「こりゃ歩いて渡るのはムリね。」

 砂嵐で霞む砂漠を前に、舞もコケのカードが入り用だった理由に納得を見せていた。
 舞が手にしたコケを召喚すると、5体のコケが現れる。各々それに跨り、砂漠へ向けて出発した。

「ねぇ、これってファイナル・ファ……」
 モクバの目線に、なまえは再び口を閉ざす。


「しかし、なんでお前がこんな所にいるんだよ」

 砂漠を進む中で、城之内が舞に尋ねた。舞は遊戯たちと並走しながらそちらに振り向く。
「新しいゲームのモニターに誘われたのよ。そしたらこのヘンテコな世界から出られなくなっちゃって。」
「孔雀舞もモニターに?」
 モクバは益々ビッグ5の思惑が読めず眉間を顰める。だがそれも束の間、突然の地割れに遊戯が声を上げた。

「あぁ!」
 ひときわ大きく砂が巻き上げられると、また数値と共にモンスターが現れる。

「サンド・ストーンよ!」
 なまえが声を上げると、コケの列は一様に足を止めた。

“サンド・ストーン”(攻/1300 守/1600)

「ったく! 出でよ!レッドアイズ!」
 サンド・ストーンの前に、城之内のレッドアイズが召喚される。一撃で早々に撃破すると、砂嵐が晴れて青い空が頭上に広かった。

「あのサンド・ストーンが砂嵐を起こしていたんだ……」
 遊戯が晴れ渡った空を見渡す。進行方向の先に、山の神殿が目に入った。

「あの神殿だ!」
 モクバもそれを見て、思わずコケを走らせた。

***

「なんで神殿の中がこうなってんだ!」
 お化けの出そうな暗い洞窟に、薄寒い空気。城之内はまたもや苦手な雰囲気に叫ぶしかなかった。
「気味悪いわね……」
 なまえもいつもよりパーソナルスペースを縮めて歩いている。
「とにかく進むしかないよ。」
 遊戯とモクバだけが、しっかりとした足取りで進んで行った。

 進んだ先は、大きな木の扉で閉ざされていた。一同は顔を見合わせたあと、城之内が頷いて、その扉の前に進む。

「開けるぜ。」

 大きな音を立てて扉はゆっくりと開かれた。真っ先に中の光景を見た城之内が「あ!」と声を上げ、遊戯たちがそろそろと寄って中を覗く。

「迷宮ダンジョン……まさか、ヤバいぜ!」

 城之内と遊戯が顔を見合わせる。目の前に広がった巨大な迷路の空間に、それぞれが戸惑いを顔に浮かべる。
 それとほぼ同じくして扉がひとりでに音を立てた。最後尾のなまえが振り返ると、扉は完全に閉ざされていた。

「うそ! 閉じ込められたわ……!」
「どうすんのこれ!」
 なまえが遊戯に向き直ると、舞にも不安がこみ上げる。だが遊戯はなにか閃いたのか、迷路の方へ身体を向けた。

「そうか! この世界はデュエリスト・キングダムでの僕らのデュエルをモデルにしてあるんだ! だったらこの先に、出口が必ずあるはず!」

 そのとき、奥から女の子の悲鳴が響き渡った。

「今のは?!」
 城之内が反応すると、咄嗟に迷路の中へ駆け出していった。
「ちょっと城之内!」
 舞が呼び止めるのも耳に留めず、城之内は迷路の中へ消えて行く。
「ったく! 女の子の声には反応早いんだから! ここにもナイスバディのいい女がいるってのに!」
 モクバとなまえはそんな舞と城之内をうしろから眺めていたが、さらにその背後でまた地割れの音と共にモンスターが現れた。

「迷宮の魔戦車?!」
 振り向いた遊戯が迷宮兄弟とのデュエルで見たそのモンスターに驚く。「逃げろ!」という遊戯の声で、4人は弾かれたように城之内の行った道を駆け出した。


「クソ! どっちだ?!」
「城之内くん〜〜!」
 突き当たりの分かれ道に足を止めていた城之内の元へ、迷宮の魔戦車に追われた4人が飛び込んで来る。城之内の左右の道からも魔戦車が現れ、完全に囲まれてしまった。

「ここで終わりかよ……!」
「諦めちゃダメだ!」
 かなりのピンチに城之内が一瞬根をあげるが、遊戯は既に打開策を握っていた。

「“マジカル・シルクハット”!」

 魔戦車の攻撃に破壊されたシルクハットの中は、すでになにも無かった。
 壁を挟んで違う道に置かれたシルクハットが動き出し、ある程度進んだところで魔法は解かれる。

「ナイス判断だせ、遊戯!」
「うん!」

 しかし壁の向こうの物音で、魔戦車達がまだ追跡を諦めていない事を察知する。
「どっちに逃げりゃいいんだ」
 モクバの焦った顔に、なまえはあたりを見回す。すると曲がり角から、何かがキラキラと光ってこちらに飛んで来るのが目に入った。
「遊戯、あれ!」
 なまえの指差した方向から妖精が飛んで来て、遊戯の目の前に現れた。
「あの時の……!」

 それは、あの最初の墓場で出会った妖精だった。
 少し周りを飛び回ったあと、道の先へ飛び去って振り返る。

「オレ達を道案内してくれるって言うのか?」
「行ってみる?」
 城之内と舞が妖精を目で追うと、遊戯は大きく頷く。それを合図に、5人は妖精の示すままに駆け出した。


「エアル!」
 随分と進んだ先で、豪華なドレスを着たモクバそっくりな女の子が立っていた。

「モ、……モクバ! なんでそんな格好してんだ?」
 城之内が驚く中、遊戯と城之内の間を割り入って、本物の方のモクバが悪態をつく。

「バカ! オレはここだ!」

「でも……」なまえがつい呟く。エアルと言う妖精が側に寄ったそのお姫さまは、完全にモクバと瓜二つだった。

「さっきの悲鳴はキミだったんだね。」
「あ……アナタたちは?」
 モクバと姫が向き合う。背丈も全く同じで、目つきだけがほんの少し違うくらい。まるで鏡合わせをしたような2人に、今度は城之内が割って入った。

「あいさつは後だ。それより、出口知らないか?」

「知りません…… でも、エアルが案内してくれます。」
 一瞬落胆を見せた一行だったが、すぐに顔を上げてエアルに注目した。


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