優しい嘘はお揃いのピアス
陽が落ちるのが早くなりつつある9月頭。いよいよ夜が肌寒くなってくる季節がやって来ようとしていた。とはいえまだ日中は汗が滲む。
空を藍が覆い始める時間、夕日に照らされた透けるような金色は怯えを帯びた声を上げる。
「えー…明治さん、これは一体どーいった状況なんデショ…?」
目の前を塞ぐように脚の上を陣取る銀色。その上腕までもが捕らえられ、動く事もままならない。
普段このような事をする質の男じゃないという事は、これまで嫌という程一緒にいて重々知っていた。が為に明治がどういった意図で自分を拘束するのか、森永には解らなかった。
そしてどんな言葉をかけてもうんともすんとも、吐息すら返ってこないことに恐怖すら感じてきている。いつもならば何を言っても『うざい・黙れ・死ね』の何れかは返ってきていた筈だというのに。
「あきはる…?…なに、俺なんかした?怒ってんの?」
出来るだけそっと窺いをたてるように声をかけて見る。暫くするとはっと気づいたかのように俯かせていた顔をあげた。
ゆるゆると力の抜ける拘束。ああ、悪い。そう言って森永の上から退いて、何事もなかった風に森永を置いて立ち去って行ってしまった。
その足取りはどこか覚束無く見えて、やっぱり何かあったんだろう、しかしその何かは一体何なのだろうかと、後を追うようにして彼も立ち上がった。
…
「明治さん、それ、すごく綺麗ね。似合ってるわ」
いつもの生徒会室、放課後の集まりにてふと下級生役員の京が声をあげた。ホチキスで書類を纏めていた手をとめてそちらに視線をむければ、同じように作業を中断させる明治と視線が交わる。少し前にあった出来事から俺と明治は少しばかりぎくしゃくしていたため、銀色の視線に暫くぶりに射ぬかれた俺の心臓は、ドキンと嫌な感じに跳ねた。
「ね、森ちゃんもそう思うでしょ」との京の言葉に咄嗟に普段通りおどけて「誰だと思ってんの、明治に似合わんやつはないだろ。俺もあけよっかなァ」と返すと、満足そうな顔で京は笑って作業を再開させ、明治は何も言わないまま赤い石のついた新しいピアスを撫でていた。
「…じゃ、俺自分のやつ終わったから、先帰るな。」
相変わらず作業の手の早い明治は早々に資料を纏め上げ、軽く手を挙げるとさっさと荷物を取り上げるとドアを潜ってゆく。
出来上がったものはとても綺麗で、流石の仕事をするなぁと会長も褒めており、以前までの俺ならば自分が褒められている訳でもないのにそれはもう得意気になっていたが何故かそう出来ない自分がいる。
ひとつ唸り声を溢せば、誰もとらねーから安心しろ。と呆れた声で会長に嗜められた。違うそうじゃない。
あの時と同じような空が窓の外には広がっていた。
…
「粟津、ちょっと」
明くる日の授業間。二つ隣のクラスの黒須に呼ばれた。
ここじゃ話し難いと言う彼に着いて人気の無いところを探し歩く。普段自分とはそこまで付き合いがあるわけではない彼の用件は、なんとなく察しがついていた。二つ隣のクラスというと明治と同じだからだ。
「粟津って南条と仲良かったよな。なんかさ、あいつ…いや、最初勘違いかと思ってたんだけど、やっぱりなんか…お前変だと思わねーのかよ」
最近の彼はおかしかった。おかしいというかなんというか…話しかけても上の空というか。かと思えば光のない目でぼんやり見つめてきたりと。以前迄のようにふざけあったりはしなくなったが、しかしそれでも共に過ごす時間は無くならなかった。だからこそ今までとの違いに戸惑ってしまう。
黒須は俺が感じていた事と同じような明治を俺に伝えた。俺に見えている所でいなくともそう見えるのなら、本当に最近どうしてしまったんだろう。
「…あと、あいつこの頃毎日開けてってねえか。」
「あー、ピアス?言う程じゃね?さすがにそんな増えてねーよ?」
「粟津がそう言うんなら、とも思うけど。異常だぞ。日に日に増えてる。耳だけじゃねえ」
「は。いやいや、耳以外?知らね。てかそれマジ?」
黒須が言うにはこうだ。主に目にするタイミングで言うと体育の着替えの時間等、はじめは臍のみだったそれがどんどん範囲を広げていっているらしい。勿論毎日着替えを目にすることはないが、度々見る機会はある。そして毎度その増え方が明らかに異常だと、増えた個数から鑑みて毎日増やしていればこうなるのではと思ったようだった。
「粟津ならなんか知ってるんじゃと思ったけど…。あいつ病んでんの?」
「え…や、どーなんだろ。正直わかんねえ。病んでんのかな」
ピアスのような存在感。開けたばかりの時はじくじくと痛んで主張してくるくせに、ある程度時間が経って定着してしまえば、ふとした時触れて思い出すくらいのものになっている。
いつの間にか当たり前になってゆくんだろうこの変化した関係も、今はまだ受け止め切れないが直に
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