65:身から出た錆

十代君を見送った後簡単なものではあるが約束通り彼に渡す為のお弁当を作った。
私の朝食は弁当箱に詰めて半端に残ったものを少しずつ。
なにも特別ではないけれど子供の頃はそれは特別のものに思えた。
母と同じくらい料理は上達出来ているのだろうか。
いや、きっとまだまだ及ばないのだろう。

当然のように母親の料理を食べていた時代を振り返りふと気になった。
私が当たり前にそうして過ごしていた年頃、十代君はお母さんではなくとも誰か家族の人が作ったものを食べていたのだろうか?

アニメで描かれたのはほんの一瞬で、幼少期の大半を1人で過ごしていた事はなんとなく分かっている。
今の時代共働きが当たり前でけして珍しいことではない。
既製品だってきちんと栄養価は計算されている。
それでも、大きなお世話だと分かっていても気になってしまう。

いつだって自分で考えて1人で進める。
彼はいつからそうだったのだろう。
悪い事ではない筈なのに先を知る私は余計な事を考える。

「私はまだ彼の全てを知っているわけではないしこれからだってそんなことはありえない」

折角気持ちを切り替えられたというのにまたそんな事を考えて、やめろ、と自身の頬を両手でぱちんと叩いた。

「...少し早いけどもう行こう!」

殆ど済んでいた身支度を改めて確認して部屋を出た。
今日はクロノス先生の授業で行われた小テストの採点を頼まれている。
解答用紙も既に受け取っているのですぐにでも片付けてしまう事にした。







「あ、名前さん」

午前中の授業が終わった頃廊下を歩いていた私の名前を背後で呼んだのは翔君だった。
それに応じて後ろを振り向いて挨拶をしようと口を開こうとした。
けれど視線が合ったその後すぐに彼はあからさまに目を泳がせて顔を背けてしまったので私はそれをし損ねてしまった。

「...えっと、...こ、こんにちは?」

それでもそのままこの場を立ち去るというのもおかしいと思い挨拶の言葉を口にした。
変に吃ってしまったがまぁ細かい事は気にしないでおこう。

「こ、こここんにちはッス!」

彼が挨拶を返してくれたことに安堵した後彼は何か遠慮がちに私に再び視線を向けた。
だがまたそれはすぐに外される。
そこで気が付いてしまう、彼の顔が真っ赤に染まっていることに。

熱があるのか、と思ってしまう程鈍感であれば良かったのに、と考えてしまった。
察しが特別良いわけでもない。
けれど状況を考えれば分かる。
彼はきっと勘違いをしているのだろう、と。

「...」

ここでこちらから話題を出して彼の想像していることが勘違いだと伝えるのも何かおかしいと思い上手く言葉が出てこない。
彼の反応をみる限り十代君に直接問い詰めたわけでもないだろう。
というかそうしていればさすがにそんな勘違いをすることも無いだろう。
きっと彼は朝レッド寮に出向いて朝帰りをした十代君と遭遇したのだろう。
十代君自らべらべらと聞かれてもいない事を話す事はまず無いだろうし。

やはり多感な年頃の子供達がいる中で昨日の私の行動は問題だった。
そう反省しつつもこれからどうすべきかと考えていたその時。

「お、名前!翔も一緒だったのか。今日は翔も一緒に飯食うか?」

いつもと変わらぬ十代君が現れた。
翔君はぶんぶんと首を左右に振って自分はいいのでお二人でどうぞ!と半ば叫ぶように宣言してその場を走り去ってしまった。
そんな翔君を見て十代君はきょとんとした顔をする。

「どうしたんだ?翔の奴」

何も分かっていないようだ。
十代君には話しておいた方がいいだろう。
どう切り出すべきかと考えて少し胃が痛くなってしまった。
全て私のせいだというのに妙なことに巻き込んでしまったと反省した。