紅潮する
朝から降り続いている雨は除霊が終わっても止むことはなかった。天気予報では午後は晴れ間が見えますと天気予報士が言っていたけれど、どうやら予報は外れたようだ。少しばかり雨足が強くなり共に任務に出向いていた七海と私は、迎えの車が来るまでの間、廃線になったバス停で雨宿りすることにした。ぽつり、ぽつりと屋根をすり抜けて落ちてくる雨粒を鬱陶しく思いながら、ふと隣に視線を向けて横顔を伺う。
「七海って彼女とかいないの?」
「…なんですか急に」
「年頃じゃん、私たち。そーゆーのあんま興味ないの?」
「ないです」
「灰原とは恋バナすごい盛り上がるよ」
「なら、彼と話せばいいのでは?」
「つまんな」
思ったことを何の遠慮もなしに口に出せる間柄ではあるけれど、そもそも恋だの愛だのに興味の無い七海とは恋バナは盛り上がる訳がなかった。迎えはまだかな、雨で渋滞してるのかなと思いながら誰からも通知の来ていない携帯電話を開いてぽちぽちと意味もなくボタンを押す。
「苗字は、付き合っている男がいるんですか?」
「え?」
雨の音にかき消されそうなほど小さな声で、思わず聞き間違えかと聞き返すと顔を反対に逸らして「いえ、なんでも」とシャットアウトされてしまった。もしかして話を続かせてくれようとしたのかとやっと気付き、「あぁ、いないよそんなん」と返答する。
「そういう年頃なのでは?」
「うーん、年頃だろうが出会いがないんじゃ恋愛しようがないじゃん」
「…恋バナもクソもないじゃないですか」
「恋バナもクソもないね、はは」
大して面白くもないけど取り敢えず笑ってみると、いつもの怪訝な顔でこちらを見下ろす七海と目が合う。同期で任務を共にすることも多い七海と過ごす時間は長いけれど何故かいつも彼は私に対して敬語をやめることはない。
「なんで七海は敬語なの?」
「は?」
「同い年じゃん。何なら誕生日的に言えば私より上じゃん」
「あなたはいつも突拍子もない事を言いますね。話の脈絡がまったく無い」
「そう?気になっただけ」
そう言って視線を外して前を向くと、静かに息を吐く音が聞こえる。何かを考えているように、七海も同じく前を向いて少し黙ってから「苗字は」と口を開いた。
「敬語が嫌なんですか?」
「別に。でも距離を感じるよね」
「…そうですか」
しばらく沈黙が続いた後、静かに顔を上げた七海に釣られて首を横に動かすと思いの外真剣な目でこちらを見据える彼に押し黙ってしまった。
「…名前」
「…は?」
突然の名前呼びに一瞬思考が停止してしまい、あぁ彼なりに同期としての距離を飛び越えてくれたんだと理解して、くすぐったさで思わず笑いが込み上げてしまった。そんな私を見て彼は不貞腐れたように視線を逸らして「無理です、忘れてください」と声を低めて言ったけれど、それこそ無理だ。隣の赤ら顔を見て自分の頬も熱が上がるのを感じた。