小鳥が両手で口元を覆った。
カイトはただ歯を食いしばってWを睨むしかできない。握り締めた拳が震えている。ギチギチと軋む骨の音は、Vにまで聞こえそうだった。
「……!? カイトが、W達の家族を?」
『なるほど。だからカイトは……』
───『どうやら自分が何をしたか、ちゃんと覚えてるようで安心したよ、カイト。俺のことも覚えてたってことは、……お前、ハルトがこれからどうなるか、もう予想できてんだろ?』
アストラルは、Wを目にした途端にカイトが冷静さを欠いたのは何故だったのか得心がいった。Wの本当の名前を知っていたのも、全てはカイトが
No.を集め始める前からの出来事。
「なんで、どうして言わなかったんだよ!」
「黙れ!!!」
口を挟みかけた遊馬にカイトは怒鳴りつけて一蹴する。握っていた手を解くと、彼女の魂を奪った右の掌を眺めた。
首に流れる汗が、雨にずぶ濡れになった日のことを思い出させる。
「
No.を持っていれば、
No.ごとその魂を狩る。……お前はそれを、前にも見たはずだ」
遊馬は鮮明に覚えている。抜け殻のようになった凌牙の姿を。……カイトは、W達の家族も同じようにしたというのか。
「カイト、……お前」
「ハルトのためなら何だってすると決めたからだ!
No.を持っている奴はいつか必ず俺が狩る! 相手が誰であろうと、俺は容赦しない!!!」
愕然とさえする遊馬など眼中にないWが愉快そうに口の端を上げた。あの沈着なカイトが足掻き、苦しむ顔はWを焚き付ける。その顔がさらに歪んでいくサマを想像するだけで身震いがするほどだった。
「いいねいいねぇ、追い詰められてるねぇ、カイト」
「くっ……」
「ハルトを治す…… でもそれって、オレたちが
No.を集めちまったら、ハルトは……!」
『遊馬』
戸惑いが差した遊馬にアストラルは振り返って、真っ直ぐに目を見る。
『今は闘いに集中しろ。このデュエルに負ければ、いま、ハルトを取り戻す事さえできない』
「アストラル…… ッ、わかったよ」
Wが何を思っていて、何の事で責めているか、カイトは理解している。だからこそ崩れそうな足元を見られずにいた。踏み外せば、もう何年も前から首を括っている自責の縄に絞められ、息もできなくなる。……ここで闘えなくなれば、ハルトはどうなるのか。たったそれだけの理由を杖に、カイトはWとVに、そして自らの罪を前に立つ。
一方で膝を折らないよう己の心に鞭を振るうカイトの事など、Wは知るつもりさえない。いっそ盲目的にまでなって立ち続けるカイトを鼻で笑うと、ずっと口を挟めないでいたVにやっと目配せした。その視線にVは頷き、デッキに手を向ける。
「僕のターン、ドロー!」
きっと本当なら、ここに立つべきは僕ではなく姉様だった。
そう考えていた自分の心を飲み込んで、Vは兄の期待に、……いや、トロンの期待に応えられる働きをしなければと自分を糾す。
「兄様、例のコンボを仕込みます」
対戦するカイトと遊馬に聞こえないくらいの声でそう伝えれば、Wは「それでいい」とでも言うようにフッと笑った。
「僕は、《
先史遺産》モンスター、《ゴールデン・シャトル》を召喚!」
《
先史遺産 ゴールデン・シャトル》(★4・光・攻/ 1300)
「そして、
魔法カード《
先史遺産の共鳴》発動! このカードは、フィールドにいる《
先史遺産》モンスターよりレベルが1つ高い《
先史遺産》モンスターを、手札から特殊召喚できる!!!
現れろ、《
先史遺産 モアイ》!!!」
《
先史遺産 モアイ》(★5・地・攻/ 1800)
「さらに、《ゴールデン・シャトル》の効果発動! このカードは、1ターンに1度、レベルを1つ上げることが出来る」
《
先史遺産 ゴールデン・シャトル》(★4→5)
素材が揃ったことで、遊馬達に一気に緊張が奔る。
『これで、レベル5のモンスターが2体』
アストラルの姿も声も認識できていないはずのVがそれに応えるように手を振り上げた。正確には、Vの行動を読んだ上でアストラルの言葉が先行したに過ぎないが。
「僕は、レベル5の《ゴールデン・シャトル》と《モアイ》をオーバレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!
エクシーズ召喚!!! 現れろ、《
No.33》───
《
先史遺産超兵器 マシュマック》!!!」
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