「昨日明日香と何話してたんだ?」
私と彼の関係はなんやかんや大抵の人に知れてしまっている。
幸いそれをとくに咎められたり揶揄われたりされているわけではない。
けれどだからといってあまり大っぴらに彼と逢瀬を重ねる事はあまり褒められたものではないと思っている。
だから週に何度かだけ2人でこっそりと昼食を食べている。
天気が良い日でもあまり日の当たらないような校舎裏で。
申し訳ないとは思いながらも彼は一緒にいられるならどこでもいい、なんて甘い言葉を恥じらう様子もなく言ってのけたのだ。
「少し昔話をしてただけだよ」
「昔話?それって名前の?なら俺も聞きたい!」
十代君はそう言って目をキラキラさせてこちらを見つめてきた。
意志のの強そうな瞳。
私はその眼に弱い。
彼の魅力を上げるとしたら私にとって彼のそれは間違いなく上位に来るだろう。
「大した話じゃないよ、私は十代君や明日香ちゃんよりずっと子どもだったなって、そんな話」
「明日香はともかく俺より?俺よく明日香や万丈目にガキっぽいって言われるんだぜ?」
十代君の言葉にどう返事をしようかと少し思案した。
彼らはきっとそれは完全に本心で言っているというわけではないのだろうと私は思っている。
確かに十代君は一見してデュエルにしか興味がない少年のように見える。
でも彼は何も考えていないようで空気が読める、状況に応じて敢えて読まない事が出来る男の子だ。
それが絶妙であるからこそ個々で動きがちな彼の周りから人がいなくなる事がないのだと思っている。
「まぁ俺はガキでも大人でもどっちでもいいけどな。
楽しくデュエルして名前とこうやって過ごせるならそれで」
そう言って私の手を握った彼の顔は子どもの顔をしているのだろうか。
私は彼の唐突で真っ直ぐな言葉に思わず視線を逸らしてしまった。
瞬間的に熱を帯びた頬。
ここに来て若返ったせいで心まで幼くなってしまったのだろうか?
それでも私は彼より年下な筈なのに。
「名前」
私の名を呼ぶ彼の声、なんて優しい声色だろうか。
少しでも落ち着くよう小さくて息を吸って吐いて視線を彼に向けた。
「ずっと名前とこうやっていられたらいいのに」
そう言って彼は私にキスをした。
2人きりとはいえいつ人が来たっておかしくない。
拒むべき場面だったと思う。
でも私はその時動けなくなったのだ。
唇を合わせようとする彼の手が私の頬に触れた。
その時見えた彼の手首に着けられたもの。
勿論それは彼だけではない。
それはこれから彼らの心と身体を傷付ける事をしっている。
抵抗しようとしない私を十代君はそのまま抱きしめた。
それはとても優しく暖かい。
全部大丈夫、傷付いたって彼はそれを経て大人になっていく。
そんな事もう重々理解している。
私は彼の背に手を回した。
傷付かないでほしい。
守ってあげたい。
こんな言い方は間違っている、それでも彼が傷つかなければ彼女は救われない。
私は彼女が嫌いだなんて思った事はなかった。
それなのに今はどうだろうか。
これは嫌悪感ではない、あるのは嫉妬心だ。
私は彼女に嫉妬しているのだ。
そんな場合ではないと理解している筈なのに。
私が今までしてきたのは本当に恋だったのだろうか?
昔と今、それは全く違っていて私の心をかき乱した。
私の本心を知れば彼はどう思うのだろうか。
貴方の事を思えば思うほど私は私が分からなくなる。