『さぁ、パークセクションを生き残った14人のデュエリストがいま、次なる闘いの場へと突入していく!!!』

 パーク内に張り巡らされていたレールは、地下トンネルへの入り口へと集約されていく。コースターが突き進むまま悪魔の大口に飲まれれば、坑道のような狭い一本道にヘッドライトが点灯した。同時に、機体の正面ガラスに数字が映し出される。

『青空と太陽の光に包まれたスタジアムから、光なき、暗黒の地下セクションへ!!!』

 数字が意味するもの、それは先頭からの順位らしい。コース図にはデュエリスト達にその数字が割り振られ、これで誰がどこにいるのかが分かる。
 1番にX、2番にトロン、3番はカイト、4番がW、5番に凌牙。
「(私は6番手、……カイトに追いつくには、Wと凌牙を抜かなきゃいけない。だけど、これはレースじゃないはず)」
 あくまで闘いの方法はデュエル。だがこんなに暗く、狭くては、パークセクションのようなライドデュエルはできない。それに、コース図に急増したマジックとトラップのポイントも気にしながら道を選ばなくてはならない。

『それではここで、地下セクションの見所を紹介しましょう!!!』
 中継されるMr.ハートランドの映像に\は目を細めた。ここでは新しいルールが適用されるらしいと察して、コース図を気にしながら耳を傾ける。
『ここでの目的はズバリ、一騎討ちの相手を決めること!!!』
 その発言に6人のデュエリストが目を見開いた。マグマ、スペース、ジャングル、キャニオン。用意された4つのステージに、それぞれが思惑や運命的なものを秘めて画面を凝視する。
『4つの特性を持つフィールド! さぁ、自分に有利なフィールドへ相手を誘い込み、デュエルをするんだ!!!』

「(用意されたステージは4つだけ。実質これが準々決勝。地下セクションに残ったデュエリストのうち、今残っているのは14人。この暗闇の中で、半分以上が振り落とされるわけね)」
 コース図を指ではじき、\は各出場者たちの動向に目を配った。Wと凌牙は完全に同一レーンで追いかけっこをしているから、問題ないだろう。先頭を行くXとトロンはお互いとの闘いを避けるために距離を取り始めている。だが、カイトはトロンの方を追っているようにも見える。
「(カイト、……まさか、トロンと闘うつもり?)」
 ハンドルを握る手がギチ、と軋む。



「蹴散らしてやるぜ! いけ、《ウォール・クリエイター》!!!」
「うるせぇ!!! 今はザコを相手にしてるノリじゃねぇ!」
 \とのデュエルでライフを700まで削られたゴーシュは、あのあと遊馬とアンナの共闘に加わってフォール・ガイズを倒したあと、マジックポイントで充分にライフ回復をして12番に食い込んでいた。
 ゴーシュのすぐ後方についていた13番のデュエリストからバトルを挑まれるも、ゴーシュはたったの一撃で返り討ちにする。
「蹴散らされるのはテメェの方だ!!!」

『これはアッと言う間に終わってしまったァ!!! 流石は元WDC運営委員、ゴーシュ! 顔もイケメン、腕も一流だァ!』

 14人のうちフィールドを獲得できるのは8人。それを理解した後方のデュエリストから猛進し、8番より上の番号を獲得したデュエリストへの攻撃も苛烈になっていく。さらに入り組んだレーンにより、先回りや合流もしやすくなった。

『おぉ!!! こちらでもバトルが始まった! アジアチャンピオンのWだ!!!』
 Mr.ハートランドの中継に会場が沸く。Wも自分にカメラが回っていると察するなり、いつもの爽やかなキャラクターを演じて見せる。
「さぁ行くんだ!!! 《キラー・ナイト》ダイレクト・アタック!!!」

『こっちも5番の凌牙が、襲い掛かろうとしている!!!』
「やれェ!!!《ビッグ・ジョーズ》!!!」

『今大会はイケメン揃い、女性ファン必見! だが現在の紅一点、6番の\も見逃せない!』
「《エデ・アーラエ》は守備モンスターを攻撃したとき、守備力を攻撃力をこえた分だけ戦闘ダメージを与える! 行け!!!」

 同一レーンに侵入してきたデュエリストをそれぞれ打ち負かし、Wは満足げにコース図をスワイプして後方に張り付く凌牙を確認する。
「(いいぞ凌牙、そのままついて来い。この俺が地獄へ案内してやる)」
 コース図をさらにスワイプした先、Wの目的地は『マグマフィールド』。……凌牙のデッキは水属性。灼熱の地獄の中では、凌牙のデッキのモンスターは生き残れない。
 \もコース図の前方を走るカイトを追いかけて、切り替えポイントでレーンを移動していく。



『絞られてきたァ!!! 23名の決勝大会進出者のうち、パークセクションを生き残ったのは14名! そしてここまでの地下セクションで6名が脱落し、残るのは───8名!!!』
 画面に映された8人のデュエリストにスタジアムの歓声は盛り上がりの頂点を知らない。やっと画面に映された遊馬に、鉄男や等々力、キャシーも喜ぶ。
「でも他の連中はみんな強敵ウラ」
「遊馬なら大丈夫。キャットびんぐでがんばれー!」
『さあここからは一騎討ちのデュエルだ!!! 目指すデュエルフィールドは4つ。選手達よ、闘うがいい! ハート・バーニング!!!』



「おやおや、追いつかれちゃったみたいだね」
 後方から追ってきたカイトが、ついに目視できる距離にまで詰め寄ってきた。横目にカイトの形相を眺めながら、トロンはうすら笑いしてコース図に迫るもう1人のデュエリストを待つ。
「もう逃げられないぞ、トロン!!!」
 あと少しで張り付くところまで来たとき、侵入レーンから激突覚悟でカイトとトロンの間に割り込む機体が現れる。思わずスピードを緩めたカイトのモニターに、予想もしてなかった人物が表示された。
「へっ コイツの相手は俺だ、カイト!!!」
「ゴーシュ!!!」
 同一レーンに3台。ゴーシュに割り込まれ、先回りできる切り替えレーンもない。カイトは焦りを滲ませた唇を噛んだ。
「トロンは俺の獲物だ。カイト、テメェは引っ込んでな!」
「なぜ貴様がトロンを?!」
「聞いたんだよ、ドロワの目を覚ましたかったら、トロンに聞いてみろってな」
 ゴーシュの言葉に「へぇ」とトロンが振り向く。横顔を縁取る鉄仮面の煌めきに「へっ」と笑ったゴーシュを、カイトが忌々しそうに睨む。
「俺の邪魔をするなら、誰であろうと容赦はしない!」
「邪魔なのはテメェだカイト! お前こそなんで今になってトロンに拘る。お前らしくねぇノリだぜ。元カノとやりあうのにビビってんのかァ?」
「なんだと?!」
 言い合いを始めた後方2人に、トロンはただクスクスと笑うだけ。そうこうしている間にも狭いトンネルを抜け、並行レーンが現れる。
「俺はドロワのためにトロンと闘う。闘うべき相手から目を逸らすために割り込むお前の出る幕はねぇ!!!」
「ゴーシュ……!」
 カイトはコース図に表示されている\の機体に目を向けた。進み方からして、間違いなく自分を追ってきている。一方でゴーシュは並走レーンへの切り替えポイントがコース図のナビゲーション画面に入ったのを見逃さなかった。
「俺は魔法マジックカード《革命》を発動!!!」
「な、……ッ!!!」
「相手の手札1枚につき、200ポイントのダメージを与える!!!」
 カイトの手札は5枚。考えるよりも先に、カイトは咄嗟に切り替えレーンでレバーを切る。カーブで車輪から火花を散らしながら、カイトの機体は並走レーンへと弾かれた。
「(くっ、……思わずコースを)」
「(決まりだなカイト。お互い女のために闘うんだ、腹括れ)」
 一騎打ちの相手が決まったところで、ゴーシュは横目でカイトを眺めた。カイトもその視線を見つめながら、やがてコースは離れていき、ついに別々のトンネルへと入って完全に別れる。
 ついに\と闘わざるを得なくなった状況に、カイトはただ手を握り締めるしかできなかった。

「君が僕の相手か。いいよ、そんなに闘いたいのなら相手になってあげる」
 先行するトロンが振り向けば、ゴーシュはいつになく寡黙にトロンを睨む。
「ドロワのためにって言ったね。……どうやら\は、また僕のお願いにひとつ足して返してくれたみたいだ」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる。テメェをぶっ倒し、ドロワから奪ったものを返してもらうからな!!!」
「\やXと闘って命からがら生き延びた程度の実力で、僕に勝とうだなんて。いいのかな? もし僕に負ければ、君もそのドロワと同じ運命を辿ることになるんだよ」
 クスクスと笑う小さな体の、いったいどこに潜んでいるのかというほどの威圧感に汗が一筋たれた。だがここで棄権するゴーシュではない。
 確かにこの特殊ルールのセクションのおかげでゴーシュは\とXにバトルを仕掛けても、離脱によって生き残ることができた。だがこの先に待ち構えているのはマスタールールでの正規のデュエル。絶対的な勝敗。
「俺に離脱の生き残りなんてノリは合わねぇ!!! 俺に残されたのはガキが相手だろうと勝ち残るか、派手に散るかの二択だ。だったら全力でテメェに挑むぜ、トロン!!!」




「カイト様アァァァァァ!!!」
 ハートランドシティを搭載ジェットで飛び去る1体のロボット。
「モウジッとして居ラレナイ!!! スクラップにされテモ、カイト様ノ元ヘ!!! カシコマリんぐダ!!! オイラアァァァァァ!!!」
 オービタル7は我慢の限界を超えてジェットコースターのレーン沿いを滑空し、地下セクションへの入り口へと飛び込んだ。


 その頃遊馬も焦っていた。遅れた分だけ後方を走る遊馬たち一向。小鳥とアストラルに諌められながらも、遊馬は一騎討ちの相手を探して闇雲にスピードを上げる。
 突然上空で爆発が起き、3人は一斉に振り返った。
「な、なに?!」
「誰かがトラップに引っかかったか?」
 そんなことを言っている遊馬の元に、煙に包まれた叫び声が次第に迫る。

「オあ“あ“ア“ア“ア“ア“───!!!」

 煙幕を引いて落ちてきたオービタル7は、見事に遊馬達の乗るコースターに墜落した。煙を上げるロボットの頭を、遊馬と小鳥が覗き込む。
「アガガガ……カ、カシコマリ」
「オービタル?!」
 ピロピロと電子音を立てたあと、ハッと起き上がったオービタルが遊馬にアイカメラを向けた。
「オオ!!! オ前ハ元祖カシコマリんぐ!!!」
「大丈夫? 壊れてない?」
「ゲゲ、お前は、恐怖のスクラップ女」
「放り出してやる」
「アァ!!! 待っテ待っテ!!!」
 伸びた首ごとオービタルの頭を掴んだ小鳥に慈悲を乞うように、オービタルが慌てて弁明をし始める。
「オイラ、早くカイト様のトコロヘ!」
「カイトのところ?」
 カイトの名前に首を捻った遊馬だったが、小鳥が思い出したように「あ!」と声を上げた。
「そういえば遊馬、カイトに落とし物は届けたの?」
「え、……あ!!!」
 いっけねぇ忘れてた! と続けた遊馬に、小鳥が呆れたようにため息をつく。遊馬が慌ててポケットから赤いダイヤ型のブローチを取り出すと、今度はオービタルが雄叫びを挙げた。
「オアアアアア?!!!! オ前が持っテタノカ、コノトンマ!!!」
 遊馬はトンマじゃない! とまた小鳥に首を掴まれてガタガタ揺らされながら、オービタルは一晩中探し回らされた恨みを口にする。だがすぐにまたハッとして、オービタルは首を伸ばして遊馬に詰め寄った。
「オマエ!!! 中身ヲ見タリシテナイだろナ?!」
「はぁ? 中身?」
「あら、これロケットよ。中身って───」
「アアア?! 何シテルスクラップ女!!! ソレはカイト様のプライバシーが」
 簡単にパカ、と開いたブローチから、ダイヤ型に合わせて小さく畳まれた紙切れが小鳥の膝に落ちた。それ以外はただの変哲もないブローチ。オービタルがアワアワと震える横で、小鳥はその紙切れを開く。
「……! 遊馬、これって」

 叫び声のような金切音に小鳥の言葉が遮られた。
 小鳥が落とすまいとブローチとその中身を両手で握りしめたところで、火花を散らしながら急カーブを曲がり、侵入レーンから目の前を塞ぐ機体が現れる。
「お前は、……!!!」
 機体の正面ガラスに表示された1番の文字。はためく長い髪の間から、その青く鋭い目が覗く。

「X!!!」


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