「名前さん、お久しぶりです」
久しぶりに聞いたその声の主は明日香ちゃんだった。
両隣にはももえちゃんとジュンコちゃんの姿も。
年度休みに入ってから暫く顔は見ていなかったが三人とも変わらず元気そうで何よりだ。
「久しぶり、皆楽しい休日を過ごせた?」
当たり障りのない世間話、それでも久しぶりに元気な顔を見られたことが嬉しくて。
それは彼女達も同じように思ってくれているのだということは彼女達の顔を見ればすぐに分かった。
そしてその明るい笑顔から彼女達が充実した休日が過ごせた事も読み取れたことが嬉しく思う。
学生時代の長期休みは特別だ。
ましてや今年で社会に飛び立つ彼女達なのだから尚更だ。
「名前さんは大丈夫でした?」
そう私に訊ねたのは明日香ちゃん、心なしか少し怖い顔をしている。
それは二人も同様で、私はなんのことだろうかと首を捻る。
「十代の事です」
明日香ちゃんは私が三人の意図を理解していないことを察したのかそう付け加えた。
十代君と喧嘩でもしたと心配してくれていたのだろうか。
「遊城十代に変な事されてませんかって意味ですよ!」
仲良くやれていたと言葉を返そうとした所でジュンコちゃんが言葉を遮るようにそう補足した。
私は彼女から発せられた予想外の言葉に驚いてむせ込ればももえちゃんが心配して私の背をさすってくれた。
実年齢で言えば彼女達よりずっと歳上だというのになんとも情けない話だ。
私より若いうちから親元を離れて生活している彼女達の方がずっと大人になるのが早いのかもしれない。
「え、まさか本当に何かあったんですか!?」
向けられた視線は三者三様だった。
ジュンコちゃんは驚きを含んだ、ももえちゃんは心配するような、明日香ちゃんは...
「正直に話してください」
それはもう凄い迫力で。
美人の目力というものはとても恐ろしい。
明日香ちゃんはなぜこんなに、もしかしたら私に遠慮していただけで本当は十代君にやはり心惹かれていて。
「あのけだものに何かされたんですか?」
私の肩を掴んでそう詰め寄る彼女にそんな傾向は全く無かった。
彼女の眼は私を通して十代君を睨みつけていた。
本当に何故こんなに、と戸惑いながらも私は慌てて心配されるような事は何も無かったと訂正した。
私がはっきりと否定したことで彼女達はホッとため息をついてようやく先程までの可愛らしい表情に戻ってくれた。
それにしても歳下の彼女達にここまで心配される程私は頼りなく映っているのだろうかと考えると少し居た堪れなくなってしまった。
「私も一応大人だし十代君もそんなに乱暴な人じゃないから大丈夫だよ」
「...」
彼女達の中で十代君が実際の彼より乱暴な人に見えているようなのが気になってそう言葉にするも彼女達は再び困ったような表情になってしまった。
もしかして十代くんが何か誤解を呼ぶような話をしたのだろうかと考えた。
まさに昨日の言い回しのような。
そしてそこまで考えた思い出した、彼が私の背に向かって呟いた独り言を。
再び赤くなりそうになる顔を慌てて逸らせば三人からやっぱり!と声が上がった。
私のせいで結局話は堂々巡りになってしまった。
私も元いた場所でまっさらなまま生きていたわけではない。
だから分かっているのだ、彼のそういう感情は年頃の男の子として当たり前に抱く願望なのだと。
私はここまで純な女だっただろうかと自分が分からなくなってしまう。
外見が若返ると共に精神まで退行してしまったのかもしれないという考えが脳裏を過る。
「名前さん、忘れないでください。
人は誰だって心に悪魔を飼っているんです。
それはいつキバを向けるか、誰にも分からないんです」
少しオーバーな考えだとは思う。
でも彼女の言葉には妙な説得力があって。
それは勝負の世界で生きていこうとする彼女の気迫から滲むものなのだろうか。
「...心配してくれてありがとう。
でも本当に私は傷付くことなんてされてないしちゃんと嫌な事は嫌だって言えるから。
本当にありがとう」
彼女達の優しさが嬉しかった。
過ごした時間はずっと短い、それでも私を想って心配してくれる優しい彼女達をもっと好きになった。
彼女も十代君と同じように確かにそこに存在しているのだと今更な話だけれど改めて実感した。
「名前さん、私はいつだって貴方の味方ですから」
強くてかっこよくて可愛くて、私が男だったならイチコロだっただろう。
彼女達の優しさに触れて気が付いた。
自分が分からなくなる程狼狽えてしまうのはきっとここまで誰かを好きになった事がなかったのだと。
これを本当の愛と呼ぶのなら、
これはきっと私にとって初めての。