「お前は確かにオレの宿敵だった。だがいつしかオレは、お前への執着の意味に気がついていた。

  ただ1人で前進することのみがオレのプライド、オレの歩むべき道だった。だがオレは、なまえが隣にいる事を望んでいた。
  ……お前のために歩幅を合わせることも、お前のためにその道を引き返すことも、なまえ、オレはお前といた事でそれを知った。オレはお前と共に、オレが進むべき未来へのロードを歩みたい。オレの足跡、オレの未来! それらは全て、そこにお前がいて初めて完成するのだ!」

「あ、うァ……!」
 頭が割れる。ガラスでできた顔に深く亀裂が入ったような鋭い痛みが強烈に襲った。
 海馬にはそれがマリクとの葛藤だと分かっている。頭を抱え、震えながらもなまえは海馬を見つめた。その目の色が煌めき始めているのも、なまえがその耳を傾けているのも海馬には分かっている。

 もう言い淀みはしない。自分が持っているものをなまえに投げるだけでいい。
 オレは最初から知っていた。

「ここでどちらかが死ななければならない未来だというなら、オレは最後まで戦う。お前と殺し合うためではない、お前を取り戻すために!

  なまえ! 聞こえているなら答えろ…… オレを殺す前に、オレがこれから言うことに、なまえ、お前の言葉で答えてみせろ!!!
  過去の遺物など関係ない。オレたちはオレたち自信の心で互いに惹かれあっていたはずだ。

  もっと早くにお前に伝えていたならば、こんな事にはならなかったのかもしれん。だが今はそんな事どうだっていい! オレは知っている。お前もオレを選んだと、……お前もオレを愛しているのだとな。」

 なまえが大きく息を飲んだ。次に何を言われるか、本能的に知っていた。……これが望んだもの。一つ目の願い。


「いいか、オレは一度しか言わん! だが死を覚悟した今だからこそ、オレは正直にお前に言うことができる。

  なまえ、お前を愛している。オレはお前の答えが聞きたい。

  答えてくれ、……目を覚ますんだ!!!」

「───海馬……!」

***

「女の洗脳が解けただと?!」

 精神を繋いでいたくびきが引き千切られ、マリクは砕けた一方の鎖に怒りが収まらずに立ち上がった。
 城之内の支配に集中するしかなくなったマリクが、テーブルのコップやアイスペールを衝動のままに引き倒し、打ちやっては割る。その背中をリシドが見つめていた。

***

 ハー、ハーと肩で息をするなまえが、ゆっくりと顔を上げる。だがそれよりも前に、目の眩むほどの高さと不安定に揺れるゴンドラに、小さく悲鳴を上げて座り込んだ。
「なまえ!!!」
「か、海馬……! ここは、私、いったい……」
 風が吹くたびに「ヒッ」と目を瞑って、ゴンドラの鎖に捕まった。どう助けようにも、起爆装置を押されたらどちらにせよ終わる。

「なまえ、落ち着け。オレがサレンダーする。」
「……!」
「残り10分も無い。時間切れになれば2人ともここから叩き落とされる。なまえ、お前だけでも───」

「バカ言わないで!」

 震える足を必死に奮い立たせて、なまえは不安定なゴンドラの上に立ち上がった。掴んでいた鎖からも手を離し、青い顔で真っ直ぐに海馬を見つめる。

「私は聞こえてた、……最後まで戦うんでしょ。私の知ってる海馬瀬人は、女1人のために自分を曲げるような男じゃない!」

「ッ、」
 なまえはデュエルディスクを着けた腕を振り上げた。デッキに這わせる指は震えている。それでも立ち向かおうとするなまえに、海馬も手を握りしめた。

「カードで死ねるなら私だって臨むところよ。私と闘いなさい。……あなたは何度だって私を倒すイメージを描いてきたはずよ。私はあなたの宿敵だったんだから。
  ここからが私たちに与えられた宿命の戦い。私を本当に愛してるなら、自分を曲げずに最後まで戦ってみせろ! 海馬瀬人!」

「いいだろう、それでこそオレが選んだ女だ、みょうじなまえ!
  お前がいて始めてのオレのプライド、オレの未来へのロード! それを取り戻すために、オレ達の宿命のデュエルが始まるのだ!!!」


「「デュエル!!!」」

なまえ(LP:2200)
海馬(LP:250)



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