遊城十代は相当の物好きだったらしい。
完全に誤算だった、あれ程痛めつけてやったのに奴は何故か私を慕ってきたのだ。
あいつはどちらかと言うと同類だと思っていた。
根っからのS程M転しやすいと言うのは本当だったらしい。
あれから十代は一転して素直に私の言う事を聞くようになった。
だが穴をを開けてやったその日から私の渡したピアスを着けていたのを見た時はこいつはだいぶ末期かもしれない、と思った。
膿んだらどうするんだろうと思ったが私は消毒しろと警告したしあれはあいつが勝手にやったこと。
私に責任はないと判断して何も言わなかった。
それでも私のモノにした以上私はあいつの面倒を見る義務がある。
主従関係とはそういうものだと私は考えている。
悪い行いをすれば罰を与え躾をすることも良い行いをすれば褒美を与える事も。
しかしそれ以前に目の前の男を知らなければいけない。
遊城十代とは一体どんな男だろうか。
「十代」
少し離れた場所から囁く程の小さな声で十代の名前を呼べば即座に此方を振り向いた。
どうやら人より耳が良いらしい。
ついでに言うと目も良いようだ。
主人を見つけた子犬のように駆け寄ってきた十代。
大多数の人間はその様子を可愛らしく思うかもしれない。
でも私は違う。
「何?その眼」
この男の眼に籠る熱が不愉快だった。
この男、遊城十代がどうにか私を支配したい、けして諦めてなどいないということが伝わってきたのだ。
眼はけっして嘘をつけない。
だからこそその眼が気に入らない。
自分は強いのだと言わんばかりのその眼が。
「いらっしゃい」
人の前で躾を行う程分別が出来ない訳ではない。
被った仮面は意図せず外したりはしない。
もうそんな失態は二度と御免だ。
私が来いと命じた時、この男は心底嬉しそうな顔をした。
私を支配したいという感情、それとは別に支配されたいという願望。
それが確実のこの男の中で育っているのだ。
「お前の事最近少しは可愛く思えてきたよ。
だからこそその眼が凄く気に入らない」
それは明確に十代を否定している言葉だった。
それでも男の眼から煌めきは消えない。
「なら俺の眼潰したい?」
「私に犯罪者になれっての?」
妙な事を聞く男だと思った。
そんなことをされたら大好きなデュエルが出来なくなるというのに、なぜこの男はこんなにも変わったのだろうか。
「そしたら名前がずっと俺の事見ててくれるんだろ?」
「そんな訳ないでしょ。めんどくさい」
この男の言うずっととはどういう意味なのだろうか。
十代はまっすぐに私を見つめてくる。
その眼が先程の言葉は本心だと訴えかけてくる。
ずっと、だなんて確証のない約束を私は誓わない。
「でも俺は名前の眼が好きだからそれ見えなくなるの困る」
「そんなことするなんて言ってない」
私は貴方の眼が嫌いだと言ったらどんなリアクションをとるのだろうかと考える。
私を見つめるその眼からとても嫌なものを感じとってしまう。
「勿論眼だけじゃなくて全部すき」
「お前が私の何を知っている?」
ああどうしてこんな事を聞いてしまったんだろうか、答えなんて最初から分かっていたのに。
自分に尽くそうとするその原動力は全て一つの感情から湧くものなのだろう。
「わかんねぇけど知ったら全部好きになるよ。だって誰でもない、名前の事だから」
遅かれ早かれ私はこの言葉を聞いていただろう。
その意味を理解出来ない程鈍くもない。
人より攻撃的、嗜虐的な思想を持っている事も自覚している。
それでも一般的な感情も持ち合わせている自覚はある。
だからこそ、だからこそだ。
「私は」
口にする必要などないのではとも思う。
だけどそれを提示してやらない程非道ではない。
これは契約条件の提示だ。
「私はお前を愛してあげられる。
でも決して好きにはなってやれないよ」
この男が私に抱いている感情、それと同じ物を私がこの男に抱くことはないだろう。
それにも関わらず十代が私に対してそういった感情を持ち合わせてしまったことへの罪悪感は多少あった。
これは多少なりとも芽生えてしまった情、完全に私の失態だ。
「それでも俺は名前の事が好きなんだ」
そう言った十代の笑顔にはなんの後悔も迷いもなかった。
私がこの男を好きになれない一番の要因はこの強かさだ。
この男は私が守ってやらなくても私がいなくなっても何もなかったかのように生きていけるのだろう。
そんな男を永遠のパートナーにしたいなどと私は微塵も思えない。
主従関係というものは何より強い絆で結ばれるべき物だと思う。
私はいずれ自分の元から去るであろう男を心の底から好きになる事が出来るほどマゾではない。
私が望むパートナーは何があっても私より長く生き私に一生支えると誓うことのできる強い意志を持った人間だ。
遊城十代は強い。
だがそれは私の求める強さではない。
「お前にそれをやったのは間違いだったかもしれない」
十代の耳に手を触れそう言えばとたんにギラリと彼の目が煌めいて見えた。
「これを取り返したいなら俺の耳ごと引きちぎってくれよ」
自身の耳に触れる私の手に自身の手を重ねそれはもう愛しそうに私の手を撫でた。
それを愛しいと感じるのが普通の感情だろうか。
「っ、」
空いた方の手で十代の肩を掴み強引に引き剥がした。
乱暴に扱われた事で小さく声をあげた十代の両肩を掴み再び引き寄せその唇に自身の唇を押し付けた。
一度びくりと反応を見せた十代の唇を舌で割って入りじわりじわりとそこを責める。
十代の身体の力が抜けていくのを感じた。
「いっっ」
そこで一切容赦のない力を込め歯で十代の舌を噛み切った。
そのあまりの痛みに苦痛の表情を見せる十代を無視してその傷付いた舌をねっとりと舐めあげる。
二度も唇を許してしまった。
これは自戒だ。
血液独特の不快な鉄の味、その味を二度と忘れないように私は味わって飲み込んだ。
十代は痛みを感じつつも抵抗する様子はなかった。
「私の愛がいらなくなったらいつでも言いなさい。
私達はいつでも赤の他人になれるのだから」
未だ口の中に残る不快な味。
飲み干した異物が混ざり合って身になるなんてロマンチックな事は起こり得ない。
不純物はやがて排出されるだろう。
「俺はずっと名前が好きだよ。
だから俺の事ずっと愛していてほしい」
男は先程あんなことをされたばかりだというのき恐ろしい程綺麗な笑顔でそう言った。
心の底からこの男と主従関係を築いた数日前の自分を殺したくなった。
私はこれから遊城十代という男のことを知れば知るほど嫌いになっていくだろう。
私はこの男を泡沫とは言え本当に愛してやれるのだろうか。
この男に罰を与える事が出来たとしてもはたして褒美を与える事など、本当に出来るのだろうか