\(LP:3800)
《ギミック・パペット-シャドーフィーラー》
(★8・闇・攻/ 1000)
「ギミック・パペットって、そいつはWの……?!」
ガラ空きのフィールドに手札もゼロ。確実にカイトの勝利だと思われた状況で\を救ったのは、遊馬の言う通りWのモンスターだった。
「(そうか、……あの時、)」
カイトが《フォトン・レオ》の効果で\にリドローさせた2枚、そのうちの1枚である《サンダー・ブレイク》のコストで、\は手札から《ギミック・パペット-シャドーフィーラー》を墓地に捨てていた。土壇場で生き残るための布石を、あの時既に…… だが、それがまさかWのカード。湧き上がったものが嫉妬だということをカイト自身理解した上で、デュエリストとしての冷静さが首を締め続ける。
「……」
そう、あの後攻1ターンでカイトを沈められる手札が揃っていた。それをデッキに戻してドローしなおして《ギミック・パペット》を見たとき、「なぜ」とか「いつ」とか「殺してやる」くらいの事までも一瞬で考えたけど、\はすぐに考えるのをやめた。わかってる。Wがデッキにカードを忍ばせるタイミングなんて、いくらでもあった。
まさかそれに救われるとまでは、思いもしなかったけど。
「くっ…… 俺はこれでターンエンド。《
銀河騎士》の効果が終了し、攻撃力が元に戻る」
《
銀河騎士》(★8・光・攻/ 1800→2800)
カイト(手札 1/ LP:4000)
\(手札 0/ LP:3800)
あれだけ追い詰めておいて、仕留め損なうどころか、ライフの差をたった200にまで持ち直された。
手札が無くとも、\なら必ずまた何か仕掛けてくる。カイトは静かに\の動向に目を澄ます。
[ターン6:\]
「私のターン、ドロー!!!」(手札0→1)
来た! と口端を上げた\を見て、カイトに緊張が走った。
「私は
魔法カード《堕天使の戒壇》を発動!!!(手札1→0)
その効果により、墓地から《堕天使スペルビア》を守備表示で特殊召喚!!!
そして《スペルビア》が墓地からの特殊召喚に成功した時、《堕天使》モンスターをもう1体蘇生する! 来なさい、《堕天使イシュタム》!!!」
《堕天使スペルビア》(★8・闇・守/ 2400)
《堕天使イシュタム》(★10・闇・攻/ 2500)
「《堕天使イシュタム》のモンスター効果発動! ライフを1000支払い、墓地の《神属の堕天使》の効果をモンスター効果として適用し、その後《神属の堕天使》をデッキに戻す」
「くっ……! またライフを!」
「あうッ ───くぅ」
\(LP:3800→2800)
「あは、ハハハ、……なんてこと無いよ。これでこのターン《
銀河眼》のモンスター効果は無効になり、その攻撃力分ライフを回復! そして《神属の堕天使》をデッキに戻す」
\(LP:2800→5800)
「そんな、ライフをあっという間に回復しやがった?! それに、これで\のフィールドにレベル8のモンスターが2体……!」
『しかもエクシーズキラーである《
銀河眼》の効果も無効にしている。来るのか、《
No.》が……!」
一気に形成を覆してきた\に、遊馬とアストラルが騒めく。もちろん対峙しているカイトが一番危機感を感じていた。
「カイト!!! 今こそ見せてあげる、私の《
No.》を!!!
私はレベル8の《ギミック・パペット-シャドーフィーラー》と《堕天使スペルビア》をオーバーレイ!!! 2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築 ───エクシーズ召喚!!!
今こそ姿を現せ、……《
No.68》!!!」
カイト達の立つ宇宙船よりも遥かに巨大な、要塞然とした牢獄の集合体。68の文字が記された岸壁が恒星を覆い隠し、見上げた遊馬とカイト、小鳥、オービタル7に次々と大きな影が手を伸ばしていく。
「で、でっけぇ……!!!」
「……ッ なん、だと!!!」
「これが罪を犯した天使を幽閉する牢獄の番人、《
摩天牢 サンダルフォン》!!!」
《
No.68
摩天牢 サンダルフォン》
(ランク8・闇・
ORU/2・攻/2700)
「さぁ、今度はカイトが狩られる番だよ!!!」
「くっ……!」
「《
摩天牢サンダルフォン》が自分フィールドに存在するとき、私のモンスターはお互いの墓地にあるモンスターの数×100ポイント攻撃力を上げる。カイトの墓地にモンスターは5体、そして私の墓地には4体。よって《サンダルフォン》と《イシュタム》の攻撃力は、900ポイントアップする!」
《
No.68
摩天牢サンダルフォン》(攻/2700→3600)
《堕天使イシュタム》(攻/2500→3400)
『オーバーレイ・ユニットを使わずに攻撃力を上げるだと?!』
アストラルと遊馬の持つ《ホープレイ》をも凌ぎかねない効果に、アストラルが目を見開く。
「さらに私はオーバーレイ・ユニットをひとつ使い、《
摩天牢サンダルフォン》の効果発動! 次の相手ターンの終わりまで、私のフィールドのモンスターは戦闘・効果では破壊されず、互いにモンスターを除外できない!!!」
「な……!」
「どういうことだよ、破壊できないのはわかるけど、除外できないって、……」
呆然とする遊馬に、アストラルは\に目を向けたまま応える。
『カイトの《
銀河眼》は、バトルの瞬間互いのモンスターを除外し、相手モンスターがモンスターエクシーズだった場合、そのオーバーレイ・ユニットの数だけ攻撃力を上げる。除外封じは最大の《
銀河眼》封じ。……このターン、\は
罠カードで
銀河眼の効果を無効にしたうえ、もし仮に次のターンでカイトが再び《
銀河眼》を呼び戻したとしても、その効果は使えないということだ』
「(徹底的に俺の《
銀河眼》の対策をしているということか)」
想像通り顔を顰めたカイトに、\はそろりと上唇を舐め上げる。
「取り除いたオーバーレイ・ユニットは《ギミック・パペット-シャドー・フィーラー》。墓地のモンスターが増えたことで、私のモンスターはさらに攻撃力が上がる」
「くっ……!」
《
No.68
摩天牢サンダルフォン》(攻/3600→3700)
《堕天使イシュタム》(攻/3400→3500)
『自身の効果で墓地から特殊召喚された《シャドー・フィーラー》は、フィールドから離れたとき除外される。だがエクシーズ召喚に使いオーバーレイ・ユニットとしてフィールドから離れた場合、その効果は適用されない』
「じゃあ、もしまたカイトにダイレクト・アタックのチャンスが来ても、またあのモンスターに攻撃が阻まれちまうってことか?!」
見上げる遊馬を横目に、アストラルは形勢が悪くなったカイトの背中を見つめたまま静かに頷いた。
『そういうことだ』
「受けるがいいカイト! まずは《堕天使イシュタム》で《
銀河騎士》を攻撃!!!」
「あああぁ───!!!」
カイト(LP:4000→3300)
「《
摩天牢サンダルフォン》、《
銀河眼の光子竜》を攻撃!!!」
「……ッ う、ぐああああァァァァ!!!」
カイト(LP:3300→2600)
「あぁ!?」「カイト様!!!」
吹き飛ばされた挙句追い討ちをかけるような猛攻に、カイトの体が後方に打ち付けられ、転がされる。
「う、ぐ……ッ」
「これでカイトの墓地のモンスターが増え、《サンダルフォン》と《イシュタム》の攻撃力はさらに上がる。……ふふ、アッハハハハ!!!」
《
No.68
摩天牢サンダルフォン》(攻/3700→3900)
《堕天使イシュタム》(攻/3500→3700)
カイト(手札 1/ LP:2600)
\(手札 0/ LP:5800)
軋む体を起き上がらせるカイトの腕が揺らぐ。カイトが小さく呻くたびオービタルが壊れそうな音を上げて震えるのを見て、\も小さく息をついた。
「どうしたのカイト、《
銀河眼》の攻撃で、今度は私を取り戻すんじゃなかったの?」
「……くっ」
ぼろぼろになって、苦しみの中で踠いてるのを必死に隠して。立ち上がって元の場所に戻って来たカイトを\は真っ直ぐ見つめた。\自身、その苦しみに自分の存在が負荷をかけているのも、知っている。
「この時をどれほど待ち望んでいたか、分からないだろうね」
横でこちらに顔を向けた遊馬を無視して、カイトは閉口する。
「簡単には終わらせてあげない。トロンやWのところへ行けなくなるまで、……いいえ、二度と立ち上がれなくなるまで! カイトは私がここで潰す!」
息巻く\に、カイトは言葉を選ぶように静かに一度目を閉じて俯くと、すぐにまた\に向き直って、顰めた眉間に目を細めた。
「なら今の攻撃で、俺を仕留め損ねたことを後悔するんだな」
「……!」
「いいや、本当に俺を潰す気なら、お前はこのターンで決着をつけたはずだ。デュエルでは
容赦するなと、俺もXもまず最初に教えたからな」
\は鼻で笑うように小さく息をつくと、苛立ちを誤魔化すように髪を耳に掛け直す。
「自惚れね。カイトのお陰で私が闘えるようになったとでも思ってるの?」
「……」
確かに、とカイトは過去を思い出すように 思考を巡らせた。\とお遊びの練習以外で闘ったのは、彼女から
No.を奪う実験のためのデュエルが最初で最後だった。あの時の\といえば
No.をエクシーズ召喚するのがやっとで、こんな攻防を繰り広げるようになっていたのは再会してからだ。
「お前もXから鍛えられたのか」
「……その逆よ。X兄様は最初、私からデュエルを遠ざけた」
構えていたデュエルディスクをつけた腕を下ろし、小さく口を噤む\に、カイトはなんとなく察する。
『そう、\をここまで鍛えたのはWだ』
「!!!」
「お前は、……!!!」
突然降って湧いた声にその場の全員が驚きを見せた。遊馬達とは反対側、デュエルフィールドの向こうに浮くトロンの立体映像。\まで目を見開くその様に、トロンはクスクスと声を転がす。
『Wと闘った君になら分かるよね。\はWのいらないところまで似ちゃってさぁ、詰めの甘いところなんか、Wにそっくりでしょ?』
「トロン……!」
憎しみを絞り出すように睨んだカイトの向こうで、\も困惑したように顔色を変えた。
『Wと凌牙のデュエルを見ながら、君とカイトのデュエルも見届けるなんて、流石の僕でも面倒になってきてね』
トロンの背後に大きなスクリーンが開かれる。パチパチと小さな砂嵐が明滅したあとで、大火が盛大に噴き出すマグマオーシャンフィールドが映し出された。
『さぁラストだ!!!』
『ぐぅわあァァァァ!!!』
凌牙(LP:500)
「あれは……!!! シャーク?!」
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