(あーまただ)
ロッカーを開けると最近では恒例となって出来事に名前はため息もつかなくなった。
体操服がなくなっていた。
「またなの!?いったい誰がこんな陰湿な事をしているのよ!」
隣にいたジュンコが怒りを露にした。
しかし至って名前は平然としていた。
「まぁまぁ、また出てくるから」
そう、体育の授業中に制服がなくなったり今回のように体操服がなくなっていたり、時には靴がなくなっていたりする事は多々あるがそれらは暫くするときちんと元の位置に帰ってくるのだ。
最初は気味悪がっていた名前だったがあまりにもそれが続き、その後手元に帰ってきていたのでもう考えることもめんどくさくなり気にしない事にしたのだ。
「名前さんはどうしてお気になさりませんの?私でしたら気味が悪くて仕方ありませんわ」
ももえも心配そうな表情でそう訪ねる。
名前からすれば自分のせいで不快な思いをさせてしまっている彼女達に対しての申し訳なさの方が勝っている。
「わかった。
制服は無理だけど取り敢えず靴は持ち運ぶようにするね。心配かけてごめん」
犯人探しをするのは骨が折れるし危険だからと取り敢えず防ぐ為の対応をとると伝えるも、ジュンコ達は納得いかない表情をしていた。
「この事、十代は知っているの?」
明日香が名前の恋人である十代がこの事態を認知しているのかと訊ねた。
それに対し名前は首を横に振る。
「どうして十代に何も言わないの?」
「ごめん、大丈夫だから。この事本当に人に言わないで」
名前は心配してくれている3人に申し訳ないと思いつつも口外しないでほしいといつものように念を押して頼んだ。
教師に話すべきだとか見張って犯人探しをしようと提案されるがそれもやはり危険だからと止めた。
「何かおきたら必ず相談する。
だから今はまだ様子を見ていてほしい。」
名前を大切に思ってくれている友人達に深々と頭を下げる。
そんな名前に困ったような表情で互いを見た後3人は、わかった、必ず相談してねと言いその話は終了した。
「名前!帰ろーぜ!」
授業が終わると名前の元に十代が駆け寄ってきた。
名前はその姿を人懐っこい大型犬のようで非常に可愛らしく感じていた。
「うん、今日はどうするの?」
「俺デッキ調整したから早速デュエルで試したいんだけどいいか?」
「勿論」
十代と名前はデュエルの約束をしながら帰り支度をする。
ロッカーを開ければいつも通り今日消えていた体操服はロッカーに戻っていた。
それを鞄に入れて十代と共に校舎を後にした。
「早く行こーぜ!」
手を繋ぎ無邪気な顔をする十代。
名前はそんな十代が好きだった。
だからこそわからなかった。
(ねぇ、どうして十代は私のモノを盗んでしまうんだろうね?
私たちは恋人同士なのに)
名前は本当はなくなったそれがどこにあるのか知っていた。
その犯人は十代だったのだ。
気味が悪かった名前は何度か授業をサボって隠れて犯人を見つけようと見張っていた。
そしてそれを何度か続けた後その犯人が十代だったことを知り愕然とした。
十代はそのまま名前の体操服を口元に押し付け誰もいない教室で自慰行為に励んだ。
そしてやがて欲をその服にぶちまけた後満足そうなどこか壊れた笑顔でそれを袋に入れそのまま持ち去った。
震える膝を必死で叩き立ち上がりどうすればいいかと考える。
なぜ十代がそんなことをしているのか名前には理解出来なかった。
それでも確めなければ、とPDAで十代に連絡を入れれば今日は寮に帰ったと返信がきた。
そちらに行っていいかと訊ねると2つ返事で許可を出すメールが届いた。
レッド寮に行けば共用エリアで洗濯機が一台回っていた。
白と紺のそれは間違いなく私のものだろう。
洗濯機の中で踊るようにかき混ぜられるそれを見て私はなんとも言えない気持ちになった。
「十代、もしかして体調悪いの?」
部屋に入ると十代はいつも通りの笑顔で名前を出迎えた。
名前はあんなことの後十代が何かボロを出すのではないかと考えそう探りを入れてみる。
「いや、眠かったからサボっただけ」
しかし十代はいつも通りの態度で欠伸をしながら悪びれもせずにそう答えた。
「名前も一緒に昼寝しねぇ?」
ベッドに上がり横をぽんぽんと叩き名前を誘う十代。
少し考えた後名前は首を縦に振り十代の隣に寝転んだ。
「おやすみ」
そう言って十代は名前を抱きしめる。
名前もおやすみと返しそのまま眼を閉じた。
あんなことがあった後眠れる筈のない名前は眼を閉じたまま考える。
十代はこうしていても名前に何もしてこなかった。
なのになぜあんな事をしていたのだろう、と。
(私は貴方にだったら喜んで抱かれるのに)
そう考えながら涙が零れた。
あれから何度も同じ事は続いた。
それでも十代は名前を抱かなかった。
(私が貴方に抱かれたいと伝えればこれはなくなるのかな)
デュエル中だと言うのにこんなことを考えるなんてと自分自身に呆れる。
無邪気な純粋そのもののような十代が自分に対して邪な感情を持っていた。
それを知った時恐怖を感じると共に喜びも感じていた。
名前は素直に抱かれたいという想いとは裏腹にこの現状は十代からの愛なのだと認識しそれが終わる事を惜しみ始めたのだっ。
そして今日も真実を問い詰める事を放棄する。
(ごめんね、みんな。私は幸せなのよ)
友の心配よりも自分の幸福を選ぶ自分を心の中で嘲笑った。