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2026 06/19


[newpage]
「これは珍しい客だな。お前さんの方からオジサンの所に来るなんて。最初に会った時はオジサンの前から逃げ出したのに」
「その節は申し訳無かったっす。あの時の俺は突然貴方に会った事で混乱しちまって…結果、逃げちまった。でも、今は違うんで、そこは安心して下さい」
「ま、部屋に来たってんなら、オジサンに用があって来たんだろうしね。部屋まで来ていながら逃げたら、流石にどうかとオジサンは思うな」
「俺もそう思うんで、その点はご安心を」
マスターがマンドリカルドの腕の中で泣いた次の日。マンドリカルドは誰よりも憧れ、尊敬している大英雄の部屋を訪ねていた。部屋の中から顔を出すとヘクトールは茶化すように言ってくる。それに律儀に答えるとマンドリカルドは普段は丸めている背を伸ばして姿勢を正し、彼にしっかりと向き合って言った。
「他ならぬ、貴方にお願いがあります。ヘクトール様」
「何だい?」
「俺を強くして下さい。『マンドリカルド』というサーヴァントで成れる強さまで」
お願いします、と頭を下げるマンドリカルド。そんなマンドリカルドにヘクトールは尋ねる。
「それは何故?」
「マスターを守りたいからです」
ヘクトールの問いにはっきりと答えるとマンドリカルドは顔を上げた。その灰色の瞳は強い決意で満ち溢れており、誰が見ても真剣だと分かる。
「ここには俺以上に強い英霊は山程いて、その連中含めた皆がマスターが好きで、皆がマスターを守りたいってのは分かりますけど…でも、俺もマスターを守りたいんです。俺の大切なマスターだから、俺は俺で出来る事をマスターにしたいんすよ」
「それは、何の為に?お前さんがサーヴァントというマスターの使い魔だから?それとも、あの海の『マンドリカルド』に対する挑戦状かい?」
「違うっす。俺がマスターを…『藤丸立香』という人物を守りたいだけっす」
マンドリカルドの言葉に更に問うてくるヘクトール。その言葉にマンドリカルドは速攻で返す。自分を試すように質問してくるヘクトールにも怖気付く事なく、マンドリカルドはしっかりと憧れて尊敬した大英雄と向き合って、その深緑の瞳を見つめる。
「ヘクトール様の言う理由も含め、他意がない訳じゃないっすが…でも、断突に一番強いのはそれっす。断突に一番強い理由はそれだけっすよ」
そう言うと張り詰めた空気を和らげる為か、マンドリカルドは笑いながら言った。
「俺は単にマスターを…『藤丸立香』という人間が好きだから守りたいんすよ、ヘクトール様。他ならぬ、俺の手で。最後まで」
「それで良いのかい、お前さんは?」
「これ以上に強くなる為の理由って必要っすか?」
自分にもものおじすることなく言ってくる青年にヘクトールが言うと彼は笑いながらも即座に返した。その灰色の双眸に殺気かと思う程に強い意思と決意を込めて。その様子を見たヘクトールは一瞬だけ目を開いた。
記録を見た限りでは生前の『マンドリカルド』は尊敬と憧れを抱いた『ヘクトール』の武具を集めるのに生涯の殆どを費やしたとあった。そして、生前の行いから座で猛反省したらしく、傲慢から卑屈で陰気になる程、性格が激変したらしい。
だが、死者でサーヴァントになったとはいえ、『ヘクトール』の自分に物怖じすることなく、速攻で切り返したのだ、この『マンドリカルド』は。まるで一撃で仕留めるようにヘクトールに負けず劣らずの強さを、その目に込めて。
これはあの海の自分も後輩と認めるなと納得しながら、ヘクトールは気持ちを切り替えるように緩く首を左右に振るのだった。
「いや。お前さんがそれで良いなら、オジサンは何も言う事はないよ。マスターからも、お前さんの教育係は頼まれているから、丁度良いしな」
「ありがとうございます、ヘクトール様!」
ヘクトールからの了承を聞いたマンドリカルドは元気よく叫びながら、また頭を下げた。素直に感謝してくるマンドリカルドにヘクトールも笑みを浮かべる。
「それなら、まずはオジサンと手合わせしてみるか。今のお前さんの実力を知りたい。シミュレーターが空いていると良いんだが…」
「空いているのは確認しているんで、すぐにでもお願いします。ヘクトール様」
頭を下げたまま、言われた言葉にまたヘクトールは目を見開いた。この三流サーヴァントを自称する青年は自分の了承を聞く前から了承された後の準備を済ませていたからだ。あまりにも、準備が良い。
いや、もしかしたら、自分が了承するまで交渉する気だったのだろうか?どんなに断られても諦めずに頼んでくるつもりだったのだろうか?そこまでしても叶えたい願いだからと。どちらにしろ、中々に良い性格だ。
そう思ったヘクトールは唇を歪めて笑うのだった。
「んじゃ、行くか。オジサンの指導に途中で根を上げないでくれよ、マンドリカルド…いや、後輩?」
ヘクトールのその言葉を聞いたマンドリカルドは勢いよく顔を上げて大英雄を見た。その表情は笑みを浮かべながらも深緑の双眸は強い決意に満ちている。絶対にこいつを強くしてやるという強い決意が。
それが分かったマンドリカルドは嬉しそうに笑いながら、また元気よく返事した。
「はい!お願いします、ヘクトール様!!」
マンドリカルドの返事を聞いたヘクトールは満足そうに笑うと部屋を出てシミュレーター室に向かって歩き出した。その後をマンドリカルドは追いかける。『マンドリカルド』で成れる限界まで強くしてくれるであろう大英雄の背中を追いかけながら、マンドリカルドは自分の主人の青年を思い、願う。
頼む、マスター。ここで泣いてくれ。あんたは俺が守るから。だから、安心して泣いてくれ。
この腕の中で泣いてくれ。他ならぬ、この俺の腕の中で。ちゃんと抱き締めて、あんたを守るから。あんたを傷つける全部から守るから。
この腕の中でくらいは泣いてくれ。それが嘘偽りのない俺の気持ちで願いだから。その為に強くなるから。





この腕(かいな)の中で泣いてくれ。俺の愛しいマスター藤丸立香。

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