ほんの少しまえまで貴方が隣にいないことが当たり前だった。
なのにそんな貴方が隣にいることが日常になっていた。
貴方がいないだけで空が灰色に見えるなんて、こんな未来を誰が想像出来ただろうか。
「名前さん····名前さんは何か聞いていますか?」
「···ううん、何も知らないの、ごめんね」
ごめんなさい、私は何もかも知っている、なのにそれを話せない。
明日香ちゃんも翔君も、新たに入学してきた剣山君も、皆が本気で十代君を心配している。
翔君に至っては食事も睡眠もろくに取れていない。
私はきっと何も知らない、十代君の心を理解できる日なんてきっと永遠に来ない。
それでも知りたい、そう望む。
「大丈夫、必ず十代君は帰ってくるから」
私はちゃんと笑えているだろうか。
今私に出来る事は彼女達の不安を少しでも取り除くことだけだった。
「····名前さんは不安ではないんですか?腹が立ちませんか?悲しくはないですか?」
明日香ちゃんが私を心配してくれていることが節々と伝わってくる。
なんて優しい子だろうか、きっと私よりずっと彼に相応しい女の子だろう。
それでも私は私を選んでくれた、見付けてくれた彼の事を手離したくない。
「帰ってきたらいっぱい抱きしめてもらうの」
私は精一杯笑う、それが上手く出来ているかはわからない。
人から見ればこんなときに不謹慎だと、無責任だと思われるかもしれない。
それでも私に眩しい程の笑顔を向けてくれていた十代君のように。
なんて、本当はそうしていないと泣いてしまいそうだから
大人になるほど人は臆病になるのだということをこの日知った