「フフフ…見事なサンセットデ〜ス。」

 ペガサスはバルコニーの窓を開けて、夕陽がなぞる水平線を眺めながら、好みのワインを傾けていた。

 そのテーブルには、海馬瀬人の写る“魂の牢獄”のカードが置かれている。
 ペガサスがそれを見ては、不適に笑った。

「クイーン、…いや、なまえ。運命とは不思議なものデ〜ス。…私がブラック・マジシャンの身体のカードを与え、ブラック・マジシャンのもう一枚のカードを求めさせたように、今またこの海馬瀬人の身体は彼女に、そしてその魂のカードを賭けて闘う…。クイーンが手にする事ができるのは、はたしてどちらの男か…」

 ***

 西日の差し込んでいた部屋も暗くなり、なまえはようやく部屋の明かりをつけた。

 海馬にソファを占領されているため、ベッドの上でデッキとサブデッキを広げ始める。
 彼女のデッキ構成はモンスターと魔法の比率を1:1、罠が0.5。魔法カードに重点を置き、通常ならば上手くデッキを回す事も困難な構成である。

 最も信頼する魔導士達のカードを1枚1枚並べていく中でその手が止まる。

 なまえはベッドから降りるとソファに掛けていたジャケットのポケットから、海馬のデッキを取り出して手の中で広げた。

 “いけない”という気持ちを抑えて、震える手で1枚、“青眼の白龍”を引き抜く。

「ブルーアイズ・ホワイトドラゴン…。海馬の最も重要なカード…」
 白く神々しいまでの威厳がひしひしと伝わってくる。

 残りのデッキはポケットへ戻すと、なまえは意を決してその1枚のブルーアイズを自分のデッキへ入れた。

 そして魔法使い族しか使ってこなかった自身の出来る限りの知恵を絞って、魔法使い族しかサポートしない魔法カードが大半を占める所有カードをひっくり返して組み直していく。

 重要な闘いを目前に、使い慣れないカードはたった1枚ですら命取りになる事は承知している。それでもなまえは、思い上がりや傲慢と言われても良いと決心して海馬のカードを入れた。

「(必ずペガサスと闘い、勝ってみせる…!)」

 ペガサスという大敵との決戦のために、先ずの眼前の敵、4人の内の誰か。なまえにとっての最も恐るべき相手が誰かは決まっていた。今はこの新しいデッキで勝つことだけを願う。

 ふとソファに凭れさせた海馬が目に入る。
 じっと見つめるなまえの手には、ブラックマジシャンのカードがあった。


- 46 -

*前次#


back top