二度あることは三度ある。
これは同じような失敗は何度も繰り返される傾向にあるため、『同じ失敗はしないように』という戒めの意味があるらしい。しかし、困った。戒めろと言われても、対処しようもない現実にぶち当たった場合はどう対策を講じるべきなのか……。
例えば、己が転生してしまった時。
それは、前世の記憶があって初めて気がつく異常事態で。触れもしない概念相手に事前に対策が打てたのなら、私だって迷うことなくそうしていただろう。現実はどこまでも無情だった。どれだけ嘆いたところで、もう手遅れなのだから。
ならば、と次に願ったのは現状維持だった。これ以上、状況が悪化してほしくないという切実で細やかな願い。せめて、平和に過ごしたかった。特大の秘密を抱えたまま生きるのはどうしても心が疲弊していくから、上乗せするような何かが起こってくれるなといつも祈っていた。
しかし、現実はやはり上手くいかない。ふとした時に思ったのだ。
『二度あることは三度ある』って言葉あるよな、と。
ここで冒頭に戻る。
唐突に顔を出した懸念は『対処しようもない
転生が仮に一度目に加算されていたら……?』という、とてつもなく嫌な想像だった。予感と言っても良いかもしれない。だって、こういう時の悪い予感ほど当たってしまうものではないか。
先に述べたように『同じような失敗』は繰り返される傾向にある。だとしたら、転生レベルの衝撃があと二回は降りかかってもおかしくないということ。
……。
天変地異でも起こるのか??
何をどう対策しろと?
かくして、私は特大のフラグを自ら打ち立て、またの日に流れるようなムーブで二度目の
衝撃を回収することになる。
誠に遺憾である。まさか、本当に知りたくもない残酷な現実を再び突きつけられようとは……。
♦
その衝撃に直面したのは、今から約二年ほど前のことである。小学校を無事に卒業し、中学校という新たな学舎への入学を控えた春休みのとある日だった。
お祝いと称していつもより高級なケーキを買ってきてくれた母に呼ばれ、私は自室のベッドから跳ね起きた。時刻は午後の三時頃。ちょうど小腹の空く時間。やや暇を持て余していた自分にとっては嬉しいサプライズだった。
何せ、春休みの宿題なんて人生二週目のチート知識にかかれば、あってないようなものである。これが高校レベルの問題ならいざ知らず、小学生のそれなら躓くまい。
「あー! これって、このお店のケーキじゃない? すごい! テレビに出てるよ!」
「あら、ほんと。そんなに人気だったのね」
「確かに美味いな。甘過ぎないから食べやすいし」
皿に乗せられたケーキをひと口ずつじっくりと満喫している最中、不意に驚きの声を上げたのは妹だった。熱心にテレビを指し示す姿に、同じテーブルを囲う母と父の視線もそちらへと引き寄せられる。
正直、そのテレビの内容にはあまり興味を唆られなかった。今、目の前にあるケーキが美味しければ、それが全てだ。私にとっては、有名かそうでないかは至極どうでもいいことだった。
だから、その時。食べ進める手を止めたのはなんとなくだった。ただの気まぐれで、そこに意味なんてなくて。みんなが見ているから、と。何気なく、流れる映像を見やった。
直後、予想外にも私の目は釘付けになる。
「……要? ぼうっとしてどうしたんだ?」
「え、いや……何でもないよ。驚いただけ」
父の不思議そうな声音に意識を引き戻され、慌てて笑みを作った。なんでもないように装ったけれど、内心ではテレビの情報が気になって仕方がなかった。
『──街中の一角にあるパティスリー。オシャレな外装と落ち着いた色で統一された店内に、訪れる人の心は魅了されているようです。そして、なんと言っても一番はスイーツのクオリティの高さ!』
別段珍しくもないよくある店の特集。
普段であれば気にも留めないのに、この時ばかりは画面の中のリポーターが紡いだ一つの単語が耳について離れなくて。
『こちらのパティシエは“聖マリー学園”出身で──』
聖マリー学園……?
ふと、どこかで聞いたことがあると思った。過去の記憶を探り、それから意外とすぐに答えに辿り着く。そうだ。確か、聖マリー学園──通称、聖マリーはかつて祖母が通っていた製菓専門学校の名前だったはず。ちなみに、ここで言う祖母とは今世の祖母のことである。
しかし、まだ何かが引っかかる。なんだか、とても大切なことを忘れているような……。
もやもやと胸の辺りに燻る謎と、どうしてか『気がつくな!』と警鐘を鳴らす第六感。この二択ならば後者を信じて踏み込まなければ良かったものを、何をとち狂ったか当時の私は盛大にやらかした。悲しいかな、人間は好奇心には敵わない生き物らしい。
「ねえ、お母さん。聖マリー学園っておばあちゃんの行ってた学校だよね?」
「ええ、そうよ。この人も聖マリー出身なのね」
「なになに? その学校気になるのー? お姉ちゃん、お菓子作るの好きだもんね〜」
「ただの趣味だよ」
「え、要。まさか、その学校行くなんて言わないよな……? 寮生活なんてパパ寂しい!」
「わっ!」
バッ! と、いつの間に調べたのか件の学園のホームページが開かれたパソコンをこちらに突きつける父に、思わず身を仰け反らせる。いくらなんでもいきなり過ぎるだろう。訝しく思いながらもせっかくだからとありがたく受け取り、学園の説明をざっと流し読みしていく。画面をスクロールさせると、いくつかの写真が現れた。
まるで、お城のような巨大な建造物。日本に存在するとは俄に信じがたいそれは、まさに豪華絢爛。西洋の宮殿を模しているからか、絵本の中から飛び出してきたような美しい佇まいだった。
──そういえば、なんか見たことあるような……?
「お姉ちゃん? 難しい顔してどうしたの?」
「ううん、別に……何でもな、いっ!?」
「!?」
驚いた。あまりの驚きで飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。電化製品に液体はまずい。
すんでのところで堪えたせいか気管に入り咳き込んでしまったが、パソコンの死守には成功した。よくやった私。
「げほっ……! けほっ」
「ちょっと大丈夫? もう、要は時々おっちょこちょいよねぇ」
「お姉ちゃん、しっかり……!」
両隣の母と妹が甲斐甲斐しく背中をさすってくれる。なんとか落ち着いてきた頃に二人に礼を言って、もう一度、恐る恐る画面を見つめた。
写真の一部に写っていた“それ”。
建物の全体像を撮ったためかそれ自体は小さく見えるものの、そこには確かに妖精を象ったような立派な像があった。
戦慄して背筋が凍る。恐ろしいことに、ひどく見覚えがあった。
「(いや、でも、まさか……。あり得ない、そんなこと)」
スイーツの女王様なんて居るはずがない。居てはいけない──。
自分以外の三人が皿を片しに立ち上がった隙に、カタカタと素早くキーボードを叩いた。頭に浮かんだ一つの作品タイトル。そこから導き出されるとある可能性を今すぐに否定したかった。
不穏な気配
(こ、このファンシーな石像は)
(頼むから杞憂であってくれ……!!)