『さぁ、まもなく闘いのゴングが鳴る。勇者達よ、闘いの準備を整えろ!!!』

 Mr.ハートランドの声に応じて、22人のデュエリストがコースターへと乗り込んでいく。ひとつだけ空席となった23番目のコースターに、ハートランドはここでアナウンスを挟んだ。
『なお、本日参加予定だった予選通過者のうち、元大会運営委員であったドロワは棄権しました。よって本日の決勝大会は、22名での闘いになります』
 響き渡るハートランドの声に合わせて残念がる歓声の中、隣のコースターから声が掛けられた。
「お前だろ?」
 顔を向ければ、いかにも筋骨隆々な大男がニッと笑った。ゴーシュはコースターのシートに飛び込むと、腕を組んで\に顔を向ける。
「ドロワをやったのは」
「……」
 歓声に紛れて誰にも聞き取れないくらいの声でそう言ったゴーシュに、\も静かに「それが?」とだけ返す。そんな彼女の態度にもゴーシュは声を堪えて「ケッ」と吐き捨てた。
「始まったら覚悟しとけよ? お嬢ちゃん」
 ピクリ、と目を細めた\に、ハートランドの高らかな声が覆い被さった。

『そのコースターは、君たちのDパッドとリンクする。デュエルディスク、セット!!!』

 ほとんどのデュエリストがDパッドとDゲイザーを装着していく中、カイトやWをはじめ、X、\、そしてゴーシュもそれぞれオリジナルのデュエルディスクを展開し、左の目にマーカーペイントが入る。
 それを見て\はゴーシュの挑発に納得し、鼻で笑った。

 ───ARビジョン、リンク完了

 スタジアムまるごとの大規模なARビジョンリンクが済む。アナウンス通りコックピットへハートピースをセットすると、コースターのモニターが起動した。
「これは、コース図か」
 冷静に分析を始めるXが、表示された地図を見始める。ゴーシュ初め短絡的なデュエリスト達がコース上のマークを理解できない中、カイトもまた冷静にコース図を目で追う。
「マジックにトラップ、……なるほど。よく考えたもんだ」

『さぁ時は来た。史上最大の闘いの幕が、切って落とされる!!! スタート10秒前!!!』

 ハートランドの声に合わせて、観客からのカウントダウンが始まる。
『9、8、7……』
 嘲笑するように笑うWを睨む凌牙。
『6、5、4……』
 静かに見つめ合う\に、眉間に皺を寄せたカイト。
『3、2、1……』
 Xが頷いた先で、トロンがうすら笑う。
『ファイヤー!!!』

 開始ブザーと共に21台のコースターが一斉スタートを切った。爆音の反響と舞い上がる砂埃だけを残した中に、たった一台のコースターの上で、遊馬が青い顔で足を組んでいる。
『おおっと、たった1台! 九十九遊馬選手のコースターだけがスタートできない!!! なにかトラブルか?!』
 Mr.ハートランドの実況の声を聞きながら、ジェットコースターらしい入り組んだレールを走り抜けていくコースターがどんどん消えていくのを遊馬は見つめるしかできない。
「あぁ〜〜、行っちゃったぁ…… 早くしてくれ姉ちゃん!!!」
 涙目で祈る遊馬。ハートピースを自宅へ置いてきてしまった彼は、このあと大幅に遅れてスタートする事となる。



「どけどけどけェ!!! 邪魔するやつは弾き飛ばしてやる!!!」
 交差レーンから同一レーンに入り込んだゴーシュが、目の前を走る他のデュエリストに挑む。
「俺は、《H・Cヒロイック・チャレンジャー-スパルタス》を召喚!!!」

「なるほど、同一レーン上ならデュエルができると言うわけか」
 ゴーシュに倒され、コースターから弾かれたデュエリストが落とされていくのをアストラルが冷静に分析する。その横で目を覆った小鳥が、猛スピードの中高所へ飛ばされた敗者にパラシュートがつけられているのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

「行けェ!!! 《ジョーズ》!!!」
 最短ターンでのデスマッチを強いられているにも拘らず、攻撃力2600のモンスターを出した凌牙の進撃は凄まじい。前を走るデュエリスト達のさらに奥、別のレーンを走るWを追って、凌牙は立ち塞がる相手を薙ぎ払い続ける。
「ハッ 派手にやりやがって」
 だがWに、この状況で凌牙を相手にするつもりはない。加速をつけるWのコースターを遠目に、凌牙は顔を顰めて操縦桿を握り締めた。

 マスタールールで正規の決勝に挑みたければ、生き残りをかけたデスマッチをしてザコを蹴り落とし、“枠”を削っていくしかない。
 デュエリストたちは各々この“ルール”を早々に飲み込み、前を走る“障害物”をどかしていく。

No.ナンバーズを持たぬ者に用はない! 消えろ!!! 行け!《リバース・バスター》の攻撃!!!」

「《堕天使ユコバック》のダイレクト・アタック!!!」

「ハッ ザコがいやがった!!!」
 レーンを変えたWの目の前に、別のデュエリストのコースターが走る。
「俺は《ギミック・パペット-ボムエッグ》を召喚!!!」
 蹴散らされたデュエリストが1人、また1人と弾き飛ばされていく。
「ハハハハハ!!! ザコは消えろォ!!!」


「相変わらず、血の気の多いやつらだ。\もWの余計なところばかり似て……」
 別のレーンから遠目に見ていたXが、Wと\の無鉄砲ぶりにため息をつく。
「これから先、どれだけ長い闘いが待っているかわからないと言うのに。……今は闘うより、自分のライフポイントを守り、増やすことに専念すべき時」
 モニターに映る三叉路に至り、Xはマジックポイントのあるレーンを選択する。だがそこへ、背後から別のデュエリストが追いついた。
「退きなさい!!! 蹴散らせ、《ヴァイロン・ディシグマ》!!!」
 攻撃力2500、ランク4のモンスターエクシーズがXの頭上に迫る。
 直接攻撃の宣言をしたデュエリストの前に、安全ベルトを取ってコースター上に立つXの背中が立ちはだかる。風を切る長い髪をはためかせ、Xは僅かに振り返った。
「な、なんだ……」
「私に近付く者は、地獄の業火に包まれる! トラップカード《奈落の太陽》を発動!!! このカードは、攻撃力2000以上のモンスターがダイレクト・アタックをしてきたとき、その攻撃を無効にし、相手プレイヤーの手札1枚につき、800ポイントのダメージを与える!!!」
 相手プレイヤーの手札は5枚。一撃で残りライフ4000を削り切られたデュエリストが、Xの背後で飛ばされていった。そんなことにはもう関心がないとばかりに、Xはマジック・ポイントでライフの回復を行う。

「流石だよ、X。Wとシャーク、そして\にカイト、……それぞれ遺憾なく力を発揮している」
 少し離れたレーンを走るトロンが、クスクスと笑いながら並走する。
「では彼は、……九十九遊馬はどうだ?」

 トロンの後方、遅れてスタートした遊馬が、コースターに小鳥を乗せたまま疾走していた。デュエリスト達が繰り広げる苛烈なサドンデスマッチを前に、遊馬も相手探しに気を急かす。
 そんな遊馬のコースターを、3台のコースターが付け狙っていた。



「やっと追いついたぜェ、\!!!」
「……!」
 後方に張り付いたコースターから、荒々しい声が掛けられた。振り向きざまに風に飛ばされる髪を掻き分ければ、目印とばかりに顔の瘢痕がゴーシュの目に止まる。スタート直前、隣のレーンにいた男だ。\はモニターに触り、表示されたデュエリストデータにサッと目を通す。
「ドロワの敵討ちってわけ」
「ハッ、それだけじゃねぇ。お前には、どうしたらドロワが目覚めるのか吐いてもらうぜ」
「なるほどね」
 ドロワの敵討ちが目的だったかのような言動はこれか、と\は目を細める。そうしている間にも、ゴーシュは問答無用とばかりにカードを切った。
「いくぜ!!! 俺は《H・Cヒロイック・チャレンジャーダブルランス》を召喚!!!」

H・Cヒロイック・チャレンジャーダブルランス》(★4・地・攻/1700)

「《ダブルランス》の効果発動!!! 《H-Cヒロイック・チャンピオン》をエクシーズ召喚するとき、《ダブルランス》は2体分のエクシーズ素材になる!
 俺は2体分となった《ダブルランス》でオーバーレイ!!! エクシーズ召喚!!!」

H-Cヒロイック・チャンピオンエクスカリバー》
(ランク4・光・ORUオーバーレイユニット2・攻/ 2000)

 後方頭上に突如として現れたモンスターエクシーズ。ドロワやカイトとどんな関係なのか、なぜそんなに敵討ちに拘るのか、自分のことを一切語らずに挑んできたゴーシュに\は目を細める。
「私を“お嬢ちゃん”なんて呼んでおいて、いきなり挑んでくるとは随分と不躾ね。それとも、真正面から挑んでも勝てる見込みがないからここで勝負に出たのかしら」
 鼻で笑う\に、ゴーシュが「なんだと」と静かに唸って顔を顰めた。挑発しながらも\はモニターのレーン図のドローポイントを見逃さず、切り替えポイントでハンドルを倒す。
 ゴーシュも\を追いかけて同一レーンへと侵入した。
「(“英雄的ヒロイック”、……ね。私が悪党ってわけ)」
 ドローポイント通過と同時に\はシートの上に立ち上がり、ゴーシュの方へ顔を向ける。片足を操作レバーに乗せると、怖いもの知らずな行動をとった女に目を丸くするゴーシュの顔を見て、\は歪に笑った。
「ドロー!!! 私は手札から『堕天使カード』2枚を捨てて、《堕天使マスティマ》を特殊召喚!!!」

《堕天使マスティマ》(★7・闇・攻/ 2600)

「ふふ、たかが攻撃力2000! ドロワと同じようにしてやるよ!!!」
 バトルフェイズ直前、ゴーシュは「かかった」とばかりに笑う。
「《H-Cヒロイック・チャンピオンエクスカリバー》の効果発動!!!」
「……!!!」
「オーバーレイユニットを2つ全て使い、《エクスカリバー》は次のターンの終わりまで攻撃力が倍になる!!!」

H-Cヒロイック・チャンピオンエクスカリバー》(攻/2000→4000)

「チッ、……私はカードを1枚伏せてターンエンド」


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