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「そういやアリス、お前眼帯はやめたのか?」


クラリネス王国首都ウィスタリアへと向かう道中のことである。不意に前を歩いていたゼンが振り返り、そんな疑問を投げかけた。彼の隣にいたミツヒデさんと私達の後ろをそっと見守るように歩いていた木々さんが、彼と連動して立ち止まるのでちょっとした包囲をされている気分になる。急に集まった三つの視線にややたじろぎながらも、事のあらましを説明すればゼンは呆れたように嘆息した。


「はあ? 取り上げられた? バカ王子に見せるためか……全くやることが強引だな」
「返してもらうの忘れてたね……。私はそのままの方が好きなんだけど、目立つよね」
「うーん、確かにそれは勘弁してほしいけど……眼帯くらいまたすぐに用意できると思うし、それまではフードで凌ぐかな」


不安そうに覗き込んでくる白雪だけれど、目立つのは彼女も同じである。さっと手で左眼を覆い隠し簡易眼帯をやって見せ、ふふんと茶化すように笑うと彼女は一瞬きょとりとその眼を丸くした後、ふっとおかしそうに吹き出した。そんな私達のやりとりを見ていたゼンがふと顎に手を添え、考え込むような仕草をする。


「ミツヒデ、木々。お前達もしかして持ってたりしないか?」
「ああ、そういえば木々。あの時確か……」
「持ってるよ」
「え?」


急な話に何のことだろうかと成り行きを見守っていると、ひょいと木々さんが懐から取り出した見覚えのあり過ぎるものに目を奪われる。いや、これはどこからどう見ても……。


「アリスの眼帯……!」
「え!? あれ、でもどうして木々さんが……?」
「あの人を拘束してる時に見つけた。やっぱりアリスのだったんだ」
「あ、ありがとうございます……!」


私の片手を取り優しく掌に眼帯を乗せてくれた木々さんに笑顔でお礼を言う。すぐにまた用意できると言ったことが嘘というわけではないけれど、やはり失くしたと思ったものが戻ってくるのは嬉しいもので。うきうきと早速眼帯をつけると、興奮気味の私が面白かったのか何なのか、木々さんがくすと少しだけ表情を和らげた。

しまった、また不意打ちだ……!間近で受けた私ははっと口元に手をやり感動に震えていたのだが、すぐに耐えられなくなって顔を両手で覆う。例え片目だけの視界だとしても、彼女は変わらず眩しかった。そして、もう一つ重要なこと。視界の端で捉えた隣の白雪が私と全く同じ行動を取っていた。つまり、木々さんの微笑は範囲攻撃……なんと恐ろしいことか。

あっという間に出来上がった顔を覆う二人の少女の図は、きっと奇妙な光景に違いない。その証拠に、双子のようにシンクロした私達を見ていたゼンとミツヒデさんが心底おかしそうに笑っていた。
閑話