54:隣に座る権利をくれる貴方

ここにいるべきではない私、何か役割があるからこそここにいる私。
結論は出ない、何度も幸福を感じてはそんな権利などないのではと自問自答した。
アニメのキャラクターだった彼らが私にとっては今は同じ人間で、それが分かっている筈なのに私は未だラインを引いて。
きっとここにいる限り私はこれからも何か起こる度に自問自答を繰り返すのだろう。



「名前、ん」

十代君は両手を広げて何かを訴えている。
幼くとも子供でない、彼らしくないその行為に私は躊躇しつつも彼の要求する事に応じた。

「···こ、これでいいの?」

「ああ!」

以前は恋人もいた。
だからけして異性に対する免疫が無いわけではない。
それにも関わらず必要以上に照れてしまうのは年齢差による罪悪感からだろうか。
私は十代君に抱き締められたまま彼の肩に顔を埋めた。

「耳まで赤くなってる、可愛いよな、名前って」

「···あまりからかわないで」

十代君はこんなことを言う人だっただろうか。
少なくともアニメの中の彼を見ていた時にそんなイメージは持っていなかった。

「からかってるわけじゃねぇんだけどなー」

よしよしと慰めるように十代君は私の頭を撫でた。
これではどちらが年上か分からない。
この世界での見た目は20歳くらいとはいえ実年齢は既にアラサーだったのだ。
初を売りに出来る年齢ではない。

「正直今回は色々とヒヤヒヤしたぜ。
だからちょっと癒してくれよ」

十代君はこの世界の主人公だ。
いつもこの華奢な身体に大きな責任がのし掛かる。
それはこれからも続く。
寧ろもっと重たい荷を背負うことになるのだから笑えない。

「でも俺絶対に負けないから。
だから名前も安心しろよ」

大人の私を元気付けるヒーロー。
皆が憧れるヒーロー。
いつだって皆を守ってくれるヒーロー。
ではヒーローの事は誰が守ってくれるのだろうか?

「···十代、君」



「···へへっ···名前からしてくれたの初めてだな」

私達の関係はこの学園に十代君が生徒として在籍している以上あまり堂々と言えるものではないだろう。
だからこそあまりこういう事はよくないとは思っている。
それでもどうしてもしたくなってしまったのだ。
唇を合わせたのはまだ数えられる程だ。
そして私から彼の唇に触れたのは初めてのことで。

「もう一回していい?」

十代君は私が返事を待たずに唇を合わせた。
そして笑うのだ。
ずっと彼がこうして笑っていられたらいいのに。

私は強く強く彼の身体を抱き締める。

いつか貴方を守れるヒーローになりたいと願って。