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2026 06/19
[chapter:この腕の中で泣いてくれ]
「サーヴァント、召喚に応じ参上したっす…じゃねーよ、しました。ライダー、マンドリカルド。まぁ、適当によろしくっす」
「マンドリカルド!」
召喚したのが誰か分かったマスターは相手に抱きついた。マスターに抱きつかれた相手は灰色の鋭い瞳をぱちぱちと瞬かせ、短い眉を下げて困惑している。
「えっと…ま、マスター…?っすよね…?ど、どうした…じゃねぇ!どうしたんすか…?」
「あ!ご、ごめんね、マンドリカルド!!君が来てくれたのが嬉しくて…!」
「いや…こんなマイナーな三流サーヴァントを熱烈に歓迎してくれるのは嬉しいっつうか、何て言うか…でも、そんなに…?」
自分に抱きつくマスターにマンドリカルドが恐る恐る声をかけると、彼は慌てて新たに召喚に応じて来てくれた仲間から離れた。そんな己の主人に困惑しながらもマンドリカルドは何処か嬉しさを感じる。まさか、自分みたいなマイナーな三流サーヴァントがこんなに熱烈に歓迎されるなんて思っていなかったからだ。
困惑しながら、自分を見つめる彼をマスターは空のように青い瞳を細めて見つめる。その顔はこの上なく嬉しそうだ。
「うん。君が来てくれて嬉しいんだ。他ならぬ君が来てくれたから」
「…っすか」
嬉しそうに笑いながらも、でも同時に何処か悲しそうに言うマスターにマンドリカルドはそれだけしか言えなかった。そんなマンドリカルドににこりと笑みを深めるとマスターは言う。
「ようこそ、マンドリカルド!俺達カルデアは君を歓迎するよ!!さ、ノウム・カルデアの中を案内するから、付いてきて!」
「あ、はい…」
笑顔を浮かべながらそう言うと、マスターは歩き出した。その後をマンドリカルドもついて行く。背を丸め、何処か自信なさげにしながら。そんなマンドリカルドを見て、マスターは思った。
やっぱり、マンドリカルドはマンドリカルドなんだなぁ、と。
異聞帯の彼とそっくりな自分のマンドリカルドを見て、マスターはそう思った。
「ここが食堂!皆でご飯を食べる所ね!!」
「サーヴァントは食事無しでも大丈夫っすよ?」
「でも、ご飯を食べるとサーヴァントも何か元気が出るらしいよ?それに、ここのご飯は凄く美味しいんだ!マンドリカルドも気にいると思うよ!!」
「…っすか」
明るく元気にノウム・カルデアという施設を紹介して行くマスター。そんな己の主人を見て、マンドリカルドは思う。
さっきからずっと無理矢理笑っているような…?やたら、元気過ぎる。いや、こういうマスターなのか?
マンドリカルドはそう思いながら、食堂で食事を作ってくれるスタッフやサーヴァントを紹介するマスターについて行った。
「それで、ここがサーヴァント達の居住区。それぞれに個室が与えられるんだ。皆は工房にしたり、作業部屋にしたり、休憩する部屋にしたりしているよ」
「複数のサーヴァントがいるってのに個室を与えるって贅沢っすね。ま、四六時中他の奴らと一緒に過ごせ、なんて事になったら大変だから、有難いんすけど」
「激しい戦いが続くからね。せめて、ノウム・カルデアでくらいは休憩して欲しいんだ」
「そうっすか」
サーヴァントの居住区だという個室が並んだ区画でマスターはマンドリカルドにそう説明する。それを聞いたマンドリカルドはそこまで激しい戦いをしているのか、と思った。人理を救う戦いで自分みたいなマイナーな三流のサーヴァントでも熱烈に歓迎する位だ。一流どころか神霊のサーヴァントさえいるというが、それでも尚足りない程、苛烈な戦いをしているというのだろうか?
やはり人理を救う戦いは激しいもののようだ。気を引き締めてやらねば。
マンドリカルドはマスターから説明を受ける一方でそう考え、軽く身震いした。怖さからではなく武者震い、己を鼓舞する為に、だ。
「おや、マスター。新人さんかい?」
「あ、オジサン!」
マスターの案内でノウム・カルデアを歩き回るマンドリカルドの前に一人の男性が現れた。少し歳を取った、見た目には草臥れた印象の中年の男性。長い茶髪を一つに束ね、顎には髭が生えている。緑の貫頭衣を来て黒に黄色の模様の槍を持っているから、恐らくランサーのサーヴァントだ。服のせいで分かり辛いが、動きなどから歴戦の戦士だと分かる。
その男性と彼の槍を見た瞬間、マンドリカルドの心臓がどくん、と激しく鼓動を鳴らした。エーテルで出来た仮の心臓だが、何かを感じたらしい。どくんどくんと激しく鼓動を鳴らし続ける心臓を感じながら、マンドリカルドは相手の中年男性を見る。
知らない相手だ。少なくてもマンドリカルドの記憶にはない。だが、何故かエーテルで出来た体は反応を示す。
自分と何か縁のある英霊だろうか?過去か未来かで?
マンドリカルドはそう思った。
「ちょうど良かった!オジサンの所にも行こうとしていたんだよ!!マンドリカルドが来たからね!」
「え?」
「そいつは手間かけさせて悪かったね、マスター」
嬉しそうに中年男性に近寄りながら、そう言うマスター。そんなマスターの言葉に怪訝な声を漏らしたのはマンドリカルドだ。その声からか、はたまたマスターの言葉を聞いたからか、中年男性は詫びを言いながら静かにマンドリカルドを見る。その瞳がマンドリカルドに向けられた途端、奥の深緑が鋭く光った気がした。それを見たマンドリカルドの背に冷たいものが流れる。殺気という程ではないが、警戒を含むそれに緊張する。
「マンドリカルド、このオジサンはね…」
しかし、マスターはそんな中年男性とマンドリカルドには気づかなかったようで、悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、マンドリカルドにとって致命傷クラスの一言を言った。
「『ヘクトール』だよ!」
「…え?」
マスターの言葉を聞いたマンドリカルドは驚きの余り、固まった。そんなマンドリカルドを見て、マスターは悪戯が成功した子供のようににこにこと笑いながら更に言う。
「だから、オジサンが『ヘクトール』なんだ。君の大好きな『ヘクトール』だよ!」
「…はぁ?!」
マスターの追撃にマンドリカルドは悲鳴のような声を上げた。ぎぎぎ、と無理矢理首を動かしてマスターから、中年男性の戦士…ヘクトールに顔を向けてまじまじと見る。
へ、『ヘクトール』…?確かにカルデアには古今東西様々な英霊がいるって聞いていたから、もしかしたら、自分が尊敬して憧れてやまなかった『ヘクトール』もいるだろうか?とは思っていたが…
まさか、こんな何も心の準備が出来ていない状態で会ってしまうとは!
という事は、あの黒と黄色の槍はデュランダルという事で…エーテルで出来た体だというのに体が反応したという事は、つまりはそういう事で…
「あばばばばばば…!」
目の前の中年男性が本当に自分が尊敬して憧れた『ヘクトール』本人だと分かったマンドリカルドは混乱した。訳の分からない奇声を上げ、挙動不審に陥る。背中に先程のものとは違う、よく分からない汗が滝のように流れるのを感じた。
しかし、マスターはそんな反応も予想済みだったらしく、混乱の余り挙動不審になるマンドリカルドを見ても笑顔だ。にこにこ笑いながら、彼に言う。
「君が来たら、絶対にオジサンに会わせたいって思っていたんだ。君はオジサンのファンだって知っていたから。それで、君の教育係をオジサンにしようと…」
「びゃあああぁぁぁぁぁ…っ!」
「マンドリカルド!?」
マスターの言葉を聞いたマンドリカルドはついに耐えきれなくなり、その場から脱兎の如く逃げ出した。悲鳴のような奇声を上げながら、全力逃走する。そんなマンドリカルドに流石のマスターも驚きを隠せない。名前を叫んだ後、呆然とマンドリカルドが逃げていった方向を見つめる。
確かに驚くだろうとは思っていたが、まさかここまで驚き、挙動不審になりながら逃げるとは思わなかったのだ。
「ありゃりゃ。逃げちまったですね、マスター」
「ご、ごめん、オジサン…確かに驚くだろうなとは思っていたけど…でもあそこまで驚き、逃げ出すなんて思わなかった…」
呆然と立ち竦むマスターにヘクトールが笑いながら声をかけると、その声でマスターは正気に戻った。慌ててヘクトールに謝ると彼は朗らかに笑い、マスターに言う。
「いいよ、いいよ。オジサンも記録を見て、彼はそういう子だろうなって思っていたし」
「本当にごめんね、オジサン!マンドリカルドにも謝らないと!!驚かせてごめんって!」
「そうだね。あれは謝ったり何だりフォローした方が良いよ、マスター。行ってきな」
「ありがとう、オジサン!行ってくる!!」
ヘクトールに後を追うように促されたマスターはその通りにした。走り去って行った彼を追いかけるように廊下を走って行く。そんなマスターを見送るとヘクトールはぼそりと呟いた。
「あれが『マンドリカルド』…異聞帯の海でマスターの友達になり、あっちの俺に後輩と認められたという…確かに悪い子ではないだろうが…一応、警戒はしておくか…」
マンドリカルドとマスターが去って行った方向を見ながら呟くとヘクトールもその場から去って行った。