「やった! 出口だ!」

 エアルの導くままに進んだ先で、城之内は壁の切れ目を見つけた。だが全員が迷路を抜けた先で、その先に続くべき道は新たに現れたモンスターに塞がれてしまった。

「クソっ! やっぱ出やがったな!」
 目の前に現れた“ゲート・ガーディアン”に、城之内は遊戯に顔を向け、2人は互いに頷く。

“ゲート・ガーディアン”(攻/3750 守/3400)

 舞やなまえにとって初見のモンスターであっても、遊戯と城之内は焦らずにカードを引いた。
「オレたちに任せろって! いくぜ遊戯!」
「うん!」
 遊戯の“デーモンの召喚”と、城之内の“真紅眼の黒龍レッドアイズ・ブラックドラゴン”、そして“融合”の魔法カードで、二人は“ブラック・デーモンズ・ドラゴン”を召喚した。

“ブラック・デーモンズ・ドラゴン”(攻/3200 守/2500)

「惜しい! あとちょっと届かないわ」
「へっ、まだまだ! さらに装備魔法“闇竜族の爪”で、攻撃力700アップだぜ!」
 舞の声も杞憂に終わり、城之内と遊戯のカードタクティクスによって、“ゲート・ガーディアン”は撃破された。これには流石になまえとモクバが驚いて城之内に目をやったが、あまりにも得意げな顔をした城之内に、2人は別段言おうとした言葉を飲み込む。

「ありがとうございます、なんとお礼を言っていいか。」

 モクバに似たお姫様が感嘆するなか、遊戯は頷いてから「さぁ行こう!」と道の先へ向き直った。


 迷宮から抜けて、一行は薄暗い洞窟を進んでいく。足音だけが反響するなかで、段々と違う声の反響と、行く先に揺らめく松明が近づいて来るのが見えた。

「メアリー様!」
「ばあや!」

 メアリーと呼ばれたそのお姫様は、松明を持った兵士たちの先頭を歩いていた老女を見るなり駆け出した。ばあやもすっかり安堵した顔でメアリーを受け止めると、どこにも怪我がないのを確かめるように、彼女の小さな体を見回す。
「メアリー様、よくご無事で!」
 その様子をメアリーの後ろで見ていた5人に、やっとばあやの目が向けられる。
「メアリー様、その者たちは……?」
「この方達は、私を助けてくれたのです。」

 「まぁ!」というばあやの驚きの声と共に、ばあやに付き従っていた兵士たちの目も見開かれる。メアリーは遊戯たち一行に振り向くと、微笑んで手を合わせた。

「皆さん、ぜひ助けてくれたお礼をさせて下さい。」

***

「う……」

 小さく呻いた喉に、海馬はゆっくりと目を開けた。
「ここは……?」

「お目覚めですか、海馬瀬人。」

 朦朧とした呟きに、意外にも返答が返ってきた。海馬が顔を上げると、カードのモンスターでもある“魔人 デスサタン”が、まるで英国紳士が挨拶をするかのようにシルクハットを胸に立っていた。

“魔人デスサタン”(攻/1400 守/1300)

 海馬は石柱に磔けにされていた。デスサタンは挨拶もほどほどに帽子を被りなおす。
「オレをどうするつもりだ?」
「決まってるじゃないですか。アナタは“ファイブ・ゴッド・ドラゴン”の生け贄になるのです。……この世界を混沌と闇に変える邪悪の神。」
 帽子のつばの陰の中で怪しく光る緑色の眼球を、デスサタンはゆるやかに歪めて笑った。

「ですが、……ファイブ・ゴッド・ドラゴンの復活の儀式には、もう1人の生け贄が必要。しかしそれももうすぐやって来るはず。」

「貴様! 正々堂々とオレにゲームをプレイさせろ!」

 海馬の怒声にもデスサタンは涼しい顔で指を立てる。
「おかしな事をおっしゃる! 私の使命は、どんな手段を使ってでも、アナタを抹殺すること。プレイさせるなど、端からプログラミングされておりません。」
 デスサタンは磔けにされた海馬が何もできないのをいいことに、悠々と背中を向けて石段を降り始めた。

「ま、ゆっくり次の生け贄がやって来るのをお待ちなさい。私はもう1人抹殺しろとプログラミングされたのでね。海馬瀬人、きっと寂しくはありませんよ。」
 フフフ……と笑いながら姿を消すデスサタンの背中に、海馬はモクバの身が思い出される。

「貴様!」

 海馬の呼び止める声も虚しく、その石の神殿内に響き渡るだけだった。

***

「オレたち、無事に帰れるんだろうな?」
 森林の縁取りが美しい丘陵地隊を、遊戯、城之内、なまえ、舞、そしてモクバの5人を乗せた馬車が走っていた。メアリーとばあやは違う馬車で先頭を走っている。土と緑の湿った風の中で、4人の目は口を開いた城之内に集中する。

「大丈夫よ。メアリーって子、敵キャラじゃないみたいだし。」
「そうだね、…それにあの子は、モクバ君をモデルに作られたキャラじゃないかな?」
 舞と遊戯がそう返すと、城之内は口を曲げるモクバを覗き込んで、「ビッグ5も悪趣味だねぇ」と笑った。

「待って、みんなはその、……変な装置に入って、この世界に接続した記憶があった上で、ここにいるんでしょ?」
 なまえだけは顔をしかめて4人を見回す。その不安そうな面持ちに、遊戯も「あ、」と小さく声を漏らした。
「そっか、なまえだけは、海馬くんの家でビッグ5の1人に襲われて、気がついたらこの世界に居たんだよね。」
「……ええ。みんなは自分の体がどこにあるか分かってるんだろうけど、私は自分の体がどこへ連れていかれたのか知らないでここに来てしまったの。現実世界に帰れたとして、もし知らないところに放置されてたら相当マズいわ。」

 腕を組むなまえに、今度は城之内が彼女を覗き込む。
「てゆーか、オメーよぉ…… あのメアリーってキャラクターがあんだけモクバに似てるって事は、本当はなまえもプログラミングされたキャラクターなんじゃねぇのか?」
「バーカ! そんなわけねぇだろ!」
 意外にも、真っ先に否定したのはモクバだった。これには流石になまえも驚いて目を見開く。

「なまえがプログラミングなら、なまえの強力なレアカードをビッグ5が禁止カードに設定する意味なんてねぇだろ。それに、なまえの家はな───」
「ストップ」
 なまえの大声に、モクバは思わず気まずそうな顔でその声の主を見た。眉間を押さえてため息をつくなまえに、遊戯や舞も訝しむ。
「関係ない話はあと。とりあえず……ゲームをクリアして、海馬も一緒に現実世界に戻って、それから私が行方不明だったら。それからちゃんと探してちょうだい。」

 ちゃんと覚えててよね、となまえは念を押して、4人を見回した。


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