「俺の邪魔をする者は全て排除する!!!」

 怒りのままドローし、《フォトン・スラッシャー》を召喚して《光子圧力界フォトン・プレッシャー・ワールド》の効果で全員にライフダメージを与えたカイトには、もう遊馬からの「落ち着け!!!」という叱咤さえ届かない。
 これでカイトの場に、攻撃力2000以上のモンスターが2体。デュエリストとして、プレイングの面では確かにカイトは冷静だった。だが心理戦の面で、カイトはすでに術中に嵌っていたのだ。

「俺は《フォトン・クラッシャー》と《フォトン・スラッシャー》をリリース!!!」



 ───『さぁカイト、その新しい力でNo.ナンバーズを倒すのだ』

 檻よりも冷たい鉄の壁に囲まれた実験場、その遥か上方にひとつだけ煌めく窓から見下ろしているMr.ハートランドの、どこかウカウカしたような声がスピーカー越しに反響する。
 肝心の対戦相手は、カイトのフィールドに現れたドラゴンを見上げてどこか恍惚としていた。もしこれが強豪デュエリストだったならば、カイトが流す冷や汗は警戒や威圧感によるものだったろう。だがこれは違う。決して対戦相手が怖いわけでも、対戦相手の召喚したモンスターが怖いわけでもない。
 彼女は、───……
 雨に打たれたように流れる汗も、冷えた体が起こすような震えも、走った後のような荒い息で上下する肩も、……全ては自分が何をしようとしているのか理解しているための恐怖によるもの。

『きれい』

 初めて目にしたそのドラゴンを前に彼女がそう口にしたのを、カイトは聞き逃さなかった。フィールドにはオーバーレイ・ユニットを2つ残した、攻撃力2200の、彼女の魂に巣食っていたNo.ナンバーズが1体。伏せカードも何もない、ただ純粋に向き合った二対のデュエリストとそのモンスター。
 デュエルタクティクスなど、心理戦など、何ひとつ必要のなかったそのデュエル。ただターンを費やし、辿々しさの残る彼女がNo.ナンバーズのエクシーズ召喚をするのがやっとだったデュエル。
 それが、カイトの「初めての狩り」。そして真に《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》を手にした瞬間。

『う、ぐ、……あああァァァァ!!!』

『トーマス、ミハエル、クリス兄さま、……』
 自分があの瞬間にした事を鮮明に覚えている。なまえが最期に懐かしんだ名前を呟く声も、自分の叫びがそれら全てを塗りつぶそうとしてきたことも。

『───カイト』

 最期に呟やかれた自分の名前が、何を意味していたのかも。



 闇に輝く銀河よ、希望の光になりて、我がしもべに宿れ
「光の化身、ここに降臨!!! 現れろ、《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》!!!」

銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》(★8・光・攻/3000)

 きれい、と彼女が表現した《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》が、いま初めてWとVの前にも顕現した。その眼に銀河が輝き、蒼白の皮翼と濃紺の肢体は、星雲のように赤い縁取りて飾られている。
「これが姉様の言っていた、《 銀河眼ギャラクシーアイズ》……!」
「現れたか」
 聖性すら滲み出るドラゴンの咆哮に、Vは噂通りかそれ以上ともいうべき美しさへまず目を奪われた。反対にWは思惑通りに《 銀河眼ギャラクシーアイズ》を呼び出されたことの方に意識が行き、ドラゴン自体を見ているわけではない。
「(だが、全ては計算通り。仕掛けるぞ)」
「(わかりました、兄様……)」

 静かに交わされるアイコンタクトなどカイトが気付く余地などなく、その頭上で煌めく彗星が全員に迫る。
『まずい、また《光子圧力界フォトン・プレッシャー・ワールド》の効果が発動するぞ』
 アストラルの警告も遊馬にしか聞こえていない。飛来する隕石が雨のように降り注ぎ、カイト以外の全てのデュエリストがまたライフポイントを削られる。
「いけ、《 銀河眼ギャラクシーアイズ》! 《ジャイアントキラー》に攻撃!!!」

「かかったなカイトォ!!!」

「!!!」
 カイトだけではない。遊馬、アストラルも体を強張らせる間も無く、待ち構えていたとばかりにWが叫べば、Vがカードを開いた。
「永続トラップ発動! 《 輪状列石の結界ストーンヘンジ・シールド》!!!」
 《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》の攻撃宣言で発動したトラップ。地を砕いて現れた列石が《 銀河眼ギャラクシーアイズ》を取り囲む。
「このカードは、相手フィールドにいる元々の攻撃力が3000以上のモンスター1体の攻撃を無効にし、さらにその攻撃力をゼロにして、モンスター効果も無効にする!」
「なんだと……?!」
 カイトの前で捕らえられた《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》は見る影もなく色を失い、澱んだ沼に沈んでくかのようにその体躯をもがいた。
  銀河眼ギャラクシーアイズの効果を見越したトラップ。これが全て罠だったと気付いた頃には、もう何もかもが手遅れ。
「これでお前の《 銀河眼ギャラクシーアイズ》の攻撃力はゼロ、モンスター効果も無効だ。……クク、ハハハハ!!! いいザマだぜ、カイト。お前とその《 銀河眼ギャラクシーアイズ》、今まとめて葬ってやる!!!」
「《先史遺産オーパーツ超兵器 マシュマック》の効果発動!!! 《マシュマック》は、フィールドのモンスターの攻撃力が変化したとき、オーバーレイユニットをひとつ使い、変化した攻撃力分のダメージを相手に与える!!!」
「お前の《 銀河眼ギャラクシーアイズ》の攻撃力は、3000から0に変わった。……終わりだカイト。\を傷付けた《 銀河眼ギャラクシーアイズ》諸共、ここで砕け散れェ!!!」


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