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カチ、カチ、カチ。
 刻一刻と迫り来る締め切り。アナログな時計の音がまるで自分を急かしているようで煩わしい。遅くともあと半日以内にはデータを送らねばいけないというのに。進まぬ指に苛立ちが募ってゆく。
 視界の端に揺らめく白はカーテンなどではなく、どこぞの女のものだ。音もなく勝手に人の家に入り込む不法侵入者だが、自分以外の人間にはどうやら見えていないらしい。たまにやって来る家族友人編集には遂に頭がおかしくなったのかと言われる。しかしラップ音を立てる以外は特に害を加えてくるわけではないので基本放置。
 そしてずっと震えっぱなしのマナーモードの携帯に掛けてくる番号は担当編集と、単語しか喋らない女児。もしもしわたしメリーさん。今あなたの…。速攻切る。構っている暇はない。
俺は急がねばならないのだ。苦節○年、やっと連載に漕ぎ着けられたのだ。ないネタを無理矢理にでも振り絞って書き切らなければならないのだ。こんなところで原稿を落とす訳にはいかない。
 雫がカーペットに何度も何度も落ちる音がする。やめろ、一体誰が掃除すると思っているんだ。濡れて滑りけを帯びているようにも見える男児は、作業机の上で俺を穴が空きそうになる程見つめ続けている。よくも飽きもせず居れるな。実に7時間はこのままの状態で経過しているというのに。
机の下では動物の呻き声が聞こえる。もぞもぞと蠢き、時たま足に触れてくる。集中が途切れそうになるので止めて欲しい。そして何よりうちはペット禁止だ。苛立ちは治まる気がしない。

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