ツギハギ惨毒
───8月某日、閑静な住宅街に木霊する虫達の声。真夏の夜長その声に紛れて大事件が起こった。
とあるアパートの一室から異臭がすると数件通報があった警察たちは、突入した際そこで信じられないものを目にする。
はじめは孤独死でもした死体が、死後何日か経って臭気を発しているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
暗がりの中窓から差し込む光に照らされて横たわる、継ぎ目のある人形にも見えるそれは後に調べてみたところ、全て持ち主は別の人間のものだった。
ツギハギにされた身体の一部以外は一体どこにあるのか。持ち主は無事なのか。いや、それに関しては決して無事ではないだろう。
あまりの残虐性…異常性の極めて高い事件であるために、この件には厳重な箝口令が敷かれた。
*
お母さん、お父さん、男の子。
うちと同じ構成で出来ているあそこのお家は、いつも休みの日になると何処かへ仲良く出掛けているみたいだ。
ホラ、また今日も。今日はどこに行くんだろう。車に詰め込まれるようにしてどんどん増えてゆく荷物の中に、浮き輪や折り畳める自転車やバーベキューのセットが見える。川かな海かな。
いいなあ。
あの男の子は、たぶん僕と同じ年の頃だろう。外で見かけるときにはいつも新しいおもちゃを持って、お母さんやお父さんと遊んでいる。
蝉の声が大きく響き渡る。窓を開けていても風の通らないこの蒸し暑い部屋で僕はひとり、ただただ時間が過ぎるのを堪え忍んでいた。
*
「なに?あの部屋の最後の持ち主は2年も前に他界しているだと?」
しかもあの部屋で?そんな馬鹿な話しがあるか。櫻井刑事は忌々しそうに煙草の煙と共に吐き出した。数日前の事件に追われてイラついているのは何も貴方だけではないのですよ。下っ端の我々はそれはもう東奔西走、文字通り駆けずり回って少しでもと手掛かりを求めているのだから。
「そんな事を言われましても、事実あの部屋はとうの昔に解約されているはずでありまして…」
「不動産は何て言ってる?水道局や電気屋は。」
「ええと、使われた形跡はどちらも無いらしいです。不動産側は以前の入居者の退去が済んでから新しい入居者が入らなかったもので鍵を付け変えなかったらしく、もしかしたら以前の持ち主の知り合いか近しい者が鍵を用いて入り浸っていたのではと」
「管理がずさん過ぎるが故に起こったものじゃないか。もっと徹底して欲しいものだな全く。」
溜め息を吐きながら資料に視線を落とした櫻井刑事。それぞれの遺体の状況から見て、直近半年の行方不明者を洗ったリストと照らし合わせてみるが、遺体は一部分ずつしか無く、それでいて他者の肉体と強引にも接着剤のようなものとたこ糸を用いて張り合わせられており、壊死が進んで腐乱している部分多数という事でどうにも照合も鑑識も難航していた。
「なあ山下、長年刑事をやってきた俺の勘を聞いてくれるか。いや、勘でしかないからな。妄言ととってくれても構わない」
「…どうしました?何か気づくものでもあったんです」
「そんな大仰なもんじゃねえよ。なんとなくな、この件あと何回か同じようなの続くぞ」
立ち上げられた捜査本部の人員のうちの一人である僕と櫻井刑事以外この場には今居ない。斜陽の空はもうじき秋が近くなって来ているのを知らせる。外では蜩が鳴いていた。
*
『○○、ほら、欲しがっていたお人形。大事にするのよ。』
おかあさん、ありがとう。ぼく、ずっとこのこといっしょにいるよ
『なんだぁ○○おまえ人形が欲しかったのか。あっちの車のおもちゃとかじゃなくていいのかぁ?』
ううん、ぼくこのこがいい。このことおとうさんおかあさんがいればいいんだ
そう言えば二人はうれしそうに笑った。
がちゃり。真っ暗な部屋に落ちる音はやけに大きく聞こえた。いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
なんだか幸せな夢を見ていた気がする。
覚束無い足取りで部屋に入ってくるお母さんはものすごく疲れているようで、起きてしまった僕には気がついていない。
おかあさん。と声をかけると、ぴくりと反応したがそのまま化粧を落としにか洗面所の方へ向かって行った。
暫くして戻ってきたお母さんにおかえり、と再び声をかけた。ああ、いたの。いつもの返事が返ってきた。
*
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