「(守備表示で出してもいたずらに苦しみを伸ばすだけ…。あるいはまだ逆転の方法があると言うのか?)」

 海馬はその自信に満ちた遊戯の目に警戒心を抱いていた。それはかつて、この遊戯という男に打ち負かされた者のトラウマにも似た 逆転劇の経験がそうさせるのだ。…遊戯のこの、どんな苦境にも屈せず、最期まで諦めないという事が どれだけ手強いか、海馬には骨身に染みていた。

「フフ…海馬!俺の残ったデッキの中で、最強のカードを引いたぜ!」
「なに?!」
 海馬に一瞬の怖れが現れる。否、予感とも言うべきか。

「そのカードは…“クリボー”を攻撃表示!」

 神々しいまでに山の如く聳えるアルティメットドラゴンの前に、茶色の毛球のような可愛らしいモンスターが1匹現れる。

 海馬からすると肩透かしを食らったようなものである。しかし心の奥では、遊戯が意味のないモンスターを出さない事くらい理解していた。そんな一抹の不安があるものの、海馬は鼻で笑った。
「フ…遊戯。貴様が勝負を諦めるのは自由だ。だがよりによって そんなザコモンスターを出すとは…。ソイツはデュエルモンスターズの中でも、最も攻撃力の低い最弱 最低レベルのカード。そんなカードをデッキに入れている奴など見た事がない。 遊戯!そのカードに我々のデュエルを汚す屈辱の意味が込められているなら、俺は貴様を許さんぞ!」

 だが遊戯は正々堂々として海馬に立ち向かう。
「海馬、そいつは違うぜ。このカードは俺の切り札だ!アルティメット・ドラゴンを倒すためのな!」

 海馬の胸中に残った一抹の不安が的中した事に どこかヒヤリとしたものを感じる。
「な、なんだと? バカな…そのザコモンスターが俺のアルティメットドラゴンを倒すだと?」

「いくぜ!更に“増殖”の魔法カード、発動!このカードは攻撃力500以下のモンスターを 無数に増殖させる!」

 クリボーが光ると、その身体は次々と増えて遊戯のフィールドを埋め尽くす。新たに増えた身体がまた光って増え、次第に元々のクリボーがどれであったかすら判らぬほど“壁”と化したクリボーが、海馬とそのアルティメットドラゴンの前に築かれていった。

「こ、これは… 雑魚モンスターが増殖…」

「フフ…たしかにこのモンスターは攻撃力300の低レベルモンスターだ。だが侮っちゃいけないぜ。コイツに隠された能力は、最上級モンスターをも凌駕する!」

 海馬と遊戯のやり取りのほんの短い間にも、クリボーは次々と増殖を繰り返す。

「馬鹿な!こんな雑魚如き…アルティメットが纏めて焼き尽くしてやる!」

 だが海馬の攻撃命令にアルティメットドラゴンが放つ一閃の破壊光も虚しく、クリボーは一定の割合が爆発するだけで 残ったクリボー達が新たに増殖し、その壁が焼き尽くされる事はない。

「アルティメットドラゴンの攻撃が届かない…!まさかこの雑魚モンスターどもは、敵の攻撃に触れると自ら爆発する 機雷のような能力を持っているのか?!」

「その通り。敵の身体、あるいは攻撃に触れた瞬間、クリボーは誘爆する。つまりアルティメットドラゴンの攻撃は クリボー全てには届かない!」

「くそ…!この雑魚モンスターどもめが…!!!」

 目眩を覚えるほどのクリボー達の数が、こちらに迫らんばかりにさらに倍々に増える。
 クリボー全てを破壊すれば遊戯のライフは無くなる。だがその前に、遊戯は第2の切り札を出した。

「いくぜ!これがアルティメットドラゴン攻略の3連コンボだ!」
 遊戯の前に並ぶ3枚のカードが、端から順に開かれる。

「“マンモスの墓場”!“融合”!そして“魔法効果の矢”のカード!」

「“魔法効果の矢”…!」
 海馬の表情に暗雲が立ち込めはじめる。そのこめかみには既に一筋の汗が流れていた。

「魔法効果の矢のカードは、俺の魔法カードの効力を、敵のモンスターに与える事ができる。その魔法カードとは、融合!つまり更なるモンスター マンモスの墓場を、アルティメットドラゴンに融合させる!」

「なんだと…!これは…?!」

 マンモスの墓場が矢の姿となり、アルティメットドラゴンの胸に突き刺さると アルティメットは明らかに苦痛の咆哮を上げてその長い首をそれぞれ振り動かす。だがそれも虚しく矢の突き刺さった胸から マンモスの墓場の首が生え出でると、アルティメットの身体中からは紫の煙が立ち込めた。

「“青眼の白龍”は光属性を持つ。その融合体、“青眼の究極龍”に 闇属性を持つアンデットモンスター “マンモスの墓場”を融合させた結果、属性反発作用が生じ本体は腐食しはじめる!」



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