「これはVの……ッ トロンとXが何か企んでたのは知っていたが、Vを使ってこの《No.ナンバーズ》を凌牙に……?!」
 凌牙が召喚した《No.ナンバーズ32 海咬龍かいこうりゅうシャーク・ドレイク》を前に、顔色を変えたWの背中に汗が流れた。

『そう、僕の命令で、Vが凌牙に与えた《No.ナンバーズ》。……君には話してなかったけどね』

「(トロン?! なぜだ……?!)」
 突然降りかかったトロンの声にWが怒りに体を震わせる。そんなWに「案の定の反応だ」とでも言うような呆れた声色で、トロンは渋々返事を返す。
『だって、君に話したら計画が漏れちゃうかもしれないだろう? 君は口が軽いからねぇ。……人にはそれぞれ役割があるんだよ。XにはXの、VにはVの。』
 トロンが口にした敗北した2人の兄弟の名前。呼ばれなかった自分と\の名前に、Wは震えた声でトロンを見上げる。
「(俺は、……俺と\の役割は?!)」
『君の役目は凌牙を心の闇に叩き落とすことさ。……ここまではうまくやってる。だけど\に感謝しなくちゃね、君だけじゃ、ここまで僕の計画通りにはならなかっただろうから』
「(\に何をやらせた?! \を殴らせたのも、奴をここまで追い詰め、《シャーク・ドレイク》を呼び寄せたのも、アンタの計画通りだと?!)」
『まあね。でも、凌牙を挑発してまで自分を殴らせたのは\だ。君に発破をかけるためにね』
「(俺に……?!)」
『そう。おかげで君と凌牙は、“大切な妹を傷付けられた兄同士”。何の躊躇いもなく凌牙と闘えてるじゃないか』
「(……\の、アイツの役割はそれだけか?)」
『君はあの子ほど器用じゃない。彼女の心配をしている余裕なんてないでしょ? うかうかしてると、君も危ないよ。凌牙の力も、《シャーク・ドレイク》の力も、君はよく分かってるだろう?』
「凌牙の力……?!」




 手札もモンスターもない状況。睨み合うだけでは埒があかないと分かっていても、カイトは躊躇いを拭いきれない。だが、闘うしかないのだとカイトは意を決して手を振り上げた。
「……ッ 終わりだ《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》───!!!」

「やめろカイト!!!」

 振り上げられたカイトの手が止まる。遊馬をはじめ、小鳥とオービタル7もARビジョンをすり抜けてフィールドに駆け込んできた。そして遊馬はそのままカイトの前に立ちはだかり、\との間に割り込む。
「遊馬……! なんのつもりだ?! そこをどけ!!!」
「お前こそ何やってんだよ?! \に本当のことも言わねぇで、それでいいのかよ?!」
「な、……!」
 まさか遊馬から指摘されるとは思わなかった事に、カイトが一瞬怯んだ。だがすぐに怒りを露わにし、振り払うように腕を下ろす。
「黙れ!!! お前には関係ない。オービタル!!! お前もそこで何をしている?! デュエルの邪魔だ、早くコイツらを───」
「カイト!!!」
 カイトの言葉を遮って一喝した遊馬を、カイトはもう一度見下ろす。真っ直ぐなその目から先に目を逸らしたのは、カイトだった。それを見て遊馬は口を噤むと、カイトの前にブローチを取り出す。
「……! どこでそれを、……!」
「悪い、中は見ちまった。でもXから託されたんだ。トロンを止めてくれって」
「まさか、お前がクリスを倒したのか?」
 神妙な顔で頷く遊馬に、カイトは驚きを隠せない。そんなカイトに背を向けて、遊馬は\に振り返った。
「\、カイトはお前の写真を切り取っても、このブローチの中に入れて大事にしてたんだ! Xが言ってた。お前、自分が切り取られた写真を見るまでは、カイトを憎んでなんかなかったんだろ?! なら、闘う理由なんて───」
「ならどうして」
 太陽らしき、赤々と燃えた恒星を背に立つ\の顔は、色濃い影に覆われている。遊馬を挟んで対峙するカイトも、真一文字に口を閉ざしたまま立ち尽くして\を見つめることしかできない。
「私の写真を持ち続けるほどだったならどうして、カイトは私から魂を奪い、私を捨てたの……?!」
「え、っと、それは、……」
「そんなもので私の心が動くとでも思った?! カイトが私にした過去ことは変わらない。私にはもうトロンしかいないの! デュエルの邪魔よ!!! 私はXやWとは違う!!! たとえライフがゼロになっても、魂を狩られるまでトロンの前から退くつもりはない!!!」
「遊馬、そこを退け。お前がアイツに何を言っても無駄だ」
 激昂した\に成す術なく後退する遊馬を、カイトが押し退けて前に出た。どちらにせよこの一撃でデュエルは終わる。
「遊馬、お前は以前、デュエルをすれば相手のことが分かると言ったな。……デュエルをすれば、仲間になれると」
「カイト……!」
「アイツにとっての闘う理由がどうであれ、俺の意志は変わっていない。……俺は、この一撃でアイツを取り戻してみせる!!!」
 ドッと踏み締められた一歩の振動が\を震わせる。カイトの振り上げられた手、その上で今一度大きく咆哮を上げた 銀河眼ギャラクシーアイズの巨体が、宇宙を震わせた。

「《 銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》の攻撃!!! これで終わりだ、なまえ!!!

 破滅のフォトン・ストリィ───ム!!!」




「いけぇ!!!《シャーク・ドレイク》!!!《ギミック・パペット-ジャイアント・キラー》を、攻撃!!!」

「う、ぐわあぁ……!!!」

W(LP:1500)

 呆然としていたWに、《ジャイアント・キラー》を破壊されたダメージが襲う。
「さらに! オレは《シャーク・ドレイク》の効果を発動する! オーバーレイ・ユニットをひとつ使い、破壊した《ギミック・パペット-ジャイアント・キラー》の攻撃力を1000ポイント下げ、Wのフィールドに特殊召喚する」

《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》(攻/ 1500→500)

 この効果で特殊召喚したモンスターに、《シャーク・ドレイク》はもう一度攻撃することができる。Wの残りライフは1500、この攻撃が通れば凌牙の勝ち。
「くっ……!!! そうはさせない!!!」
 Wは手札からカードを抜く。
「俺は手札から《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》を特殊召喚!!! このカードは、墓地の《ジャイアント・キラー》をゲームから除外して特殊召喚することができる!」(手札4→3)

《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》(★8・闇・攻/800)

『危なかったねぇ』
「……!!!」
 飄々とした声にWが振り向く。
『でも、咄嗟の対応は良かったよ。君はこれでまだ闘える、……凌牙をもっともっと追い詰めることができるってことだよね?』
「くっ……う、……!!!」

「命拾いしたなW、オレはこれでターンエンド!!!」

 凌牙のエンド宣言に、トロンが拍車をかけてWを煽る。
『ほらほら、凌牙もまだまだ元気だ! 頑張らなくちゃ。君がやらなきゃ\の役割分担が増えるだけだよ』
「───ッ」
『そしたら次は、顔半分じゃ済まないかもね』

「そんなことオレがさせない!!!」

 思わず体を振り返らせて叫んだWに、凌牙が眉をひそめた。凌牙から見て、Wの背後には誰もいない。だが、Wはトロンに向けて声を荒げ続ける。
「W、誰と……」
「わかってんだよ! 俺の役割が凌牙を心の闇に落とすことだって事は……! そのために今までも、大会でヤツをハメたのも、ヤツの妹に怪我を負わせたのも!!! 全てはトロンのため!!! トロンの命令に従ったまで!!!」
「な……!」
 誰もいないところに向かうWの背中、まるで幼い子が理不尽に叱られているのを抗議しているような物言い。そして何より「トロンの命令」という言葉に、凌牙は確信をもってWの見つめる先を睨んだ。
「いるのか、トロン……! 姿を現せ!」
『いるよ』
 呆気なく姿を現したトロンに「貴様!!!」と掴みかかるが、映像にすぎないトロンを捕まえる事など凌牙には敵わない。すぐ背後に現れ直したトロンに振り返るが、翻弄するようにあちこちに消えては現れるトロンを、凌牙は追いかけかねた。
「全て、……全てがお前の命令だと?! テメェの目的は何だ?! いったい何のために!!!」
『ふふふ、……君を闇に落としたい理由は、操るためさ。Dr.フェイカーを倒す刺客として』
「ふざけるな!!! そんなものに、オレはなるつもりはない!!!」
『君にその気が無くても、もう逃げられないんだよ。君は僕の操り人形になるんだ、僕だけの人形に』
 薄々感じてはいた。だが改めてトロンの真意をその口から聞き、Wは怒りに震えた声を絞り出す。
「俺たち兄弟は、トロンのために犠牲を払い、力を尽くしてきた。なのになぜ俺たちじゃなく、……いや、俺じゃなくて凌牙を?! そんなの俺は認めない!」
『言っただろ? 人には役割があるって。Dr.フェイカーを倒すには、君よりも、凌牙の方が……』
「認めない……ッ!!! そんな事は断じて認めない!!! Dr.フェイカーは俺が倒す!!!」
 感情に任せるままWがデッキに手を伸ばす。
「こんな奴より、俺の方が強いって事を見せてやる!!!」


[ターン4:W]
「俺のターン、ドロー!!!(手札3→4)
 俺は手札から魔法マジックカード《傀儡儀式-パペット・リチューアル》を発動!!! このカードは、墓地にある自分の《ギミック・パペット》と名のつくモンスターを、呼び戻すことができる!(手札4→3)
 来い、《ギミック・パペット-マグネドール》!!!」

《ギミック・パペット-マグネドール》
 (★8・闇・攻/ 1000)

「俺はレベル8の《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》と《ギミック・パペット-マグネドール》でオーバーレイ! 2体の闇属性モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!!───現れろ、No.ナンバーズ40!!!」

No.ナンバーズ40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》
(ランク8・闇・ORUオーバーレイユニット2・攻/ 3000)

「俺はさらに手札から、装備魔法《デステニー・ストリングス》を発動し、《ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》に装備! (手札3→2)
 このカードは、デッキからカードを1枚墓地へ送り、それがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル分の回数、攻撃ができる! しかもお前のモンスターは破壊されずにな!!!」
「!!!」
 戦慄する凌牙を傍目にWはドローしたカードを見て歪に笑う。
「フハハ、俺が引いたのはレベル8の《ギミック・パペット-ネクロ・ドール》。よって、《シャーク・ドレイク》を8回連続攻撃する!!! やれ!!! 《ヘブンズ・ストリングス》!!!」
「ぐっ…… うわあぁぁぁ!!!」

凌牙(LP:2100→1900)

 《デステニー・ストリングス》の効果により、モンスターを破壊されずに連続攻撃のダメージだけを受ける。なぶり殺し同然のデュエルに、悪魔が刃を振るうだけ凌牙を痛め続けた。
「続けろ、《ヘブンズ・ストリングス》! 《シャーク・ドレイク》を痛めつけろ!!!」
「あああ……!」

凌牙(LP:1900→1700)

「苦しめ……! もっと苦しめ凌牙!!!」




 爆煙包まれた\のフィールドを、カイトと遊馬、そして小鳥やオービタル7が見つめる。
「カイトが、勝った……」
「カイト様」
 小鳥とオービタルが言いしえぬ虚無感すら抱いてそう呟くその向こうで、煙幕の中に人影が浮かび出す。

「……ふふ、ハハハハ」

「??!」
 霞んだ中で\の紋章が煌々と光りを放つ。爆煙が晴れ出したフィールドに露わになったモンスターが、このデュエルがまだ続くことを、そして、\に科せられた軛の重さを、カイトや遊馬に思い知らせた。

「このモンスターが墓地に居てダイレクト・アタックを受けたとき、墓地から特殊召喚して攻撃対象を変更できる。さらにこのモンスターはバトルでは破壊されず、バトルダメージもゼロとなる」

「なぜ、お前のデッキに、そのモンスターが、……」
 \の使う《堕天使》とは全く違うモンスター、だがどこか見覚えのある雰囲気とフォルム。
 遊馬が思い出しているものと同じことを、カイトもまた思い出していた。同時に、心のどこかで畏れていた事を目の当たりにした気がして、カイトの胸に重いものがのし掛かる。

「《ギミック・パペット-シャドーフィーラー》 ……残念だったわね、カイト」


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