマンドリカルドを通して、皆に愛されているのを自覚したら、皆でマスターに戻してやるから、安心して愛されな」
マスターが叫ぶとヘクトールは情け容赦なく言い放った。そこにマスターが部屋から脱走したのに気付いたマンドリカルドが現れる。
「立花、ここにいたんすね?駄目じゃないですか、部屋から出ちゃ。まだまだあんたへの癒しは終わってないんすからね?」
「ひっ…!ま、マンドリカルド…!!やっと逃げ出せたのに…!」
現れたマンドリカルドに、思わず悲鳴を上げるマスター。そんなマスターにマンドリカルドはじりじりと近づいていく。
「駄目じゃないっすか、立花。まだまだ俺達の、いや、俺の愛は伝え切ってないっすよ?逃げちゃ、駄目っす。ヘクトール様にも迷惑かけちゃ、駄目でしょう?ほら、俺と部屋に帰りましょうねぇ」
「し、仕留められる…!!確実に殺される…!マスターとしての俺が死んでしまう…!!」
「安心して欲しいっす、立花。あんたが俺を通して、皆に愛されているのを自覚したら、俺と皆であんたをマスターに戻してやるんで、安心して愛されて欲しいっす」
そこまで言うと、マンドリカルドは情け容赦なくマスターを捕まえ、ひょいと軽々と抱え上げた。そんな恋人から逃れようと、マスターは悪足掻きするようにヘクトールに叫ぶ。
「いやー!オジサン、助けてー!!」
「お前さんは、もうちょっと愛されてる自覚を持とうな、マスター。そして、後輩は頑張れ。もっとマスターを愛して、マスターに皆から愛されている自覚を持たせてやれ」
「うっす、頑張るっす。ヘクトール様、マジであざっした。さ、立花。いい子だから、部屋に帰りましょうねぇ」
やっぱり容赦なくヘクトールはマスターを見放した。それどころか追撃してやるとばかりにマンドリカルドに言葉をかける始末。そんなヘクトールに軽く頭を下げて礼を言うと、マンドリカルドはマスターを抱えてスタスタ歩き出した。そんな恋人にマスターは最後の悪足掻きのように叫ぶ。
「いやー!マンドリカルドに愛し尽くされて、殺されるー!!冗談抜きで殺されるー!誰でもいいから、俺を助けてー!!」
マスターの悲痛な叫びはカルデア中に響いたが、当然のように誰もマスターを助けなかった。当たり前だが、助けなかった。情け容赦なく見捨てたのだった。
それから、また数日後。ようやくマスターがマイルームから出て来た。アスクレピオスやナイチンゲールのいる医療室に向かう為だ。随分と傷は癒えたようで大分状態は良くなっていた。顔も割と明るい。
ただし、まだマンドリカルドは止めなかった。まだマスターを愛し、マスターを甘やかす。
「お、降ろしてよ、マンドリカルド!」
「駄目っすよ。まだ俺はあんたを愛し尽くして、甘やかし尽くして癒しきっていないんすからね」
「だ、だからって…!こんな…こんな…!!」
マンドリカルドに横抱きにされたマスターは自分を抱えるマンドリカルドの腕の中で叫んだ。恥ずかしさから顔を赤くし、悲鳴を上げるマスターにマンドリカルドは言う。
「皆があんたを甘やかすって決めたんでね。だから、代表して、あんたの恋人の俺がやるんすよ。皆の気持ちに甘えましょう?って言ったじゃないっすか。これは、その一環っす」
「は、恥ずかしいんだってば!降ろしてよ、マンドリカルド!!」
「あと、これ、あれっすね。周りへの牽制っす。あんたの恋人で一番のサーヴァントは俺だって改めて周りに伝える必要があるんすよ。まだ、一部認めてないっすからね。だから、大人しくして欲しいっす」
「だから、恥ずかしいんだってば!」
悲鳴を上げながら抵抗するマスターだったが、マンドリカルドは軽々と持ち上げ、医務室に連れて行った。
マスターが令呪を使うなり何なりして本気を出せばマンドリカルドから逃げられるが、マスターはそうしない。口ではああだこうだとは言うが、抵抗はしない。むしろ、首の後ろに腕を回し、しっかりとマンドリカルドに抱きついている。そんなマスターにマンドリカルドはバレないようにこっそりと唇を歪めて笑うのだった。普段とは違う彼にマスターが気付く事はない。
ここぞとばかりにいちゃつく二人を見て、周りは微笑ましいなと笑ったり、マスターを独り占めしやがってと嫉妬の篭った視線を向けたりする。中には二人を見て何やらメモを取ったり、爆笑したりしていたりする。
「ふはははは!これは恋人に一本取られたな、マスター!!」
「全く、間抜けめ。だから、お前は雑種なんだ。せっかく愚王から奪った『傲慢な暴君の略奪者』を奪われて、どうする?」
高笑いするオジマンディアスの隣で賢王ギルガメッシュは苦い顔をして呟く。賢王の言葉を聞いたそのまた隣にいたイシュタルは賢王に振り向く。
「え?あの子、あんなにマスターに尽くすくらい、マスターにメロメロじゃない?なのに、マスターがあの子に負けてるの?」
「貴様、本気で言っているのか、イシュタル?だから、貴様は駄女神なんだ」
イシュタルの言葉を聞いた賢王はため息混じりに答えると一言。
「雑種から『人類最後のマスター』を奪った、あの騎兵が雑種に負けている筈があるまいだろう?」
「あ…!」
「雑種があの騎兵を恋人に選んだ時は心底不思議だったが、これで納得した。あれは、中々有能だ。少なくとも、マスターから『人類最後のマスター』を奪えるくらいには『傲慢な暴君の略奪者』としては有能だな」
賢王の言葉を聞いたイシュタルは気付いた。そうだ、マスターは甘えている。顔を赤くし、恥ずかしいとは叫びながらも、本気の抵抗はしない。いつもなら、激しく抵抗し、逃げ出す筈なのに。彼は男の自認が強く、人類最後のマスターだからか、人前で恋人に甘える事はないのに。なのに、大人しく抱き抱えられていた上、抱きついてすらいた。
ようやく気付いたイシュタルを賢王は軽く嘲笑い、呟く。
「面白いではないか、騎兵マンドリカルドとやら。少なくとも、これで貴様は雑種から『人類最後のマスター』を奪える程には有能な『傲慢な暴君の略奪者』である事が証明された。雑種の育成が終わったら、次に貴様を育成してやってもいいくらいだ。この賢王ギルガメッシュ自らの手でな」
そう呟いた賢王は心底楽しそうに唇を歪めて笑うのだった。その視線の先にはマスターを抱えながら医務室に向かうマンドリカルドがいた。
この日から、マスターはマイルームから出るようになっていった。マンドリカルドのお陰で精神的に大分癒されたらしく、皆と関わっていく。心配する皆に満面の笑みで接し、交流していく。本気で皆からの愛に喜んで。それを見た全員が思った。
マスターはもう大丈夫そうだな。もう心配はいらないな、と。
多分、マスターは自分の気持ちに上手く折り合いをつけられた。皆も愛しているが、一番に愛しているのはマンドリカルド。だから、場合によっては皆より、マンドリカルドを選んでしまう。
でも、そんなものなのだ、人間は。どんなに他を愛しても、一番に大切なのは一番好きな人。だから、場合によってはそれ以外を捨てる時もある。だからこそ、頑張れる時だってあるんだ。だから…
それでいいんだ、マスター。その気持ちに正直でいていいんだ。いくらマスターの本質が善性だからって、それだけは諦めたり、妥協したり、譲ったりしてはいけない。





いつ如何なる時も一番に大事なのだけは失ってはいけない。





マスターの気持ちが分かるものはそう思うのだった。人間もサーヴァント…いや、英霊も。特にそういう存在の英霊はそう思ったのだった。
この辺の気持ちを周りも分かったと思ったマスターは感謝しながら周りに接した。喜びながら相手を思い、誠実に対応し、自分で出来る限りに相手を愛する。そんなマスターに周りはますます喜び、マスターを更に愛した。
周りに囲まれ、笑うマスター。その隣にはマスターの一番のサーヴァントで恋人のマンドリカルドがいる。本当に心の底から笑いながら皆と楽しそうに嬉しそうに、そして幸せそうに話すマスターを見て、マンドリカルドも笑う。
もうマスターは大丈夫だと安心し、主人で恋人を見つめる。
旅はまだ終わっていない。世界も人理も救われていない。まだマスターは旅を続ける。過酷な戦場にも出続ける。そして、敵対する世界から嫌悪や憎しみを向けられ、傷付く事もあるだろう。それは旅が続けば続く程に激しくなっていくだろう。彼の傷は増えていくだろう。
でも、それでも。マスターは進み続ける。自分が愛し、自分を愛してくれる仲間と共に。そして、誰よりも自分が愛し、自分を愛してくれる一番の存在であるマンドリカルドと共に。
世界の為だけではなく。人理の為だけではなく。自分と誰よりも愛する人の為に彼は進むと決めたのだから。そんなマスターを皆も愛しているから。
傷付いたら、必ず俺が助けるから。あんたの一番近いあんたの隣という場所にいる俺が助けるから。
マンドリカルドはそれをマスターに誓い、そしてその為にマスターに一番近い彼の隣の場所にいると改めて決めた。
だから、大丈夫。もうこれ以上、『藤丸立花』が傷つかないようにする。傷付いても自分が癒すから。
そう改めて思いながら、マンドリカルドは隣で笑う主人で恋人の『藤丸立花』を見守るのだった。
そんな中、マスターはこっそりと胸に手を当て、思う。誰よりも好きな恋人の次に自分を肯定して自分を助けてくれた相手を思い、マスターは呟く。
「一番ではないけど…ちゃんと貴方も愛していますよ、マンドリカルド王…ありがとうございます…」
ぽつりと呟いた言葉に何人かが首を傾げた。しかし、尋ねはしない。それに笑いながら、何でもないよ、ごめんねと謝り、またマスターは周りと楽しそうに嬉しそうに幸せそうに話をした。胸に手を当てながら。
自分の中にいる愛する存在にそう言うと、マスターは前へと走って行った。未来という前に、愛する人と向かう為に走って行ったのだった。

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