しーっ
「おつかれサマンサ〜」
「ご、五条さん…!しーっ!」
事務室に入りいつも通りの挨拶でソファー側で佇む伊地知に声をかけると、肩をビクつかせて振り返り慌てて人差し指を立てながらそう言われた。ソファーの肘置きから茶色い髪が流れているのを見るとどうやらそこで誰かが寝ているようだ。何やら面白そうな状況に自然に口角が上がるのが分かった。
「あ〜いよいよ伊地知も女連れ込むほどグレてきたワケ。呪術界も末だね」
「なっ…!ちょっ何言ってるんですか」
「彼女?顔見せてよ」
伊地知の肩をがっつり掴んでソファーを見下ろせばそこには口を開いて爆睡をかます僕の恋人の姿があった。任務に追われながらもショートスリーパーだからとなかなかお目にかかれない寝顔がそこにはあり、モゾっとした気持ちが鳩尾で燻っているのがわかる。
「どーゆーこと、なんで名前がここにいんの」
「先ほど東北の出張任務から帰ってきたばかりで、荷物を車から降ろして戻ってきたらここで…」
「見た?寝顔」
「え?あ、は、はい、目の前に」
「忘れて。記憶から抹消して」
「そんな無茶な…」
いつも通りの理不尽にはぁと小さくため息を吐きながらも、起こさない様気を遣ってか小さな声で話す伊地知と並んで愛おしい寝顔を前にしんとした沈黙が流れた。
「でも、珍しいですね。苗字さんがこんな無防備に眠っている姿は初めて見ました」
「初めてじゃなきゃオマエ張っ倒してたよ。無防備って何?どーゆー意味」
「えっ!ちがっ、変な意味じゃ…」
「それに僕の前ではいつでもどこでも無防備だから。珍しくないから」
「そんな…張り合わないでください。そんなつもりじゃないですよ…」
コソコソと話す伊地知に構わず普段の声量で張り合ってたらソファーの上で眠る名前がモゾモゾと動き出し眩しそうに目を開いた。「あれ、五条じゃん」といまだ夢の中にでもいるようなボーッとした表情で彼女は不思議そうにそのままの体制で2人の男を見上げた。
「何、ここどこ?」
「お疲れ様です、事務室ですよ」
「いつの間にか寝てた…伊地知ごめーん」
「いえ、だいぶお疲れでしたので。荷物は車から降ろしてあちらに置いてます」
「ねぇ、僕を差し置いて他の男と会話しないでよ」
「どうしたの五条、機嫌悪いね」
「伊地知がお前の寝顔見てニヤニヤしてたよ」
「なっ!勘弁して下さいよ五条さん…!」
「へぇ〜〜伊地知も男だねぇ」
「苗字さんまで…」
もうやめてくれと背中を丸めた伊地知のポケットで急に携帯が鳴り「すみません」と言いつつ、チャンスとばかりにその場から立ち去る。ソファーでいまだに眠たそうに目を擦る彼女の手を止めてその場にしゃがみ顔を覗き込めばぽかんとした、いつもより緩やかな顔で首を傾げる。
「目、擦ったら赤くなるよ」
「ん」
「お疲れ様。今日は僕も上がりだけど家くる?」
「ん」