63:夜が2人を包み込んだ

「名前から誘ってくれたの初めてだよな」

だから嬉しい、と十代君は私の隣に座って甘えるように肩に寄りかかった。
私は初めて彼を自分の部屋に誘った。
あまり褒められた事ではない。
少し躊躇する気持ちもあったがこの学園の子どもを預かっているわりには生徒の自主性に任せているのか変に緩い所を自分の中で言い訳に使って実てしまった。

「ごめんね、...どうしても会いたくなって」

十代君の手を握った。
それも初めての事だった。
十代君も驚いたのかこちらに視線を向けたがすぐに私の手を握り返してくれた。
その手は私より少し温かい熱を持っていた。

「大丈夫だって、ちょっと疲れちまっただけだから」

倒れた自分の事を私が心配しているのだと悟ったのだろう。
私の方が年上の筈なのにいつも私の方が支えられている。
十代君が基本的に人を頼らない事は知っている。
それは信用していないわけではなく真っ直ぐに前だけを見ているから、時として言葉が足りず自身の中で自己完結してしまうということも。

「...私に何か出来ることってない?」

口から溢れた言葉はなんとも情けないものだった。
自分よりずっと若い彼に支持を仰いで、それは目の前の問題と向き合えていないのではないか。

「私ばかり沢山貰っているの、でも私だって十代君に返したい」

他力本願にも程がある。
歪な存在の私には何が正解で不正解かわからない。
夜の闇は私の情けない本性を曝け出してしまう。

「名前」

十代君は私を抱きしめた。
そこから伝わる熱の心地よさに涙が出そうになった。
華奢に見える彼の身体が見た目よりずっと逞しいことを知っている。
まだ成長するであろう、それでもその身体は硬く私とは違う男の人の身体であった。

「俺名前と出会えて本当によかった」

彼がそう言って私の頭を撫でた。
ぴったりとくっついた身体からそれは音だけではなく振動も伝えた。
それはとても暖かくて心地良く。

「俺の方が貰ってるから、名前が気付いてなくても俺は知ってるから」

だからなにも不安に思うことなんてない、と瞼に唇を寄せた。
幼い子どもを慰めるかのようなソレを不快に思う事は無かった。
ただただ愛しいと感じた。
こうして私は彼からまた安心を与えられてしまうのだ。

「...あー...その、なんていうか、全く何もしない、とか言えないけど」

彼が言葉を詰まらせながら何かを伝えようとしている。
それが分からぬ程子どもではない。
それほど鈍いつもりもない。
やはりそれは褒められた事ではないと分かっている。
それでも私は抗う事ができなかった。


だから自らそれを口にした。


「...今夜は帰らないで」


今日の私はまるで子どものよう。
私は彼の優しさに身を委ねたい、と。

十代君は返事代わりに私を抱きしめる腕に力を込めた。