太陽は堕ちた

予想だにしていなかった刺激に俺は少しの間立ち上がる事が出来なかった。
膝だけではない、震える手。
それを止めようとぐっと力を込めて拳を握る。
少ししてようやく震えは止まった。
そして俺はようやくその話立ち上がった。

「なんかあるんだろうとは思ってたけど想像以上にキツい女だったな」

いててと先程噛みつかれた首を撫でれば触れた掌には赤い滲み。
それを見て再び股関が熱を持った自分に若干引いた。

「俺名前とならコッチも全然有りかもしんねぇ」

とりあえず名前の感触が消えない内に抜いちまおう、なんて即座に考えた俺は少しおかしいのかもしれない。
俺は上機嫌で寮へと帰った。







「なぁ明日香、カイザーともうヤった?」

俺の一切遠慮のない言葉に明日香はあからさまに眉間に皺を寄せた。
相変わらずこういう顔は迫力がある。
心底デュエリストらしいデュエリストだと思った。

「貴方最低ね」

明日香は一言そう言って俺の頬を捻り上げた。
全く容赦はしていない。

「いたたたたっっ!悪い悪い!カイザーの事で聞きたいことがあるんだって!」

反省などまるでしていないことは明日香にも伝わっているのだろう。
明日香の眉間の皺が伸びる気配はない。
最もそんな事はどうでもいいと切り捨てて俺は更に続けた。

「カイザーってドMだろ?
てことは明日香がSなんだよな?
明日香はカイザーがどんなこと望んだら嬉しいんだ?」

想定していたよりはるかに下卑た質問だったのか明日香の表情には怒りよりも呆れの感情が見受けられた。

「俺どっちかというと攻める側の人間だと思うんだけどさ、相手が全くM素質のない奴でそいつとどうにかなるには俺がそっちに回るしかないんだよな!
だからそいつの喜ぶ顔が見たいんだよ!」

明日香が今混乱していることは俺にだって分かる。
でも俺だって必死なのだ。
ずっと狙っていた獲物の指先をようやく掴んだ。
腕をとって四肢を抱いて絡みついてけして離さない、そうする為にどうすればいいか。

必死な俺に明日香は依然動揺と苛立ちを覚えている。
だが諦めたように明日香は溜息を零し口を開いた。

「そんなのは人それぞれよ。貴方の恋人に聞きなさい」

明日香らしい、優等生な回答。
まぁ半分期待はしていなかった。
これが普通なのだろう。
寧ろこの下品な話題を早く終わらせたいと感じながらも誠実に応えた明日香はきっと優しい人間なのだろう。
それでも俺はガキだからそんな事情は知ったもんじゃない。
俺は必死なのだ。

「俺に彼女なんていねーから聞いてんだけど?」

中学の時よく知らない女に何度か告白されたことはあった。
でも俺にはデュエルしか興味がなかった。
デュエルは相手の事がよく見える。
だから想いを伝えてきた名も知らぬ女によくわからねぇからデュエルしようぜ、と声を掛ければ泣いて走り去られたことやビンタを食らった事がある。
俺は恋愛なんてこれっぽっちも知らない。

「あ、貴方付き合ってもいない人とそんな事を考えていたの?」

俺の事が気持ち悪いという感情を一切隠す事もせずに明日香はそう訊ねた。
それでも俺は何も気にすることなく言葉を続けた。

「俺は別に付き合っても全然良いんだけどそいつは俺の事多分嫌ってるからさ。取り敢えずそいつの好きな事やれたらチャンスあるかなーって!」

俺の言葉に明日香は額に右手を添えて俯いた。
呆れているのだろう。

「····貴方は貴方を嫌う人が貴方に抱かれることを承諾すると思っているの?」

「ちげーよ!だから、俺が抱かれてやるんだよ!」

噛み合わない会話、どうして分からないというのだろうか。
明日香だって俺とは逆の立ち位置にいるだけで関係は同じだというのに。
ああ、でも明日香達は想いあった上で成り立っている。
俺と同じだなんて矛盾しているか。

「···とにかくこの件において私に言える事は一つもないわ。
そもそとこういう話は他人に相談するのではなく当事者に相談してちょうだい。
相談するにしても女性に訊ねるなんて論外よ」

明日香はそこまで言って早々に俺に背を向けた。
俺を殴らなかっただけでも明日香は大人の対応をしたと言えるのあろう。
だが俺はそれで納得出来ない、出来る筈がない。







「ねぇ」

明日香が視界から消えた後後ろから声をかけられた。
名前の声だと気付いてぱっと後ろを振り返ろうとしたところをそのまま首根っこを捕まれて硬い壁に叩きつけられた。
幸い横を向いたところだったので鼻を強打するのことは免れたが胸を強く打った事で俺は咳き込んだ。

「あんた本当にあり得ない。何、今の?
あんた私と本気でシたいの?笑わせないで」

そう言って名前は今度は俺を地面に叩きつけた。
見下して俺を見つめている名前の感情のないあまりにも冷たい目に俺はなぜかわからないがゾクゾクした。

「俺名前にめちゃくちゃにされたい。
なんでそんな事思うかわかんねぇけど最近そればっか考えてるんだ」

ほんとどうしちまったんだろうって俺自身が一番感じている。
そっちの気があったわけでないことだけは間違いなく自覚してるのに今こうして名前に酷い扱いされてるのそれだけで無性に興奮してしまっている。
その証拠に俺のモノはまた熱を帯びている。
それに名前は気が付いている。

「そんなに潰されたいの?」

そう言って名前はこちらがうっとりしてしまうような笑顔を浮かべて俺の股関にヒールのかかと部分を当てる。
その冷たい笑顔とこれから起こる事を想像して俺のソレはさらに硬度を増していく。

「やんねーよ、ばーか」

俺のその期待に満ちた心を察してか名前はすぐに表情を無くし足を軽く後ろに振り上げた後俺の股関を蹴りあげた。

「うあっっ!!!」

その痛みで悶絶する俺を依然として冷たい表情で見下す名前。
しかし俺の目にはそれは少し楽しんでいるように見えた。

「あんた私の為に本当になんでも我慢出来るの?」

俺の前にしゃがんで顎を取りそう訊ねる名前はめちゃくちゃエロかった。
だからなんの迷いもなく首を縦に振った。名前はそう、と短く返事をしてポケットから小さな四角い何かを取り出した。

それを俺の耳にあてる。
そこで漸くそれの正体に気が付いた。

「ここにいる間は付き合ってあげる。」

パチン

名前は微塵も躊躇する事なく俺の耳に穴を開けた。

「っっっ!!!」

当然ピアス穴など開けた事がなかった俺は想定外の痛みに鈍い声をあげた。
そんな俺を気にする事もなく名前はなんとも楽しそうに笑う。
こんな笑顔を見せてくれたのは初めてだ。
作り笑いではけしてないありのままの感情を。

「私の所有物の証よ。これ、あげるわ」

そう言って名前は普段は髪で隠れている耳に触れそこにぽつんと存在していた小さな赤いものを外し俺に差し出した。

「首輪の代わりよ。その気がなくなったらいつでも捨てなさい。
その時点で私達は赤の他人よ」

俺の手にそれを握らせると名前はきちんと消毒しておきなさい、そう言い残して俺のもとを立ち去った。
見えなくなるまで背中を見つめていたが一度も振り返る事はなかった。

そんな気などないと言っていた俺はどこに行ったんだろうか?
名前に穴を開けられたと同時に俺は射精していたのだ。
俺は何の迷いも無くファーストピアスを外し名前に首輪だと渡されたピアスをそのまま取り付けた。

「ああ、これで俺は名前のモノになったんだ。」

その時の俺の顔は狂っているという言葉が最も相応しかっただろう。
先程射精したばかりだというのにこれから名前にどんな目に合わされるのかを想像すれば興奮は収まらなかった。

きっと今俺は人生で一番生を実感しているのだろう。
デュエル以外でこんなにワクワクすることがあるなんて知らなかった。

ああ、早く名前に愛されたい。

愛しいという感情を初めて知った。
きっとどんな宝石にも敵わない、それは大切な大切な。

まるで俺の為に選んでくれたかのような赤い石、耳から溢れた赤い血。

全てが愛しい。