元軍人と

「理鶯さん、血抜き終わりましたよ」

「ああ、ありがとう…うん、きれいに抜けているな。
 湯は沸かしてあるから羽を抜こうか」

「はーい」




「…………おい銃兎」

「…………なんだ」

「アイツ、都会育ちじゃねえのかよ」

「そのはずです」

「どうやったら都会育ちの坊っちゃんが理鶯と一緒に狩り行って普通の顔して鳥絞めれんだよ」

「俺が知りてぇわそんなもん」

少し離れた場所で行われる鳥の解体から目を背けて
そもそもどうしてこうなったのかと考える。



ことの始まりは、毒島メイソン理鶯という最後のメンバーが加入して数日後のことだ。
その日は打ち合わせがてらラップの訓練なんかをしていた。
そこで俺の携帯が軽やかな音楽で着信を報せたのが発端だったか。

奏でられた音楽は従兄弟であり、被保護者専用のもの。
もっと言えばその本人が歌っている曲だ。
まあそれは関係ないからいい。

通話が終わった後、理鶯が興味深そうに「どんな子なんだ?」と聞いてきた。
どうやら通話中に左馬刻が通話相手が誰かを、理鶯に話したらしい。

そしてそのままの流れで、どうせこれから会うこともあるだろうから
今度連れてくると告げたのだ。

MTCとしてラップバトルに参加するなら、あの子を守る人員は多い方が良い。

「良い食材を用意しなければな」と張り切る理鶯を
「普通の食材でいいですからね!?」と左馬刻と一緒に止めたが…正直嫌な予感しかしなかった。
それでももしそういう食材が出て来たら、できるだけあの子の口には入らないように…
具体的には左馬刻に食わせようと決めた。

だというのに、だ。


「初めて食べましたけど、タランチュラってカニみたいな味するんですね」

「(なんっっで普通に食ってんだ!俺がおかしいのか!?タランチュラだぞ!?)」

串焼きにされた姿形がそのままのタランチュラを、普通に咀嚼する結弦に顔を覆った。

おかしいだろ。
なんでだ。
お前ゲテモノいけたのか。
見ろ、左馬刻も呆然としてんじゃねえか。

お前いつも普通の飯作ってたし、変なもん食いてえとも言わなかったじゃねえかなんでだ
食育か?食育を間違ったのか?
そんなうまそうにタランチュラ食って俺はご両親になんて報告すりゃいいんだ。

「ん?左馬刻も銃兎もどうした?食が進んでいないようだが…」

「いっ、いえいえ!あまりお腹が減っていないものですから!」

「こんな豪勢だとは思わなくてメシちょっと食ってきちまったからな!!」

「そうか…」

少ししょんぼりとする理鶯になけなしの良心が痛まないでもなかったが
ゲテモノを食べるのだけはごめん被る。
結弦が理鶯の横で「美味しいのになあ」と言わんばかりの顔で見てくるが…
お前俺がゲテモノダメなの知ってんだろうが!!

「…理鶯さん」

「ん?どうした、おかわりか?」

「あ、もらいます。
 …免疫ないと昆虫食はキツいと思うんですよ」

「む…そうなのか」

「昨今の日本じゃ栄養価が高いものがいっぱいありますから、
 昆虫食に慣れてる人の方が希少だと思います」

なんで都会で生まれ育ったお前は慣れてるんだ、と思ったが
ここで口を挟むべきではないと勘が言っているのでぐっと堪える。
横で左馬刻も突っ込みたそうにしているが、どうやら堪えているようだ。
…めちゃくちゃ青筋立ってんぞ、どんだけだよ。

「銃兎さんも左馬刻さんも、なんやかんやで都会育ちですし、昆虫はキッツイと思うんですよ」

「! そうだったのか」

モグモグと咀嚼しながら言われた言葉でこちらを向く理鶯に、顔を上下に振っておく。
理鶯は唖然としているが…
…これは苦手な人間がいるとは思いもしなかったってツラだな…。

「しかし結弦も都会育ちだろう?」

「いや俺も昆虫は初めて食べました」


「「嘘だろおい!!」」



では虫以外の食材を調達して来よう。
あ、じゃあ俺も行きます。

言って立ち上がる2人を見送ったのが1時間ほど前。
そして冒頭に戻る。


「…なんでアイツあんなスムーズに鳥絞めれんだよ…」

「だから俺が知りてぇっつってんだろうがよ…」

都会育ちのはずだし、両親が亡くなったのは10歳にもならない頃だから
両親がそういった経験をさせているとも考えづらい。
もちろん、俺が引き取ってからはそんなことはさせていない。
知り合いにもそういった人物がいるとは聞いていない。

…瓢箪破裂させてることといい、あの子には謎が多すぎやしないか。








ひっさしぶりに野山駆け回ったらすごく楽しかったです。
いつぶりだ?と思ったけど前世ぶりですね!
修行で走り回るのは辛かった記憶しかないけど
久しぶりに走ると楽しい楽しい。

テンション上がりすぎて木から木をぴょんぴょんして、理鶯さんを驚かしてしまったのは本当に申し訳ないと思っています。

で、その結果、理鶯さんの予定より多めに獲物が獲れた。
…ま、まあ…保存できるようにしとけば理鶯さんも食べられるし…

…狩猟をする際はとりすぎないようにしようと思いました。



ベースキャンプに戻ったら戻ったで、理鶯さんと俺が抱えた鳥見て銃兎さんの顔が青くなってた。
鳥食べれるでしょ、と思ったけど銃兎さん割とこういうとこ繊細だからな…。

そう思って見えないとこで鳥絞めたのにやっぱり顔青いままだし。
正直、お仕事とか左馬刻さん関係でもっとグロいもの見てると思うんだけど。
羽をむしってる間もすごい顔してたしな…大丈夫だろうか。

まあ、狩りや下処理を率先してやってたおかげで、理鶯さんとは大分仲良くなったと思う。
すごい頭撫でてくれるし(左馬刻さんと違って優しくだ)
理鶯さんの武器の一つであるサバイバルナイフも貸してくれたし
敬語じゃなくていいとまで言ってもらえし
極め付けに、左馬刻さんや銃兎さんがいなくてもいつでもベースキャンプに来ていいと言ってもらえた。

やったぜ!これからはコンクリートジャングルじゃなくて野山で走り込みできるぞ!
(一度銃兎さんとかに「そんなに鍛えてどうするんです」って言われたことがあるけど、
必要とかそういうやつじゃないんだよなあ。やらないと落ち着かないからやってるだけで)


で。理鶯さんと一緒に解体した鳥肉で調理した料理を2人に出したんだけど…
なんでまだ若干顔色悪いの。
なに?そんなに繊細だったっけ?
虫?虫が尾を引いてるの?
一緒に料理したけど、普通の食材しか入ってないよ?

「いただきます!」

「うん、いただこう。左馬刻も銃兎も是非食べてくれ」

きちんと両手を合わせて食べ始めれば、なんか2人からすごい顔で見られたけどなんでだよ。










ちなみに余った鳥肉は、さすがに多いということで山田家にお裾分けしました。

「えらく大量にあるな。どうしたんだ?」

「獲った」

「……え?」

「獲った。山で」

「……え?」

「獲って絞めた」

「……誰が?」

「俺が」

「……え?」

一郎さんが壊れかけのレイディオみたいになった。