「《王家の谷-ネクロバレー》を発動した事により、わたくしのフィールドの《墓守》と名のつくモンスターは攻撃力が500ポイントアップします」

 墓守の祈祷師(攻/1900→2400)

「さらに、このフィールド魔法が存在する限り、墓地で発動するカード効果は全て無効になる」
「……!」
 イシズは《墓穴の道連れ》によって引き当てたカードに目を向けた。運命は既に傾いている。千年秤を失い、どこまでも運命に抗おうとする王妃の魂。その潜在意識によって翻弄される現世のなまえ、そしてイシズ。
「(いいえ、わたくしは千年タウクが見てきた記憶によって、自ら王妃の魂と闘う事を選んだ。闘いを挑むことも、呪いの言葉ひとつ浴びせることもできなかった、深い苦しみの記憶。現世に対等な人間として出会った今だからこそ、私たちは自らの力で精算できるのです)」

 腹の底から、断末魔のような叫びが身体中を掻き毟っていた。ただ呆然とイシズの背負う断崖を見上げ、心の中で「もう見ないで」と誰かが喚く。
 取り出される臓物、塩をすり込まれる肌、乾き、朽ちていく肉体。呆然と見上げていた、満点の星空。

───あなたを愛するためだけに生きるって約束するわ


わたくしのターンは終了です」

 ハッとして腕を持ち上げた。目の前にあるのはデュエルフィールド。イシズの強い眼差しに引けを取るわけにはいかない。こみ上げそうになるものを振り払い、なまえはデッキに指を向けた。


「私のターン、ドロー!」
(手札3→4)

 いままでずっとフラッシュバックしてきたものが何なのか、もう自分でもわかっていた。だけどそれを認めてしまったら、自分の意思が前世によって既に決まっていたものだと認める事になる。
 私が海馬を選んだのは自分の意思。自分が決めたこと。だから自分が傷つくことも、犠牲にもできる。運命なんかどうだっていい。
 ───『今の私は自由なんだから』


「ふ、……考えていたことは同じみたいね。リバースカード、フィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動!」

「この瞬間、《墓守の祈祷師》の効果が発動します! 《墓守の祈祷師》、そして《王家の谷-ネクロバレー》がフィールドにいる限り、相手プレイヤーはフィールド魔法を発動できない。よって、《魔導書院ラメイソン》を破壊!」
「な、───」
 リバースしてすぐ破壊され、思わず汗が流れた。それでもすぐに体制を持ち直す。

「───ッ、でも破壊による効果発動は対象にならない! 《魔導書院ラメイソン》が相手によって破壊されたとき、墓地の魔導書と名のつく魔法カードの枚数以下のレベルを持つモンスターを、デッキから特殊召喚する!」
「……!」
 今度はイシズがくっと奥歯を噛み締めた。

「墓地の魔導書は3枚! 私はデッキから、
 《魔導教士システィ》(★3・攻/1600 守/800)を攻撃表示で召喚!」
 墓守の祈祷師の前に2体の魔導士が並ぶ。イシズの伏せカードは残り2枚、なまえのフィールドにも1枚残っている。手札は全て魔法カード。

「手札から永続魔法《魔法吸収》発動! 互いのフィールドで魔法カードが発動するたび、コントローラーはライフを500ポイント回復する。
 私は《グリモの魔導書》を発動し、デッキから魔導書と名のつくカードを手札に加える」
なまえ(手札4→2→3 / LP:4000→4500)
「さらに《ヒュグロの魔導書》でシスティの攻撃力を上げるわ」

《魔導教士システィ》(攻/ 1600→2600)
(手札3→2 / LP:4500→5000)

「《魔導教士システィ》で、《墓守の祈祷師》に攻撃!」
「リバーストラップ《聖なるバリア -ミラーフォース-》!  これで貴女のモンスターを全て破壊します!」
 システィの攻撃が祈祷師に振り下ろされる瞬間、ミラーフォースの鏡面がイシズのフィールドを覆う。アァ!と遊戯たちから声が上がった。

「これが運命だと言うのなら、貴女の見える未来で結末が決まっているの? そんなものをなぞるためにデュエルをしているのなら、今すぐこの場から引き摺り下ろしてやる……!

 カウンタートラップ、《神の宣告》!」

「───!」
 主人の声にしもべである魔導士の攻撃はさらに大きく突き進んだ。開かれたカードに、イシズが息も忘れて目を見開く。

「ライフコストを半分払い、トラップカードを無効にして破壊する!」
なまえ(LP:2500)
「まさか最初から私のトラップを読み、コストを払うつもりで《魔法吸収》を……!」
 ミラーフォースが砕かれ、システィの攻撃によって墓守の祈祷師が撃破される。砕け散るビジョンの向こうでは、既に魔導法士ジュノンが手を振りかざしていた。

「───あぁッ!」
イシズ(LP:1300)

 ジュノンのダイレクト・アタックにより、ライフコストを大幅に払ったなまえよりもイシズのライフが下回る。
「モンスターを破壊した事で、ヒュグロの魔導書の効果によりデッキから魔導書のカードを手札に加えるわ。さらにエンドフェイズ、《魔導教士システィ》の効果で、このモンスターをゲームから除外する事で、デッキからレベル5以上の光・または闇属性魔法使い族と、魔導書と名のつく魔法カードを1枚ずつ手札に加える。私のターンは終了よ」
(手札2→5)


 確実になまえが有利のはずだった。しかしイシズは何事もなかったかのようにショールの裾を払い、デュエルディスクを掲げる。
「流石はデュエルクイーン、少し侮っていたようです」
「……」
 白々しい言い回しに目を細めた。イシズのフィールドに残されたリバースカード、あれは《神の宣告》やダイレクト・アタックにも発動しなかった。
 システィを除外したとは言え、なまえのフィールドには攻撃力2500の魔導法士ジュノンが居る。……だが、リバースカードはない。

わたくしのターンですね」
(手札2→3)

「では、リバースカードを発動します
 ……トラップカード《降霊の儀式》!
 このカードは墓地から墓守と名のつくモンスターを特殊召喚するカード。わたくしは墓地から《墓守の偵察者》を特殊召喚!

 そしてこの墓守の偵察者を生贄に、このモンスターを出します。
 《墓守の大神官》(★8・攻/2000 守/1800)を攻撃表示!」

イシズ(手札3→2)
「レベル8のモンスターを、生贄1体で……?!」
「このカードは墓守を生贄にする場合、1体で召喚できる効果があるのです。墓地に眠る墓守の数×200ポイント、さらに《王家の眠る谷》の効果で500ポイント攻撃力を上げます」
「……!」

「そして手札から装備魔法《ダグラの剣》を発動、墓守の大神官に装備……!」

《墓守の大神官》(攻/3900 守/2300)

イシズ(手札2→1)
なまえ(魔法吸収/LP:2500→3000)
「(ジュノンを守りきれない……!)」
「《墓守の大神官》で、《魔導法士ジュノン》を攻撃!」



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