40:何もない特別な休日

進級試験も終わり学園は暫しの休日となった。
殆どの生徒が自分の生まれ育った家へと一時帰宅した。
やはりと言うべきか十代君は例に含まれず学園に残ったようで毎日私の元に会いに来ていた。

「十代君は帰らなくてよかったの?」

「あぁ、多分父さんも母さんも仕事で家にいねぇしな。
それにここに残れば名前と会えるしな」

孤独な幼少期を過ごした事は知っていた。
十代君が実はしっかりしていることは知っている。
だが皮肉なことにまだ十代君には何をするにも保護者という存在が必要だ。
十代君がご両親の事を嫌っているわけでも避けているわけでもないことを知っている私としては複雑だ。

けれど私と過ごす時間を幸福に感じてくれている事を嬉しく思う私もいる。

「次の機会があれば帰るんだよ?」

「なんだよ名前、名前は俺といたくなかったのか?」

膨れてそう不満を溢す十代君は可愛いかった。

「ううん、嬉しいよ。でも私としてはご両親との時間も大切にしてほしかったから。
大人になると驚く程会えなくなっちゃうから、ね」

私はおそらくもう二度と両親に会う事は出来ないだろう。
十代君のご両親が十代君を嫌っているわけではないことはなんとなくわかる。
だからこそ卒業するまでに少しでも十代君がご両親と会う時間が作れたら、お互いの為にも良いのではないかと思った。

これは私のエゴにすぎない。

「ふーん、····まぁ名前がそう言うなら次は電話してみる」

「うん、仮に都合がつかなかったとしてもご両親は喜ぶと思うよ」

そんなもんか?と首をひねりながらも十代君は私の言葉を素直に聞き入れてくれた。
おせっかいを焼いてみて良かった。

「でもなんか名前が大人ぶっててムカつく、俺とそんなに歳変わんないのに」

「え····」

十代君はそう言って私の手を握った次の瞬間私に唇を寄せた。
深いそれではない触れあうだけの優しいキス。
それは数秒間続いてゆっくりと離れた。

十代君は私と額を合わせて緩く笑う。

「俺名前のその顔すげぇ好き」

「っ···ばか····」

おそらく私の顔は真っ赤に染まっているだろう。
十代君よりずっと歳上で本来の世界では彼氏がいたこともある。
キスだってこれが初めてではない。

なのに相手が十代君だというだけで私は感情のコントロールが出来なくなってしまっている。

「俺以外に見せないで」


十代君はこんなに大人びた笑顔をしていただろうか

十代君にそれをさせているのが自分なのだと気付いた私の顔の熱がひくには少し時間がかかりそうだ