「(世にも恐ろしいコンボを見せてやる。これぞ究極の殺人コンボだ!)」

 “闇 道化師のサギー”を守備表示に、そして“死のデッキ破壊ウイルス”をサブカードステージにセットする。
 そして遊戯のブラックマジシャンの前に、サギーが出された。
「(サギーの守備力は1500。ブラックマジシャンで楽に倒せる。…だが、イヤな気配が漂うぜ。)」

 警戒の色を隠せない遊戯を、海馬は内心嘲笑って見ていた。
「(遊戯…お前はサギーへ攻撃する以外に手はない。いや、攻撃するまで永遠にサギーを場に出し続ける。お前は地獄の罠に掛かった。)」

 遊戯のターン、“暗黒騎士ガイア”を引く。
「(いいカードだ。“暗黒騎士ガイア”は前の闘いでサギーを倒した事がある。)」
 遊戯はデュエルディスクを引き戻すと、カードを入れ替えた。
「よし!メインモンスターをチェンジ!“暗黒騎士ガイア”でバトル!サギーに攻撃だ!」


「いけない!遊戯!」
 咄嗟になまえの口をついたのは、遊戯への警告だった。その声に外野で見ていた獏良だけが気付いて見上げた。
「なまえちゃん…?」

 だが獏良の呟きを城之内や本田、杏子が耳にする前に、海馬は高らかに笑った。
「ハッ!かかったァ!」

 破壊されバラバラになったサギーが、「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」と長く不気味に笑い、その断片が紫色のオーラを放ってガイアに飛び付いた。ガイアは破壊され、遊戯に焦りの色が滲む。
「なに?!ガイアが!」
 しかしその言葉に 海馬は地を這うような声で恐ろしい事を言う。
「ガイアだけじゃない」

 同時に遊戯の手札に並ぶブラックマジシャンも消滅し、海馬はさらに続けた。
「ハハハハハ!このカードの効力さ!“死のデッキ破壊ウイルス”!“闇 道化師 サギー”にはこのデス・ウイルスを感染させておいた。貴様のモンスターがサギーに攻撃した瞬間、ウイルスに侵されるようにな。“死のデッキ破壊ウイルス”は貴様のデッキ 全てのカードに感染する!」

「しまった!」

「この効果によって攻撃力1500以上のモンスターは全て使用できなくなる!貴様のデッキは破壊したも同然だ。ハハハハハ!…もはや貴様に出来ることは、ただひたすら敗北の時が訪れるのを待つことのみ…。遊戯、これから貴様に血も凍りつく恐怖のデュエルを体感させてやる。」


「(ブルーアイズ3体融合ばかりに目を向けて抜かったわね…。遊戯、ここからどうするの?)」
 遊戯が左腕のデッキホルダーを見て苦虫を噛み潰したような顔をするのを、なまえが痛ましそうに見ていた。
「(それにしても、海馬…手を込んだ戦略はまだしも、あんな言い方をしてたら遊戯の仲間からまた批難されるでしょうに。あんなに強がってるのは…やはりモクバくんのために、本当はそこまで追い詰められているのね…。)」
 弱みがあるからこそ、尚のこと強がって吠える海馬を、どこか哀れそうに眺めるしか今のなまえには出来なかった。今この瞬間ですら、海馬はモクバを案じているに違いない。

 なまえの立つ場所からでも聞こえる城之内や本田の 海馬への雑言ですら耳を塞いでしまいたい気持ちになるが、海馬が甘んじて受ける姿勢を見てなまえもそれに耐えていた。

 事情を知るが故であるが、それは海馬とある程度の関係まで進められている自分への傲りでもあったのかもしれない。
「…海馬…。」


「俺のターン、…だが、互いの場にモンスターが出ていない。カードを引き ディスクにセットしろ! まぁ俺のモンスターが一瞬で蹴散らしてやるがな。」

 遊戯はカードを引くが、引いたカードは制限の掛けられた事を示されていた。
「(引いたカードは“デーモンの召喚”…。このカードも攻撃力1500以上。場に出しても消滅するだけだ…)」
 考えあぐねている遊戯を海馬が見兼ねたのか、それとも挑発なのか、海馬は少し嘲る。
「どうした遊戯!出せるカードが出るまで、俺はパスして待っていてやるぞ。」
 その声に遊戯は思わず海馬を睨み返す。だが焦りの色を隠しきれないその遊戯の顔を見て、海馬は改めて鼻で笑う。

 遊戯は“シルバーフォング”を守備表示で出すが、海馬は“ミノタウルス”を出して早々に撃破する。
 既に2枚目のブルーアイズを引いた海馬にとって、最早勝利は目前とまで進めていた。

「(遊戯…いつまでもザコモンスターを守備表示にして逃げ続けているがいい。その間に手札に3枚のブルーアイズと、融合のカードを全て集め 究極モンスターを完成させる。ブルーアイズのカードはその瞬間が来るまで、手札の中で温存させておく。)」

 だが遊戯は諦めてはいなかった。
 ライフポイントがゼロになるまで、カードを引き続けるしかないと腹をくくってドローする。

 遊戯は“グリフォール”を引くと、装備魔法のカード“一角獣のホーン”とのコンボで攻撃表示で出して“ミノタウルス”を撃破した。
 だが海馬はまだ余裕を持って遊戯を見ていた。

 海馬のターン、ついに3枚目のブルーアイズを引き当てる。
「(これで“青眼の白龍”は3枚!)」
 海馬の顔が高揚して口元の笑みを隠せない。

 海馬は魔法カード“ホーリーエルフの祝福”を発動しライフポイントを回復する。
「(海馬は“ホーリーエルフの祝福”が手札にある事を計算して “ミノタウルス”をおとりにしたのか、…俺のモンスターを攻撃表示にするために…!)」
 遊戯に焦りの汗が一筋額から流れる。

「(このターンでブルーアイズを一体出しておく。…融合にはもう1ターン費やすからな。)」
 海馬のデュエルディスクに、ついにブルーアイズのカードがセットされる。

「いくぞ 遊戯!覚悟しろ!」

 ブルーアイズがフィールドに出されると、ブルーアイズは身体の芯から震わせる咆哮を一声上げる。だがそれは遊戯のモンスターを破壊する序の一声に過ぎなかった。

「滅びのバーストストリーム!」

 天を支配するかの如く、一際激しく一度羽撃くと、ブルーアイズの口から放たれた激しい閃光が 遊戯の“グリフォール”を貫いて消滅させる。
「ザコモンスター、粉砕!」
 海馬が高らかに宣言する。

「かろうじてライフが残ったか。さぁ貴様のターンだ!」

 遊戯はカードを引く。
「“岩石の巨兵”を守備表示!ターン終了だ!」

「俺のターンだ!」
 海馬がカードをドローして見るなり、海馬の目は揺るぎない闘志の炎に輝いて遊戯に鋭い視線を向けた。

「遊戯…、貴様と出会ってから満たされる事の無かった勝利への飢え…乾き…。その苦しみから俺は今やっと逃れる事ができる!その苦しみ…お前にも教えてやる!」

 海馬と遊戯の間を塞ぐカードの壁が一枚ずつ開かれる。
 3枚のブルーアイズと融合のカードが開かれると、フィールドのブルーアイズが一声咆哮を上げ 激しい光の中一筋伸びる首が3本に分かれ、ついにその光すら打ち破る青白く輝いた肢体が遊戯の前に姿を現した。

 なまえも窓から体を乗り出し気味にそれを見ていた。究極の青白い光は、距離のあるなまえにですらその威圧感を禁じ得ず 神々しくも恐ろしく美しい姿が、一筋の悪寒に似た震えを背筋に走らせた。


「青眼の究極龍(ブルーアイズ・アルティメット ドラゴン)!!!」


 海馬の高らかな宣言に、なまえは心臓を掴まれた気分に晒される。…遊戯はこれに対峙しているのだから、さらなるものに晒されているだろう。
「ハハハハハ!どうだ…見よ遊戯!これぞ史上最強にして華麗なる、究極のモンスターの姿だ!!!」

 攻撃力4500という桁違いのモンスターを前に、遊戯はその攻略に思惑する。
 残りライフも僅かなうえ、手札にはアルティメットドラゴンに立ち向かえるカードはない。

 焦りの色濃くそこに立つ遊戯に、杏子は胸を痛めた。
「(勝利の女神、一生のお願い!遊戯を助けてあげて!)」

「遊戯!覚悟はいいな?俺が背負い続けた敗北の十字架を今から貴様に背負わせてやる!…屈辱の重さで地に這いつくばるがいい! いくぞ!アルティメットドラゴンの攻撃!  アルティメット・バースト!!!」

 岩石の巨兵は跡形もなく粉砕され、その煙が風で立ち消されると海馬は勝利の確信に高揚した顔がその向こうに見える。
「俺の勝利は揺るぎない。」
「このままでは負ける…!」

「さぁ遊戯貴様のターンだ!勝負を諦めないならカードを引くがいい!」
 遊戯は目を見開いて硬直した顔のまま、己のデッキに手を伸ばしたが、その手の震えは隠せない。

 ついに外野の城之内と杏子が身を乗り出して遊戯に声をかける。
「遊戯!あきらめないで!」
「俺たちが目指してきたペガサス城の扉は目の前なんだぜ!お前がここで諦めたら 扉は永遠に開けられねぇんだぞ!」

 遊戯の脳裏に、テレビ画面に閉じ込められて魂をペガサスに奪われた双六の姿がよぎる。
 叛骨の精神すら宿した遊戯の鋭い目線が海馬に向けられ、その手の震えは止まった。

「俺は…諦めないぜ!」

 その目に満足そうに海馬が笑う。
「そうだ…最後まで立ち向かってくるがいい。遊戯、貴様の最大限に発揮した力を俺が容易くねじ伏せてやる!」

 遊戯は圧倒的な劣勢にあった。
「(とにかく次の一撃を逃れる事が出来なければ俺の負けだ…。このターンが勝負!)」

「遊戯…」
「遊戯」
「遊戯…!」
「遊戯くん…!」
「遊戯イィィ!!!」

 杏子、本田、なまえ、獏良、城之内、それぞれがそれぞれの立場で遊戯の次の手を見ていた。
「無駄だ!どんなカードを引くがな!」
 立ちはだかる海馬を前に、遊戯はもう恐れや焦りを感じさせない強い目をしていた。
「このカードの引きに…全てを賭けるぜ!」


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