「な、なんだ……?!」
銀河の果て、宇宙の真空を割く赤い閃光がカイトに落とされる。突然の眩い光にその場の誰もが目を覆う中、それを直視していたのはオービタルだけだった。
「カイト様、……」
赤い閃光がカイトに宿り、消えていく。遊馬やW、Vが再び目を開けて見たものは、どの恒星よりも眩く光るカイトの姿。
「なに?!」
『……これは』
アストラルは感じていた。新たなる鼓動、カイトに与えられた力を。
全身を覆っていた光はまさしく恒星の生涯ともいうべき色の変化を伴い、最後はカイトを赤い炎で浄化する。そこに現れたカイトの肢体、
光子チェンジで白く変えられていた服は黒に染められ、その目は暗黒に煌めく銀河を宿していた。
「何が起きたんだ……」
床一面に刻まれた紋章から光が消え、トロンとハルトの肉体がゆっくりと床に横たえられる。
「どうして、……ハルトの力が消えた」
ステンドグラスから差し込む月明かりだけとなった薄暗いホールで呆然とするXの後ろで、\が立ち上がった。モニターの激しい明滅に振り向けば、WとVの前に再び対峙するカイトが映し出される。その強い眼差しに、\は小さく息をのんだ。
「───W」
「ハルト、……お前がくれたんだな。この力を」
全身から立ち昇る赤い気流。奇しくもそれは、炎による浄化、そして血の贖い、カイトにとって2つの支えが背中を押す。もう一度自分の右手を眺め、握り締める。レザーのグローブが軋むが、もうその音はカイトの心を蝕みはしない。
『いま、新たな力が、カイトのデッキに宿った』
アストラルの言葉が聞こえていたとでもいうのか、まるで呼応するようにカイトのエクストラデッキが輝く。
『彼ら兄弟の絆が、奇跡を起こした』
「オレのターン!!! ドロー!!!」
運命を描き変える力。カイトの右手からドローしたカードに伸びる軌跡。
「W、……俺は確かにアイツの魂を奪った。だがこの罪を償う事と、ハルトを賭けたこのデュエルの勝敗は別だ!!! W! お前こそなまえの何を知っている?! なまえと俺の、何を!!!」
「……ッ テメェがアイツの名前を口にすんじゃねぇ!!! テメェにアイツの名前を呼ぶ資格なんてねぇんだよ!!! 罪を償う気があるなら! 今ここで償え!!! 《
銀河眼》の攻撃力はゼロ! 貴様のライフはわずか100! くたばり損ないに、何ができるっていうんだ!!!」
「くたばるのは貴様達だ!!!」
星雲の色をしたカイトの左目に星々が流れる。
「俺は
魔法カード《オーバーレイ・リジェネレート》を発動! このカードは、フィールドにいる全てのモンスターエクシーズの、オーバーレイユニットをひとつ復活させる!!!」
《
No.33
先史遺産超兵器 マシュマック》(ORU/0→1)
《
No.40 ギミック・パペット-ヘブンズストリングス》(ORU/1→2)
《
CNo.39 希望皇ホープレイ》(ORU/0→1)
「アストラル!!! そこにいるのか?!」
『……!』
記憶からその姿を補強でもするかのように、カイトは目を閉じて、返されても聞こえないアストラルの返事に神経を研ぎ澄ます。
「お前は以前、俺と遊馬が似ていると言ったな。……だったら俺に共鳴してみろ!!!」
『遊馬、我々のモンスターで、カイトを助けるぞ!!!』
「……!!! ああ!」
「俺は、《ホープレイ》と《ダメージ・メイジ》をリリースし、《フォトン・カイザー》をアドバンス召喚!!!」
《フォトン・カイザー》(★8・光・攻/ 2000)
「《フォトン・カイザー》はエクシーズ召喚の素材にするとき、2体分として扱える。俺はレベル8の《
銀河眼の光子竜》と、2体分となった《フォトン・カイザー》でオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!!」
「……ッ カイトが《
銀河眼》で、エクシーズ召喚を?!」
\の目に信じられない光景が広がる。
「逆巻く銀河よ、今こそ怒涛の光となりて、姿を顕すがいい!!!」
混沌の共鳴渦から迸る光は、
No.でさえここまで鋭いものを発しはしない。まさしく銀河の星全てが溢れ出るような煌々とした中から、赤黒い雷鳴が放たれる。
「───降臨せよ、我が魂!!!《
超銀河眼の光子竜》!!!」
「《
銀河眼》が進化した……?!」
血と炎の赤い洗礼を受け、瞳に宿した銀河の光で濃紺にも煌めく漆黒の肢体、3つの首、……これこそカイトの罪の姿。そしてその贖いへの報いを願った、カイトに寄り添う2人の人間の姿。3つの首それぞれの目が宿す銀河が燃え盛る。
『これが、私の感じていた、……カイトの新たなる力!』
《
超銀河眼の光子竜》(ランク8・光・
ORU3・攻/ 4500)
「いけ、《
超銀河眼》のモンスター効果発動!!! 《
超銀河眼》は、《
銀河眼》を使って召喚したとき、自分以外のモンスター効果を全て無効にする」
音ではない。もはや空気振動の強烈な咆哮によって、フィールドのモンスターが次々と地へ落ちていく。
「なに?! オーバーレイユニットを使わなくても、効果を発動できるのか」
Vの首に汗が流れる。これほどの相手と対峙したことなどない。この状況が覆される予感は、すでにVの足を掴んでいた。
「《
超銀河眼》、第2の効果発動! オーバーレイユニットをひとつ使うことで、フィールド上のオーバーレイユニットを全て吸収。このターン攻撃力は、吸収したオーバーレイユニットひとつにつき500ポイントアップし、その数だけ攻撃できる!」
《
超銀河眼の光子竜》(攻/ 4500→6000)
「攻撃力6000……?!」
「しかも連続攻撃だと?!」
「《
超銀河眼の光子竜》!!! “アルティメット・フォトン・ストリーム”!!!」
苛烈な一撃が《マシュマック》を襲う。その余撃だけで、Vはあっけなく撃沈された。
「うあああああああ!!!」
「Vィィィ!!!」
「!!!」
顔色を変えた\が呼吸も忘れ、階下へ向かう廊下に勢いよく振りった。だが駆け出し掛けた足が詰まり、いつの間に立ち塞がっていたのか、薄く笑うトロンと目が合う。
「トロン、……?!」
「君は見ているんだ」
なぜ、そう口に仕掛けた\の背中に、カイトの叫びが浴びせられる。
「W!!! 懺悔の用意はできているか!!!」
地に叩きつけられたVに向けていた体で、怒りと悔しさで滲む汗を落としながらカイトに対峙する。WはVほど経験が浅いわけではない。だからこそ、あまりに圧倒的でどうしようもないと覚悟を決めてしまっている自分に、1番腹が立った。
「“アルティメット・フォトン・ストリーィィィム”!!!」
「グゥアアアア───!!!」
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