「私のターン(手札3→4)
 さらにカードを1枚、セットする。ターンエンド」(手札4→3)

 思わず舌打ちをした。何もしてこないつもりか? リシドのプレイングが能動的であっても、トラップ戦術は一度流れを与えてしまえば足掻くだけ深みに捕えられてしまう。
「(下手なことはできない……)」
 リシドの前に伏せカードは4枚。手札とデッキの消費はなまえの方が早い。自分の首が閉まる前に、どうにかしなければ───

「私のターン、ドロー!」(手札2→3)

 引いた手札に「来た」と眉を動かした。仕掛けるしかない。鬼が出るか蛇が出るか、……そんな綱渡り、今まで何度も経験してきた。もうそんな事で怯えるデュエリストなどではない。

魔法マジックカード《グリモの魔導書》! デッキから魔導書と名のつくカードを手札に加える!!!」(手札3→2)

「そのカードは、お前のデッキ最大の起点。……そのカードが出されるのを、私は待っていた」

「───、え?」
 フィールドに出された《グリモの魔導書》のカードの下に呪印が現れた。雷光に破壊されただけでなく、それはなまえのデッキをも襲う。
 リシドの前に伏せられていたカード、その1枚が開かれていた。魔法カードで構成されたなまえのデッキ、その最大の“弱点”を、リシドは突いたのだ。

トラップカード《封魔の呪印》!!! 手札を1枚捨て、魔法カードの効果を無効にして破壊する! さらに、相手のデッキの同名魔法カードも全て、このデュエルでは効果を発動する事はできず、破壊される!!!」(手札3→2)

「───!!!」

 破壊された爆風になまえは腕で顔を覆う。靡く髪に目を開ければ、もう自分が相手のトラップ地獄の中にいるのだと悟らされる。
「まさか、《グリモの魔導書》が……」
 青い顔で唇を噛む。《封魔の呪印》の効果により、たとえデッキの《グリモの魔導書》をドローしても、効果は発動できず再び破壊される。
 このカードはなまえの魔導デッキ最大の起点。これ1枚が無いだけでなまえのプレイングスピードは相当落ちる。それどころか、この一手は魔導デッキ最大の弱点を突いた。

「お前のデッキの《魔導書》と名のつく魔法カードは、分かっているだけでも10種類以上。その中から必要なカードを必要な局面で引き当てることはほぼ不可能だ。……それを可能にしていたのが、その《グリモの魔導書》」
「く、……フ、私のデッキの中身を知り尽くしているってこと? 有名になりすぎるのも困ったものね」
 悪態をついて小さく鼻で笑う。キーカードを潰されても、なまえはまだ冷静だった。
「だけどその程度で私のデッキは攻略できない! 私は手札から《セフェルの魔導書》を発動! 墓地の《グリモの魔導書》を選択し、同じ効果を得る。これなら《封魔の呪印》の破壊対象にはならない。
 私はデッキから『魔導書と名のつくカード』を1枚手札に加える。(手札2→1→2)

 そして《魔導戦士フォルス》の効果! 墓地から《セフェルの魔導書》をデッキに戻し、フォルスのレベルと攻撃力を上げる」

《魔導戦士フォルス》(★5→6・攻/ 3000)


「兄様、攻撃力がブルーアイズと並んだぜ……!」

「あのモンスターは墓地に魔導書がある限り、延々と攻撃力を上げていく。あと2ターンあれば、海馬のオベリスクをも超える」
 隣で驚いたような顔を上げたモクバに応えるように呟いたのは遊戯だった。それも聞こえてはいたが、当の海馬は「対策を考えるまでもない」と言いたげだ。
「(だが攻撃力がブルーアイズに並ぶまで2ターン、オベリスクにとどくまで4ターンも掛かる。……所詮はオレの敵ではない)」
 もちろんそれはなまえも理解している。決勝トーナメントで勝ち残ることも重要だが、ここで手の内を晒しすぎないことはもっと重要なのだと。


「あなたの伏せカードはあと3枚…… でも簡単には発動させないわ! 手札から永続魔法《魔術師の左手》を発動!(手札2→1)
 このカードは1ターンに1度、自軍に魔法使い族モンスターがいるとき、相手が発動したトラップカードを無効にし破壊する! さぁ、バトル!

 《魔導戦士フォルス》、ダイレクト・アタック!!!」

トラップ発動! 《アヌビスの呪い》! フィールド上の全ての効果モンスターを守備表示にし、その守備力を0にする」
「無駄よ!!! 永続魔法《魔術師の左手》の効果! トラップカードを無効にして破壊する!!!」
 《アヌビスの呪い》が破壊され、フォルスの攻撃が通ったかに思えた。しかし想像に反して、チェーンブロックは続く。
 僅かに目を細めたリシドに、なまえにどこか寒気が走った。

「私が待っていたのは、魔法カードによるカードの破壊効果。……無駄だったのは、お前の方だ。
 真のトラップはこれだ、───《アヌビスの裁き》!!!

 これは相手がフィールド上の魔法・罠カードを破壊する効果をもつ魔法カードを使用した時に、手札を1枚捨てることで発動可能なカウンター罠カード。お前の永続魔法《魔術師の左手》を破壊し、さらに相手フィールド上のモンスター1体を破壊して、その攻撃力分のダメージを与える!!!」(手札2→1)

「───! フォルスの攻撃力は3000!」

「くらうがいい!!! アヌビスの裁き!!!」

 ヒ、と息を飲むのと同時に《魔術師の左手》、そして《魔導戦士フォルス》が破壊され、トラップによる効果ダメージがなまえを襲う。それも3000というかつてないほどの大ダメージに吹き飛ばされ、背面の柵に体を打ち付けられた。

「あう、ぐ……」
なまえ(LP:1000)

 柵に肘を掛けてなんとか立ち上がる。それを振り向いて心配そうに見つめるブラック・マジシャンの顔に、なまえは無意識のうちにその先にあるリシドの顔を並べ見た。
 ズクズクと痛む背中に、冷たい風が脂汗の浮かぶ額へ爪を立てる。

「やってくれるじゃない、……でも私にはまだ《ブラック・マジシャン》の攻撃が残っている!」
「私の残り1枚の伏せカードにも臆せず挑むか」
「……ッ 《ブラック・マジシャン》!!! ダイレクト・アタック!!!」

 頭に血が上っていると言われたら否定できない。だが、一度やられたくらいでエンド宣言するほど臆病でもない。……やられたらやり返す。それがなまえの無意識下にあるプライド。

トラップ発動!」
「チッ」
 カードが開かれる前に舌打ちをした。手札は1枚……モンスター破壊だけなら守ることができる。しかしまたそれに付随するダメージ効果だったら───

トラップカード《ドレイン・シールド》! モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分だけ私はライフを回復する」
「……は?!」

リシド(LP:4000→6500)


 ここへ来てライフ回復、それも1000対6500という信じられないほどの格差が開かれた。いまなら氷砂糖より簡単に砕けそうなほど奥歯を噛み締める。目眩と、苛立ちと、胸のむかつき。怒りのあまり震える視界に、まぶたにまで血潮の脈動が伝わっている。

「……私はカードを1枚伏せて、ターン終了」

なまえ(手札 0/ LP:1000)



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