『アァ───!』
 袈裟斬りに裂かれたジュノンが砕け、なまえの長い髪が風に煽られる。

「《ダグラの剣》の効果により、貴女に与えたダメージの数値分、わたくしのライフを回復します」
「く……ッ!」

なまえ(LP:1600)
イシズ(LP:2700)


「私のターン!」
(手札5→6)
 ライフポイントを逆転された。フィールドもガラ空きにされ、目の前には攻撃力3900のモンスターが立ちはだかる。

「く、……《グリモの魔導書》を発動! 魔導書と名のつくカードを手札に加えるわ。」
なまえ(魔法吸収/LP:1600→2100)
(手札6→5)
「そして《ルドラの魔導書》を発動。《魔法吸収》を破壊して墓地へ送り、デッキからカードを2枚引く」
(手札5→4→6)

「(これでライフの回復効果を失った……)」
 イシズがジッと見つめるなまえの手札。

「ダイレクトアタックを受けたらなまえの負けだ、もっとライフを回復してからじゃないと……!」
「いや、いいんだ! 《魔法吸収》はなまえの魔導書デッキにとって相性の良いカード、……それを捨ててまで、なまえは起死回生のカードを引き当てる事に賭けたんだ」
 焦る御伽や城之内たちに目を向けることなく、遊戯もなまえの手札を見つめた。静かに佇み、考えるなまえの横顔に、杏子は瞬きすることしかできない。

「……モンスターを裏守備表示で召喚。カードを2枚伏せてターンエンド」
(手札6→3)

「(なまえ……)」
 遊戯の顔色が曇る。だが海馬の目は鋭く、なまえの背中を見るだけだった。
「(こんなところで負ける女なら、それまでだ)」
 そうではないとわかっている。だからこそ海馬は何も言わず、ただ静かに眺めていた。


わたくしのターン、ドロー」
(手札1→2)

 その瞬間、なまえは噛んでいた唇を離して手を振り上げた。
「リバースカード! 速攻魔法《ディメンション・マジック》!」
「ならば手札から、永続魔法《ネクロバレーの祭壇》を発動します」
(手札2→1)
「……!」

 またもや開かれたカードが目の前で破壊される。息を飲むなまえに構もせず、イシズは淡々と進める。
「このカードは、わたくしのフィールドに墓守と名のついたモンスターと、フィールド魔法王家の眠る谷が存在する限り、お互いに《墓守》と名のついたモンスター以外のモンスターを特殊召喚できなくなるカード。……よって、貴女の《ディメンション・マジック》を無効にします」
「そん、……」
 しまった、と開きかけた口を噛む。これで墓地のカード効果を発動させる《セフェルの魔導書》や《ネクロの魔導書》だけでなく、モンスターによる上級魔導士の特殊召喚までもが封じられた。

「墓守の大神官で、裏守備モンスターに攻撃!」

「……くッ!」
 リバースした《魔導書士バテル》が破壊される。
「だけど、《魔導書士バテル》の効果を発動! デッキから魔導書と名のつくカードを手札に加える!」
(手札3→4)

 なまえは《ルドラの魔導書》を手札に加えた。これでデッキに3枚積んであったルドラは最後の1枚。発動を封じられた《セフェルの魔導書》や《ゲーテの魔導書》が手札を圧迫しつつある。

 確実に焦りが見え始めたなまえに、イシズは僅かに口の端を上げた。
 静かに、手札に1枚残ったカードに目を伏せる。……《王家の生け贄》、これこそが彼女に最後に開かれる運命の名前。なまえがどんなに否定しようと、いずれ向き合わなくてはならない事実。そして、どんなに逃げても逃げきれない、魂に焼き付けられたこの世の役割。

 千年タウクが見せるものは“未来のビジョン”だけではない。千年タウクが見てきた過去、千年タウクのまなこが見てきた事実。そこに焼き付いた、苦悩に喘ぐ心臓イブの鼓動。
 この闘いはイシズと、千年タウクに宿る女の慟哭が求めただけのものではない。罪の重さを知りながらも、闘うことすら、責められることすらされず、自分で自分自身を責めることしかできなかった王妃の絶望、その罪の清算と、慰め。

わたくしはカードを伏せてターンエンド。さぁ、貴女のターンです」


「私のターン、……!」
 震えそうになる手を一度握りしめたあと、なまえはデッキに指を這わせる。
「ドロー!」
(手札3→4)

 これで引きが悪ければ終わる。閉じた目を開けてチラリと手の中のカードを見た。
「───!」
 すぐに手札に加えて、並んだカードを見渡す。
 これが私の未来を信じる力、私だけが持っている、カードとの信頼。デッキは常に応え続けていた。───今も。

「私は手札から《ルドラの魔導書》を発動! 手札から《ゲーテの魔導書》を墓地へ捨てて、デッキからカードを2枚引く!」
 応えてくれる、必ず。私が信じる限り、私がデュエルを諦めない限り。闘うことが私の望んだこと。自分の運命を呪うのはもう終わり、今度こそ自分で闘い、掴むと決めたのだから。

「ドロー!」

(手札4→2→4)
 私は勝つ。この際この闘いの宿命は受け入れよう。だけどそれがどんな過去であれ、償いであれ、清算であれ─── 私は決して私自身であることをやめない。もう私は1人ではない、……闘う力を、私を信じ、応えてくれるカードがついているのだから。

「《魔導召喚士テンペル》(★3・攻/1000 守/1000)を召喚!
 さらに速攻魔法《サイクロン》! フィールド上のカードを1枚破壊する!」
(手札4→2)

「……! まさか」
「そう、破壊対象は───《王家の眠る谷》!」



- 239 -

*前次#


back top