こんにちは!気がついたら歌柱になってた音無結弦だよ!
今日も元気に継子と一緒に鬼の頸斬ってるよ!
最近歌わんでも声出すだけで鬼が動き止めるようになってきてて
これチートがレベルアップしてんじゃねえか恐ろしいわという気持ち!

さて、風の噂…鎹鴉の話によると、炭治郎は全集中の呼吸・常中を会得したらしい。
…気がついたらえらい原作が進んでるがな…。
ということはもうすぐ無限列車か。
…無限列車かあ…。
個人的には煉獄杏寿郎のことはものすごく助けたい。
なにせ同期ではないものの、同じ時期に柱になった親しい友人だ。
今だって手紙で近状を教えあうぐらいには仲がいい。
ので、是が非でも助けたいとは思う。
ただ問題があるんだよなあ…。

「(杏寿郎が列車に乗る日時はわかるとして…問題が俺がどうやって居合わせるかなんだよな)」

さすがに今の時点で柱を二人も送り込むようなことはしないだろう。
偶然近くへ任務に来ていた、というのが一番良いけど…
ううーん…
鎹鴉に頼んでみるかあ?

「歌陽、これからしばらくの間、列車の沿線付近の任務だけを回してくれるかい」

「了解!結弦様ノオ言葉トアラバ!」

「ありがとう」

あっさりだな!?
俺今回は声になんも込めてないんだけど!?
いやまあ…言うこと聞かない鎹鴉より全然いいんだけど、それにしたってこの子従順すぎでは…。
炭治郎の鎹鴉とかめっちゃつついてた気がしたんだけど…いいけど。

「結弦さん!隠への引き継ぎ終わりました!」

「ありがとう獪岳。ケガはないね?」

「はい」

「じゃあ屋敷に戻ろうか」

駆け寄ってくるうちの継子可愛すぎか?
いや、俺より身長高くなってガタイもよくなってるんだけど、それでも可愛い。
実は俺は獪岳を継子にするつもりはなかった。
そもそもの呼吸が「歌の呼吸」とかいうなにそれな派生だ。
いくら元が雷の呼吸で、別の呼吸でも継子にできるとはいえ。

獪岳も俺から継子にすると言ったわけじゃない。
最終選別を終えて、じいちゃんのところでお祝いをした時に獪岳から頼まれた。
「どうか俺を結弦さんの継子にしてください」と。
最初は流石に断った。
呼吸のこともそうだけど、そもそもまだ獪岳に継子が務まると思ってなかったし
俺も人に教えられるような技術を持ってるわけじゃなかったから。
いやだって俺が教えられることっていったら「歌いながら呼吸しろ」ぐらいだし…
呆れられるだろ…。
実際他の柱にも「何言ってんだこいつ」みたいな顔されたし。
…あ、思い出したら悲しくなってきた…。
特にしのぶや蜜璃に「何言ってんだ」みたいな顔されたのがきっつ…思い出すのやめよ…。
いいんだ…俺にはこんなに慕ってくれる弟弟子兼継子がいるからいいんだ…。

「帰ったら稽古つけてくださいね」

「構わないよ」

うちの継子がかわいい…(ただし俺よりでかい)










歌柱を冠する男がいる。
常に優しげな笑みを浮かべ、美しい声で言葉を紡ぐ。
決して古株ではないその男は、個性豊かな面子ばかりの柱を、
その静かな声で制し、律することができる。
見た目は決して屈強ではない。それどころか他の男の柱に比べれば細い方だろう。
だからと言って華奢なわけではないのだが…。
けれど、その男の鬼の討伐数は柱の中でも群を抜いている。
戦いは静かに、美しい歌声が響いて、次の瞬間には終わっている。
あんな戦いは見たことがない。
あんな…鬼が涙を流しながら、自らの頸を差し出すなど…。
「歌の呼吸、ですか?全集中の呼吸をしつつ歌ってるだけなんですけど…」

柱合会議の折、誰かが奴に聞いたことがある。
今の呼吸の派生はどうやったのだ、と。
そして帰って来た答えがこれだ。
俺を含め、他の柱は絶句し、信じられないものを見るような目をしていた。
それはそうだろう。
本来、全集中の呼吸をしながら歌うことなど不可能だ。
あいつはやばい。
その日を境に、柱の中でも歌柱という存在が畏怖を抱かれるようになっている。
…本人はあまり気にしていないが。

「聞きましたよ、また隊士を庇って大怪我したらしいですね」

「体が勝手に動いてな」

「選別の時にも言ったでしょうに…何にも学習してませんねさては」

「ははは。…痛い痛い!頬をつねるな!」

「人を助けるのは善いことです。
 でもそれで柱を降りるような事態になっているのは笑い事ではないんですよ」

「…短い柱だったな」

「最短記録ってお館様が言ってました。笑い事じゃないっつってんでしょうが」

「大丈夫だ。水柱は義勇が立派に努めるさ」

「そこはあまり心配してません。義勇は強いですから」

「俺が弱いかのような言い様だな」
「…貴方も弱くはないでしょう、錆兎。猪突猛進なだけで」

「……仮にも同期に対して厳しくないか?」

「胸に手を当ててよく考えてみましょうね」

じゃあ俺は帰ります。
そう言って歌柱が去った後には、丁寧に剥かれたりんごが山をなしていた。

「…これ全部俺が食べるのか…?」









錆兎から聞いてはいた。
常に微笑みを浮かべて、美しい声で歌を紡ぎ、鬼を斬る鬼狩りがいるのだと。
実際その人に会って、錆兎が言っていたことは寸分の違いもなく合っていたのだと知った。
その人は美しい声で風柱を止めてくれて、禰豆子が傷つかないようにしてくれた。
おまけに「俺の同胞がひどいことをしようとしたね、すまない」とまで言ってくれたのだ。
あの人が悪いわけではないのに。

そして柱が口々に「人を喰わないという証拠を」という中
あの人は一歩進み出て、俺に「少しだけ妹御を借りるね」と言って、箱ごと屋敷の中に入った。
その後のことは鮮明に思い出せる。
あの人は禰豆子の箱を開けて、美しい声で歌を歌い始めた。
その途端、庭に膝をつく柱たちがざわつき出したけど、理由がわからなかった。
(後で聞いたら、あの歌は鬼の食欲を増進させておびき寄せる歌なんだそうだ)
禰豆子はその歌を聴いて確かによだれを垂らして箱から出て来た。
それと同時に、俺を押さえつけてる柱をはじめとする柱から殺気が滲みでてくる。
でもその人は歌をやめず、ただ優しい匂いをさせて禰豆子を撫でてくれていた。

どれくらいの時間が経っただろう。
数分だった気もするし、十数分だった気もする。
気が付けば、禰豆子は歌うあの人の腕の中で小さくなって眠っていて
それを確認した柱たちの殺気も嘘みたいに収まった。

「この子は大丈夫ですよ。俺が歌っても襲わなかった」

ならきっと、他にどんなことがあっても人は襲わない。
そう告げるその人は、禰豆子を抱き上げて優しく箱に戻してくれた。

「皆も、鬼が憎い気持ちはわかりますが、憎むのは悪鬼のみになさいな」

禰豆子が入った箱を、俺の側においてくれたその人は
押さえつける柱を「小芭内、離してあげなさい。呼吸ができていない」と諭して
そのまま膝をつく列に加わった。

「差し出がましい真似をいたしました、お館様」

「構わないよ。ありがとう、結弦」

「勿体無いお言葉です」

その人…音無結弦という人からは、とても優しくて美しい匂いがした。
でもなんだろう…少しだけ「怯え」ているような匂いもしていた。